王族部隊、出撃!って、王族が前線に出て戦うっておかしくない?
『父さん!まだ出ないんしか!!』
サクヤだ。
「まだだ。」
『でも、みんな苦戦してるんし!』
「皆が苦戦しているとこに出ても、お前じゃ戦局を変えられないだろ?」
サクヤが俺の言葉を受けて黙り込む。
『サクちん、戦局ってのは、今、戦ってるこの状況が不利か有利かってことなのです。だから、今のところ、トガナキノは不利だけど、サクちんが出て行っても、有利にならないだろうってことなのです。』
うん、そうか、サクヤには言葉が難しすぎたか。
『そ、そんなことはわかってるし!』
俺はオロチの操縦席で頭を抱えた。
どいつもこいつも、バトルマニアホリックか…
『だ、大体!いつまでこうしてるんしか?!皆が死んじゃったらどうするんしか?!』
『そうなのです!王族がこんなところでぬくぬくとしている訳にはいかないと思うのです!』
『父さん、出してよ。あたし達だけでも良いからさ。』
テルナドまで、そんなこと言う…
『トガリ、あたしが三人の面倒をみるよ。』
オ、オルラまで…
『トガリ、お帰り。』
ト、トンナ…
『父ちゃん、お帰りなんよ。』
そうだよな。
『パパ、お帰りなの。』
お前らが黙って見てる訳ないよな。
『旦那様、今度、私にも専用の竜騎士を造ってもらえるか?』
その子供たちがジッとしてる訳ねえんだよ。
『トガリと戦わなくってイイんでしょ?』
トンナが言葉を弾ませる。
「ああ、相手は俺じゃなくって、ジェルメノム帝国だ。」
『じゃ、出るね。』
いや、出るねって、ちょっと、また、俺の指示とか聞かないで…
『ああ!トンナ姉さん!まぁった、早いんよ!』
『そ、そうなの!トンナ姉さんはいっつも急ぎ過ぎなの!』
出てイイ?じゃなくって、出るね。って言っちゃうんだもんなぁ。もう勘弁してくれよぅ。
『いや、王族機は一目でわかるからな、出してしまった方が、敵本隊が動くだろ。』
そうか。よし、じゃあ、やらせるか。
トンナ達が出撃したので、サクヤ達がギャーギャーと煩い。
「カルザン!」
『は、はい!』
「トガナキノ!王族竜騎士部隊とカルデナを出撃させる!ウロボロスは高度を下げろ!」
『了解です!』
俺はモニターに投影されている戦場を睨み付ける。
「全員に言っとくぞ!死ぬな!殺すな!必ず生きて帰って来い!!
『任して!』
トンナ、ワクワク感満載だな。
『了解なんよ!』
アヌヤはウキウキ感で一杯だ。
『誰が一番、敵の竜騎士を捕まえられるか競争なの!』
ヒャクヤ、ゲーム要素をぶっこむなヨ。
『私はそのレース、遠慮しておく。』
コルナは冷静だ。
『やれやれ、遊びじゃないよ。真剣にかかりな。』
オルラ、頼むぞ、シッカリ締めてくれよ。
『アチシが、一番、一杯、捕まえるんし!』
サクヤはゲームに乗っかるし。
『サクちん!早いのです!ちゃんと機鎧のチェックをするのです!』
トドネ、お前もしっかりチェックしろよ?
『サクヤ!あたしの言うこと聞かないと後で酷いよ!!』
うわぁぁ、不安要素をバラ撒いて行くなよぅ。
ヴァルキューレ三機とバハムートが次々と飛び立つ中、一機の竜騎士がオロチの前に立つ。
『カルザン様のために戦う機会をつくってくれたこと、礼を言う。』
カルデナだ。
「ああ、カルザンのためにも死ぬな。」
真摯な言葉に俺も真剣に応える。
『承知。』
カルデナの駆る竜騎士が飛び立つ。
『では、俺達も…』
『そうだね、』
『うん、離脱しようか。』
『ちっ俺は戦場の方が良いのによう!』
『皆が怪我しないか、ちょっと心配なんだけどねぇ。』
行くか。
イズモリ達の声に応え、俺達も出撃することにした。
オロチのコクピットはヘイカ・デシターのサイズに合わせて造り上げてある。
俺はヘイカ・デシターの姿になって、服の背中部分を大きく開ける。露出した肌から異形の腕を伸ばす。
オロチを操作するのに必要な腕だ。
酒呑童子を着ることなく、マスタースレイブ基幹ユニットを装着する。
マウスピースを噛み締め、既に開かれたハンガーハッチを潜る。
「ヘイカ・デシター、オロチ、出るぞ。」
『了解、ハンガーハッチ前方グリーン。出撃どうぞ。』
ハンガーハッチの向こうは深い藍色だ。上昇すれば、すぐに真黒に染まる。
宇宙空間に飛び出し、ウロボロスから急速離脱。
翼を広げ、その動きを確認する。
『陛下!』
「どうした、カルザン?」
カルザンの逼迫した声がオロチのコクピット内に響き渡る。
『ト、トガナキノ国体母艦後方に機影多数です!』
出て来たか。
「落ち着け、コロノアも情報は掴んでいる筈だ。ウロボロスは、現在の高度を維持したまま新神国体母艦の後方に回り、敵上空から迎撃、王族竜騎士部隊にも後方の敵に当たらせろ。」
『り、了解しました!』
俺は新神母艦との通信回線を開く。
「コロノア爺様。」
『はっ』
「後方に出現した敵は、かなり多い、竜騎士が二千四百七十機、戦闘機を積載した航空輸送機が五十機、駆逐艦が十五隻だ。霊子障壁を張りつつ、艦砲射撃にて敵駆逐艦を無力化しろ、あと、お前が温存してる対竜騎士部隊、コイツも投入しろ。」
コロノアが口角を捻じ曲げて笑う。
『御意』
この一言だ。
心配する必要はなさそうだ。
俺はテルナド達とは逆方向に向かって高速飛翔を開始した。
「奉天母艦、大天母艦にあっては、防衛に全力を注げ!二天母艦の第一連隊から第三連隊は各国体母艦を盾に転回!後方の敵艦隊に向けて射撃用意!!」
コロノアが叫ぶ。
「新神母艦にあっては現在の高度を維持!霊子障壁を後方に展開!各国体母艦の対竜騎士部隊にあっては全部隊出撃!対竜騎士部隊に所属していない八咫烏大隊にあっては半数が出撃!同じく竜騎士大隊にあっては三分の一を出撃させよ!!」
奉天母艦と大天母艦を護衛していた駆逐艦が各国体母艦を回り込むような形で転回を始める。
国体母艦の右舷にあった駆逐艦は取舵を切る。
左に進路を切るため、本来の物理法則ならば船体は右に傾くが、質量方向変換システムを稼働させている駆逐艦は姿勢を保ったまま、かなりの高速で方向を変える。
国体母艦の左舷にあった駆逐艦は面舵を切り、右舷の駆逐艦と絶妙な距離で交錯する。普通の艦隊戦なら、後方の敵艦に対して横っ腹を見せることになるが、国体母艦を巻くようにして転回しているため、船腹を晒す瞬間に国体母艦が盾となるのだ。
航空母艦は、進路を変えることなく真直ぐに進んだまま八咫烏を発艦させる。
それぞれの所属する駆逐艦を守るように八咫烏が旋回し、その後を竜騎士が追う。
八咫烏と竜騎士は同時に発艦させない。
艦載機の発艦が終了するまでは航空母艦は速度を落として前進を続ける。
いずれも味方同士が接触事故を起こさないための軍律だ。
駆逐艦、八咫烏、竜騎士の機動性能はそれぞれに違う。
軌道が重なりながらもそれぞれの性能に合わせた速度と機動力を計算して、それぞれの予定軌道が決定され、出撃速度と巡航速度が決められているのだ。
複雑な軌跡を描きながらも規則正しい編隊を組んで八咫烏が飛ぶ。
音速を超える八咫烏が国体母艦の霊子障壁を超える瞬間に更に加速される。
コロノアが霊子障壁と言った国体母艦の霊子シールドは国体母艦を中心に外側に質量を変換させる指向性が走っている。
極端な話、国体母艦の霊子シールドは斥力を発生させるのだ。
後方の敵駆逐艦からレールガンによる艦砲射撃が始まる。
「敵、艦砲射撃開始しました。」
操艦員の言葉にコロノアは黙ったままだ。
「各機、発艦完了、航空母艦転進を開始しました。」
「航空母艦の転進完了と同時に艦砲射撃を開始する。」
コロノアの言葉が、操艦員の一斉通信で全軍に伝達される。
レールガンからの射撃は軽く音速を超える。それに対して八咫烏の飛行速度も音速を超えている。
両者共に、戦闘の中にあって、肉眼で追える速度ではない。接触するまでの時間は瞬きする程の、刹那と言えるほどの瞬間だ。
しかし、イデアによってシミュレートされた敵駆逐艦の砲撃は八咫烏に当たることはない。
八咫烏の編隊その物が錐揉みを描きながら砲撃を避ける。
国体母艦を中心に張り巡らされた霊子障壁が、砲弾をその障壁に沿って弾く。
次々と撃ち出される艦砲射撃。
音速を超える砲弾を八咫烏が乱れることなく避ける。
トガナキノの駆逐艦も霊子障壁を展開している。
無数の流れ弾を発生させながら駆逐艦が前進する。
「第一陣、接敵します。」
操艦員の冷静な声。
「闇の精霊、散布。」
コロノアが操艦員に指示を飛ばす。
ジェルメノム帝国の艦砲射撃を避けた先には、敵の戦闘機部隊が待ち構えている。
トガナキノとジェルメノム帝国の空中戦だ。
八咫烏の機体下には増槽が取り付けられていた。
近距離戦闘では邪魔になる。
その増槽が切り離される。
切り離しと同時に急上昇をかけ、戦場から離脱。
接敵直前であったジェルメノム帝国の戦闘機が増槽タンクを爆弾と思って、切り離されたタンクを避ける。
増槽内には闇の精霊と呼ばれるマイクロマシンが休眠状態で詰め込まれていた。
八咫烏と十分な距離を取ってから、そのタンクが破裂する。
軽い爆発と共に白い煙と黒い粉塵が撒き散らされる。
爆発と同時に稲妻が黒い粉塵を奔り抜ける。
「闇の精霊、起動を確認。」
操艦員の言葉にコロノアが「うむ。」と頷く。
黒い粉塵を奔り抜けた稲妻がマイクロマシンを起動させたのだ。
一編隊に一機の割合で闇の精霊と呼ばれるマイクロマシンを詰め込んだタンクを下げている。
そのタンクが次々と投下され、破裂し、黒い粉塵がジェルメノム帝国の戦闘機を覆う。
ジェルメノム帝国は何が起こったのかわからないだろう。
煙幕にしか見えない兵器だ。
逃げる形のトガナキノ艦隊に対し、ジェルメノム帝国の艦隊は追う形となっている。
その中間地点に闇の精霊を散布したのだ。
先行していたジェルメノム帝国の戦闘機がその犠牲となる。
戦闘機の霊子ジェットが止まり、極端な減速と共に下降を始める。なんとかコントロールを取り戻そうと機体がふらつき、更にコントロールを失う。
闇の精霊、黒い粉塵の結界を抜けてからもジェルメノム帝国の戦闘機が復帰することはない。幽子と一緒に闇の精霊を機体の霊子ジェネレーターに吸い込んでいるためだ。
闇の精霊はマイクロマシンだ。
極端に霊子、幽子を消費するためだけに作られたマイクロマシン。
質量を減らすために考案、開発され、龍はこのマイクロマシンを絶妙にコントロールしながら空を飛ぶ。俺も初期の竜騎士には採用していたが、幽子、霊子量のコントロールが難しく、緊急事態に陥ると、竜騎士が自壊する可能性があるため採用を取りやめたマイクロマシンだ。
闇の精霊は周囲の幽子と霊子を消費し尽くすと自壊する。
空中に残った闇の精霊はすぐになくなってしまうが、ジェルメノム帝国の戦闘機に吸い込まれた闇の精霊は違う。
霊子ジェネレーターで圧縮された霊子を消費し尽くすまで活動を続けるのだ。
八咫烏の後方から展開していた竜騎士が、ジェルメノム帝国の戦闘機を次々と鹵獲する。
緊急脱出装置で逃げたパイロットも同じだ。
戦闘機のコクピット部分を切り取り、パイロットを捕獲する者、戦闘機の機体その物を、丸々、鹵獲する者と様々だが、一機も墜落させることなく竜騎士が鹵獲した。
敵の竜騎士がその様子を、指を咥えて見ている訳がない。
敵パイロットを救出した竜騎士に向かって敵竜騎士が編隊を組んで襲い掛かるが、他の竜騎士がそんなことを許す筈がない。
三機の敵竜騎士に対して一機の竜騎士が接敵する。
ジェルメノム帝国の戦闘機を抱えた竜騎士は無茶な軌道変更はできない。ジェルメノム帝国のパイロットが耐えられないからだ。
しかし他の竜騎士は違う。
複雑怪奇な軌道を描きながら、戦闘機を抱えた竜騎士を守る。
トガナキノの竜騎士は盾を持たない。
前腕に仕込んだ荷電粒子砲の取り回しの邪魔になるからだ。
戦闘機を守って逃げる竜騎士、その竜騎士を守るために近接距離で荷電粒子を撃つ。撃ちながら剣を振るう。
敵竜騎士を落とす必要はない。戦闘機を抱えた竜騎士を守り抜ければよいのだ。
増援となる対竜騎士部隊が加勢する。
対竜騎士部隊はあくまで部隊、竜騎士に対して特別な装備を持っている訳ではない。
鹵獲した敵戦闘機を守りつつ、後退する竜騎士に敵竜騎士が襲い掛かるが、対竜騎士部隊に編成された八咫烏がミサイルでそれを阻む。
弾かれた敵竜騎士が態勢を整えながら、八咫烏に向かって飛ぶが、別の八咫烏がそれを阻み、隙をついて対竜騎士部隊の竜騎士が斬りかかる。
竜騎士の剣は敵竜騎士には通じない。
わかっている。それでも竜騎士が斬りかかり、盾に阻まれた瞬間だった。
トガナキノ竜騎士の背面から三体の酒呑童子が飛び出し、敵竜騎士の盾を回り込み、敵竜騎士に吸着式の誘導電機雷を投げつける。
敵竜騎士は酒呑童子に気付くが、如何せん、的が小さすぎる。
しかも、その機動力は竜騎士と同等だ。敵竜騎士はありもしない空間を剣で振り回すだけだ。
その隙に竜騎士、八咫烏が、同時に敵竜騎士から距離を取る。
等分に距離を取った複数の敵に対して即座に対応できる者は少ない。しかも、通常の地上戦ではない。足を持った人間が空中で戦っているのだ。一度や二度の慣熟訓練では、到底、咄嗟の判断などできる筈もない。
敵竜騎士が一瞬動きを止める。
迷いだ。
その迷いが命取りとなる。
荷電粒子を撃ち出す前腕から電撃が奔る。
空気の絶縁破壊を起こして敵竜騎士をその電撃が撃ち抜く。
すぐに敵竜騎士がトガナキノの竜騎士に向かって剣を振る。
トガナキノの竜騎士が左の前腕でその剣を止める。
敵竜騎士の剣が弾かれ、陰に隠れて突き出されたトガナキノ竜騎士の剣が敵竜騎士の頭部を貫いた。
細かな罅割れが敵竜騎士を覆う。
F型マイクロマシンが、装甲に張り付いていた薄氷のように剥がれ落ちていく。
トガナキノの竜騎士が抉るようにして敵竜騎士の頭部を跳ね飛ばし、返す剣で両腕、両足を次々と斬り飛ばす。
稼働不能となった敵竜騎士をトガナキノの竜騎士が抱え込む。
八咫烏が三機、竜騎士が一機、そして酒呑童子が三体の編成が対竜騎士部隊だ。
酒呑童子三体が竜騎士の背面に取り付き、八咫烏が、敵竜騎士に対して牽制する。
その間に竜騎士が敵竜騎士と接敵し、酒呑童子が吸着誘導機雷を敵竜騎士に設置、竜騎士の電撃にてF型マイクロマシンを強制停止させる。
戦術的には間違ってはいない。
むしろ正しい。
一対一の戦いよりも安全性という点では優れている。
だが、あくまでも数の有利があっての戦術だ。
トガナキノの竜騎士の総数は千七十八機。対するジェルメノム帝国の竜騎士は後方から二千四百七十機、前方からは二百八十五機と倍以上の戦力差だ。
ジェルメノム帝国の竜騎士はトガナキノの竜騎士のように柔軟な動きができない。機動性と運動性でもトガナキノの方が上回っている。
訓練の熟練度もトガナキノが勝っている。空中戦の動きから一目瞭然だ。
しかし、敵竜騎士一機に対し、トガナキノは竜騎士一機、八咫烏一機、酒呑童子三体で対処している。その上、竜騎士を温存しながらだ。
いや、温存という言い方は正しくないな。
これ以上の竜騎士を出せないのだ。
絶対的な兵数の問題だ。
建国から六年経ったとはいえ、兵士が育ち切っていない。職業軍人の少なさが問題だ。
現役兵は少ない。
警官や魔狩り討伐隊の人間は多い。戦争経験者も多数いる。
しかし現役軍人は少ない。
今も参集することのできた予備役軍人のほとんどが戦場に出ている筈だ。
若いのだ。
現役軍人は、皆、若い。
十二歳から働きだすトガナキノ国国民、皆が若い。
コロノアは訓練を想定していたため、予備役軍人に招集をかけていなかった筈だ。
実戦となって、招集が掛かり、現在、編成しているだろう。
だから、実質的に竜騎士を動かすことのできる人間が少ないのだ。
少ない人数で、竜騎士を投入、少しでも傷付けば短いスパンでも帰投、竜騎士を乗り換えて即座に出撃。その繰り返しだ。
不利としか言いようのない状況だ。
撃墜される竜騎士は出ていない、出ていないが、戦線を抜かれるようになってきた。
トガナキノ竜騎士が構築していた防衛線を何機もの敵竜騎士がすり抜ける。
「各駆逐艦!連射速度を上げて!艦砲射撃はじめ!!」
コロノアがしびれを切らす。
各駆逐艦の主砲が集束率を弱めた荷電粒子砲を撃つ。
当たってもその侵攻速度を遅らせる程度だ。
『殺すな、と言ったのは無茶だったか…』
イズモリ、舐めるんじゃない。
『なに?』
トンナ達がこんな状況を許すと思ってんのか?
『たかが数機の竜騎士だぞ?』
それでもだ。
そう。
それでもトンナ達は強い。




