モジモジ婆さん、暇をもてあます(挿絵あり)
朝を迎えて、皆と食事を取る。
その後は昨日の約束通り、巻き寿司用の食材と龍肉を用意してやる。
二人はいつも通りに笑ってその食材を受け取った。
ハンガーに用意した二人の専用竜騎士の試乗を兼ねて、その竜騎士で帝城に行って来いと許可する。
「ちょっと小っさいんし。」
「他の竜騎士と違うのです。」
初めて見た時の感想がこれだ。
もっと喜んでくれると思ったのに、なんだよ、もう。
「でも、お前達専用の竜騎士だぞ。それにな、この竜騎士には他の竜騎士にはない特別の機能があるんだ。」
二人が俺の顔をつまらなさそうに見る。
「とにかく、一回、乗り込んでみろよ。」
二人が仕方なくといった体で竜騎士に乗り込む。
俺もオロチに乗り込み、起動させる。
オロチの通信機を使って二人に指示を飛ばすためだ。
「いいか?取敢えず、外でやっても良いけど、ハンガー内でもできるからここでやるぞ。」
『わかったし。』
『了解なのです。』
二人が竜騎士を起動させる。
「まずは、軽く浮かせろ。」
二人の竜騎士がハンガーの床から浮き上がる。
「よし、じゃあ、マウスピースを離して、コントロールパネルのトランスフォームと書かれたスイッチを押してみろ。」
『これしか?』
『これなのです。』
二人がそのスイッチを押した途端、二人の竜騎士が変形する。
『な、なんしかっ?!』
『わわっ?!』
一秒とかからず竜騎士がその形態を戦闘機へと変形させる。
「着床させて、竜騎士の外観を見てみろ。」
二人が戦闘機を着床させて、コクピットのキャノピーを開けた途端に声を上げ、タラップを落ちるようにして降りる。
サクヤが戦闘機の周りを走りながら声を上げる。
「な、なんしか?なんしか?竜騎士に乗った筈なのに!八咫烏になってるんし!!」
トドネは呆気に取られながら戦闘機を見上げている。
俺はコクピットハッチを上げて、二人に声を掛ける。
「どうだ?お前らのための特別製だぞ?気に入ったか?」
二人が同時に俺の方に顔を向ける。大きく笑う。
「うんっ!!」
元気な声と大きな笑顔。
俺も満足だ。
テルナドを加えた三人の竜騎士は、変形するように建造した。
逃げ足を速くするためでもあるし、航続距離を稼ぐためでもある。と、カナデラが言っていたのだが、建造し終わってからイズモリが、『空気抵抗の関係ない質量方向変換システムだぞ。エネルギー源は幽子だから航続距離も関係ない。お前はカナデラが造りたい物を造らされただけだ。』と言われてガックリしたのは内緒だ。
『今回の件は結構根に持つねぇ。』
俺だってスッゲエ喜びながら造ったんだぞ?それをイズモリの言葉で台無しにされたんだ、根にだって持つ。大体、お前ら、俺に対して嘘吐けねぇんじゃなかったのかよ!
『言ったよ?』
なんて?
『見た目てきにそんな風に感じるでしょ?って言ったよ?』
マジか?
『うん、イズモリの台詞に合わせて、小っさい声で。』
俺、返事してた?
『ううん。無視されたから悲しかった。』
ホントは?
『認識されてないや、ラッキーって思った。』
これだよ。
まあ、とにかく、小さいながらも、三人の竜騎士は防御面に特化させた。
装甲自体は最小のマイクロマシンF型マイクロマシンで編んだロープを目の細かい網にし、その網をアルミナガラスでサンドイッチにした物だ。
アルミナガラスは屈折率を変えたアルミナガラスを多層構造で張り合わせてある。したがって、三人の竜騎士は多くの部分で、玉虫色に見える構造色を放っている。
レールガンなどの外的衝撃に対してはF型マイクロマシンの網が対応し、レーザーなどの光学兵器に対しては、アルミナガラスが透過屈曲させる仕組みだ。
荷電粒子砲については、分厚い粒子膜を発生させる機能を持たせたので、現行の荷電粒子砲なら防ぐことができる。
二人が面白がって、戦闘機から竜騎士へと変形させる。
そのシルエットは、女性らしさを保つように意識したものだ。二枚の可変翼が背後に回り込んでいるため、天使をイメージさせる。
サクヤがコクピットから顔を出す。
「ヘイカ・デシター!この竜騎士の名前はなんしか?!」
俺は笑いながら答える。
「サクヤの機鎧はヴァルキューレ・ツワァイゥンツだ。」
サクヤが眉を顰める。
「言いにくいし。」
「サクヤが ‘ヴァル’でも‘ツワァイ“でも好きなように設定すればいいよ。」
サクヤが再び笑う。
「ヴァルにするんし!」
大きな声に俺は笑いながら頷く。
「デシター君!こっちの名前はなんというのですか?!」
「そっちはヴァルキューレ・ディットルトゥだ。」
トドネが上目遣いに考える。
「じゃあ、私はディットルにするのです!」
俺は笑って頷く。
ヴァルキューレは、バルキリー、北欧神話に出て来る戦乙女のことだ。
テルナドの機鎧はヴァルキューレ・デェエァスタ、一番目の戦乙女と言う意味だ。サクヤが二番目の戦乙女で、トドネが三番目の戦乙女だ。ジェルメノム帝国で生まれた機鎧だから、ジェルメノム語で統一した。
二人は喜んでいるが、与えたからには教育する必要がある。人を殺すことのできる兵器であるいうことを。
『トドネはともかく、サクヤに関しては厳しくする必要があるな。』
『どうしてさ?』
サクヤは魔獣に対して躊躇がない。
『強いことは良いことだぞ!』
殺すことに躊躇いがないってのは問題だよ。
『確かにねぇ。ブローニュちゃんも殺しそうな勢いだったし。』
『可愛ければいいよ。血に塗れた天使ってのもゾクッとくるしね。』
権力を持った人間に躊躇いがない、てのは良いことでもあるし、悪いことでもあるよ。
『いざという時の決断に躊躇いがあっては困るからな。』
ああ、だから、ロデムスに頑張ってもらおう。
『ロデムスにかい?』
ああ、帝城で一悶着起こさせるって言ったろ?
『おう!ロデムス対サクヤ&トドネか!』
ロデムス相手でも躊躇がなければサクヤは問題だ。
『まあ、そんなに心配することはないと思うけど、サクヤちゃんは可愛いから。』
『そうそう、トンナちゃんの教育が行き届いてるからねぇ。』
それなら良いんだがな。
二人は何度も竜騎士を変形させて、その度に竜騎士から降りて、キャーキャー言って喜んでいる。
喜び勇んで竜騎士に乗り込む二人、その二人を呼び止める。
「なんしか?」
サクヤが俺に聞き返す。
「今日、皇帝と話す内容なんだが、一つ、話題にして欲しいことがあるんだ。」
サクヤとトドネが竜騎士のコクピットから顔をのぞかせたまま首を傾げる。
「魔獣のことだ。」
「魔獣?キバナリのことしか?」
俺はサクヤの言葉に頷く。
「魔獣全般の話だ。ハルディレン王国での魔獣災害以来、魔獣はこの世界に生息しているが、魔獣災害以前は、突然、街中に現れて、人を喰ったら、突然、消える、そのことは知ってるだろう?」
「知っているのです。学校の授業で習ったのです。」
トドネの答えに俺は頷く。
「そういう、魔獣の話を皇帝としてくれ、魔獣災害以前の話題がイイ。」
サクヤとトドネが首を傾げる。
「ジェルメノム帝国の帝城には沢山の奴隷が囚われてる。その奴隷達を救助するために今の話題が必要なんだ。」
サクヤとトドネが納得顔で頷く。
「わかったし。」
「わかったのです!」
二人をスパイに使うみたいで気づまりだが、仕方がない。
旋回しながらウロボロスから離脱する二人を見送って、俺は個室に戻り、建国記念セレモニー二日目に沸く、トガナキノの分体に意識を飛ばした。
トガナキノに戻って、まずやったのは、無縫庵に新たな部屋を造ったことだ。
元々あった地下の更に地下、厳重にセキュリティを掛けた瞬間移動でしか出入りできない部屋だ。
その部屋に人体保存用のカプセル一基を再構築する。そのカプセルの中に俺の分体を再構築し、カプセルを稼働させ、俺の分体を保存させる。これで、本当の瞬間移動、いや、瞬間転移か、まあ、そう言うことができる。
俺の移動手段はあくまでも粒子化光速移動だ。
体を粒子化させて、マイクロマシンの感知している遠方にて体を再構築させている。亜光速による移動のため、人の目からすれば瞬間移動しているように感じられるだけだ。
漫画や小説に描かれている瞬間移動も同じようなものかもしれないが、俺のイメージしている瞬間移動とは異なる物だ。
どちらかと言えば、分体を各所に置いておき、精神体をその分体に移動させる方が、俺のイメージしている瞬間移動に近い。
マイクロマシンによる目的地検索、感知の必要もない。意識を切り替えれば、その場所に設置してある分体へと意識を移せる。
コノエのマイクロマシンを使える今となっては、自分の体を粒子化光速移動で移動させるよりも、移動先に分体を作製して、精神体を移動させ、本体を分解する方がリスクは少ない。ただ、クルタスのようにEMP兵器で攻撃されるとマイクロマシンが使えなくなるため、分体の作製はいずれにしろできない。
したがって、拠点となる座標には事前に分体を作製しておく必要が出て来る。そうなってくると更に低リスクとなるが、この瞬間転移がノーリスクかと言うとそんなことはない。
分体を事前に作っておくというのは、その作った時点で肉体が経験するべき時間軸が止まるということだ。
昨日作った分体を寝かせておくと、一日、眠った状態となる。そして、本体は分体の経験していない経験を積む。
本体から分体に移った時、心である精神体は一日分の経験を積んでいるのに、分体は眠っていた状態となるのだ。
その状態が何日分も積み重なると、記憶の齟齬どころではない。経験した筈のことを肉体が否定するのだ。人格崩壊の危険性すらある。
それでも、人格崩壊の危険性を孕んでいても、俺は分体を作っておくことを決めた。
クルタス事件で分体の有用性は嫌と言うほど思い知らされた。あの時もトガナキノに事前に分体を作っておけば、五十二人の国民を失うことはなかった筈なのだ。
クルタス事件でそのことを思い知った俺は、各国体母艦に分体を置いている。
新神浄土と同じ、霊子金属で囲まれた瞑想室を造って、その瞑想室に分体を眠らせているのだ。
そうすることで、何かが起こった時、俺は、その国体母艦に瞬時に移動することができる。
クルタス事件の時は、トンナのことと月のことを優先するあまり、対処が足りなかった。
『いや、トガナキノに分体を作っても結果は変わらんだろう。トガナキノを分体で守れば、そのことをクルタス本体に知られて、トンナが死んだ可能性の方が高い。』
『そうだねぇ、どっちにしろ後悔する結果になったと思うんだよねぇ。』
『今更くよくよするな!』
『そうそう、仕方ないものは仕方がないよ。』
『可愛い子が死ななくて良かったじゃない。』
クズナハラ…お前は、ホントに平常運転だな。
『クズナハラって言うなよ。』
『いや、今のはクズだろ。』
『ホントホント。』
一仕事終えて、無縫庵のリビングに戻り、俺はロデムスを呼び出す。
のっそりと黒い巨体をリビングに現す。
「主人が呼ぶとは、久方ぶりのことじゃのう。」
そう言いながらロデムスが周りを見回す。
「トンナ殿たちは如何したのかのう。」
「トンナ達は先に聖天浄土に行ってるよ。」
ロデムスが頷く。
「うむ、新しい嫁御の資格試練だったかのう。オルラ殿が申しておったわ。」
「そう言や、オルラ義母さんは?」
ロデムスが首を傾げて溜息を吐く。
「なんだ?具合でも悪いのか?」
心配になって早口で聞くが、ロデムスは軽く頭を振る。
「その、なんじゃ、最近、主人がかまってくれぬと少しばかり拗ねていらっしゃるようでのう。」
「は?」
ロデムスが困ったように眉を顰める。器用な奴だな。
「魔獣狩りユニオンを起ち上げたにもかかわらず、己には一向に声が掛からないと、少し、零されておった。」
ええ?隠居したって言ってたじゃん。ええ。
「いや、オルラは隠居するって言ってただろ?なんで、今更そんなこと言い出したんだよ?」
ロデムスがしたり顔で頷く。
『ほう、したり顔だとよくわかったな。俺には判別できなかった。』
『まあ、基本、猫だからねぇ、わかりにくいよねぇ。』
なんとなくだよ。なんとなく。
「いや、子供たちの手が掛からなくなったのでな、アヌヤ殿とヒャクヤ殿がお子達を仕事場に連れて行くようになったのじゃ。」
え?暇になったから?
「ちょ、ちょっと待て、暇になったからか?もしかして、オルラ義母さん、暇になったから声を掛けろって言い出したのか?」
ロデムスが首を捻る。
「うむ、恐らくは。」
なんじゃそれ?茶飲み友達を作らねえで、家に籠って、孫たちの相手して、暇になったから相手しろってのか?ゲートボールはどうした?
『この世界にはないな。』
わかってるよ。
気配を感じて、リビングの出入口へと視線を向ける。
オルラがドアの影で俺達の話を聞いている。
俺にバレてるのは織り込み済みだろう。その上で、自分の影が廊下に映るように立っているのだ。
なんだよそれ。モジモジ婆さんかよ。
『モジモジ婆さんだな。』
トルタスとコーデリアはアヌヤとヒャクヤが連れて行っているが、トクサヤはトンナが連れて行っている。トクサヤはオッパイを飲んでいる時期だからだ。基本、ウチの女どもは自分の子供を身近に置いておくタイプだ。その考え方は、この世界における共通認識でもある。女達は子供を産むと背負いながら仕事をこなす。特に獣人は、今まで、出産率が低かったために子供を傍から離したがらない傾向にある。ただ、子供が一人で立って歩きだすと、途端に態度が変わる。極端に放任主義へと変貌するのだ。そういう点では、アヌヤとヒャクヤは過保護に分類されるだろうが、実情は違う。
二人は子供をただ単に仕事場に連れて行っているだけだ。
仕事場で子供の面倒を見ている訳ではない。ここ重要。
二人が仕事場に子供を連れて行くのは、自分達の仕事を見せるためだけであって、子供の面倒を見るためではない。
アヌヤは「トルタスはステゴロ最強の男にするんよ。」と、言っていたし。ヒャクヤは「コーデリアは最強の可愛い女の子にするの。」と、言っていた。つまり、自分達の仕事を早い内から見せて、教育しておこうというのが狙いらしい。で、子供の世話をするのは国営放送局のスタッフなのだから、なんか、おかしいように思うのは俺だけじゃない筈だ。
トンナは「トロヤリは王様になるんだからね、トガリみたいになってくれなくっちゃ。」と言っていたので、俺が「サクヤは?」と聞いたら、「女の子だから綺麗に育てば、後は適当で良いよ。」と、言っていた。
不憫。サクヤが可哀想だ。
俺がそう思って、サクヤの我儘を許すと、トンナが「お前はトロヤリを護れるように強くなるんだよ!」と、言って、鍛えるようになったのはサクヤが二歳ぐらいの時だった。
まあ、そんなこんなで、トンナ達は結構、教育熱心だったりする。子供の世話は適当だけど。…良いのかな?
「義母さん、そこにいるんだろ?」
なんでもないような顔をして、シレッとオルラが顔を出す。
「帰ってたんだね。」
わざとらしい。
婀娜な着物に櫛巻きの髪、妖艶な雰囲気を漂わせながら、オルラが俺の対面に座る。
「子供達がいないと静かだなねぇ。」
遠回しに言ってきたな。
「サクヤはどうだい?悪さはしてないかい?」
オルラの表情はサクヤがウロボロスに密航したのを知っているようだ。まあ、トンナも気付いてるだろ、一日、サクヤの姿を見てないんだから、そりゃバレるわな。
「知ってたのかい?」
オルラが口元を綻ばせる。
「あたしだけにコッソリ言いに来たのさ。婆様、アチシも魔狩りなんし。って言ってね。」
俺は眉を顰める。
「もう、トドネと好き放題だよ。でも、結構、それが役に立ってたりするんだけどね。」
オルラが大きく笑う。
「そうかい、なら、良かったよ。あたしはちょっと心配してたんだ。お前はあの子には甘いからね。あたしが居れば、あの子もトドネも多少は言うことを聞くと思うんだけど…」
オルラが上目遣いで俺の方をチラリと見る。
「…暇なら魔狩りに戻るかい?」
オルラが項を指先で撫でて、後れ毛を整える。
「でも、隠居した身だしねぇ…」
「じゃあ…」
「お前がどうしてもって言うなら戻らないこともないんだけどねぇ。」
俺の台詞を遮ってまで言ってきたよ、この人。
「別に…」
「まあ、あたしも時間を持て余して、やることもないからねぇ。お前のためにもう一肌、二肌脱ぐのも吝かじゃないんだよ?」
最近、俺に喋らせてくれない奴が増えてきたなぁ。
「うん、じゃあ、義母さんも魔狩りユニオンに登録してくれる?」
オルラがニッコリ笑う。
「そうかい?まあ、お前に頼まれちゃ仕方がないね。」
うん、語尾を伸ばさなくなった。やっぱりやりたかったのね。
「じゃあ、ちょっと待ってておくれ、流石にこの格好じゃあ魔狩りはできないからね。」
「ああ、ゆっくり着替えてくれたらいいよ。俺はロデムスに話があるから。」
オルラが「わかったよ。」と、言ってから、リビングを出て行く。まあ、サクヤとトドネは、オルラが居れば、大人しくなるだろう。
ロデムスと顔を見合わせ、咳払いを一つ。
「で、お前に頼みってのは、お前の分裂体を、一体、欲しいんだ。」
「む?」
顔を顰めるなよ。ホントに使役魔獣らしくねえな。
「何に使うつもりなのじゃ?」
ほら、説明を求めるしさぁ。
「ちょっと、他国で暴れて貰いたいんだよ。で、死んだ振りをしてもらって、ちゃんと元に戻すからさ。」
ロデムスが片目だけを眇めさせる。ホント、器用に表情を作りやがるな。
「そんな嫌そうな顔するなよ。なるべく痛くないように切り離すからよ。」
ロデムスが少しばかり瞼を閉じて、すぐに目を開ける。
「痛みは問題ではないのじゃ。ただのう、あまり分裂体を作り過ぎると、細胞寿命が縮むでのう、それが困るのじゃ。」
え?初耳だぞ?そんなこと。
「どういうことだよ?寿命自体が縮むってことか?」
黒い豹頭を何度も頷かせる。
「ええ?じゃ、じゃあ、一回に付き何年ぐらい縮むんだよ?」
ちょっと待てよ、俺、結構、分体、作ってるぞ?ヤバいんじゃねぇか?
『俺達の分体はロデムスの分裂体とは根本から違う。俺達の分裂体に該当するのはチビトガリだ。』
そ、そうか、なら安心だ。
ロデムスがその顔を顰めさせる。
「主人には自分の寿命が何年かわかるのかのう?」
む、わからん。
「わかるわけはなかろう?我もイデアにそう説明された故、そう申しておるだけじゃ。実際に縮むのかどうかは、死んでもわからぬ。」
そりゃそうだ。でも、イデアにそう言われたからにはそうなんだろうな。これからは、ヒャクヤには、あんまり分裂体を作らないように言っておかなくっちゃな。
「う~ん、でも、そうなると困ったな。計画を最初っから見直さなくっちゃな。」
「他のキバナリでよければ我が紹介するが、如何いたす?」
マジかよ?コイツ、他人を売るのかよ。
「いやぁ、寿命が縮むって言われたら、他のキバナリに頼むってのもなぁ。」
「ふむ、一度や二度ぐらいならば問題はない。せいぜい、数年と言ったところであろう。」
俺は腕を組んで考える。
でも、やっぱなぁ…ロデムスならともかく、他のキバナリに頼むってのはなぁ。
「心配するのも無理はないが、代替えとなる案は持っておるのかの?」
俺は首を捻る。
「いや、今ん所は、パッとは思い浮かばねえな。」
「ふむ、ならば、致し方あるまい。今日の夜までにそのキバナリを呼んでおく、それ迄はどこぞでゆっくりしておればよかろう。」
そう言って、ロデムスがのっそりと立ち上がる。
ロデムスの後姿を見送って、俺は床にゴロリと寝ころんだ。
『仕方がないだろう、ロデムスもああ言っていたんだ、諦めて、キバナリの力を借りろ。』
まあな、キバナリ以外に俺達の言うことを聞いてくれる魔獣はいないしなぁ。なんか、代替え案とかねぇの?
『思いつかんな。』
即答かよ。
「待たせたね。」
ロデムスに入れ替わってオルラが魔狩り時代の衣装に身を包んで登場だ。
俺はヘイカ・デシター一味のシンボルである仮面を構築し、オルラに渡す。
「これを付けるのかい?」
「ああ、一応、身元を隠すためにね。ウロボロスの乗員は全員付けてるんだよ。」
「そうかい。」
そう言ってオルラが仮面を装着する。オルラの仮面は鬼面だ。オルラ専用の竜騎士、バハムートと同じような意匠だが、角は上に向かって緩いカーブを描いて伸びている。
「ところで、あたしはどうやってウロボロスに乗艦すればいいんだい?」
「そっか、どうしようか?」
俺はトガナキノとウロボロスの往来を、分体を作ることで解決している。もし、万が一でも、ジェルメノム帝国に魔法を感知されると拙いからだ。
う~ん。オルラを直接、瞬間移動させるのは拙いよなぁ。魔法を感知されるかもしれねぇし。
「バハムートで直接乗り込むかい?」
「いや、それは流石に…」
『どうした?』
うん、有りかもしれねえな。
『なに?また、いい加減な行き当たりばったりか?』
いや、そうでもないぞ。
『ほう、説明してみろ。』
魔狩りだった王族が身内を攫われたんだ、普通の王族なら黙って家臣に任せるかもしれねえが、元魔狩りだぞ?
『勇猛果敢な魔狩りが独自に身内を取り戻すためにウロボロスを強襲するのか?』
うん、それでいいじゃねぇか。うん。いけるだろ?
『どうだろうな、俺は、そう、すんなりと行くとは思わんが…』
いや、ダイジョブ、ダイジョブいけるって。
「うん。義母さん、義母さんには一芝居打って貰おう。」
オルラが眉を顰める。
「演技するのかい?あたしが?」
俺は笑いながら首を振る。
「そんな、大した演技じゃないよ。バハムートでウロボロスに向かって、ウロボロスからテルナドを奪い返す振りをしてもらうのさ。で、残念ながら義母さんは捕まって、カルザンか誰かの洗脳魔法で俺達の仲間になるって寸法さ。」
オルラが眉をちぐはぐに歪めて、中空を見詰める。
「うん、それならなんとかなりそうだ。」
「うん、それじゃあ決まった。俺はこれから聖天浄土に建国記念セレモニーに向かうから、義母さんは魔獣狩りユニオンで魔狩りの登録をしといてよ。その後は、バハムートでウロボロスを強襲してくれればいいから。」
「で、あたしはどの程度暴れればいいんだい?」
うん、やる気満々だな。
「そうだな。うん、サクヤとトドネにも専用の竜騎士を造ってやったから、その二人に迎撃させるよ、だから、適当に絞ってやってくれる?」
オルラが笑う。
「わかったよ。お前の言うことを聞いてないだろうからね。あたしがしっかり灸をすえてやるよ。」
サクヤとトドネはコテンパンだな。
オルラを見送り、俺は、再び、個室に戻って、ウロボロスの分体に意識を割り振って、カルザンをブリーフィングルームに呼び出す。おまけのカルデナが付いて来て、それを見咎めたドルアジとテルナドも付いて来る。
「皆に集まってもらったのは、今度、オルラ、俺の義理の伯母が、このウロボロスに乗船することになったからだ。」
全員がキョトンとする。
「え?オルラ婆様が?」
テルナドの言葉に他の三人が顔を見合わせる。
「お、王太后様がお乗りになられるんですか?!」
カルザンが叫ぶ。
「なっ」
「はあ?」
追随するようにカルデナとドルアジまで大声を上げる。
「で、ウロボロスに乗艦してもらうにあたって、魔法を感知される恐れがあるから、義母さんにはテルナドを奪い返そうとする芝居を打って貰う。」
全員が目を見開き、俺の顔を凝視する。
「い、いや、そういうのって家臣の仕事ですよね?おかしくないですか、王太后自らがご出陣なさるなんて?」
うん。俺もそう思う。
「うん、なんでも暇なんだそうだ。」
今度は全員が口を開いてポカンだ。
「とにかく、そういうことで、俺の義母さんが、このウロボロスを襲撃する。俺はトガナキノで建国セレモニーがあるから留守にする。迎撃にはサクヤとトドネを当たらせろ。なんなら、テルナド。」
俺はテルナドの方へと顔を向ける。
「はい!!」
テルナドが緊張の面持ちで返事する。
「お前も義母さんの迎撃に当たれ。お前達専用の竜騎士を造ったんだ。そのテストも兼ねてるから全力で迎え撃て。」
テルナドの顔が青褪める。
「わ、私も行かなきゃダメ?」
先の返事とは違って弱々しい声だ。
「うん。お前達の機鎧は三位一体だからな。お前も出なさい。」
「…はい…」
俯きながら返事してるよ。そんなに怖いのかね?
「まあ、最後は義母さんが捕まって、カルザンの魔法で洗脳されたってことになるから心配するな。ドーンッと胸を借りるつもりで頑張れ。」
「…うん…」
項垂れたように頷くなぁ。スゲエ、ガッカリ感が半端ない。
「え?私が魔法使いになるんですか?」
カルザンの言葉に俺が頷く。
「俺は魔法が使えないことになってるだろ?カルデナは無理だし。トガナキノ国民なんだから、ドルアジでもいいんだけど、ドルアジは如何にも魔法使いっぽくないからな。このメンバーで、一番、魔法使いっぽいのはお前だから、お前が適任だ。」
「は、はあ…」
カルザンもシュンとする。
「じゃあ、そういうことで、俺はまたトガナキノに戻るから。義母さんが来たら適当に迎撃しといてくれ。」
「て、適当にって…」
俺はテルナドの言葉を最後まで聞かずにブリーフィングルームを後にした。
まあ、オルラが来てくれればちょっとは引き締まるだろ。
『お前は叱り方が下手だからな。』
うっ
『ホント、ホント、自分の娘と姪っ子にはてんで弱いんだから。』
『まあ、俺達も小さい女の子には弱いけどねぇ。』
『あれは一つの武器だな!』
『可愛いが最強だよ。』
クシナハラの言葉に俺は顔を顰めるしかなかった。




