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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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最後に笑う者

本日の投稿はここまでとさせていただきます。お読み頂き、誠にありがとうございました。

『クッ…』

 オロチの外から声が聞こえる。

『クックックックック…』

 声が笑い声を構成する。

 霊子障壁は収束させた。それでも、この空間は幽子の枯渇状態が続いている。現にジンライもゆっくりと下降している。

 闇の精霊と呼ばれる、幽子を消費するだけのマイクロマシンも役割を終えて消滅している。それ程に幽子が枯渇しているこの空間で、そんな中、一人の男の声が聞こえる。

『まさか…本当に人間を一人も殺さないとは、まさか、まさか…』

 聞いたことの無い声だ。でも、俺は知っている。

『トガナキノの国王は馬鹿か?』

 俺は、ジッとしたまま、その声に応える。

『愚者とは恐ろしい者よ。その信念に基づき、一念を持って突き進む。愚者たる者に説得は無駄。その恐ろしいまでの愚直さは人類にとっての脅威。』

 たしかに俺は愚者だ。愚直に俺の思ったとおりのことをまかり通す。

「貴様には言っておいてやるよ。トガナキノは決して戦争をしない。」

 そう、だから人は殺さない。

 それがヘルザースとの約束だからだ。

 俺は嘘吐きだ。

 嘘吐きだから、約束は守る。

 いい加減で、行き当たりばったりだ。

 だから約束は守る。

 約束を守るから、だから、戦争はしない。

『やはり、貴様は人類にとっては障害にしかならぬようだ。私が用意してやった人類進歩の第一歩目を貴様が邪魔する。』

「自分のことを朕とは呼ばねえのか?」

『星があるから人類はしがみつく。』

 なに?

 まさか…

『要は住めなくすればいい。』

「貴様…」

『幸い、トガナキノの国体母艦は宇宙空間だ。多少の影響は受けるだろうが、恒星間飛行には耐えられるだろう。』

『コイツ、この星を破壊するつもりだ。』

 イズモリ、できるのか?そんなことが…

『できる。だが、この状況でどうやってそんなことをするつもりだ?』

 …マジか?

『俺なら霊子を圧縮して空間を捻じ曲げる。ブラックホールを作り出し、超高密度に圧縮した質量を一気に解放すれば、捻じ曲がった空間の反作用で、物質が状態を維持できなくなって崩壊する。だが、現状、幽子が枯渇してそんなことはできない。』

「ちっ!」

 どこだ?!

 奴は何処で、どうやってブラックホールを作り出す?!

 俺は周囲を見回すが、声だけで、奴の姿は見当たらない。ほとんどのマイクロマシンも活動を停滞させている。

(きた)期風(きかぜ)なし表裏なし、在りて無くて帰る無慈悲に…』

 ヤバイ!

『意義は、やや成りて真なし、意志ありても事もなし…』

 イデアたちの真名だ!

『奴はAナンバーズのプロトタイプだ!イデア達を奪われるぞ!!』

 わかってる!!

 マイクロマシンの動きが遅い。

忌死(いみし)に早やき灰なして、無界(むかい)果て無しすべきなし、是非なく諾なく全てなし。』

 俺とリンクを結んでいたイデアたちの反応が消える。

『イデアとのリンクを奪われた!』

 わかってる!!

 やっとマイクロマシンが活性化するが、同時にその支配権を奪われる。

『イデア達を奪われたということは、他の量子コンピューターも奪われてるぞ!』

 クソッ!

 一人の男が現れる。

『国体母艦の操作権も奪われたことになる!』

 クソッ!!

 黒い瘴気を纏ったように男が徐々にその姿形をあらわにする。

『奴は国体母艦に霊子砲を撃たせるつもりだ!!』

 クソッたれがアアアアアアアッ!!

 銀色の長髪がマントのように広がっている。

『粒子化光速移動は使えん!』

 マイクロマシンが奴の支配下だ。外のマイクロマシンで俺の体を再構築することはできない。

 俺はオロチのコクピットを解放し、霊子ジェットを構築、高速飛翔する。

 真黒な、本来、白い筈の強膜さえも真黒な目が真直ぐに俺を見詰めている。

 霊子障壁が俺を阻む。

 クソッ!!

 赤い爪。

 銀色の服はAナンバーズの服だ。

 紫色の皮膚に薄っすらと赤い毛細血管が透けている。

 黒い唇がゆっくりと開かれる。

 笑う。

 男が合掌する。

 男が合わせた両掌を離す。

 両掌の間に黒い穴が見える。

 真黒な球体。

 霊子障壁が消える。

 蒼白く光っていた霊子障壁が一瞬で男の球体へと吸い込まれた。

 畜生!間に合え!

 俺は一気に加速した。


 高空から太く、蒼白い光が落ちて来る。

 銀色の男に、そのまま、その光が照射される。

 一条であった蒼白い光が二条、三条と増えていく。

 国体母艦から放たれた霊子砲。

 莫大な霊子が局所に集中する。

 男が霊子の輝きに包み込まれ、その霊子が黒い球体へと吸い込まれていく。

 男の両掌が歪に変形する。

 黒い球体、いや、もう、球体とは判別できない。

 真黒の穴、ただの黒い丸だ。

 その穴に向かって歪みながら吸い込まれていく。

 男の胸も歪んでいる。

 太い霊子ビームが細く集束されて真っ黒い穴へと落ち込んで行く。

 急激に起こる風。

 突風かと思える風が吹き続け、突風ではないことを知る。

 男との距離が、突然、短くなる。

 加速度的に近づく。

 男は原形を止めていない。

 黒い穴に向かって渦を巻くように変形している。

 空間そのものが歪みだしている。

 男の直上から降り注ぐ霊子も歪みだしている。

 全てが黒い穴に吸い込まれている。

 超高速ゾーンに入っていなければ認識することもできないスピードで吸い込まれている。

 男は霊子を黒い穴に集束させている。

 空間が捩じれて、俺の目に映る風景が歪む。

 男に近付けば近付くほどに風景の歪みが極端なモノへと変貌する。

 男が霊子の集束を止めた時、圧縮された霊子の爆発力は天文学的エネルギーとなって、この惑星を破壊する。

 男が止める。

 いつ止めるのか。

 間に合え。

 男の両掌に挟まれた黒い穴に、届いたと思った瞬間、俺の右手が渦を巻くように変形する。

 そこから先に進まない。

『事象の地平だ。』

 事象の地平?

『空間の歪みが極限にまで達しているため、その歪みに沿って時間の流れが遅くなる。』

 じゃあ、このまま、届かないのか?

『届かせろ。ここまで来たら、もう、粒子化光速移動を使ってでも届かせろ。』

 でも、粒子化したら俺の思考も止まるぞ。

『必要なのは霊子の指向性だ。粒子化する前に、霊子に強い指向性を与えて、核となっている物質にぶつけろ。』

 …わかった。

『どうした?死ぬのが怖くなったか?』

 いや、少しばかり心残りがあるぐらいか…

『なにが心残りだ?』

 できれば、獣人の契約を解除したかった。

『今となっては仕方がない、このブラックホールを世界に影響なく消滅させるには、俺達の霊子を打ち込むしかない。』

 ああ…そうだな。

 国は稼働している。

 国民は自分達の足で歩き出した。

 ヘルザース達に任せときゃ心配はいらない。

 子供たちだって真直ぐに育ってる。

 きっと、奴隷達も解放されるだろう。

 トンナ、アヌヤ、ヒャクヤ、コルナそれにテルナドには申し訳ないが、俺と一緒に死んでもらうことになる。

『仕方がない、星が消滅することを考えれば。』

『うん、しょうがないね。』

『ゴメンよ、皆。』

『負けじゃないぞ!』

『あ~あ、可愛い子、もっと食べたかったなぁ。』

 最後の最後で、締まらねぇ。

 俺は思いのたけを、全てを、俺の霊子体に注ぎ込む。

 このブラックホールはトガナキノの国体母艦で蓄積されていた霊子を注ぎ込まれている。

 イデアと国体母艦の量子コンピューター、そして、サエリ達、この星の管理をしていたAナンバーズと、そのAナンバーズとリンクしていた量子コンピューター。その全てとリンクを結び、桁違いの演算能力で霊子に圧縮の命令を走らせているはずだ。

 俺の霊子は六十四万人分、演算能力は体内の霊子回路と六十四万人分の量子情報体、そして、元日本に残っていた波状量子コンピューターとの直列演算だ。圧倒的に奴の方が上回っている。

 しかし、このブラックホールに、その核に拡散の命令を書き込むことができれば、俺の勝ちだ。

 楔だ。

 俺の命令が楔となってブラックホールを崩壊させる。

『ただ、拡散させればいいわけじゃないぞ。』

 わかってる。

 一条のエネルギーとして、空に向かって放ってやる。

 粒子化するその寸前にまで、俺の思考を、俺の想いを霊子体に走らせる。

 トンナの顔が浮かぶ。

 アヌヤ

 ヒャクヤ

 コルナ

 テルナド

 俺と一緒に死ぬことになる四人の女と一人の娘。

 ああ、そうだ。

 ロデムスも死ぬかな?

 まったく、最後まで俺の言うことをまともに聞かねえ奴らだった。

 …

 …向こうでも

 …また、会えたらいいな…

 そして、俺は粒子化した。

 皆を救ってくれと願いを込めて。

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