表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
70/405

竜騎士対竜騎士

 ゲートを潜って、ハンガーに到着、すぐにオロチに向かって走る。

「カルザン!俺と一緒にオロチに乗れ!」

 別の竜騎士に向かおうとするカルザンを呼び止め、俺とカルザンはオロチに乗る。竜騎士のコクピット内に酒呑童子二着は邪魔になる。俺は、オロチにセットされている酒呑童子を分解し、カルザンに酒呑童子を装着させる。背中に二本の腕を再構築してマスタースレイブ基幹ユニットを直接装着し、確認作業をすっ飛ばしてオロチを稼働、同時にブリッジの管制官に出撃許可を出すように要請した。

 出撃許可と同時に発艦、ハッチが開き切る前に船外へと飛び出す。成層圏に届きそうな高高度にあって俺達の星が蒼く輝いて見える。

 赤い爆炎を纏わりつかせながら、オルラのバハムートが無秩序な軌跡を描いている。

 テルナドの竜騎士を先頭に、サクヤ、トドネが錐揉みのように旋回しながらバハムートに追随する。

 超高速の飛翔速度の中にあって、テルナドは片腕を斬り落とされ、サクヤは爪先が斬り飛ばされている。トドネの竜騎士にあっては装甲が傷だらけで、やはり片腕が斬り落とされていた。

 オルラはバハムートに双月の鎌を持たせている。

 開発当初は持たせていなかった兵装だ。

 バハムートにも何か兵装を持たせようかとオルラに提案した所、オルラが「そうだね、死神みたいに怖そうだから、鎌でも持たせてみようかね。」と言ったから、鎌を造ったのだ。

 しかし、実際の所、鎌は武器にならない。

 武器に、なるにはなるが、その有用性が低いと言った方が良いかもしれない。

 まず、突くことができない。

 これは間合いを奪い合うという、戦闘における最も重要な行為ができないということになる。武器の進化は如何に相手から離れて戦えるか、ということに重点が置かれている。

 だから、素手よりも剣、剣よりも槍、槍よりも銃と、遠距離で戦うことへと至ったのだ。それに対して鎌は内側にしか刃がない。つまり、柄の内側に敵を呼び込んでから刃を引かなければならないのだ。長柄の鎌を用意しても武器としては意味がない。柄を長くしてもその内側に敵を入れなければならないのだ。

 あらゆる方向に、斬る、突く、という攻撃ができるように、俺は鎌の形状を工夫した。

 二つの三日月が並んだような形状に、鎌の外側にも刃を形成し、斧槍のように槍となる部分も造ったのだ。

 二つの三日月があるから双月の鎌だ。

 その鎌を最小限の動きで振り回し、近付くミサイルを斬り払いながらバハムートが藍色の空を疾走する。

 通常兵器において、人間が搭乗操作していては、重力に耐えられない、絶対にできない動きだ。その動きにテルナド達は、よく付いて行っていると思う。四機の竜騎士が一本の線を引くように飛翔している。

 ミサイルの間隙をついて三機の竜騎士がバハムートに襲い掛かる。

 剣を振るってテルナドがバハムートの背後から斬りつけるが、バハムートがそれを察知して機体を回転させて鎌の柄で剣を受ける。

 回転の勢いを殺すことなく、鎌の刃がテルナド機を襲う。

 弾けるようにしてテルナドがバハムートから距離を取る。

 サクヤ機が加速しながら、バハムートの股下から剣で斬りつけるが、振り下ろされた鎌によって、逆にサクヤが弾かれる。

 鎌の遠心力を利用してバハムートの軌道が急激に変化する。

 三機ともその動きに釣られる。

 更にバハムートの軌道が変化し、サクヤの竜騎士が鎌の軌道に誘い込まれる形となる。

 普通の武器では竜騎士の装甲を傷つけることはできない。

 最小のマイクロマシン、F型マイクロマシンで覆われているからだ。しかし、その原理を知る者にとっては、装甲にマイクロマシンを塗布していることが最大の弱点となる。

 一瞬、双月の鎌の刃が蒼白く輝く。

 霊子の放出だ。

 マイクロマシンは微弱な電気か、もしくは霊子によって命令が書きこまれ、霊子と幽子によって稼働する。

 マイクロマシンに命令を書き込むだけならば、霊子を体外に放出することのできる人間なら、誰にでもできる。

 獣人であっても酒呑童子を介在媒体として竜騎士に繋がれば可能だ。

 霊子を魔法として成立させるには、マイクロマシンに細かな命令を書き込まなければならない。

 錬成であれば、元素の配列、物質の構成、形の形成と命令しなければならないことは多い。

 脳の演算能力、この世界で言う魔法力が大きなウェイトを持つことになる。

 その上、マイクロマシンを自分自身の物として使役するには、命令を暗号化する、他の命令を拒否する上書き拒否の命令を走らせなければならない。

 普通の者にはできない。

 トガナキノではそれを可能にしている。

 脳底の精霊回路だ。

 錬成、魔法の行使を半ば自律的に行使する回路が精霊回路だ。

 オルラはその精霊回路を先天的に持っていた。

 だから、魔法を使えなくとも霊子の操作に関しては、常人の遥か高見にいる。俺が霊子の操作を始めて教わったのはオルラだ。

 それに対して、サクヤとテルナドは精霊回路よりも能力が高く、出力の高い霊子回路を備えている。

 生身であれば、その演算能力にオルラは足元にも及ばない。

 各個人の霊子保有量にしてもそうだ。

 テルナドは俺から霊子の供給を受けているため、莫大な量の霊子を消費することができる。

 サクヤは胎児の時に霊子回路を作っているため、元々の霊子量を多く保有している。

 霊子の保有量、演算能力、魔法において重要なファクターを持つ二つの要素はオルラを大きく上回っている。

 しかし、それを補って余りある物をオルラは手にしている。

 霊子の操作能力だ。霊子の操作に関する熟練度と言い換えても良いかもしれない。数多くの戦闘経験から手にした霊子操作の熟練度は俺よりも上だ。

 俺のように相手の霊子に同調させることなく、いつの間にかコッチがオルラの霊子に同調してしまうのだ。

 動き、呼吸、意図を読み取り、相手に合わせる。徐々に、徐々にだ。そうすると、いつの間にかコッチがオルラの霊子に波長を合わせてしまう。不思議と気が付くと合わせてしまうのだ。コッチが意識していないとその罠にはまる。

 いや、罠にはまりに行っているという感覚の方が正しい。

 一瞬でも霊子の波長が合えば、その瞬間をオルラは逃さない。

 俺もオルラに何度かやられたことがある。オルラと稽古すれば十回に三回は転ばされる。

 サクヤは、今、そういう状態だ。

 霊子の波長がオルラの波長と合致した瞬間。

 恐らく、サクヤは、今、悔しがっているだろう。

 サクヤの想像した通り、双月の鎌がサクヤの竜騎士の腕を斬り飛ばす。

 血飛沫のように蒼白い霊子が弾け飛ぶが、音も何もしない。

 竜騎士の腕がゼリーでできているのかと錯覚すら覚える滑らかな刃筋だ。

 斬り飛ばされた竜騎士の腕が空中で光って粒子へと分解される。

 同調させた霊子でF型マイクロマシンに分解の命令を走らせれば、F型マイクロマシンは分解を実行する。サクヤの霊子がオルラに同調したためにF型マイクロマシンはオルラの命令をサクヤの命令と思って分解を実行したのだ。

 サクヤとバハムートの間にテルナドが割り込む。

 テルナドの動きに合わせてバハムートが同じだけ距離を取る。テルナドが変則的な動きを見せるが、鏡合わせのようにバハムートが同じ動きを見せる。

 竜騎士は搭乗者の霊子が強ければ強いほど、強くなる。

 駆動系に、霊子に反応する霊子金属を使っているためだ。

 では、霊子の強さとはなんなのか。

 霊子の保有量と指向性だ。

 物体を圧縮させようとすれば、当然、物質その物が持つ対抗力がある。圧縮されずにその形状を保とうとする力だ。

 その力を超えて霊子を送り込み、臨界を超えて、更に霊子を送り込もうとすれば、霊子が持つ指向性を強化してやる必要がある。

 どうやって強化するか。

 演算能力ではない。

 想いだ。

 精神体から発せられる強烈な想いが、より強い指向性を霊子に与える。

 竜騎士の装甲にはF型マイクロマシンが使用してある。

 マイクロマシンは命令によって稼働する。

 霊子の指向性を受けて命令となる。

 分解しろと強い霊子を与えれば分解する。

 オルラによって同調された霊子を、マイクロマシンはサクヤの霊子と区別することはできない。

 双月の鎌から放出された霊子は分解の命令を受けていたのだ。

 サクヤの竜騎士を覆うマイクロマシンはその命令をサクヤからの命令だと受け取り、自ら分解した。

 同時に双月の鎌は細くなる。

 己の刃も分解するからだ。

 だが、見る限り、オルラには、まだまだ余裕がありそうだ。双月の鎌の刃は身幅が広いため強度も落ちていないだろう。

 テルナドも残ったもう片方の掌から先を斬り飛ばされる。

 トドネは頭部を斬り落とされた。

 竜騎士は、理論上、自己修復することができる。霊子の保有量が多ければの話だが、竜騎士に埋め込まれたイデアの複製プログラムと量子コンピューターで欠損部品の再構築ができるからだ。

 しかし、如何せん…

『それは俺達に限ったことだがな。』

 だな!!

 俺は加速させる。

 オロチのフルパワーに俺達の霊子を乗せて。

 一気にバハムートに接敵する。

「ウワアアアああっ!!」

 カルザンがマスタースレイブ基幹ユニットにしがみ付きながら叫ぶ。

『来たね。』

 オルラの声が通信機から聞こえる。

『ヘイカ・デシター!!』

『デシター君!!』

『デシター君なのです!!』

 長距離からの超加速でいきなりバハムートに組付き、背面の副椀も絡めて双月の鎌を無力化する。

 オロチのタックルを受けて、バハムートがそのままの勢いで、オロチと共に高空を飛翔する。一気にテルナド達の竜騎士から離れ、ミサイルの群れも俺達を見失う。

 マウスピースを放して、オロチの自立システムを起動させ、俺は、カルザンに視線を向ける。

「カルザン、ジェルメノム帝国から通信が入ってくる可能性がある。」

 カルザンが驚いた表情を見せる。

「そ、そうなんですか?」

「ああ、オロチがバハムートを抑え込んだからな、現状報告を求めて来るだろう。それに、俺は今から魔法を使う、ココでの魔法探知が奴らに可能かどうかはわからんが、一応、用心のためにな、お前が魔法を使ったってことにしてくれ。」

 カルザンが頷く。

「成程、それで私を乗せたんですね。」

「そうだ、俺は魔法が使えないことになってるからな。お前が乗ってないと奴らにバレる。」

 カルザンが頷いて、俺と位置を入れ替える。

 オロチのマスタースレイブ基幹ユニットを装着し、俺に向かって頷く。

「よし、奴らが通信してきたら、俺は不在ってことにしといてくれ、オルラの処分については、俺が帰還してから協議するって答えときゃイイ。」

「了解です。陛下は何処に行っていることにするんですか?」

 カルザンの問い掛けに俺は中空を見上げる。

「そうだな、どうするか…」

「か、考えてなかったんですか?」

「うん、考えてなかった。」

「もう、じゃあ、私が用意しといたシナリオで対応します。」

「え?そんなの用意してたの?」

「そ!そりゃそうですよ!だって、陛下の留守中は私が指揮官なんでしょ?」

「うん。」

「うん、って…と、とにかく、陛下は、近在の魔獣狩りと物資の調達で留守にしているということにしておきますから、それでいいですね?」

「ああ、うん、それで良いんじゃない?」

 カルザンが項垂れる。

「まったく、本当にいい加減だなぁ。」

「まあそう言うな。」

 俺はそう言って、コクピットハッチを開く。

「あ、それと!」

 カルザンが風の音に負けまいと大声を上げる。

「なんだ!?」

 コクピットの縁に手を掛けたまま振り返る。

「オロチの操縦権を私に移譲しておいてくださいよ!ジェルメノム帝国からの通信に応えられないじゃないですか!」

 カルザンの言うことも尤もだ。でも、その必要はない。

「大丈夫だ!通信の応答ぐらいなら自由に使える!それに!今は!オロチに登録している霊子の周波数はお前のモノだから!」

「そ、そうなんですか?!」

「ああ!でないと!魔法を使った時に!お前の霊子と判別されるだろう?!」

「了解しました!」

 俺は前に向き直り、急激に気圧の下がった空間へとその身を投げ出す。

「へ、陛下!!」

 少し離れれば、風切り音が轟音となってカルザンの声は俺の右耳にしか届かない。

 バハムートのコクピットハッチに取りつくと同時にそのコクピットハッチが開き、開き切る前に俺は粒子化光速移動でバハムートのコクピットハッチに瞬間移動する。

 俺の姿を認めたオルラがコクピットハッチを閉じ、「荒っぽいねえ。」と、呆れた声を上げた。

「しょうがないよ。高高度迎撃ミサイルをジェルメノム帝国が持ってるってことは、この距離の俺達を補足してるってことだからね。」

「みさいる?さっきも言ってたけど、みさいるってのはなんだい?」

 そうか、オルラも知らないよな。トガナキノでも実戦配備してると言っても全員がその存在を知ってる訳じゃない。

「ああ、あの地上から飛んで来て爆発してたヤツ。」

「ああ、あれはミサイルってのかい。」

 俺は振り返って三百六十度モニターにウロボロスが映っていないかを確認する。

「バハムート、ウロボロスとの距離はどれぐらいだ?」

「ウロボロスとは約六千七百キロメートル離れています。」

 よし、これだけ離れればジェルメノム帝国にも察知はされないだろう。

「バハムート、このまま衛星軌道を周回、ジェルメノム帝国の上空からは外れろ。」

「了解しました。」

 俺はオルラの足元に蹲る虎柄の猫に視線を向ける。

「君がキトラさんか。」

 小っちゃい虎が顔を上げる。

「ハイ!キトラと呼び捨てにしてください!二度目となりますが、お見知りおきを!」

 うん、二度目ってのはあんまり強調して欲しくない、一度目の出会いを思い出しちゃうからな。

「じゃあ、キトラさん、契約を結ぼうか?」

「ハイ!呼び捨てにしていただいても大丈夫ですよ?」

 俺はキトラの額に俺の右手を載せる。

「で、キトラさんの真名は?」

「ゴートラじゃ。」

 オルラの膝上で香箱を作っていたロデムスが顔を持ち上げ、俺に答える。

「え?お前、キトラさんの真名を知ってるの?」

 ロデムスが頷く。

「そのモノは変わっておってな、己の真名を誰彼ともなく教えて回っておるのじゃ。」

「なんで?真名を教えてもトガナキノじゃ、個人がキバナリを使役しちゃいけないってことになってるだろ?」

 そう、キバナリと個人が契約しちまったら、本物の警官が私用の警備員として使えるようになるのと同じだ。

「そんなことはわかっておる、だが、その者は何故か、皆に自分の真名を教えるのだ。」

 俺は眉を顰めてキトラさんを見下ろす。

 キトラさんは会話を聞くこともなく、俺の右手に額を擦り付け、ゴロゴロと喉を鳴らしている。

 ちょっと心配になって来た。

 キバナリにも天然がいるのかもしれない。

 俺はロデムスの方へと視線を向ける。

 ロデムスがソッポを向く。

「お前、まさかとは思うが、真名で命令したんじゃないだろうな?」

「…」

「おい、答えろ。」

 ロデムスが嫌そうな顔をして俺の方を向く。なんだよ、この使役魔獣、腹立つなぁ。

「命令してはおらぬ。」

 答えてソッポを向く。

「頼んだだけじゃ。」

 コイツは…

「まあ、頼んだのじゃから命令とは違う。よって、キトラは主人のキバナリとなりたがっておったのは本当のことじゃ。」

 まったく、このキバナリは…

 俺は溜息を吐いてキトラさんの方へと視線を転ずる。

 キトラさんは目を瞑って幸せそうに、俺の右手に、その顔を満遍なく擦り付けている。

 まあ、イイか。ホントに嬉しそうだしな。

 もう一度溜息を吐いて、俺は口を開く。

「牙ありて爪あり、密林潜みしキバナリのゴートラ、ヤートのトガリが現名を与える。身の内に刻むその名はキトラ。」

 キトラの体がピクリと跳ね、小刻みに震える。首を竦めて、縮こまり、前足を伸ばして、お尻を上げる。尻尾が真直ぐに立ち上がり、背中を反らせて大きく口を開ける。

 二本の犬歯がグイグイと大きく伸びる。

「ニャウ。」

 キトラさんは一声上げると、俺の右手を一所懸命に舐め始める。

 俺はその右手でキトラさんの頭を包み込むようにして撫でる。

 キトラさんが無我夢中で俺の右手を舐める。

「ちょ、ちょっとキトラさん?」

 ひっくり返って俺の右手を前足で抱え込み、必死で俺の右手を舐めるキトラさんは俺の声が届いていないのか、もう、無我夢中だ。

「いや、あの、キトラさん?」

 (やすり)を掛けるような音を発してキトラさんが俺の右手を舐める。

 仕方がないので空いた左手で晒されたキトラさんのお腹を撫でてやる。

「アーン。」

 キトラさんが猫なで声を上げる。よっぽど気持ちがイイのだろう、体中を捩って喉を鳴らしている。

 魔獣?

『ただの猫だな。』

『ホント、ただの猫だね。』

『猫だ。』

『強くないんじゃねえのか?』

『雌かぁ、これが人間の女の子だったらなぁ。』

 もう、しょうがねぇなぁ。

 存分に撫でる。

 揉みしだきながら優しく撫でる。

 もう、キトラさんは狂ったように体を捩らせ、俺の右手を舐めまくっている。

「トガリ」

 はっ

 俺はオルラの方へと顔を向ける。呆れた顔でオルラが俺を見詰めていた。

 俺が咳払いをしてキトラさんから手を放すとオルラが肩を竦めて「やれやれ」と呟く。

 手を引っ込めたので、キトラさんが前足で手招きしながら俺に撫でろと要求するが、ココは我慢だ。心を鬼にして耐えねばならない。

「キトラさん、じゃあ、キトラさんの血と毛を、ちょっと貰えるかな?」

 キトラさんが起き上がって「呼び捨てでイイですよ?で、もう、撫でないのですか?」と聞いてくる。

 心は揺れるがココは我慢だ。

「うん、それは、また後でね。とにかく、一仕事終わらせないと。」

「わかりました。」

 キトラさんが、差し出した俺の右手の上に前足を載せる。うん、お手してるみたいだ。このニャンコ最高。

 俺はキトラさんの肉球に浅く傷を作って、俺の掌に血を付着させる。その血を舐め取り、キトラさんの毛を貰って口に含む。

「よし、じゃあキトラさんは俺と一緒にオロチに移動するよ。」

 オルラを振り仰ぎながら俺はキトラさんを抱き上げる。

「そうかい、で、あたしは、この後どうすればいいんだい?」

 俺は三百六十度モニターを見回しウロボロスを探す。

 あった。

 バハムートの左斜め下にウロボロスを発見する。

「このままウロボロスに着艦させるよ。」

「そうかい、じゃあ、あたしはこれで捕まるってことだね。」

 オルラの言葉に俺は頷き「そうだね、そうしてくれるかい?」と確認する。

「ああ、わかったよ。じゃあ、ハッチを開けるよ。」

「いや、その必要はないよ。竜騎士は脱出用に内側からなら瞬間移動できるようになってるから。」

 オルラが目を見開く。

「そうなのかい?」

「ああ、じゃあ、戻るよ。」

「ああ、気を付けるんだよ。」

 僅かな距離でもオルラは俺に気遣いを忘れない。

 オルラの笑顔を見ながら俺はキトラさんを連れてオロチのコクピットへと瞬間移動した。

 開けっ放しだったオロチのコクピットハッチを閉じて、気圧を元通りの一気圧に上げる。

「キトラさん、大丈夫だったかい?」

 急激な気圧変化が生じないよう、俺はマイクロマシンで周囲を一気圧に保っていたから心配はないが、それでもキトラさんには一声かけておく。

「ハイ、全然、なんともありませんでした、それよりも、私のことは呼び捨てで大丈夫ですよ?」

 キトラさんの言葉に俺は微笑みながら頷く。

「カルザンは大丈夫だったか?」

 カルザンがマスタースレイブ基幹ユニットを外し、俺と場所を入れ替わる。

「私はコレ(・・)を着ていますから大丈夫です。それと、ジェルメノム帝国からはなんの通信も入ってきませんでした。それで、その子は?」

 カルザンが首を伸ばして俺の膝上に座るキトラさんを覗き込む。

「ああ、この子は俺の新しい使役魔獣、キトラさんだよ。」

「へえ、綺麗な虎柄ですね。」

 カルザンがキトラさんを撫でようと右手を伸ばすと金属音を上げてその手が弾かれる。

「貴様!陛下の使役魔獣である私の頭を撫でようとは失礼千万!無礼千万であるぞ!しかも!酒呑童子を装着したままとは!私を獣と侮っている証!そこに直れ!!」

 …

「…え?あ、す、すいません…」

「キ、キトラさん…?」

「ハイ!なんでしょうか?あと、私のことは呼び捨てにしてイイんですよ?」

 あれ?

 今、カルザンに切れてたのと同一猫?今は凄いキラキラした瞳を俺に向けてるんですけど、さっきの顔は正に魔獣だったんですけど?あれ?

「あの、カルザンは元皇帝陛下だったんですけど、無礼なの?」

「ハイ!勿論です!ここトガナキノでは、トガリ陛下を含む王族以外は私に触れようとすること自体が不敬にあたります!ですから元皇帝陛下であってもトガナキノでは一般市民、まったくもってまごうことなき不敬です!」

 ああ、イイ顔しながら、身分制度を堂々と言い切ってるわ。

「あ、あのね、トガナキノでは身分制度は廃止されてるの。だから、王族であっても位置的な、というか、その役割的な文化財的な存在な訳ね。そういう訳だから、その、不敬罪とかはない訳よ。ね?」

 途端にキトラさんの顔がションボリしたものに変わる。

「そうなのですか…」

「い、いや、まあ、私も不用意でした、キトラさんの頭を、酒呑童子を装着したまま撫でようとしたのは拙かったですよね。」

 カルザンがフォローに入るとキトラさんが視線をキツクしてカルザンを睨む。

「そうだぞ!その通りだ!貴様が私の頭を撫でるなど十年早いと知れ!!」

 うわ~、キトラさん、キッツイわぁ。

「は、はあ…」

 カルザンもどちらかと言えば呆れてる。

「ま、まあ、取敢えず、ウロボロスに帰投しよう。」

「そ、そうですね。」

「承知いたしました!」

 うん、俺には凄く丁寧なんだけどね。なんか、また、非常に扱い難い奴が加わっちまったような気がする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ