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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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やることがなくって暇すぎる

ご無沙汰しておりました。文章の構成をやり直しておりましたら、完結していた小説が完結しなくなってしまいました。

行き当たりばったりって怖いですね。

結構な量を加筆しております。今後も加筆が必要です。ただ、あまり間を空けての投稿は行き詰ってるように受け取られかねないと思って投稿を再開いたします。

 病院という所は静かだと思っていたが、案外そうでもない。

 大きな通りに面しているということもあって、車の音がよく聞こえてくる。

 検査もひっきりなしだし、臨床看護師が手足のマッサージにも来てくれ、床擦れのチェックに下の世話、入浴が無理だから、体を拭きにも来てくれる。

「髭、剃ろうか?」

 聡里が世話にも来てくれるが、親爺の介護が気になる。

「俺のことよりも親爺は?」

「うん、緊急スティに入ってもらってる。」

「そか。」

『緊急スティ?なんだそれは?』

 そうか、お前は知らないよな。

『知らん。』

 緊急スティってのは、介護者、つまり、親爺の世話する人間な。

『それはわかる。特殊な言い回しや、略語を使われるとわからん。』

 ああ、そっか、まあ緊急スティってのは、この場合は、俺や、嫁さんが、急な葬式なんかで親爺の介護ができない場合、緊急的に介護施設なんかの空き部屋に入所させてくれるんだよ。

『成程な、大体、何日ぐらい面倒を看てくれるんだ?』

 まあ、施設の空き状況によって様々だな。

『金銭的にも結構かかるのか?』

 多分。その辺は嫁さんが管理してるから、俺にはわからん。

『なら、この部屋も結構高いんじゃないのか?

 そうだな…

「個室って、結構、高いだろうな。」

 気になったので聡里に聞いてみる。

「そだね。でも、市の方が出してくれるし。」

 聡里は、剃刀を探すために、鞄の中を掻き回しているのだろう、ビニール袋の擦れ合う音がしている。

「そうだな。でも、俺のこの怪我?公務災害に認定されてんのか?」

 音が止まる。

「わかんない。まだ、認定したかどうかの報せは来てないから。」

 再び、鞄の中を掻き回す音がする。聡里は整理整頓のできない女だった。掃除が苦手な女だ。

「あとから、請求されねえだろうな?」

 音が止まる。

「でも、事故でこうなったんだから、多分、大丈夫なんじゃない?」

 聡里はそう言うが、市は渋い。オルラ風に言うなら渋ちんだ。

 ん?

『どうした?』

 オルラのこと、しっかり憶えてるな。

『顔も思い出せるのか?』

 ああ、思い出せる。

 トンナ達、他の奴らも思い出せるな。

『そうか…』

「ねえ、やっぱり、髭、剃っとかない?」

 聡里の言葉が、イズモリとの会話を中断させる。

「え?なんで?イイだろ?」

 さっきから鞄の中を弄っていたのは、剃刀を探していたからだ。聡里は先に決断して、用意を整えてから俺に決定権を渡す。

「結構、白いのが混じってるから、爺臭いよ?ね?咲耶もそう思うでしょ?」

「じいじ!じいじ!」

 聡里の言葉に咲耶が反応する。

「そ、そうか?」

「うん。」

「じゃあ、剃るか。」

 俺が拒否権を出すと、咲耶を使って俺の拒否権を覆す。そうだ、そういう遣り取りが普通だった。

「うん、ちょっと待っててね。」

 聡里が洗面器を持って立ち上がる。

 水の流れる音が聞こえる。そうか、個室に洗面台が設置されているのか。

「うん、しょ。」

 咲耶がベッドに上って来る。

 俺に跨り、髭だらけの顔を両手で挟み込んで来る。

「じょりじょり。」

 両手で俺の顔をまさぐる。

「うん、じょりじょりだ。」

「きゃはは、じょりじょりィ!」

 咲耶に顔を触られるというのは、非常に気持ちいい。

『マサト』

 うん?

『こっちに残るつもりか?』

 …残るも何も、何もできねえだろうが?

『…』

 …

『まあ、すぐには答えられんか。』

 …まさか、向こうに戻ることはできるのか?

『可能性としてはある。オルラ達の顔を憶えているということは、繋がっている証拠だ。』

 じゃあ…いや、戻ることのできるのは…まさか…

『精神体と霊子体だけだ。』

 コッチの世界の俺は?

『ベッドの上に残る。』

 …

『こっちの世界が、マサトにとっては本当の世界だからねぇ。』

『そうだよねぇ。』

『でも、ここじゃあ、戦えないぞ!?』

『そうだよねぇ。嫁さんがいるし、コッチの世界じゃ、あんまり派手に女の子と遊べなくなるね。』

 いや、そんなことはどうでもイイ。この体がこのまま、ここに残るだと?

『そうだ。死ぬ危険性がないからな。このままここに残る。』

 オイ、ふざけんなよ?

『ふざけてなどいない。現実にそうだから、そう言っている。』

 寝たきりで、意識もないまま、ここにこのまんまだと?

 それで、嫁さんは、俺の親父の介護と!娘の世話をしろってのか?俺も嫁さんの人生の足枷になれってのか?

『意識があろうとなかろうと足枷だろう?それに、死んだところで、あまり実入りのいい話にはならないんじゃないか?』

 なっ!…なにを…言ってる。

『死ねば、事故との因果関係が証明できない限り、お前は事故には関係なく死んだことになる。そうなれば、遺族年金は極端に少額になるだろう?』

 そ、それは、多分そうだと思う…

『そんなことも知らないで勤めてるのか?』

 し、しょうがねえだろ!興味なかったんだからよ!

『しかし、実際問題としては、お前のこの状態を改善することは、この世界の医学頼みだ。だから、お前のこの状態を改善できるとは思えん。多少、動くことができるようになったとしても、元通りに働くことはできんだろう。なら、このままベッドで横になって、看護師に世話してもらうことが最適解だと思うぞ。』

 で、俺は向こうの世界で嫁さんのことも娘のことも忘れて万々歳ってか?そんな訳ねぇだろ!そんなんで、万々歳になんて!なるわけねぇだろうがっ!

『現実を受け入れろ。』

 い・や・だっ!

 この体をなんとかしねえ限りは!絶対に向こうには戻らねえ!!

『別にそれでも構わん。』

 クッ!

『向こうに戻ろうが、戻るまいが、俺達には、なんら、一切の変化もないからな。』

 ど、どこまで他人事なんだよ!

『そんなことを言っても仕方がない。お前は動けない。この世界では何もすることがない。向こうの世界に戻ることも嫌だ。じゃあ、俺達にどうしろと言うんだ?』

 そ、それは…だ、だから!俺の体を動けるようにしてくれれば!

『仮に動けるようになったら、向こうの世界に戻るのか?』

 ッグ…

『動けるようになったとしても向こうの世界に戻らないなら、俺達の存在意義は?』

 お、俺と仲良く楽しく…会話する…

『それなら、動けなくても一緒だな。』

 で、でも…

『最初から言ってるだろ。この世界の、お前の体を治すことができるのはお前の治癒力とこの世界の医学だけだ。俺達にはマイクロマシンがない限りどうすることもできん。』

 じ、じゃあ、向こうの世界に戻って、金をコッチの世界に…

『物質は世界線を渡ることはできない。』

 い、いや!それはわかってるよ!わかってるけど!やってみなけりゃわかんないだろ?!

『決断しろ。』

 …

『この世界に残るなら一生このままベッドの上だ。向こうに戻ることができれば自由に動くことができるようになる。』

 …

 …できねえよ…

『…』

 嫁さんと娘に動くことのできない俺を残して、ハイ、さよなら、なんて、できる訳ねぇだろ!!

『わかった。』

『そうだよねぇ、マサトはそういう人間性の集合人格なんだから。』

『そうだね。まあ、このままベッドの上でもできることを考えてみたら、結構できることがあるかもしれないし。』

『無意識領域でなら、俺達で戦うこともできるしな!!』

『じゃあ、無意識領域で女の子を造ってよ。』

 お前ら、ホントに徹底して他人事だな…

「ムウウウウ。」

 咲耶が俺の頬を挟み込んで、俺の口をタコチュウにする。

 うん、真剣に考えられる雰囲気でもないしな。

「さあ、咲耶、ちょっとどいて、父さんのお髭を剃るから。」

「あい!」

 咲耶が手を挙げて大きく返事する。

 俺の顔の横に咲耶が座る。

「じゃあ、ちょっと、髭を濡らすね。」

「ああ。」

 熱く濡れたタオルで俺の顔下半分を覆う。

「熱くない?」

「ああ。」

 聡里が袖を捲る。

 俺は聡里に視線を留めているが、聡里は洗面器や髭剃りの方に視線を走らせ、忙しそうに見える。

「もういいかな?」

「もう、イイかあぁい?」

 聡里の言葉に、咲耶がかくれんぼの呼び掛けを口にしながら、手を出して、タオルを捲る。

「もうイイよぅ。」

 咲耶がタオルを取り上げる。

「ありがと。」

 聡里が俺の口元を見ながら、咲耶に礼を言う。

 髭を剃る音だけが部屋を満たす。

「咲耶、そのタオル頂だい。」

「あい!」

 受け取ったタオルで髭剃りに付いた俺の髭を拭き取る。

 髭剃りを洗面器に溜めた熱い湯に浸し、再び、俺の髭に当たる。

 ちゃんと逆剃りにならないように剃ってくれている。

「流石だな。」

「ち、ちょっと、口動かさないで。」

「あ、ああ、スマン。」

 俺の髭を剃る聡里は真剣な表情だ。

『嫁さんがいるうちにパソコン、いや、とにかくネットに繋がる物を手に入れておけ。』

 いきなりだな。どうしてだ?

『この世界を把握しておきたい。特に法令関係だな。』

 ああ?そんな知識が必要か?

『多分な。』

 わかったよ。

 俺は溜息を吐くことしかできなかった。

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