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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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相手を取込んだら自分も取込まれてるってことに気付かなきゃね

 分体を作製したのは、自分の個室だ。起き上がってから、イズモリが『あっ』と声を上げる。

 どうした?

『フランシスカ王国の総領事館。』

 その単語で俺も「ああっ」と声を上げる。

 そうだ。俺が此処に分体を作ってしまっては、発艦したことを知っている操艦員にバレてしまう。

「拙ったなぁ。魔法は使えないし、どうする?」

 俺は思わず声に出してイズモリに話し掛けていた。

『いや、いっそのこと、フランシスカ王国の総領事館にも分体を作ってしまえ。』

 え?

『フランシスカ王国の総領事館なら魔法を感知されることはないだろう。粒子化光速移動が使えないからな、各地に分体がある方が移動時間を気にしなくて良いから楽だ。』

 あ、成程、瞬間移動より安心だしな。そうか。

 魔獣狩りユニオン各支部に俺の分体を保存しておける保存カプセルを置いておけば、各地で何かあった時も即座に動けるな。

 俺は自分のベッドに横になり、フランシスカ王国の総領事館の傍に分体を作製、ウロボロスに作製していた分体を分解保存する。

 何気ない顔で総領事館の衛士の前を素通りし、鉄柵の塀を跳び越える。

 すぐに、衛士から連絡を受けた総領事が建物から飛び出して来る。

 俺は片手を上げて「よっ」と挨拶して、前庭から八咫烏を出してくれるように頼む。

「どうだ?フランシスカ王国から何か言ってこなかったか?」

 総領事が頷く。

「取敢えずは動いていないようです。結界魔法にて八咫烏の存在は知られているでしょうが、トガナキノでの調印協定式の影響でしょうか、あまり、ウチに関わりたくないと思っているのでしょう。」

「そうか、なら、ほっといても良いな。」

「はい。」

 トガナキノで行われたフランシスカ王国とジェルメノム帝国との調印協定式の様子は映像として総領事にも報告されている。

 このへんのホウレンソウができていないと後で揉める要因となるからだ。

 俺はコノエに頼んで、再び八咫烏をステルス化させて、ウロボロスへと向かった。

 一旦、ウロボロスに近付き、そのまま、ジェルメノム帝国へと向かうと連絡し、ジェルメノム帝国にその旨を報せるように頼む。

『ジェルメノム帝国から了解の連絡が来ました。』

 カルザンだ。

「じゃあ、このままサクヤとトドネを迎えに行って来るよ。」

『了解しました。お気を付けて。』

「サンキュー。」

 カルザンとの通信を終え、ウロボロスの艦橋部分で旋回、ジェルメノム帝国へと向かう。

 ジェルメノム帝国の帝城屋上では、すでに竜騎士の隣にサクヤとトドネが待ち構えており、その隣に皇帝とコッペが並んでいた。

 俺は八咫烏から下りて、片手を上げて、皇帝とコッペに「悪かったな、二人が急に押し掛けて。」と、声を掛ける。

「いや、朕の方こそ有意義で楽しい時間を過ごすことができた。明日も来るように申し付けたのでな、明日も二人が此処に来れるようにしておけ。」

 随分と気に入られたもんだな。俺はコッペの方へと視線を向ける。コッペがそれを受けて頭を軽く下げる。

「お二人のお好みをお教えいただければ、昼食と夕食のご用意もさせていただきます。」

 オイオイ、コッペの台詞とは思えねえことを言いやがったぞ。

『二人がいるお蔭で皇帝の癇癪が治まってたんだろう。』

 成程、そりゃ、歓待もしたくなるわ。

「アチシはエビとかが好きなんし、肉よりも魚なんし。」

 サクヤは寿司が大好物だ。

「そう言えば、言っておったな、スシなる物が好きだと。そのスシというモノはこの国では作っておらぬのだ。」

「簡単なんし。じゃあ、明日はアチシが作ってやるんし。」

「ほう。姉弟子が作ってくれるのか?それは楽しみだ。」

「じゃあ、材料が要るのです。ウロボロスで材料を用意してから、こっちに来るのです。」

「いえ、材料の調達は、事前にお知らせ頂ければ、私の方でご用意いたします。」

 トドネの言葉を受けて、コッペが割り込む。

「でも、お酢とか海苔は用意できないと思うのです。」

 トドネが笑いながら、コッペに無理だという理由を告げる。

「オス?ノリ?初めて聞く食材でございますね。」

「そうなのです。トガナキノでも、最近、食べられるようになった料理なのです。だから、材料もこっちで用意するのです。」

「わかりました。それでは、ご昼食はサクヤ様とトドネ様にお任せするとして、ご夕食は帝城のシェフにお任せいただけますでしょうか?」

「はい!じゃあ、夕ご飯はお肉が良いのです!」

「肉なら龍肉が食いたいし。」

「ええっ!それは無理なのです!龍肉は滅多に手に入らない貴重品なのです!」

「トガナキノでは龍肉を食うのか?」

 皇帝が驚きの表情を見せる。

「そうなんし。トガナキノでは龍は狩りに行っちゃいけないんし。」

 皇帝がサクヤの言葉に納得しながら頷く。

「そりゃそうだろう。龍を狩るとなったら兵士が何人いても足りん。」

 そう、普通はそうなんだよな。

「違うし。龍が簡単に狩れるから、狩りに行っちゃダメなんし。」

「な、なに?!」

「な、なんと!!」

 話が長くなりそうだ。

「さあ、話の続きは明日の楽しみにとっておけ、龍肉だったら俺が持ってるから、明日の夕食用に二人に持って来させるよ。」

「ええ!!デシター君は持ってるんですか?!」

「本当なんしか!ヘイカ・デシター!」

 驚く皇帝とコッペを置き去りに二人が興奮する。

「本当、本当、だから、今日はこれで帰るぞ。」

 二人の目が輝き、皇帝が寂し気に二人を見詰める。

「そうだな、陛下、明日は二人を泊めさせるよ。」

「え?」

 皇帝が俺の方へと視線を転ずる。

「もうすぐトガナキノと戦争だ、それまでに二人と楽しい時間を過ごすと良い。」

 皇帝がジッと俺を見詰める。

 言葉を欲している。そんな皇帝に俺は引導を渡す。

「戦争になれば二人は死ぬかもしれない。」

 そうはならないけどな。絶対に。

「そうなった時、二人とは永遠に会えなくなる。だから、明日は二人を泊まらせるよ。」

「そうか。戦争だからな…」

 皇帝が、あんなにトガナキノと戦いたがっていた皇帝の瞳に寂し気な色が浮かぶ。

「さあ、二人とも八咫烏に乗り込め、竜騎士は俺が持って帰る。」

 サクヤが八咫烏から伸びるタラップに手を掛ける。

 サクヤが振り返り、トドネが一緒に振り返る。

「じゃあ、また明日し。」

「また明日なのです。」

 二人が皇帝に大きく笑い掛ける。

 対照的に皇帝が寂しげに笑う。

「ああ、また、明日、明日も絶対に来いよ!」

 皇帝が語尾を強める。

「トガナキノとの戦争が終わったら!その次も!その次の日も遊びに来い!」

 皇帝の言葉にサクヤとトドネは少し困ったように笑う。

 その笑顔が返答だと言わんばかりに二人は八咫烏へと乗り込んだ。

「じゃあな。」

 俺も竜騎士に向かって歩き出す。

「師匠!!」

 皇帝の声に俺は振り返る。

 皇帝の眉は歪み、泣きそうな顔だ。

「二人を…二人を戦場には送り出さないでくれ。」

 そうか。

 サクヤとトドネはここまで深く皇帝の心に食い込んだのか。

 やるじゃないか。

「二人は魔狩りだ。」

 俺の言いたいことを図りかねて、皇帝は困惑してる。

「でも、今は戦士だ。あの二人を止めたいのなら、戦争そのものを止めろ。」

「…無理だ。そんなことはできない。」

「お前は奴隷を使い捨てにしてる。命の価値に違いはない。何故、あの二人は死なせたくないのに他の人間は死なせる。」

 皇帝が俯きながら歯を食いしばる。

「あの二人はお前にとっては特別な存在になったんだろう。だから、お前はあの二人を死なせたくない。俺も同じだ。でも、あの二人の生き方を俺が捻じ曲げることはできない。特別だと思うなら、二人の生き方を尊重しろ。」

 皇帝がどんな答えを出そうとも、その答えを俺は否定するだろう。

 戦争を止めたとしても、俺はこの国を潰す。真綿で首を絞めるように生かさず殺さず潰す。

 俺は皇帝に背を向け、竜騎士に乗り込んだ。


 ウロボロスのハンガーで、竜騎士から降りた俺を、先に到着していた二人が待ち構えていた。

 二人とも難しい顔をしている。

 その二人を無視して俺は歩き出す。

 二人が黙って俺の後ろを歩き出す。

「ヘイカ・デシター」

 サクヤが俺を呼ぶ。

「なんだ?」

 俺は前を向いたまま問い返す。

「戦争、止めないんしか?」

「止めない。やってもらう。」

 即答する。

「皇帝陛下のことはどうするのですか?」

「どうするのかとは?」

 わざと聞き返す。

「殺すんしか?」

「殺さない。俺は人を殺さないとヘルザースと約束したからな。」

 俺は立ち止まる。

 後ろの二人も立ち止まる。

「ただ、あの国は歪んでる。もう、真白にしないと修正も効かない位にな。だから、国は潰す。」

「じゃあ、皇帝陛下をどうするのですか?記憶を改変するのですか?」

 わからない。

 実際、あの皇帝は、俺の理解の範疇を超えている。普通の子供の様で、そうでないように感じる部分も多く含んでいる。どのように扱えば良いのか俺も判断し兼ねているのだ。

「時間が必要だ。」

 だから、冷凍保存する。俺はその言葉を呑み込んだ。

 俺は再び歩き出し、二人はその場に立ち竦んだままとなった。

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