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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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コルナの試練、って俺への試練じゃないの?

「お待たせいたしました!!」

 アラネのテンションアゲアゲの声がスタジアムに木霊する。

 その声をきっかけに俺達は闘演台に目を向ける。

 闘演台の中央には小さな機械が接続された透明のアクリルボックスが二台、用意されていた。アクリルボックスの大きさは、人が一人入れるほどの大きさで、その上面には、やはり赤色灯が設置されている。

 う~ん、コルナ達があの中に入って問題に答えるんだろうけど、カナデラ。

『なに?』

 あれの仕掛けはどうなってる?

『風船が膨らむんだよ。』

 間違えた方の風船が膨らむのか。

『うん、そう。』

 風船の中身は、ただの空気?

『うん、多分、もしかしたら変更してるかもだけどね。』

 アイデアは出すけど、実行には責任を取らないっと。

『そうだね。』

 もう、お前らのその他人事体質、なんとかならねぇの?

『だって、ホントに全部他人事なんだから、しょうがないよ。』

「まずは!お二人の登場です!!」

 南北のゲートが輝き、二人が同時に闘演台に現れる。

 コルナは観衆の声援に対して、軽く手を振りながら微笑んでの入場だ。ブローニュは大きく手を振って、やはり、その笑顔も大きい。

「さあ!コルナ陛下の試練も三本勝負!その二本目となりました!先程の問題はトガナキノ国民であれば、誰もが答えることのできる一般的な計算問題!しかし!これからはトガナキノに関する一般問題です!歴史の浅い国ですが、その浅い歴史をどれだけ把握しているか!トガナキノの常識的な知識をどれだけ有しているか!一般的な社会人であれば必ず答えることのできる問題ばかりが用意されております!さあ!それではお二人に解答ボックスの中に入って頂きましょう!!」

 アラネのアナウンスに誘導されて、二人がそれぞれのアクリルボックスに入る。ブローニュは出走前の競走馬のように気合の入った表情を見せているが、コルナは冷静にアクリルボックス内の床、自分の足元へと視線を落とす。

『あの足元に大きな風船が仕込んであるんだよ。』

 表情が隠れないように配慮したんだな?

『多分ね。』

 アラネが二人の様子を確認して、再び、口を開く。

「それでは!今回の出題形式をご説明いたします!」

 声を上げていた観客が静かになる。

「出題形式は先程と同じ、解答権は一問に付き一答の早押し問題!解答が正しければ、答えたボックスには何も起こりませんが、答えられなかった方のボックスでは足元から巨大な風船が膨らみます!」

 観客がドヨリと騒めく。

「膨らむ量は一定ですが!答えるのに掛った時間の分だけ空気が注入され続けます!つまり!早押し問題であるにもかかわらず!早く正答を答えれば、相手の風船を膨らませることができないという戦略的要素を取り入れた問題形式です!!」

 観客が一斉に声を上げる。

「解答が正しければ相手の風船が膨らみますが!誤答であった場合は自分の風船が膨らみます!!早く!相手の風船を割った方が勝者です!!」

 これって、問題の途中で答えた場合はどうなるんだ?

「さあ!それでは第一問です!!」

 俺の疑問を置き去りにしてアラネが進行する。

「問題!!トガナキノの正式な国名は神州トガナキノ国ですがっ!その命名者は国王陛下ではありません!!では!誰が!命名したのでしょうか?!」

 俺の後ろでヘルザースが「グッ」と声を上げる。

 大型モニターに時計が表示され、長針が秒を刻んで回る。

 解答権を報せる電子音が鳴り響き、時計の長針が止まる。

「それでは!ブローニュ嬢!解答をどうぞ!!」

 娘が父を刺す瞬間だ。

「ローエル・ヘルザース!!」

「くぐっ…」

 ヘルザースが刺されて身悶えてやがる。

「正解っ!!」

 アクリルボックスの中でブローニュがガッツポーズを決めてる。父を刺してでも勝ちたいか。うん、それで良い。ヘルザースは刺されまくればイイのだ。

「コルナ陛下の足元の風船が膨らみます!!」

 観客がアラネのアナウンスに呼応して大きな歓声を上げる。

 ブローニュが解答するのに掛った時間は五.六秒、その秒数と同じ時間をかけて風船に空気が送られる。

 冷めた目で、自分の足元で膨らむ風船を、コルナが見詰める。

 大きさにして西瓜ほどの大きさにまで膨らんだ風船が与圧された名残でユラユラと揺れている。

「さあ!それでは第二問で…」

 アラネの言葉を遮って、コルナがボックスの中で手を挙げる。

「如何いたしたのでしょう?コルナ陛下が手を挙げていらっしゃいます。」

 俯き加減だったコルナの目がアラネに向かって上げられる。

「質問だ。」

「はい?一体なんでしょうか?」

 コルナの言葉にアラネが即座に応える。

「解答は早押しだったな?では、問題途中で解答した場合はどうなるのだ?」

 うん、そうだよな。俺もそこに引っ掛かった。

「…」

 アラネが即答できない。そりゃそうだ。この企画自体はカナデラの企画であって、この企画を起ち上げた基礎知識は現代日本のものだ。

 問題を聞いてから答える。

 トガナキノ国民は真面目だから、問題をちゃんと聞き終わってから答えるのが基本的な考えになっている。だから、問題の途中で答えるなんて発想自体がない。まあ、馬鹿正直と言うか、なんと言うのか、取敢えず、愛すべき国民たちだよな。

 アナウンス室から、騒めく声が漏れ聞こえる。

 しょうがない。

「問題文の長さは各問題によって相違している。したがって、問題文の読み上げ時間を空気注入時間に換算するのは平等性に欠ける。」

 俺が助け舟を出してやる。

 コルナが貴賓室を見上げる。

「しかしながら、平等性云々を論じるよりも、戦略的な展開を考慮したルールの制定が望ましい。」

 コルナが俺の言葉に頷く。

「問題の途中で答え、その解答が正解であった場合、その前問題に掛かった時間(・・)に八秒を加算することとせよ。つまり、第一問においてブローニュは解答するのに五.六秒の時間を要した。第二門において、どちらかが問題の読み上げ途中で解答し、正解だった場合は、その五.六秒に八秒を加算して相手の風船が膨らむこととする。」

 観客席からどよめきのような感嘆の声が上がる。

「さらに、第三問目も問題途中で正答した場合はさらに八秒の加算が認められ、計二十一.六秒となる。問題の読み上げ途中で答えれば答えるほど、相手の風船を膨らませる時間が多くなることとする。」

 感嘆の声が完全にどよめきの声となる。

「そうなってくるとインフラが起こるからな。問題の読み上げ途中で解答し、その答えが誤答だった場合のペナルティを加えよう。」

 観客席が静まり返る。

「誤答だった場合の加算時間は三十秒とする。」

 観客席から一気に歓声が上がる。

「了解した。」

 コルナが、口角を歪めて微笑する。

 ブローニュの喉が上下し、その蟀谷に汗を流す。

「さあ!!大変なこととなって参りました!国王陛下による新たなルール制定によって、更に戦略的意味合いの濃くなってきたトガナキノ一般常識問題!!コルナ陛下の第二試練!ブローニュ嬢はクリアすることができるのか!それでは!第二問です!!」

 観客席が一斉に静まり返る。

「問題!!神州トガナキノ国の政治体制は立法院!司法院!行政院!の三院体制で行われている訳ですが!立法院には三宮(さんぐう)と呼ばれる下部組織があります!その三宮全ての名称を答えよ!!」

 即座に解答権を示す電子音が鳴り響く。

 コルナだ。

「おっと!まったく時間を掛けずにコルナ陛下が解答だアア!それではコルナ陛下!解答をどうぞ!!」

 コルナが一つ頷いて、口を開く。

外法宮(げほうぐう)内法宮(ないほうぐう)政法宮(せいほうぐう)の三つだ。」

 正解の電子音が鳴り響く。

「正っかアアアアアアいッ!!」

 外法宮は、条約や調印、協定関係の法律を制定する機関で、内法宮は、そのまま国内法を制定する、俺がパスタ以外の麺は啜れ、と、制定させたのもこの機関だ。政法宮は特別な立場、俺達王族や国家運営に携わる人間達に適用される法律を制定する。だから、政法宮には、俺も愛想を振り撒かなきゃいけない。

『振り撒いてないだろ?』

 うん、振り撒いてない。

 振り撒いてないから、色々鬱陶しい法律が決まってる。

 三日以上安寧城の玉座を開けてはいけないとか、条約締結時には必ず出席しなければならないとか、なんか、もう、ホント細々としたことが書かれてる。

『守ってないけどな。』

 うん、守ってない。

 だから、結局、‘いけない’って書かれてた最後の文言がいつの間にか‘努めるようにすること’って書き換えられてた。

 だから、三日以上安寧城の玉座を開けてはいけないって文言が、三日以上安寧城の玉座を開けないように努めなければならないってなってた。うん、努めてるんだけど、頑張ってるんだけどねぇ、でも、無理なんです。魔狩りで忙しいから。

 立法院はその三宮を下部組織として従えており、司法院は(やしろ)と呼ばれる下部組織、行政院は殿(でん)と呼ばれる下部組織を従えている。

 トガナキノでは、それぞれを三宮(さんぐう)五社(いつやしろ)十二(じゅうに)殿(でん)と憶える。以前、ヘルザースが十二殿の下部組織、その八十二局の局長に俺を指名しやがったのは腹立たしい思い出だ。

「コルナ陛下!正解するも!しかしながら!ノータイムでの解答であったため!ブローニュ嬢の風船は膨らみません!!」

 コルナの口元が微笑を浮かべ、ブローニュが横目でコルナを見詰める。

「それでは!第三問!!」

 ブローニュが前屈みになる。

「問題っ!!トガナキノには‘キバナリの尾を踏んでも王の影踏まず’という諺がありますが!」

 ウグッ

 俺の胸にグサリときた。

「その意味はキバナリよりも国王は恐ろしく、国王は影を踏まれただけでも怒るかもしれないので、キバナリの尾を踏んだ方がマシだという意味です!では!‘貫き通す嘘は、辛い真実に勝る’と…」

 問題途中で解答権を報せる電子音が鳴る。

 スタジアムが湧き上がる。

「おおおおっと!ブローニュ嬢が問題の読み上げ途中でボタンを押したアアアアッ!!」

 ブローニュは真剣な眼差しで正面を見据えている。コルナの口元には変わらずに微笑が浮かんでいる。

 コルナの奴、ブローニュが問題途中で答えやすいようにさっきの問題はノータイムで答えやがったな。

「それでは!ブローニュ嬢!答えをどうぞ!!」

 ブローニュが、一瞬、瞼を閉じて、見開く。

「現実を改変する程の力を持たないのならば!嘘を吐いてはならないという意味!!」

 静寂のスタジアム、色を失ったかのように感じられる時間の中でコルナの口元が笑みの形に大きく歪む。

 正解を報せる電子音が鳴り響く。

「正っかアアアアアアいっ!!」

 観客が一斉に沸く。

 なんだよ、その諺、諺っていうの?それ。

 大体、現実を改変する力ってなんだよ、制限を持たない魔法使いが好き放題にすることを肯定してるじゃねぇか。それだけの力があるなら、嘘を吐いても良いよ、好きなようにしても良いよってことじゃない?なんだよそれ、やっぱり俺のことをディスってんじゃん!

『そういうことだな。お前が好き放題にするからできた諺だな。』

 ひでぇよ。

「それでは!問題途中での正解でしたので!コルナ陛下の足元の風船に八秒間!空気が注入されます!!」

 コルナの足元の風船が一気に小さめのバランスボール大に膨らむ。

 汗を流しながらブローニュが不敵な笑みを浮かべてコルナを見やる。それに対してコルナの口元には、いまだに微笑が浮かんでいる。

「それでは第四問!!」

 続けざまに問題が出される。

「新神記の第一章で!国王陛下が宿場町を消してしまいますが!その時の被害に遭った住民の…」

 再び問題の読み上げ途中で解答権を報せる電子音が鳴る。

「ブローニュ嬢!!お答えをどうぞ!!」

「八百四十五人!!」

「正っかアアアアアアいっ!!その通りです!問題はその時に被害に遭った住人の人数は?と、いうのが問題でした!!見事!正解です!!」

 コルナの足元の風船に更に空気が注入され、バランスボール大の大きさに膨らむ。

「さあ!大変なことになって参りました!前問の秒数が八秒であったため、今回、コルナ陛下の風船に空気が注入される時間は計十六秒です!!」

 コルナの風船がバランスボール大を超えて、さらに膨らむ。

 それにしても、ちょっと、問題文に俺への悪意を感じるんだが?俺の気のせいか?

『いや、間違いなく悪意を持ってるだろ。』

『トンナちゃん達が確信を持たせちゃったからねぇ。』

 まあ、こうなるのは覚悟の上…クッ

『覚悟してても耐えられんものは耐えられん。』

 う、うるせぇ!

「第五問!!新神記の第二章で…」

 覚悟はしてるけど、もう、勘弁してくんないかなぁ?

『無理だな。』

「国王陛下は、ある建物に壊滅的打撃を与えていますが!その建物の…」

 三度、ブローニュが問題読み上げの途中でボタンを押す。

「それではブローニュ嬢!答えをどうぞ!!」

 ブローニュが笑いながら答える。

「ガロノア群統括中央役所!!」

 不正解の電子音が鳴り響き、観客が声を上げる。その歓声にブローニュの驚きの声が掻き消される。

「残念!!問題は!その建物の所有貴族は誰でしょう?というのが問題でした!正解は!現司法院主席のスーラ・ローデル閣下でした!!」

 ブローニュの風船が見る見る膨らみ、コルナの風船の大きさを軽く上回り、ブローニュの胸元まで風船が膨らむ。

「くっ!」

 ブローニュがあからさまにコルナを睨む。コルナはその視線を微風のように受け流している。

「それでは第六問!!」

 ブローニュが瞼を閉じて大きく深呼吸する。再び目を開いた時、その顔からは焦りの色は消えていた。コルナはブローニュのその表情を見て、一つ頷く。

 終わらせるつもりだな。

「新神記の第六章で…」

 また、新神記からだよ、もう、勘弁してくれよぅ。

「カルザン帝国の…」

 問題途中で解答権を報せる電子音。

 観客が固唾を飲む。

 ブローニュが驚きの表情でコルナの方を見る。

 コルナは伏せた目をゆっくりと真正面へと向ける。

「おおおおおっと!!ここでコルナ陛下がボタンを押したアアアアア!!もし!これが正解なら!前問で三十秒のペナルティに八秒が加算されて全部で三十八秒間!空気が注入されることになります!そうなればブローニュ嬢の風船は確実に割れます!!割れることは間違いありません!!」

 うん、ブローニュに止めを刺すつもりだろうが、それにしても答えられるのか?ひっかけの可能性もあるぞ。

「それでは!コルナ陛下!お答えをどうぞっ!!」

 うん、間違いなくひっかけがある。アラネの声が少しばかり高い。喜んでいる証拠だ。

 コルナの口が開く。

「カルザン帝国に乗り込んだのは国王陛下とトンナ、そして、キバナリのロデムスの二人と一頭、その目的は、カルザン帝国から金を借りるためだ。その借入金の目的は病院と製薬会社の設立と孤児院の建設、当時借りた金額は六十八億ダラネ、交渉の相手は当時、カルザン帝国の摂政だったルドフィッシュ・フォー・ハウザー、同席していた皇帝の名はフロイストロ・ビロ・セスデク・クヴァル・カルザン、しかしながら、その交渉事のテーブルに二人を座らせるにあたって、国王陛下はトンナに命じて、カルザン帝国の帝城を破壊している。破壊した部分はカルザン帝国帝城の第四塔、その折に戦った銃兵の数は百四十人、衛士の数は三百四十五人、その内の負傷者は、全て、衛士で二百四十二人だ。石柱にされた者は百三十五人、気絶させられたドラゴノイドの名前はカルデナ・ライデで、このドラゴノイドはカルザン皇帝の護衛役だ。ちなみにカルデナ・ライデの獲物は短槍とククリナイフだ。」

 はい、前々作の解説でした。ってか、スゲエよコルナ。ひっかけの余地を残さなかったよ。

 立て板に水の如く、よくもスラスラとそんだけ俺の言って欲しくない黒歴史を言ってくれたよ。

 なに?結局、この試練も俺への試練だった訳?

「くっ!せ、せっ正っかアアアアアアいっ!!」

 アラネ、「くっ」って言っちゃってるよ?

 一斉に観客が湧き上がる。

「問題はカルザン帝国に乗り込んだ国王陛下が負傷させた衛士の人数は二百四十二人ですが、では、銃兵は、全部で、一体、何人いたのでしょうか?と、いうものでしたっ!!」

 答えを単語で答えなさいと限定しなかったアラネのミスだな。

「それでは!ブローニュ嬢の風船が膨らみます!!」

 アラネの言葉と同時にブローニュを抑え込んでいる風船がさらに膨らむ。

「ちょっ!ちょっと待ってぇやあ!おかしいやん!なんで三十八秒も空気が入れられんの!おかしいやん!」

 膨らむ風船に真っ青になりながらブローニュが抗議の声を上げる。

「ルール説明の時に陛下が仰いました!その前問題に掛かった時間(・・)に八秒を加算することとせよ。っと!」

 ブローニュが悲壮に眉を撓らせる。

「つまり、この場合ですと!前問に掛かった時間は問題読み上げ途中の誤答であったために、ペナルティ分の三十秒となります!」

 もうすでにブローニュの姿は見えない。アクリルボックスの中はピンクの風船でパンパンだ。

「い、息が!息ができへん!!」

 大丈夫、言葉が出てるということは呼吸できてる証拠だ。

「ギャッ!!」

 巨大な破裂音が鳴り響き、アクリルボックスを揺らして風船が弾ける。中には真白な小麦粉が入っており、直立不動となったブローニュが真っ白になっていた。

 うん、粉体爆発が起きなくて良かった。静電気とか怖いからね。

 ブローニュがアクリルボックスの中で咳き込んでいる。

 おい、鼻の穴を穿るのはやめなさい。后候補なんだから。

「いけませんな、お后候補が人前で鼻の穴を穿るなど。」

 ほら、ローデルの目に留まってるよ?

「いや、まったく、お恥ずかしい。」

 ヘルザースが謝ってるよ。それは、ざまあ見ろだ。

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