超兵器を造ってやがった…
項垂れるヘルザースの通信機が鳴る。
「おっと、失礼いたします。」
そう言ってヘルザースが席を立ち、部屋の隅に行って通信機に応答する。
「さあ!それでは!いよいよ!コルナ陛下の最後の試練です!!」
スタジアムは沸きに沸いている。
アクリルボックスが分解され、二人がゲートを潜って闘演台を後にする。
「最後の試練はトガナキノらしい魔法を使った一般常識問題!この試練にはこのスタジアムに来ている皆さんの魔法力が必要です!!皆さんはこの合間にトイレに行くなり水分補給するなり!準備しとけよオオオオオッ!!」
アラネの言葉に観客が雄叫びを上げる。その雄叫びにアルミナガラスが震えて音を立てる。
「な!!なにイイイイッ!!」
後ろでも大声で叫んでる奴がいるよ。
貴賓室の全員がヘルザースの方を振り返る。
「オ!オルラ様が!単騎でウロボロスに向かわれただとオオオオオオッ!!」
ああ、行ったのか。
トンナとヒャクヤが高速で俺の方へと顔を向ける。
「ト、トガリッ?!」
「パパぁ。」
トンナは驚き顔で、ヒャクヤは頬を膨らませて口を尖がらせてる。
俺は澄まし顔でスットボケてる。
「ト、トガリ?どういうこと?オルラ義母さんまで行っちゃったの?サクヤとトドネちゃんも行ってるのに?オルラ義母さんまで?ね?そうなの?ね?」
「まったく、成り行き任せの行き当たりばったりは変わってないの。すぐに計画を変更するんだから、仕方のないブレブレ大王なの。」
俺は椅子に凭れ掛かって目を瞑る。
「へ、陛下!今更、寝た振りなどしても致し方ありませんぞ!王太后を単騎で行動させるなど!言語道断でございます!!」
ヘルザースが家臣のくせに椅子を思いっきり揺すってきやがる。
「しょうがねえだろぅ?義母さんが暇だから、どうしてもって聞かねえんだからよぅ。」
「そ、そんなこと言い訳にもなりませんぞ!王太后を説き伏せることができるのは陛下しかいらっしゃらないんですから!」
もう、オルラのこととなるとヘルザースが必死だよ。
「トガリ!あたしも行って良いでしょ?!ね?行っても良いよね?ね?」
なに言いだしてんだよ、この姉ちゃんは。
「じゃあ、ウチも行くの。」
ほらぁ、もう、訳わかんないこと言い出しやがったよ。隠密行動だって言ってんのに、王族総出で敵国に潜入してどうすんだよ。
「いけませんぞ!何を仰っておられるのですか!‘今日の王室’の収録があるというのに!お二人とも行ける訳がないでしょう!!」
ヘルザースが叫びにも似た声を上げる。
「左様でございます。某も‘今日の王室’は日々の活力、トンナ陛下とヒャクヤ陛下はトガナキノを出ること相成りませぬ。」
ズヌークが不動の姿勢で断固たる意志を見せる。
「左様、左様、お二人とも、大人しく国王陛下のお帰りをお待ちになりませんと。」
ローデルは爺様が孫娘を説得するようだ。
「あんた達に聞いてんじゃないよ!あたしはトガリに聞いてんだから!」
「そうなの。ウチらはパパの言うことしか聞かないの。」
二人にはそんな三人の言葉なんて関係ない。
俺は柏手を打って五人を黙らせる。
全員が俺に注目する。
「トンナとヒャクヤは…」
二人が喉を鳴らして前のめりになる。
「まず、付いて来ようとするならアラネを説得することだな。」
二人が天を仰ぎ、一声嘆いて、項垂れる。
「で、問題はヘルザースだ。」
「そ、某がですか?」
俺は横目でヘルザースを睨む。それに対してヘルザースが、若干、仰け反る。
「お前もいい加減、義母さんに懸想するのは止めろ、ってか諦めろ。」
「い、いや!そ、某は!決してそのようなことは!そのような不敬なこと!某は毛頭も考えておりませんぞ!!」
うろたえながら何を言ってやがるんだか。
「じゃあ、なんの仕事も権限も持ってない義母さんが出て行ったからって気にするな。ウロボロスにはサクヤ達も来てんだから、その世話をしてもらうんだよ。だから、ほっとけ。」
「ぐ、しかし、その御身に何かあれば、その、トガナキノとしては、その他国に対する示しが…」
「それはサクヤとトドネ、テルナドにしたって同じだろ?お前、その三人のことはなんとも言ってなかったじゃねぇか。」
「そ、それは…」
うん、グウの音も出ねえな。
「ってことで、義母さんのことはほっとけ。」
「む、ムムムッ」
諦めきれないのかヘルザースが立ったまま唸ってる。
「いい加減にしとかねえと、お前の娘と嫁さんにバラすぞ。」
「ウ、ウホン。」
咳払いしながら、ようやく座りやがった。まったく、脳内お花畑のジジイにも困ったもんだ。いい加減、そっちの方は枯れちまえばいいのに。
「ほれ、次の試練が始まるぞ。」
俺の言葉に全員が闘演台へと顔を向ける。
今度は何も用意されていないが、白いコートに杖を持った者たちが、観客席の通路からゾロゾロと闘技場へと降りて来ていた。そう言えば魔法勝負って言ってたな。コルナは獣人だから魔法は使えないぞ?どうするんだ?
『魔法勝負とは言ってない。魔法を使った一般常識問題と言っていたんだ。』
どっちにしろコルナは魔法が使えねえじゃん。どうすんだよ?
『知らん。』
段々無責任になってきてねぇ?
『元々、俺達に責任なんてものはない。トガリの責任は、全部、お前の責任だ。』
まあ、なんでもかんでも超他人事のお前らにとっちゃそうだよな。
闘演台と観客を隔てる、腰高の柵、その柵と闘演台の間に白い司法院の衣装を着た者たちが並ぶ。
全員、ゴーグルを着けて、持っている杖は胸の高さにまである。
「なんだ?あいつら。」
「神聖魔導師団ですな。」
俺の疑問に後ろからローデルが答える。
「シンセイマドウシダン?」
俺の発音が気になったのだろう、ローデルが補完する。
「ヤート文字で新神の神にひじりと読める聖で神聖、悪魔の魔にみちびくで、魔導でございます。」
なにそれ?神と悪魔がごっちゃになってますけど?
「なんで、神と悪魔がごっちゃなの?」
「はい、魔に導かれながらも神聖なるものに近付くという意味ですな。」
ローデルがわかったような、わからん理屈を口にする。
「うむ、毒を喰らわば皿までというヤートの古い諺だな。」
ズヌークが更に訳の分からんことを被せてくる。
「いや、その諺、当てはまらねぇだろ?」
「ふむ、困難な道を究めるには、時に必要なことだの。」
おい、ヘルザース、なにわかったような振りして、俺を無視して、納得してんだよ。
「魔法は奥深いの。」
ヒャクヤ、お前、獣人だから魔法使えないよね?
「そうね。トガリは神様なのに人間に置き換えたら酷いことしてるもんね。」
…あれ?
「うむ、新神記では、陛下の行いは視点を変えれば正に魔神の如くですからな。」
…
「左様、悪魔の神と書いて魔神、しかしながら、この国におかれては正に正真正銘の神でございますからな。」
…
「まったく、罪悪を持つ者には容赦のない悪魔の如き仕打ちをなさるが、必ず、更生の機会を与えてくださる。結果、皆が幸せに暮らせるようにしてくださる。」
…
褒めてんの?俺を糾弾してんの?どっち?
「神聖魔導師団、うむ、良き名称であるな。陛下も、そう思われませんか?」
ヘルザースがニッコリ笑いながら、俺に同意を求めてくる。
「…そうだね…」
もう、この話の流れでは、そう答えるしかねえじゃん。
「さあ!!神州トガナキノ国神聖魔導師団の準備が整ったようです!それでは!観客の皆さん!入場する時に渡されたカプセルを右手にお持ちください!!」
アラネのアナウンスに俺は魔虫のモニター越しに観客が手に持つカプセルをズームアップする。
「なんだ?」
観客の手にあるカプセルは大人の親指程の大きさだ。両端が赤か青に塗られた金属で覆われ、カプセルの中央は透明だ。その透明の部分からカプセルの中が見て取れる。カプセルの中には小さな、極小と言える大きさの霊子結晶が浮遊している。
『生理食塩水の中に霊子金属を浮遊させてるな。』
「あれは、霊子を同調させるための魔法具でございます。」
俺はヘルザースを振り返る。
「霊子を同調させる魔法具だと?」
ヘルザースが大きく頷く。
「神聖魔導師団が精霊活性化の力場を形成し、且つ、あのカプセルを持つ者たちの霊子に指向性与えるのです。」
「つまり、あのカプセルで各人の霊子を同調同期させて、その霊子にあの魔法使いたちが一定の指向性を与えるのか?」
俺の言葉にヘルザースだけではなくズヌーク、ローデルも笑いながら大きく頷く。
おい、おい。冗談じゃないぞ。俺の霊子体は六十四万人分の霊子体だから凄いパワーを出せるんだけど、このスタジアムに居る観客は百万人だぞ?
どれだけのパワーを生み出すつもりなんだ?この星を吹っ飛ばすつもりか?
「あのカプセルを生産するために国の保有する魔石の五分の一が消費されましたのでな、陛下には頑張って魔獣を狩って頂かねばなりません。」
いや、問題はそこ?こいつら、どんだけ危ないもんを作り出したのかわかってんの?
「え?いや、そんなことより、なんで、あんなもん作ったの?」
最高執政官三人がキョトンとした顔をする。
え?あれ?変なこと言った?
「陛下のご命令に従ったのでございますよ?」
え?俺、そんなこと言ってないよ?
「え?いつ?」
ヘルザースが呆れ顔で口を開く。
「陛下が、クルタス事件の対策を練る必要があるな、と。」
うん、言った。それは言った。だから、緊急用に俺は自分の分体を各国体母艦にバラ撒いたのだ。瞑想室を作って、物質保持限界ギリギリの線で霊子を供給する形で俺の分体を眠らせてある。
俺の分体を置くことで、物理的障害のない精神体をいつでもその分体に移動させることができる。EMP攻撃を受けて、マイクロマシンのプログラムが消されても俺がその分体に意識を移して、マイクロマシンに命令を、再度、書き込めば、国体母艦が崩壊、墜落することはなくなるからだ。
ただ、この行為は、俺の人格崩壊の危険性をはらんでいる。
精神体が経験したことを眠り続けている俺は経験していない。
肉体と精神体に齟齬が生じる。
精神体が憶えていたことを肉体は経験していないのだ。それは精神体の変容へとつながる。
俺は一つの集合人格だ。マサトという一人の人格を形成しながら、六十四万人分の心の集合体だ。
他者の心と混じりやすい、という特徴が残っている。それは、肉体からの影響も受けやすい、ということになる。
イズモリは強靭な精神体とはなっているだろうから、気が狂ったりするようなことはないが、人格が変容する可能性はある。と言っていた。
「で、いつまでも俺に頼っていられるとは思うな。自分達でなんとかできるようにしろ、と、仰ったではないですか。」
うん、そんなことを言ったような気がする。まあ、俺の口癖みたいなもんだからな。多分、言ったと思う。
「ですから、クルタス事件で起こった精霊凍結魔法に対する策として、国民全員の霊子を国体母艦復旧のために使用するのです。」
成程、国民の霊子体を全て同調させて、魔導師団によって国体母艦を復旧させる命令をマイクロマシンに与えるのか。
「でも、そうなってくると魔導師団の負担がかなり大きいぞ?国体母艦を復旧させるための霊子は供給できるが、復旧させるためにはかなりの魔法力が必要だぞ?」
そう、問題となるのは脳の力、演算能力と記憶容量だ。
ヘルザースが頷く。
「はい、その通りでございます。ですから、魔導学校の卒業者、首席から上位二十名の者を、義務として魔導師団に入団させ、各魔法使いには精霊の目の代わりとして解析感知器を貸与しております。」
あのゴーグルがそうか。
精霊の目は量子が幽子や霊子との接触で起こる摩擦反応を捉える物だ。量子は幽子との摩擦で質量を生み出す。波の状態である量子は質量を発生させる時にその波を乱れさせるのだ、その僅かな波を捉える。
精度の高い精霊の目なら、マイクロマシンは物質であるため、粒として捉えるが、量子は細い糸のような線として捉える。川を流れる水の元素を一つの流れとして捉えるようなものだ。
「更に杖には、霊子金属が仕込まれております。」
「なんだと?」
ヘルザースがニッコリと笑いながら頷く。
「はい、まだ数十名ですが、魔石、霊子金属の錬成に成功した者がおります。まあ、当然、魔石の形を変えて霊子金属になるだけの錬成ですが。」
多分、この時の俺は驚きの表情を隠していなかったはずだ。
「陛下のように体内に生体精霊回路を錬成することは無理ではございますが、魔石を一旦分解し、霊子金属に精錬できるようになったようで。」
俺は椅子に凭れ掛かっていた。
「驚いたな…不明の元素が、まあ、精度の高い精霊の目で見れば区別は付くが、それでも難しい作業だと思うが…そうか、出来る者がそんなに育ってきたか…」
「はい。」
ヘルザースの声が力強い。
巷では魔法具として霊子金属が使用されている。しかし、魔石、霊子結晶から変形させて霊子金属へと精錬させることのできる者は少ない。霊子結晶の精錬師は独立した職業として、高額の支払いを要求できるほどなのだ。したがって、魔法具の価格はその時々に応じて高価になる。
トガナキノにおいても霊子結晶を魔法具として使用できる形状に精錬させることのできる者は限られていた。そんな中でも必要最小限の霊子金属は俺かイデアが精錬していたのだ。
「で?その霊子金属はどうやって使ってる?」
ヘルザースの頷き方も心なしか力強く見える。
「複数の同一術者に繋げることができます。」
成程、一つの物質を再構築するのにチームを組んで演算能力を補完し合うのか。
「魔導師団の常駐者は何人だ?」
「各国体母艦に二百人、退職者には予備役の義務を設けてございますので、減ることはございません。」
二百か…
『少し、心もとないな。』
そうだな、各物質の元素配列、物体の設計、マイクロマシン薬と雷精魔導具の復旧に竜騎士や八咫烏の復元…それぞれを各人に割り振ったとしても難しいだろうな。
「一度、その者達だけで国体母艦を造らせろ。」
「ま、魔導師団だけでございますか?」
ヘルザースが背筋を伸ばす。
「規模は小さくていい。そうだな、まずは、城塞都市を載せていない、およそ、二十メートル前後の物からでいい、城塞都市は、地上で造営できるかどうか試験的にやってみろ。」
ヘルザースが元の姿勢に戻って息を吐きながら「承知いたしました。」と答える。
「精霊薬は精霊薬専門で錬成できる者を、竜騎士や八咫烏は部品が多いからな、それぞれの部品ごとに錬成させて、その部品を統括的に組み上げられる者を育てる必要があるだろう。」
「成程、各部品を専門として錬成する者を育てる訳でございますな。」
ヘルザースの言葉に俺は頷く。
「そう考えれば、魔導師団の人数はもっと増やさねばならんだろう。錬成する物体ごとに部署を設けても良いぐらいだ。」
「御意。早速そのように取り計らいます。」
現代日本にいた俺は、すぐに兵器としての使用を考えたが、この国の人間は禊の効果で平和的な思考が定着している。ハッキリ言って安心した。
『俺達の方がよほど好戦的な思考だな。』
だな。
「それでは皆さんにご説明いたします!!」
アラネがカプセルについての説明を始める。
「今回の試練では!皆さんのお力が必要です!神聖魔導師団は闘演台に精霊活性化力場を形成いたします!その力場にてコルナ陛下とブローニュ嬢には召喚魔法にて戦って頂きます!」
ほう。
「召喚魔法で闘うのですから!当然!強いモノを召喚することができれば有利に戦うことができます!!」
うん、そりゃそうだ。
「しかし!召喚魔法などは未だ確立されておりません!!」
じゃあ、ダメじゃん。
「そこで!皆さんの出番です!!」
なんで?
「コルナ陛下とブローニュ嬢には召喚したいモノのイメージだけを言葉にしていただきます!つまり!赤い、空を飛ぶ、強い!という言葉を口にした時!皆さんは何を連想しましたか?!」
うん、俺は龍を連想した。
「ダイダロスね。」
トンナは自分の竜騎士を連想したようだ。
「ウチはトンナ姉さんを連想したの。」
成程、ヒャクヤはそうだろうな。トンナは空を飛ばないけど。でも、赤いと強いでトンナを連想するのはわからんでもない。
「私は龍をイメージして三つのキーワードを口にしました!皆さんはどんな物を連想したのでしょうか?!」
そりゃバラバラだな。
「そう!三つのキーワードで連想するモノは千差万別!一つの物となることはありません!しかし!そんな中でも龍を連想された方もいらっしゃるでしょう!つまり!皆さんがそれぞれに連想したモノの中で最も多く連想されたモノが闘演台の力場に形成されます!!」
なるほどね。多くの共通認識を持っているモノが召喚される訳か。
「コルナ陛下とブローニュ嬢が口にできるキーワードは三つだけ!その三つのキーワードで自分の思ったモノを召喚することができるかどうかは、二人がどれだけトガナキノの常識に精通しているかにかかってくるわけです!!」
ふん。理屈としてはわからんでもない。一般常識に対して、どれだけ共通認識を持っているのか、それによって、自分の思った通りのモノを召喚できるってことか。
「召喚されたモノは、基本、皆さんの霊子を使って構成されます!したがって!本来は弱いモノであっても!イメージした人間が多ければ多いほど!召喚されたモノは強くなるのです!」
成程な、弱い魔獣を召喚したとしてもその魔獣をイメージした人間が多ければ多いほど強くなって、強い魔獣を倒すことができるということか。
「皆さんがお持ちのカプセルには!それぞれ赤と青が塗られております!」
確かに、カプセルの両端には赤が塗られている物と青が塗られている物がある。
「青のカプセルをお持ちの方はコルナ陛下が仰ったモノをイメージして下さい!赤のカプセルをお持ちの方はブローニュ嬢の仰ったモノをイメージして下さいね!!」
コルナ陣営対ブローニュ陣営か。
「しかしながら、この場に召喚されたモノが、本物の龍となることはありません!あくまでも、魔導師団の錬成できるモノに限られますので!この場で錬成されるモノはあくまでも仮想となります!!」
だろうな。物質を錬成するのではなく、霊子に走っている指向性を視覚的に具現化するだけだな。そうじゃなきゃ、何十万人分もの霊子を保有したバケモンができちまう。
「中々、面白そうだ。」
「左様でございましょう?この日のためにあの霊子同調回路の作成を急がせたのです。」
はい?
ヘルザース、自慢気に言ってるが、なんだと?
「精霊凍結魔法発動時に使用するためって言ってたじゃねぇか?この日のため?」
「左様でございます。精霊凍結魔法に対抗するために開発をしておったのですが、遅々として進みませんでしてな。ところが、此度の試練に使用すると決まった途端に開発者達の目の色が変わりまして、それは、もう、物凄い執念を感じるような開発作業でございました。」
なんだそれ?この国の国民、どんだけ馬鹿なの?どっちが重要なのか考えなくってもわかるでしょ?どういうモチベーションで働いてんだ?
「やはり、‘今日の王室’のスペシャル特番に使用されるとなると、皆、やる気が漲るようですな。」
やっぱ、馬鹿だ。最初はとんでもない兵器を作りやがったな、と心配したが、この国の国民の馬鹿さ加減の方が心配だよ。
「トガリ、嬉しそうだね?」
「そうか?」
「うん。スッゴイ嬉しそう。」
うん、そうだな、平和な国の国民が馬鹿なことのためにとんでもねぇ発明品を作る。うん、善い国だ。馬鹿な国の最高に馬鹿な国民だよ。
「魔導師団が準備完了だアアアアアアッ!!」
掲げ上げられた杖の先から青白い茨の閃光を発して、その光が闘演台を包み込み、目を開けていられないほどの光量まで引き上げられる。
光が消えた時、闘演台を構成する石畳が、霊子の色、青白い光を湛え、周囲を同じ色に染め上げていた。
南北のゲートが、やはり、青白く輝く。
「お二人の登場だアアアアアアアアッ!!」
コルナが悠然と現れる。
ブローニュが首を回し、腕のストレッチをしながら現れる。
コルナは微笑を湛え、ブローニュは闘志を隠そうともしていない。
「それでは!お二人に発することのできるキーワードは三つまで!召喚しようとするそのモノを表す単語の使用は禁止です!!あくまでも!そのモノをイメージする!連想する単語のみの使用が許可されています!」
先攻が有利か?
『そうとは言い切れん、後攻は相手の出方を見ながら闘えるからな。』
「召喚できるモノは三つまで!!同じモノは召喚することができません!先攻!後攻は王妃陛下であらせられるコルナ陛下に決定権があります!!」
うん、ブローニュに対する試練だからな。そうなるわな。
コルナが目を閉じ、微笑を消し去り、瞼を開く。
「後攻を取ろう。」
コルナの冷めた口調にブローニュの喉が上下に動いた。
「おおっと!!コレは作戦でしょう!!あえて!相手の出方を見る後攻をコルナ陛下が選びました!!それに対してブローニュ嬢は皆がイメージしやすいモノを召喚することができます!」
ブローニュが瞼を閉じてコルナとは逆に微笑を浮かべる。
見開き、口を開く。
観客席が静まり返る。
「赤い。」
龍か?いや、そんなことはしないだろう。アラネが先に言っている。観客も龍を否定する筈だ。
「二足歩行。」
ダイダロスだ。トンナの竜騎士、ダイダロスを召喚しようとしてる。
「大きい。」
闘演台の青白い光が、その中央で波紋を発生させる。
波紋の中心から青白い光を反射させて、赤い機鎧、ダイダロスが生み出される。
観客が一斉にどよめく。
「成功ですな。」
ヘルザースの声にも熱がこもっている。
「オオオッと!見事にダイダロスが再現されました!ブローニュ嬢!コレは思っていた通りのモノを召喚できたのでしょう!!さああ!後攻のコルナ陛下の番です!!」
波が引くように静まり返っていく。
観客の声がしなくなってコルナが口を開く。
「白い。」
対抗するならスサノヲだ。
ダイダロスが召喚されたのだから、観客はスサノヲをイメージしやすい。
「六本足。」
なに?
「大きい。」
いや、そりゃ無理だ。知ってる奴の方が少ない!
観客がどよめく。
闘演台に現れたのは魔獣だった。
クサリと呼ばれる魔獣だ。
全長は約三メートル、肩高は約一.九メートルの馬型の魔獣だ。体色は白く、六本の足を備えている。全身には硬い棘状の鱗を生やし、ねじくれた三本の角を持っている。口から糜爛性のガスを吐き出す魔獣だ。
現れただけでも御の字だ。恐らく、ほとんどの奴が見たことの無い魔獣だ。
ブローニュの目が眇められる。
竜騎士に勝てる要素の無い魔獣だ。しかも、ほとんどの者が知らない。したがって、強い訳がない。
「白い。」
ブローニュが畳みかけるつもりだ。
「二足歩行。」
今度こそスサノヲだ。
「大きい。」
ダイダロスの隣にスサノヲが現れる。
「おおっと!トガナキノを代表する二機の機鎧が揃い踏みだアアアアア!!」
ブローニュが口角を上げて、自信のある笑みを見せる。
「これは!ほぼ!ブローニュ嬢の勝利と言っても差し支えはないでしょう!!」
コルナが冷めた瞳でブローニュを見詰める。
「魔獣災害。」
コルナは魔獣に固執してる。何故だ?
「巨大。」
Gナンバーズか。
あの巨大な恐竜型魔獣、あの魔獣なら、トガナキノ国民全員が知っている。
「星落とし。」
やはり、あの恐竜型魔獣だ。この世界では質量爆弾のことを星落としと呼称する。
恐竜型魔獣の首が闘演台に現れる。あまりに大きすぎて、この闘演台では首の上の方しか再現できなかったようだ。それでも巨大な頭を振り回して凶悪な咆哮を上げる
その凶悪な姿を見てもブローニュは余裕の笑みを崩してはいない。
「黒い。」
こうなってくると、ブローニュが次に召喚するのはバハムートだな。
「二足歩行。」
だろうな。もう観客たちはそのつもりでイメージしてるだろう。
「大きい。」
オルラの専用機鎧バハムートが現れ、王家の竜騎士三機が揃い踏みとなった。
「やはり来ました!!王家の専用竜騎士三機です!!恐らく最強!この三機に勝てる存在など考えられません!!」
俺は背凭れに体を預けてアラネのアナウンスを聞いていた。
ブローニュの勝ちは揺るがないだろう。
終わったな。そう、思っていたが、コルナの最初の呟きに、俺は、弾けるように体を起こした。
「史上最低と呼ばれる。」
なに?
「働かないからだ。」
おい。
「しかし…最強の存在だ。」
貴賓室の全員が一斉に俺の方を見る。
観客の全ての視線が俺へと向けられる。闘演台のブローニュさえもが俺の方を見る。
もう、全員が俺の方を見る。
トンナもヒャクヤも俺を見てるってことは、二人も俺のことを史上最低王と呼ばれているんだと認識してるってことだよな?
竜騎士と魔獣が犇めき合う闘技場に一際小さな存在が現れる。
俺だ。
俺が闘演台に現れ、俺を見ていた全員が闘演台へと視線を向ける。
「くっ!」
ブローニュの顔が歪められる。
「ああああっと!闘演台に現れたのは国王陛下だアアアアアアッ!!」
アラネが散々、俺のことを史上最低王って喧伝してたからな。イメージしやすかったろう。
闘演台の俺は太々しい態度で、踏ん反り返ってる。そうなのね、皆のイメージしてる俺って、そういう感じなのね。うん、わかった。スッゴク偉そうで嫌味な感じだね。うん、ちょっと悲しいよ。
「これはコルナ陛下に分がありました!同じ国王陛下を召喚していたとしても現時点では!まだ!王族ではないブローニュ嬢には史上最低等の国王陛下を貶める言葉を、この公の場で言うことはできません!つまり!国王陛下を観客全員にイメージさせることが難しくなるのです!」
うん、そうだよね。アラネは、一応、元王族だからね、だから、俺のことを好き放題に貶せるんだ。うん、ちょっと、旅に出たい気分だよ。
しかも、ブローニュはヘルザースの娘だ。行政院第一席、俺の家臣団での首席だ。その娘がこの場で俺のことを史上最低なんて言ったら、ヘルザースの立場が危うくなる。
…なるかな?ならねえと思うんだけどな。嫁さんに史上最低って言われてるんだから、全然、大丈夫だろ?
『そうだな。ブローニュは思い付かなかっただけだろう。』
ですよねぇ。
「さあ!三体の召喚が終了しました!それでは!それぞれの召喚した三体で闘って頂きます!!」
ブローニュが顔を歪めながら俯き、勢いよく顔を振り上げる。目が血走り、その気合が乗り移れと願うかのように「行ったれやアアアアアアアアアッ!!」と叫ぶ。
ダイダロス、バハムート、スサノヲの三機の竜騎士が動き出す。
「オイ、全て分解してしまえ。」
コルナの言葉に闘演台の俺は「ヤダよ。面倒臭ぇ。」とソッポを向く。
ああ、そうだよね。俺ってそういうとこあるもんね。うん、皆よく俺のことわかってるわ。
コルナが闘演台の俺にツカツカと近付き、仮想の俺の頭を思いっきり引っ叩く。
「イテッ!なにすんだよ!」
コルナの形相が暗殺者のソレになってる。
「いいから、分解してこい。」
仮想の俺が肩を竦ませながら「わ、わかったよぅ。」と答えてる。うん、その情けない感じ、ばっちり俺だ。
迫り来る三機の竜騎士に対し、仮想の俺は右手を振るう。
たったそれだけの仕草で三機の竜騎士が跡形もなく消え失せ、それどころかコルナが召喚していた魔獣二体も消え失せる。
ツエエな仮想の俺…
あまりの呆気なさにブローニュは唖然としてる。観客もしーんだ。
「つ、強オオオオオオオオいっ!!あまりにも強すぎました!闘演台の国王陛下はあくまでも仮想!仮想の国王陛下ですが!それにしても強すぎるウウウウウッ!!」
仮想の俺がいきなりコルナに飛び付き「コルナぁぁ~ちゃんと言われた通りに分解したよぉぉぉ~ん。おつむ、ナデナデしてぇぇぇ~ん。」と、言いながら、コルナの胸に顔をグリグリと押し付け始める。
おい。俺はそんなことしないぞ。
「まったく、公衆の面前だというのに、仕方のない旦那様だ。」
おい。なんだ?その、いつも通りみたいな雰囲気は。
「コルナぁぁ~もっとぉぉおん。」
おい。
「わかった。わかったから、あまり、顔を押し付けてくるな。」
おい。
「殴ってこようか?」
トンナが割とどうでも良さ気に聞いてくるが、俺が直接殴ってやりたいわ。
大体、なんで、コルナもいつも通りの展開みたいな感じで仮想の俺とイチャついてんだ?俺が普段からそんなことしてる風に思われるだろうが!
『思われてるから、今、そういう行動をしてるんだろが。』
そうか、そうだった。仮想の俺の行動は、国民が、普段から俺はこういうことをしてるんだと思ってるから、そういう行動をしてるんだ。
なんだよそれ、泣きたくなってきたよ。俺って国民からこういう奴なんだと思われてるわけ?なんだよそれぇ。
「流石は史上最低王!仮想とはいえ、国民の国王に対するイメージは最低でした!!」
結局、コルナの試練も、なんか、俺への試練だったような気がする…気の所為じゃないよね?
本日の投稿はここまでとさせて頂きます。お読みくださいまして誠にありがとうございました。




