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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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新たな使役魔獣は頑張り屋さんだったのでドン引きです。とは言えない

 コルナの試練が終了して、俺はトガナキノの分体をトンナに任せて、ウロボロスの分体に意識を戻す。

 まずは、分体の脳への同期同調が必要だ。精神体が経験したことを追体験として、分体に、その記憶を刻み込まねばならない。

 高速で精神体の記憶を脳へと刻み込み、記憶の齟齬を失くす。意識の一割でも各分体に振り分けていればこの作業は必要ないのだが、そうなると、本体の行動に支障が出る。

 イズモリは熟練度を上げろと言うが、結構、神経を使うので俺はあまりやりたくはない。ウロボロスの体と同期作業が終わった俺は、ブリッジへと瞬間移動し、オルラ襲撃の様子を確認する。

「陛下!!」

 俺を見付けたカルザンが焦った表情で声高に叫ぶ。

「どうした?」

 カルザンの声にブリッジの全員が俺の方へと視線を向ける。その視線全てに不安の色が見て取れる。

「旦那、ジェルメノム帝国が割り込んで来てるんでさ…」

「なにっ?!」

 ドルアジが不安な表情を隠すことなく俺に状況を説明する。

 当初は、俺の命令通りにサクヤとトドネだけがバハムートを迎撃しており、その戦闘にテルナドが加わる形であったのだが、サクヤ達の竜騎士が不利になってくるとジェルメノム帝国から対空ミサイルが飛んで来るようになったのだと言う。

 俺はメインモニターへと視線を向ける。

 藍色の空を背景に高速飛翔するバハムート目掛けて何発もの追尾ミサイルが炸裂している。バハムートに損害は出ていない。邪魔になっているだけだ。

 焦る必要のない状況だ。カルザン達はシナリオに無い展開に焦っているだけだ。

「ウロボロスに加勢するとの一方的な通信がされた後に、このミサイル攻撃が開始されました。」

 操艦員の一人が事後報告を上げる。

「ちっ」

 俺はイラつきを隠すことなく舌を打った。

 高高度迎撃用のミサイルまであったのか、マズったな、シナリオの修正が必要だぞ。

『どうする?オロチで出るか?』

 いや。

「カルザン、俺は一旦、ここを離れる。」

「えっ!?ええ!!」

「慌てるな。俺が此処で義母さんと話をする訳には行かないだろうが。だから、義母さんと話をする間だけ少し離れるんだ。」

「あ、ああ、そういうことですか、わかりました。」

 俺の潜めた声に合わせてカルザンも声を小さくする。その効果だろう、カルザンに落ち着きが見られる。

「心配するな。義母さんのバハムートはあの程度のミサイルじゃ傷もつかない。」

「み、みさいる…あの飛んで来る武器のことですか?」

 そうか、ミサイルのことを知らないんだ。だから、あんなに焦っていたのか。

「そうだ、俺の知ってる兵器だ。使ったことないから知らないだろうが、このウロボロスだけじゃない、他の国体母艦にも積載してる。」

 見る間にカルザンの表情が緩まる。

「そうだったんですか、わかりました。じゃあ、このまま静観していていても大丈夫なんですね。」

 カルザンの言葉に俺は力強く頷き、ブリッジから離れる。

「義母さん。」

 俺の呼び掛けに対して、通信機からオルラの声が返ってくる。

『トガリかい?』

「ああ、飛んで来てるミサイルはジェルメノム帝国からのだ、サクヤとトドネのことを気に入った皇帝が横槍を入れて来てるんだと思う。」

『へえ、あの二人を皇帝が気に入ったのかい?そいつは驚きだね。』

 うん、余裕ありまくりだな。

「ただ、シナリオの変更が必要になった。最終的に義母さんには、俺達に捕まってもらうけど、ジェルメノムが義母さんの引き渡しを要求してくる可能性が高くなった。」

『そうなのかい?』

「ああ、俺も予想してなかったけど、まさか、あの皇帝が、これほどサクヤとトドネのことを気に掛けてるとは思ってなかったんだ。」

『皇帝が二人を気に入ってることと、あたしを引き渡せと言ってくることになんの関係があるんだい?』

 これも推測だ。

 しかし可能性としてはかなり高いと思われる。

「二人を殺すかもしれない相手を皇帝は許さない。多分、死刑にしたがると思う。」

 まず間違いない。

 あの皇帝は誰も行き付いたことの無い憎悪の果てに居る。

 オルラが一拍置いて返答してくる。

『そいつは困ったね。』

 うん、困ってなさそうな口調だ。

「そこにロデムスはいるかい?」

 オルラが来るとなったらアイツも付いて来てるはずだ。

『いるよ。二頭でいるよ。』

 は?

「二頭?」

『ああ、お前がキバナリをコッチで使うと言ったんだろう?そのためにロデムスが連れて来てるのさ。』

『主人よ。』

 ロデムスが会話に割り込んで来る。

「お前、もう一頭連れて来たの?」

『うむ。主人の頼みとあっては断れぬからのぅ、ただ、我も寿命を短くしたくはないのでな、若いキバナリを連れて参った。』

 うん、頼んでない。一度は頼んだけど、保留してたじゃん。しかも、嫌な命令を後輩に振るなんて、お前、最低の先輩だよ?

『年功序列ってヤツだな。』

 便利だな、年功序列って言葉。まあ、いい。今はそんなことを言ってる場合じゃない。

「その若いキバナリに代わってくれ。」

 少しの間をおいて若い声が聞こえてくる。

『初めまして、と、言っても二度目ですが、キトラと申します。ロデムスさんに言われて参上いたしました。お見知りおきを願う次第です。』

 また、馬鹿丁寧なキバナリが来たヨ。

「二度目?どこかで会ってるのか?」

『ハイ!新神浄土の最下層で陛下に吹き飛ばされました。』

 …ああ…

 俺が殴り飛ばしたキバナリを連れて来たのね。

 なんでわざわざ…もう…

「…うん。あの時はゴメンナサイ。痛かったろ?ホント、マジでごめんなさい。」

『いえ、そのことは、もうイイのです。そんなことよりも陛下のお役に立てるのならば、一年や二年、寿命が縮むぐらいなんともありませんから、幾らでも私を使ってください。』

 キトラ君、君のその親切心が心の傷を優しく抉ってくるわぁ。もう、ロデムスにやらせたいわぁ。

「ロデムス、お前がやれよ。」

『うむ、代わりにキトラがやってくれるでな、我は、静観させていただくこととする。』

「いや、お前、俺の使役魔獣だろ?俺の命令に従えよ?」

『うむ、従っておるからな、このキトラに我が命令したのじゃ。』

 もう、この魔獣、こう言えばああ言うし、ああ言えばこう言う、なんなの一体、使役魔獣ってこういうの?

『陛下、ご心配なく、私がしっかりとロデムスさんの代わりを務めますので。』

 もう、やる気満々の頑張り屋さん新人社員に汚れ仕事を押し付けてるみたいで凄く嫌なんですが。

「いや、そんなに頑張らなくっても…」

『いえ、国民のために働くことこそがスペシャルナンバー本来の務め。』

「は、はあ…」

『その中でもロデムスさんは陛下の使役魔獣として建国に尽力なさった特別な存在。』

「はあ…」

『となれば、スペシャルナンバーの中でも代表的なお仕事をなさったと言っても過言ではありません。』

「そ、そうなんですか?」

『そんなロデムスさんから直々の命令を頂戴したのです。私も陛下の使役魔獣となれるよう頑張りたいと思っております。』

 …

 ね、猫だよな?

『うむ、ネコ科だったはずだ。』

 なに?イヌ科の間違いじゃねえの?なんでこんなに頑張り屋さんなわけ?猫じゃないよ?この頑張り屋さん。

「えっと…」

『ハイッ!』

 えらくハキハキとした返事のできる猫さんですね。

「キ、キトラ君、いや、キトラさんかな?」

『キトラと呼んでくださいませ、ちなみに雌です。』

 ああ、じゃあ、キトラさんですね。

「うん、キトラさんは俺の使役魔獣になりたいのかな?」

『ハイッ!勿論でございます!キトラと呼び捨てにしてください!』

「そ、そんなに俺の使役魔獣になりたいの?なんで?」

『ハイッ!スペシャルナンバーの真の誉!それが、我らの認める御方の使役魔獣となることだからです!』

 …

「ち、ちょっと、ロデムスに代わってくれる?」

『ハイッ。少々お待ちください。』

「あ、はい…」

『なんじゃ?』

 これだよ、この面倒臭いことを隠すこともなく、堂々と嫌そうに返事する、この態度。この返事が魔獣の誉れで、俺の使役魔獣?

 いや、猫だからロデムスの反応が普通なんだよ。これでイイんだよ。

「うん、俺の使役魔獣への認識がおかしくなったのかと思ってな。」

『うむ、言いたいことは察することはできる。しかし、主人の認識は少々誤解がある。』

「なんで?」

『我が、当初、主人に望んでおったのはオルラ殿であったということじゃ。』

 ああ、たしかにそうだった。だから、コイツは使役魔獣っぽくないのか?いや、そんなことないだろう。

『まあ、そのことを差し引いたとしても、このキトラという子は少々、毛色が変わっておるのでな、まあ、主人が慣れることじゃな。』

『ひどいですよ、ロデムスさん。私の毛色は変わっていません、立派な虎柄、小さな時はトイガーって呼ばれて皆さん可愛がってくださるんですよ。』

 ロデムスの言葉にキトラさんが被せてる。毛色についての意味を取り違えてるな。

「小さい時はトイガーって呼ばれてるんだ。」

『ハイッ』

 トイガーってのは現代日本と同じなんだ。ふ~ん。

「じゃあ、キトラさん、俺の使役魔獣になってくれる?」

『えっ!?イイんですか?キトラって呼び捨てでイイですよ。』

「うん、ホントに俺の使役魔獣になりたいなら、使役魔獣になってよ。」

『も、勿論です!陛下の使役魔獣にしていただけるなら粉骨砕身の覚悟で東奔西走致します!堅忍不抜、一意専心、一心不乱をもって獅子奮迅の働きをお見せいたします!!』

 うん、全然、猫っぽくない。

 四文字熟語を並び立ててくる当り、全然、猫っぽくない。

「じゃあ、今からそっちに行くから、そのまま、そっちで待機してて、オルラ義母さん。」

『はいよ。』

「オロチ、俺の専用竜騎士でそっちに行くから、そのまま逃げ回っててくれる?」

『了解だよ。』

 俺は再びブリッジに取って返し、カルザンに呼び掛ける。

「カルザン、俺と一緒に来い。」

 カルザンが首を伸ばしながら俺の方へと振り返る。

「カルザン様をどうするつもりだ?!」

 呼んだだけで、カルデナが怒鳴ってくる。もう、うるせぇな。

「いいから、カルザン、俺と一緒に出撃するぞ。」

「な!そんなことさせられるか!危ないではないか!」

 もう、一々、カルデナを説得しなきゃならない、面倒くせぇなぁ。

「いいか?カルデナ、カルザンは、今は女の姿でも、魔狩りの男なんだぞ、それを、一々、お前みたいに過保護にしてちゃ、いっちょ前の男にならねえぞ?」

「そうですぜ、カルデナさん、このままじゃ、カルザン様はダメ男になっちまいやすぜ?」

 お、珍しい、ドルアジが援護射撃だ。

「そうですね、危ないとは言っても、まだ子供のサクヤ殿下もあの爆発の中で頑張ってらっしゃるんです。私が行かない道理はないでしょう。」

 ドルアジに後押しされて、カルザンが強い視線で俺の方を向き直る。

「そ、そんな、で、では、私も一緒に…」

「ダメだ!!」

 俺の強い言葉にカルデナの言葉が止まる。

「これ以上邪魔しようってんなら、カルデナ、オメエは降りろ。」

 全員が俺の方へと視線を向け、カルデナが挑戦的な目を向ける。

「いいか。遊びのようなこともやってるが、コイツは戦争だぞ?下手をすりゃ命の遣り取りになるんだ。カルザンは魔法使いとしての役割を担って貰ってる、オメエなんかよりもよっぽど役に立ってるんだ。サクヤとトドネは皇帝の懐に飛び込んで皇帝の心を掴んでる。テルナドは攫われた姫を演じてる。オッサンは掻っ攫ってくる奴隷の面倒を看なきゃならねぇ。テメエには何ができる!」

 俺の言葉にカルデナが顔を俯かせる。

 全員が言葉を飲み込んだまま、カルデナの方を見る。

「カルデナ、オメエはカルザンを守るためにここまで付いて来た、だがな、俺から見りゃ、オメエはカルザンを守りに来たんじゃねぇ、オメエはカルザンの金魚の糞と一緒だ。」

「カルデナ…」

 カルザンが俯いたカルデナを慰めようとするが、カルデナにとっては逆効果だ。俺はわざと大きな声でカルザンを呼ぶ。

「カルザン、時間がない、行くぞ!」

「は、はい!」

 カルデナを置き去りにしてカルザンが俺の後を追って走り出した。

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