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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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戦争?んなもん誰がしてやるか!

『陛下、イデアから緊急連絡を受けましたが、状況のご説明を願います。』

 メインモニターが分割され、その一面にヘルザースが映し出される。ブリッジの操艦員達が、行政院第一席からの直接通信に騒めく。

「騙されてたんだよ。」

 俺の一言にヘルザースが眉を顰める。

「ジェルメノム帝国を支配していていたのが、皇帝じゃなくって、イデアと同じ、魔人が支配してたんだ。」

『なんと。』

「とにかく、今、そっちにジェルメノム帝国が新規に建造した竜騎士で向かってる。コッチも戦闘速度でそっちに向かってるから、もうじき接敵する筈だ。オメエはオメエで迎撃しろ。」

『承知しました。』

 ヘルザースが通信を終わらせようとするが、俺がそれを止める。

『如何いたしました?』

「竜騎士同士の実戦だ、勝算はあるんだろうな?」

 ヘルザースが不敵に笑う。

『陛下の攻撃を想定して実戦訓練を積んでおります。ご心配には及びませぬ。』

 自信満々の顔だ。なんか、腹立つな。

「なら、これから言うことを各兵員に厳命しろ。」

 ヘルザースの顔が引き締まる。

「死ぬな。殺すな。」

 俺の言葉にヘルザースの面持ちが変わる。

『戦争にあって、戦争をするな…そう理解してよろしいのですかな?』

 ヘルザースの言葉に俺はプロトタイプゼロ、キドラのお道化た表情を思い出す。

「そうだ。」

 奴が戦争を望んでも、俺は戦争をしてやらない。人の命を懸けて奴の遊びに付き合ってやる必要はない。

『承知いたしました、トガナキノの戦争とは如何なるものか、ジェルメノム帝国に見せつけてやります。』

 ヘルザースとの通信が終わる。

 ブリッジが微妙に騒めいている。

 ヘルザースとの会話で俺がヘイカではなく陛下なのだということがバレた。

「各員、静まれ。」

 俺の言葉に一瞬で静まり返る。

「現時点をもって、当艦は魔狩り専用艦から国王専用戦闘艦、旗艦ウロボロスとなる。」

 俺は総指揮者の椅子に座る。

 肘掛け部分に備え付けられたタッチパネルを操作して、一斉放送のスイッチを入れる。

「別勅!!」

 ブリッジの操艦員までもが気を付けの姿勢で立ち上がる。

 俺はヘイカ・デシターの姿から、仮面をつけた、国王本来の姿へと変容する。

 俺の方へと向き直った操艦員達が、一気に緊張の度合いを強め、喉を鳴らす

「現時点からジェルメノム帝国との戦闘を開始する!敵!竜騎士部隊は、現在、神州トガナキノ国を目指して飛行中!当艦にあってはその悉くを撃墜する!」

 俺は最も重要なことを通達するために一拍の間を置く。

「これは戦争である!しかし!皆に厳命する!死ぬな!殺すな!敵、竜騎士は稼働不能の状態にせよ!敵搭乗者は全員、救出!救護!各員!心して掛かれ!」

 俺の一斉放送を聞き終えた操艦員が、斉一に座り、慌ただしく動き出す。

「霊子砲の出力を十五パーセントで押さえろ。」

「実体弾の弾頭を分解弾から徹甲弾に換装。」

「高圧集光率を六十パーセント上昇させろ、それで、威力が上がるが、被害範囲が抑えられる。」

「精霊砲の加速集束率下げろ。微調整はそちらで頼む。」

「竜騎士、暗黒精霊の塗布量を増やせ。」

「コロノア幕僚長から、対竜騎士戦術シミュレーションが送信されてきました。」

「各竜騎士に対竜騎士シミュレーションを一斉送信します。」

 操艦員達の士気の高さを確認し、カルザンへと視線を向ける。

 カルザンが俺と目を合わせて強く頷く。

「俺はオロチに搭乗する、お前はここに座って指揮を執れ。」

「はい!」

 可愛いカルザンが一所懸命に返事する。うん、一服の清涼剤だ。心が潤う。

『お前は…』


 トガナキノは各国体母艦が近距離で滞空していた。

 王妃資格試練のため、その開催母艦である聖天母艦に集結していたためだ。各国体母艦には相互間を往来できるゲートがない。

 航空艦を使用しての行き来になる。

 イズモリからの連絡を受けて、イデアはすぐに動き出した。

 キバナリのキトラがスパイだったのだ。

 キバナリは警察系の中央サーバー、中央監視システムと繋がっている。事件事故を未然に防ぐ、初動捜査を迅速に行うために、キバナリは中央監視センターに自分達が見聞きした情報を送っているのだ。

 キトラがウイルスもしくはワームを送信している可能性は高い。

 イデアの監視を潜り抜けて感染していると考えるべきだ。せめてもの救いは中央コントロールシステムと治安維持総括センターは別個のシステムだということだ。繋げていない。

 トガナキノのシステムは警察系、軍事系、行政系と三系統に分けてある。

 中央コントロールシステムは行政系であり、国民の生活に直結している。

 各錬成器と国体母艦及び城塞都市の維持運営に関わるシステムを構築しており、この各国体母艦を修復するための分体が繋がっているのもこの行政系システムで、最も重要かつ膨大なデータが保存されている。

 軍事系のシステムはイデアの複製プログラムが全て共有同期されている。つまり、スサノヲをはじめとした竜騎士、酒呑童子、八咫烏などの個人兵装からイカヅチ、デンライなどの航空母艦がシステムの中に組み込まれている。

 三つのシステムを稼働させているそれぞれのサーバーは中央コントロール室に納めてある。だからクルタスがヘルザースとズヌークを捕らえて、侵入しようとしていた。

 そんな三つのシステムの内、警察系のシステム、中央監視システムにはキバナリと魔虫が組み込まれているのだ。

 新神母艦におけるキバナリの総数は四十二体、魔虫に至っては千五百六十二万匹だ。

 そのキバナリと魔虫が一斉に牙を剥いたらと思うとゾッとする。

『警察系の治安維持総括センターは各国体母艦とは分離している。問題は新神母艦のキバナリと魔虫だけだ。』

 でも、キトラは分裂体を沢山作ったと言ってたぞ?

『各分裂体が新神母艦を出たとは考えにくい、新神母艦だけだ。』

 イデアには?

『ああ、だから新神母艦の中央監視システムを、一旦、真っ新な状態に書き直せと言っておいた。』

 うわぁ、一からデータの再入力かぁ、そっちはそっちでゾッとするなぁ。

『仕方ない、ワームをずっと抱えたままになるのはごめんだ。』

 ま、確かに。


『ヘルザース閣下』

 イデアが航空母艦ジンライと通信する。

「イデアか、ジェルメノム帝国に何か動きがあったか?」

『いえ、もう間もなくジェルメノム帝国の竜騎士と接敵されると思われますが、別件で、ご連絡させて頂いております。』

 ヘルザースが眉を顰める。

「何事か?」

『はい、新神母艦の警察系中央監視システムにジェルメノム帝国の術式が潜り込んでいる可能性が高いので、一旦、警察系中央監視システムを止めます。それに併せて、各国民に緊急処置命令を発して頂きたいのです。』

「なに?何故、そのようなことに?」

『キバナリの一頭が、ジェルメノム帝国からの密偵であったことが判明しました。』

「なんと?!」

『そのキバナリは分裂体を複数作成し、新神浄土内に散乱させております。ですから、新神浄土の国民に対し、各キバナリを発見次第、使役魔獣の契約を結ぶように緊急処置命令を出して頂きたいのです。』

 ヘルザースが視線を伏せて、すぐに上げる。

「それで、キバナリの密偵行為が治まるのか?」

『はい、治まります。』

「うむ、承知した。すぐに緊急処置命令を出す。」


 既にジンライ、ヘキレキ、デンコウなどの航空母艦は出航している。

 事前に有利な状況を作り出すために、近接していた国体母艦は高度を変えて、展開される戦場をコントロールする。

 現在、数においては圧倒的に有利なのだ。

 近接した状態のまま、一直線に七隻の国体母艦が並び、そこから徐々に各国体母艦が高度を変える。一番前の国体母艦が成層圏にまで達する高度だ。それに対して一番後ろの国体母艦は海上間近の位置を飛んでいる。

 真正面から見れば、巨大な山が雲を蹴散らしながら動いているかのようだ。

 各国体母艦に所属する航空母艦と駆逐艦が各国体母艦を護衛する。

「最後方の新神母艦、着水しました。」

 巨大な波飛沫を上げながら新神母艦が海を割る。

「うむ、霊子障壁にて安全空域を確保せい。」

 新神母艦の総指揮ブリッジに居るのは統合幕僚長のコロノアだ。

 コロノアの指示を受けて、操艦員がコントロールパネルをタッチする。

「作戦規定数の(しん)(ちゅう)射出、霊子障壁術式展開」

『作戦規定数の神虫射出、霊子障壁の術式展開、了解。』

 操艦員の指示にスピーカーから応答があり、国体母艦の外周をぐるりと囲うソーラーパネルが稼働する。

 ソーラーパネルが回転し、その裏側を晒す。アルミナガラスによって加工された光学兵器誘導装甲が虹色の構造色を輝かせ、国体母艦から分離、離岸する。

 八本の足のような霊子反応棒を伸長し、自転しながら蒼白い稲光をその足先から発すると、隣接する神虫と連動し、蒼白い稲光が次々と繋がっていく。

「射出神虫、起動を確認、霊子障壁術式の展開を確認しました。」

 操艦員の言葉にコロノアが「うむ。」と応えながら頷く。

 通常は城塞都市に電力を供給しているソーラーパネルだが、戦時においては、質量方向変換の指向性を受けた霊子を放出する神虫と呼ばれる防衛機器に変貌する。

 基本は国体母艦から離れた位置に展開させるが、国体母艦に接岸させた状態でも使用は可能だ。

 今回、離岸して霊子障壁を展開する神虫は五万基、国体母艦に接岸したまま電力を供給し続けている神虫は十五万基に設定されているようだ。

 蒼白い光が、新神母艦を中心に、同心円を描いて幾重にも広がっていく。

 海水がその光に押し退けられて巨大な渦と波を形成する。

 海水だけではない、新神母艦の船底に存在していた空気すらも暴風を巻き起こして押し退けられる。

「半径三十キロメートル、安全空域を確保しました。」

 操艦員の言葉を聞いてコロノアが頷く。

「さて、これにて戦闘態勢は整った。ジェルメノム帝国が如何な竜騎士を開発しておったかは知らぬが、神州トガナキノ国の力を舐めた報い、その報いを存分に受けるがよい。」

 コロノアが発達した犬歯を隠すこともなく前方を睨み付けた。


「機鎧確認しました。」

 操艦員が叫ぶ。

「来おったか。」

「高度は千から千五百メートル、現在確認できる総数は竜騎士型二百八十五、事前情報の通りです。」

「うむ、情報の確度は高いの、流石はトガリ陛下じゃ。」

 コロノアが立ち上がる。

「先頭の奉天母艦及び四番、諸天母艦並びに六番、好天母艦の各部隊は戦闘隊形を維持したまま待機!二番、聖天母艦及び五番、大天母艦の各部隊は出撃!作戦の通りに戦線を構築せよ!!」

 指示を受けた各国体母艦指揮下の航空母艦と駆逐艦が一斉に霊子ジェットを噴き上げて迎撃に向かう。

『コロノア!』

 ヘルザースだ。

「如何いたしました?」

 コロノアが平静にヘルザースの怒声に応える。

『某も前線に出る!』

 コロノアが眉を顰め、口髭を歪ませる。顎鬚を擦りながら「何を仰っておられる。」とあきれた声を上げる。

『陛下御不在の今、某が前線にて戦わずして何故(なにゆえ)の行政院第一席か!』

 コロノアが軍帽を取って、あからさまに嫌そうな顔をして頭を掻く。

「軍の総指揮は、統合幕僚長である私の仕事でございます。ヘルザース閣下は行政院第一席、そもそもが、戦場に出ること自体がおかしいのですぞ。」

『何を言う!クルタス事件では某も竜騎士を駆って戦っておったわ!』

 コロノアが溜息を吐く。

「ですから、何度も申し上げておるとおり、ヘルザース閣下の我儘を聞いて、ジンライにて出撃して頂いておるのです、今はそれで我慢して頂きたい。」

『な!我儘!今、貴殿は我儘と申したのか!?』

「左様でございます。陛下とのお付き合いが長くて、ヘルザース閣下も陛下に似てきたのではありませぬか?」

『何を言うか!某が!あの行き当たりばったりのいい加減なガキに似てきたと申すのか!それは聞き捨てならん!聞き捨てならんぞ!コロノア…』

 コロノアがタッチパネルを操作してボリュームを抑える。うん、このまま聞き流すつもりだな。俺も、それが正解だと思うぞ。

「衛星軌道上に展開しているシップウからの定時連絡はどうだ?」

 ヘルザースの怒鳴り声を無視してコロノアが操艦員に確認する。

「異常なしとの連絡です。」

「うむ。」

 操艦員の言葉を聞いてコロノアが座る。

 シップウとは、新神母艦麾下の駆逐艦の名前だ。

 空中に浮遊する国体母艦はトガナキノの国土だ。敵は飛行兵器を所有している。通常の国土ならば上空からの敵に警戒するが、国体母艦は全周囲の敵を警戒する必要がある。

 基本、国体母艦の船底部分の固定兵装は分厚い。飛行兵器の存在が確認されていなかったために下からの攻撃が最も多いと想定しているからだ。

 また、甲板には城塞都市を載せているから兵装を厚くしても限界がある。甲板に城塞都市がある、そう言った点では通常の国土と同じで高空からの攻撃に備える必要がある。

 それなりの装備を整え、霊子ジェットで稼働する兵装ならば、宇宙空間からの攻撃もあり得る。魔獣災害で何森源也が使った兵器は質量爆弾だった。静止衛星軌道上までタングステンの弾頭を打ち上げ、それを地上に落とすという物だった。高度を稼ぐことのできる国体母艦に対しては、威力は落ちるが、それでも攻撃可能な兵器だとイズモリが言っていた。

 だから、高高度からの攻撃を防ぐために衛星軌道上に駆逐艦を展開させ、戦場を監視する。

 先頭の国体母艦は編隊の最も高い位置にあり、船底を晒すが、その船底を狙ってくる敵には後方の国体母艦が対処するのだ。

 最後方の国体母艦が最も危険な位置であり、要と言える。

 だから、ヘルザースが、「殿は任されよ。」と言い切ったんだろうな。コロノアが指揮するのに。

 いや、だろうな、というのは、まあ、多分そうだろうなっていう、ただの俺の予想なんだけどね。

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