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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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潜入

 トドネとサクヤの様子を確認して、ここからが一仕事だ。

 トガナキノにフランシスカの総領事館に向かうと連絡、通信先を切り替え、八咫烏の発艦許可を求め、オロチにセットしてある酒呑童子を装着してから、指示された八咫烏に搭乗する。

 八咫烏にコントロールレバーはない。

 酒呑童子の前腕をコクピットの肘掛け部分に置くと、酒呑童子の前腕がコクピットに組み込まれ、八咫烏と同期する。

 酒呑童子と八咫烏を何本ものチューブが繋ぎ、俺の霊子体と八咫烏を接続同期させる。

 これで、俺の思考によって発動する霊子体が八咫烏を操作、制御するようになる。

 八咫烏の補助プログラムが起動する。

「八咫烏〇二八八搭乗者を確認、脳紋チェック、グリーン。組織構成元素九十三.八二パーセント適合、霊子体周波数から搭乗者はヘイカ・デシターと判別。搭乗者に間違いありませんか?」

「間違いない。」

「声紋チェック、グリーン。管制官からの指示と適合。エンジン始動します。」

 八咫烏の搭乗者チェックが終われば俺の番だ。

 酒呑童子のバイザー内に投影される八咫烏のチェック項目を読み上げる。

「バランサー、グリーン、各計器オールグリーン、霊子エンジン出力〇.五パーセント正常、質量方向変換システム起動確認、グリーン、ジャイロ起動、グリーン。出るぞ。」

「管制室、了解、行ってらっしゃい。」

 誘導員の指示に従い、八咫烏を発艦用の離着陸床に向かわせる。

 八咫烏は垂直離着陸機だ。

 ハンガー内の安全を報せるグリーンのシグナルが三つとも点灯する。機体がフワリと浮き上がり、低速でハンガー内を進行する。

 コノエ。

「はい~。」

 ウロボロスから八咫烏が発艦する、飛んでるレーダー波を吸収して、八咫烏の発艦を偽装してくれ。

「了解ですぅ、じゃあ、忙しそうなので、あたしもそっちに行きますぅ?」

 いや、お前は来なくても大丈夫だ。

「はい~。」

 ハンガーハッチが開き、気圧が急激に変化する。

 濃い藍色の空に八咫烏が滑り出し、ハンガーハッチが閉じられ、加速する。

 ウロボロスの艦橋部分を一度旋回して、無事発艦したことをブリッジに報せ、ウロボロスの更に上空へと飛翔する。

 静止衛星軌道から離れ、もうここは宇宙空間だ。

 俺はウロボロスから距離を取って、コノエの偽装空間から抜けて、隕石と同じ軌道を描いて地上を目指す。

 圧縮された空気が赤熱化して八咫烏を真赤にするが、八咫烏はそんなことではビクともしない。

 海上二十メートルに達して、急上昇にて海面スレスレを飛翔する。

 レーダー波は真直ぐに進む。

 電離層に反射することなく真直ぐに進むレーダー波は物体に反射して真直ぐに帰るため、低い位置の物体を捉えることはできない。

 俺は海上を進んで、フランシスカ王国の総領事館に到着する。総領事館前庭に着陸させれば、そこには総領事が待ち構えていた。

 酒呑童子を着たまま、八咫烏から降りる。すぐに総領事が走り寄って来て、「こちらへ。」と声を掛けてくる。

 俺は案内されるままに総領事館に入って、普段は使われていない部屋で酒呑童子を脱着。

「すまんな、面倒を掛ける。」

 俺の言葉に総領事が首を振る。

「いえ、本国から連絡が来ておりましたので、お気遣いなく。」

 俺は頷き、「では、八咫烏と酒呑童子を頼む。」と言い残して、再び、外に出る。既に八咫烏を収納するために前庭の地面が割れて、八咫烏をハンガー内に収納中だった。

 八咫烏を避けて、俺は総領事館を出る。門の衛士達は俺を無視している。俺は存在しないのだ。うん、徹底してる。

 総領事館を出て、俺は街に入り、人のいない裏路地に入る。

 コノエ。

「はい~。今からそっちに行きましょうかぁ~?」

 ああ、そうだな、一旦、こっちに来てくれ。

「え?」

 だから、こっちに来てくれ。

「は、はいいいいいっ!!」

 俺の目の前にコノエが現れる。

「マスター!お久しぶりですぅ、やっと、お呼びになられましたねぇ!」

 なんだ?テンションがダダ高なんですけど。

「コノエ、今から俺は霊子体の周波数を変更する。」

「あ、成程ぅ、マスターは別人に偽装なさるのですねぇ。」

 俺は頷きながら、霊子体の周波数を変換、脳波、脳紋、を変換する。

 外観を男の子から女の子へと変換。髪の色を茶色へと変え、瞳の色もブラウンへと変える。

 掌を見る。

 うん、女の子の手だ。

「うわぁ、全くの別人どころかぁ、女の子になっちゃうんですねぇ…」

 なんだ?今度はテンションダダ下がりじゃねぇか。

「コノエ、俺の霊子周波数を確認してくれ。」

 俺は右手を差し出す。

「はい~。」

 俺の右手をコノエが両手で包み込むようにして握る。

 半目に開いたコノエの瞳が怪しく輝き、口元が高速で動く。何かを呟いているようだが、速すぎて聞き取ることができない。

 呟きが終わり、俺の手をコノエが離す。

「これで完了ですぅ。」

「何を呟いてたんだ?」

「プログラムの書き換えですぅ。一応、マスターの元の霊子体でも私のマイクロマシンと同調できるようにしておきましたぁ。」

「うん、ソイツは助かる。じゃあ、呼び出してすまなかったな、戻ってくれ、ありがとう。」

「いえいえ~、今度はマスターが男の子の時にお呼びくださいィ。」

「は?」

 コノエが俺の目の前から消える。

 まあ、イイか。

 俺は、コノエのマイクロマシンを使って粒子化光速移動でジェルメノム帝国に侵入する。

 帝国の帝都だ。

 帝都を覆う魔法結界にはワザと触れた。

 トガリの周波数ではない。ヘイカ・デシターの周波数でもない。全くの別人として偽装した霊子体の周波数で、ジェルメノム帝国に俺が侵入したことを報せたのだ。

 新たな周波数に切り替えるにあたって、コノエの方はトガリとヘイカ・デシターの霊子体の周波数を登録しているので、別の周波数を使うと、コノエが混乱する。だから、周波数を変える前に俺が周波数を変えることをコノエに認識させる必要があった。

 ジェルメノム帝国に侵入した時点で、既に日が暮れ始めていた。

 街の灯が窓から漏れ出す。

 ランプの油や蝋燭の炎のように揺らめいてはいない。電気の明かりだ。

 奴隷を使った霊子発電所がある筈だ。

 軍事施設はエネルギーを食う。

 この国のように金剛や戦闘機を常に稼働させていれば、更に大きなエネルギーを必要とする。

 街の至る所から蒸気が噴き出している。蒸気による火力発電も行っているんだろう。空気中に煤が含まれている。

 街中で火力発電をしているせいだ。

 この世界では高層の部類に入る建物が建ち並び、その建物を這うように金属のパイプが張り巡らされている。

 下水の整備はいい加減なのだろう、臭いが漏れている。

 複雑な地形に造営された都市だ。

 道は複雑な地形に合わせて、曲がりくねった状態だ。坂が組み合わさって、平面と呼べる部分が少ない。

 エネルギーの供出を優先させて、街のインフラ整備はおざなりだ。

 擦れ違う人々の表情は暗い。

 顔のどこかに煤が付着している。

 誰もが刃物を呑んでいる。老人も子供も擦れ違う人々の全てがである。胸元を押さえ、周りを警戒しながら歩いている。

 店は開いているが、夕暮れ時になって閉め始めている店が散見できる。客が少ないか、売る物が少ないかのどちらかだ。

 建物から漏れる光は電気の明かりだというのに、暗くなったら店を閉める、それは、そういったことを示している。

 トガナキノでは電気の明かりがあるせいで、皆、夜更かしをするようになった。暗くなっても仕事ができるからだ。開いている店も多い。客が来るし、売る物もあるからだ。

 経済を逼迫させてでも軍事に注ぐ。

 擦れ違う人々が着ている服は一様に同じだ。まったくの同じではないが、似たり寄ったりのデザインだ。

 軍服の払い出し品が多いせいだ。

『服を変えろ。目立つ。』

 俺は路地裏に入り、服を変える。

 黒革のコートから、茶色い革のジャケットに、ズボンも黒から灰色のデニムに、タートルネックの麻のシャツには煤を付着させておく。革のジャケットは裏地に毛皮を縫い付け防寒対策にする。

 この国の緯度は高い。夜になると冷え込んできた。呼気が白く立ち昇って消える。

 手をポケットに突っ込んで、ポケットの中で手袋を再構築する。

 俺は路地裏から出て、配管を辿る。

 道路に埋め込まれた配管は、俺の右目からすれば、埋まっていないに等しい。

 俺の侵入を察知している筈の魔法使いは帝都内で広範囲に魔法結界を張っているから、かなり演算能力の高い魔法使いか複数の魔法使いが直列しているかのどちらかだ。出会う前から騙し合いが始まっていると考えるべきだろう。注意深く、慎重にマイクロマシンを扱う必要がある。

 マイクロマシンを奪ってはダメだ。俺の力量を知られる。

 奪うことなくマイクロマシンが送る情報を吸い出す。

 その情報を逆に辿る。

 居た。

 俺を見詰める目。

 距離にして二・八キロメートル。方向は北北東、男だ。

 攻撃する意思は感じない?監視してる。

 帝城の最上階のベランダから俺を監視するつもりだ。

 近付く気配。五百メートル先だ。

 俺の向かうルート上にいる。一人、二人、五人か。

 五人ともヤートだと?帝都なのにヤートがいる?

 戦闘に特化した者なら差別云々は関係なしに使うってことか。あの皇帝らしい。

 帝城からも何人か出てきたな。

 八人か。判別できん、獣人だな。と、いうことは、塊で動いてるから八人と見るのは早計か。塊の中に埋もれて二人ぐらい隠れているだろう。

 で、気配を消している魔法使いが六人。うん、下水道に潜んでやがる。ルート上に結界を張るつもりだな。

 しかし、俺の実力を測りかねているのだろう、人数が多い。て、ことは、精鋭が隠れてるな。

 俺に読まれてる奴らは囮だ。精鋭を隠すための囮。

 目は一人か?能力のある奴なら帝城内部からでも俺を監視してるだろう。

 試しだ。

 目を潰させて貰おう。

 俺は口を僅かに動かして、呪言を唱えている振りをする。

 唱えてないよ。ホントに唱えてないからね。振りだけ、振りだけなんだから。

『余裕だな。』

 いやいや、そんなこともないよ?

 右手の中に(つぶて)を構築する。一見すればプラスチックの礫だ。指三本の中にスッポリと隠れるほどの大きさ。

 魔法を使って飛ばさない。察知されて、避けられる可能性がある。

 俺は指先で礫を弄びながら、その形状を弾頭のような流線型に仕上げる。礫の先端には幽子拡散回路が仕込んである。獣人拘束用スーツに仕込む回路だ。

 この回路を起動させれば、霊子の影響を受けず、礫の周囲に纏わり付くマイクロマシンを無力化する。

 体中の霊子回路を活性化させ、マイクロマシンで筋肉増強、骨格を強化する。

 幽子拡散回路は投げる瞬間に起動させる。

 タナハラ、頼むぞ。

『おう!!』

 左足を前に出したところで、体をターンさせる。

 開いた体を捻じって左足を引き寄せながら高く上げる。

 帝城から監視する男に向かってオーバースロー。

 二本の指先に乗った弾頭型の礫に全体重をかける。

 リリースの瞬間、指先に神経を集中し、ジャイロ回転を与えながら弾き出す。

 幽子の力は働かない。マイクロマシンを使った肉体の力だけで命中させる。

 男には俺が何をしたのかわからないだろう。

 俺が体外で魔法を使ったのは、礫を構築したその瞬間だけだ。

 男が倒れる。

 額に命中した。

 プラスチックの本体が砕け散り、先端に仕込んだ幽子拡散回路が男の額に張り付いている。

『回路には小さいが無数の針を構築しといたからなファンデルワース力で、簡単には取れんだろう。』

 と、いうことで、男は意識を失い、魔法も使えなくなった。

 さて、動きに乱れは…ないな。

 指示を聞く必要がなくなっていたか、やっぱり別に指示する奴がいるかのどちらかだな。

 道路を建物の影が覆う。

 月はない。街頭が、ポツリ、ポツリと道路に光の穴を穿っている。

 人通りが極端に減り出した。

 物陰で物取りの気配が蠢き出す。

 俺が魔法使いなら、この物取りも利用する。

 建物の影にスッポリと覆われた道路で、俺は、再び、その姿を変える。

 女の子から大人の男へと。

 もう一歩、踏み出せば魔法使いの結界に入る。

 一瞬、髪の毛が引っ張られたような感覚。

 結界だ。

 石畳の道路から何本もの鎖が再構築され、俺の首という首を鉄環が縛る。

 太い鎖が擦れて音を立てる。

 首の鉄環には四本の鎖が、手首の鉄環にはそれぞれ三本、足首の鉄環にも三本づつだ。

 そろりと獣人が姿を現す。

 獣の毛皮を纏ったままだ。トガナキノ以外の国では獣人が人間と同じ姿になれるということは、あまり知られていない。今となっては、知っているのはドラゴノイドぐらいだ。

 キャットノイドか。

 暗闇の戦闘ではキャットノイドに一日の長がある。と、思ってるんだろうな。

 建物の上でも気配が動く。

 姿を見せてはいないが、ヤートだ。

 目となる魔法使いを潰してから、俺は姿を変えた。誰にも見られないように。

 しかし、魔法使いの結界が発動し、俺の前に刺客が姿を現した。俺が姿を変えたことを誰かが見ていたことになる。

 キャットノイドが剣を抜く。

 オリハルコンじゃない。普通の剣だ。

『流石に獣人はデカいな。』

 俺の目の前に現れた獣人は全部で三人、後方にも三人だ。その六人は、全員、優に二メートルを超える巨漢だ。

 やっぱり、コイツらキャットじゃなくってライオンかタイガーじゃねえの?

『全部ひっくるめてキャットだろう。』

 可愛くねぇんですけど。

『兵器に何を求める。』

 まあ、その通りだけど。

 俺は不敵に笑った。

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