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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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可愛いと根性は同義語?

「さあ!とんだアクシデントが発生いたしましたが!流石は最低王!最低の料理さえ苦にしませんでした!では!少しばかりの休憩を挟んでから最後の可愛い勝負を行います!!」

 アラネが必死に盛り上げようとするが、観客たちは冷え切っている。それ程の破壊力があの料理にはあったのだ。

「今ん所はヒャクヤの方が有利ね。」

 うん、トンナ、その基準を教えてくれ。

「どこがどうなって、今、ヒャクヤが有利なんだ?俺にはさっぱりわからん。」

 トンナが驚きながら俺の方へと顔を向ける。

「だって、歌の勝負じゃ、ヒャクヤの方が可愛かったし、お弁当だってそうじゃない。」

 うん、そう言えば、この勝負は可愛さ勝負だった。ヒャクヤのは歌とは言えないけど、ブローニュの弁当は料理とは言えなかったしな。俺の判断基準なら圧倒的にヒャクヤの勝ちだ。可愛さなら接戦だ。

 ただ、今更ながらに、俺の中で一つの疑問がムクムクと頭をもたげてるんだが?

『なんだ?』

 可愛さってどうやって競うの?

『今やってるじゃない。どっちがより可愛いかを見るんでしょ?』

 いや、クシナハラ、それはわかってるんだ。そうじゃなくって、誰が、その可愛さを判定するんだ?

『そうだな。審査員がいるわけでもなし、トガリに判定させる訳でもなさそうだしな。』

『何言ってるの。』

 カナデラ?

『トンナは、自分でブローニュと闘って、ブローニュをボコってから、ブローニュを認めたじゃない。』

 あっ

『そうか、判定するのは闘ってる本人だな。』

 つまり、ヒャクヤがブローニュを可愛いと認めれば良いってことか。

『そういうこと。』

『闘って、相手のことを理解する!そういうことだな!!』

 成程、タナハラの言うことが的を射てるな。

『そうだねぇ。闘うことで相手のことを知って、自分達の仲間に迎え入れる。』

『そう考えれば、この獣人の仕来り、上手くできてる。』

 だな。

「さあ!最後の闘い!野郎ども!!待ってたか!!そうだ!この勝負は可愛さを競っているもの!テメエらが待ちに待ってたサービスタイムだ!后と后候補!自らが、その白い肌を晒し!テメエらの目を潰すために眩い水着姿で登場する時がやって来た!!喰らい付け!写真撮影は禁止だ!網膜に焼き付けろ!!瞬きする間も口惜しい!吠えろ!滾れ!燃え上がれ!命の全てをこの瞬間に費やせ!!さアアアアアア!お二人の登場だぁぁアアアアアアアア!!」

 観客のテンションがいきなりマックスを迎える。

 巨大な地響きを立てて、絶縁断裂を彷彿とさせる歓声が沸き上がり、スタジアム全体を揺らす。

「オイ、ヘルザース、スタジアムの強度は本当に大丈夫なんだろうな?」

「お、恐らくは…」

 俺以外の全員が天覧席を見回す。

 アルミナガラスが震えて音を立てている。

「どんだけ、俺以外の王族のことが好きなんだ。」

「あら、皆、トガリのことも好きヨ?」

「お前達はな。」

 トンナが頭を振る。

「違うわよ。皆ヨ、皆。国民、皆はトガリのこと、大好きヨ。」

「史上最低王、国の寄生虫、ぐうたら国王、恐怖の愚図王、最凶のクズ王と色々と言われてるじゃねぇか。どこが俺のことを好きなんだよ。」

「だって、王様の耳に全部届いてるでしょ?」

 俺は眉を顰めてトンナを横目で見る。

「他の国だったら考えられないよ?王様のことを噂して、罰せられないなんて。」

 まあ、確かに。でも、それはこの国が(ゆる)い所為であって、決して、俺のことが好きだとは思えない。

「ハルディレン王国に、カルザン帝国でしょ、あとインディガンヌ王国だってそうだよ。」

 今、トガナキノを構成してる国民のほとんどが、トンナの挙げた三国の元国民だ。

「今までにない国だよ。王様のことをあんな風に親しんで話す国なんて。」

 俺は頬杖をついて、トンナの話を黙って聞き続けた。

「皆、トガリに喜んで貰おうと思って働いてる。」

 観客席を見詰める。

「トガリに助けて貰って、トガリに喜んで貰いたくって自分達が幸せになろうとしてる。」

 観客席では笑顔が絶えない。

「知ってるもの。皆、自分達が幸せになれば、トガリが喜んでくれるって。」

 知ったことじゃない。勝手に幸せになればイイ。

「だから、皆、自分達が幸せになるために一生懸命。他人を不幸にしないように一生懸命。」

 自分の幸せだけを考えてりゃイイものを。

「でも、その国王様は滅多に姿を見せないの。姿を見せても仮面を付けて、皆は大好きな国王様の顔も知らないの。」

 知られちゃ、街を歩けない。

「だから、皆、トガリのことを話すし、トガリのことを悪く言うのよ。笑いながらね。」

 トンナが俺の方へと顔を向ける。

「ほら、トガリだって、笑ってる皆を見てるから、笑ってるじゃない。」

 そうか、俺が笑ってるから、トンナは不敬罪だって言い出さなかったのか。

「ふふ」

 トンナが笑う。

 観客席を見詰めながら、俺も、大きく笑った。


「キッタぁアアアアアアアアアア!!」

 南北のゲートが輝き二人が同時に出て来る。

 ヒャクヤは、大きなリボンが胸元に付いたピンクの花柄ビキニ、パンツもビキニだがウエスト部分にヒラヒラしたミニスカートが付いている。ピンクのヒールサンダルにも胸元と同じリボンが付いていて非常に可愛い。

 ブローニュは青を主体としたバンドゥビキニだ。トップが青でパンツが黒と中々に渋い選択だ。と、思っていたら、紫のワンピースに変化した。

 ブローニュが歩くたびにその水着が変化するようになっているようだ。

 二人は闘技場中央に向かって歩いているのだが、その最中でブローニュの水着が変化する。

「拙いね。ヒャクヤにはできない芸当だよ。」

「そうだな。」

 ヒャクヤは獣人だ。だから、周囲の幽子は猛スピードでヒャクヤに吸収される。一種の幽子枯渇状態が起きる。獣人専用の簡易錬成器と霊子パックがなければマイクロマシンを操作できないのだ。

「それにしては、ヒャクヤ、余裕がありそうだな。」

「うん、ホントね。」

 ヒャクヤの口元には余裕の笑みが見て取れる。

「おおおっと!獣人のヒャクヤ后陛下には真似できない趣向で、ブローニュ嬢が余裕の入場だアアアアアア!!」

 アナウンスの言葉をきっかけに、ヒャクヤが足を止める。歩いている途中のポーズを静止画のように止める。

 音楽が鳴りだす。

「ああああああっと!予定にない音楽だアアアアッ!!ヒャクヤ后陛下!スタッフを抱き込んだのかアアアアぁ!!」

 ヒャクヤが踊り出す。

 アニメーションダンスだ。

 ストップモーションとスローモーションを織り交ぜ、時には早送りのようにダンスステップを見せる。獣人特有の身体能力の高さ、全関節の可動域の広さと柔軟性は普通の人間には真似ができない。

 ブローニュの歩みが止まり、水着の変化も止まる。

「な、な、なんだああ!!この動きは!まるで無重力空間のような動きです!!」

 アラネが驚くのも無理はない。

 現代日本でなら、動画配信などで見られる一流のダンスだが、この世界では見られないダンスだ。

「まるで!体の各パーツがバラバラになっているかのような動き!!変幻自在!自由闊達!!奇妙奇天烈とは!正に!このことだぁアアアアアア!」

 アニメーションダンスからロボットダンスに移行し、ブレイクダンスへと徐々にシフトする。

 観客席から一層の歓声が上がり、全員総立ちの状態だ。

 闘技場は石造りだからヘッドスピンはできないが、片手で体を持ち上げ、足を大きく開いて高速スピンを披露する。

 何十回と回る。

 体幹にブレが全く見られない。

 普通なら手の皮がもたない。

 それを可能にしているのは獣人の体の強さだ。皮が強いのではない。ヒャクヤの強靭な身体能力だ。

 五本の指を立て、その指先で体を回している。手首を捻りながら、指を動かすことで体を回しているのだ。

 腰が振られ、バランスを崩したかに見えるが、安定した回転を続けている。

 体を屈曲させて、横回転が足の方では縦回転となる。

 片手だけで支えていたのを両手に切り替え、クロスさせて更に複雑な回転を織り交ぜる。

「な、なんだアアアアぁ?!こ、これが人間技なのかアアア!!」

 空中を飛んで何回も回り、着地してからも様々なポーズで何度も回る。

 フィニッシュは腕で体を跳ね上げて、ムーンサルトだ。

 着地と同時に音楽が終わり、ヒャクヤは闘技場の中央に可憐に立っていた。

『うん、完璧。』

 カナデラ?

『まあこんなモンだな!!』

 タナハラ?

 お前らか?ヒャクヤにダンスを仕込んだのは?

『当たり前でしょ。ヒャクヤにこんな発想がある訳ないでしょ。』

『おう!カナデラに頼まれてな!色々考えた!!』

 成程、ダンスが今風(・・)になるわけだ。

 再び音楽が流れ出す。

『この音楽は俺のチョイス。』

 カナデラ?

『だって不公平でしょ。ヒャクヤにだけ見せ場を作るなんて。』

 成程、二人の勝負に仕込みは万全ってか?

『そう。ただ、水着姿を見せるだけなんて、つまんないからね。』

 にしても、この音楽…

『ブローニュの希望だよ。』

 ヌンチャク振り回して、「ホあちゃー!」て、叫ぶんじゃねぇの?

『それでもいいけどね。』

 ブローニュの水着がワンピースから、前から見るとワンピースで後ろから見るとビキニに見えるモノキニに変化する。同時に腰を落として新神武道の構えを見せる。

「新神武道、第五式、疾風の型だね。」

 トンナが呟く。

「最初の構えでわかるのか?」

「わかるよ。足の小指に体重を掛けてるから。」

 う~ん、遠目でよくもそこまで見て取れるもんだ。流石は創始者。

「ヒールサンダルでできるのか?」

「うん。簡単だよ?なんで?」

 恐らく、トンナレベルなら簡単なんだろうな。

 ブローニュが足を大きく開いて腰を落とす。

 音楽に合わせて、後方の足を大きく前に蹴り出しながら体を回転させる。

「そうか。ダンス風にアレンジしてるんだね。」

「違うか?」

「うん、速く体を動かすために爪先に体重を移動させてる。腕の振り幅も大きいし、体の捻りも大きい。一撃必殺を狙う新神武道じゃないね。」

「ふ~ん。」

 ブローニュが音楽に合わせて体を大きく回転させながら、蹴りや手刀を放つ。確かにダンスだ。だが、様々な角度で打撃を打ち出している。

 現代社会のカポエラに似ていると言える。

「まあ、疾風の型は、多対一を想定した連続攻撃が主体の型だからね。ダンスっぽく仕上げるにはイイ型だったんだと思うよ。」

 新神武道風ダンスってところか。

 その新神武道ダンスの最中にも水着が変わっていく。

 モノキニから、首の後ろで肩紐を結んだホルター・ビキニに変化する。一気に観客が湧き上がる。

 足を全開にした前蹴りと同時に、パンツが両脇を紐で結んだタイサイド・ビキニに変わる。

 更に観客が湧き上がる。特に男共が。

 ヒャクヤが見せたブレイクダンスのように両手を床に着いて体を回転させる。

 回転と同時に水着が股上の浅い、ローライズ・ビキニに変化、観客が発狂したように喚きだす。

 足を着地させてから、更に動きが激しさを増す。

 二段蹴り、三段蹴りを放ちながら、水着の布面積が小さくなって体の前面でV字を描くマイクロ・ビキニへと変貌する。

 もう絶叫。観客総立ち、多分、アソコも総立ち。俺は吃驚、ヘルザースはあんぐり。

 だって、乳首と性器しか隠してないもん。お尻丸出しだもん。

 ヘルザースは泣きそうになってるよ。

 ヒャクヤが冷めた目でブローニュを見詰めている。

 今日、初めて見る、冷めた目だ。さっきまでは、にこやかだったのに、どうしたんだ?

「ウワアアアあっと!恐ろしいまでに面積を小さくしたビキニだアアア!!こんな水着で動き回られたら!男共は瞬殺だぁアアアアアア!」

 音楽の途中でヒャクヤが動く。

「あああっと!どうした!ヒャクヤ后陛下がブローニュ嬢の見せ場に乱入だぁアアアアアア!」

 人間では出せない速度に一瞬で到達し、ブローニュの眼前に迫る。

 ブローニュは二段蹴りを放って、着地した瞬間だ。筋肉の動きを切り替えるには無理のあるタイミング。ヒャクヤは、そのタイミングを狙った。

 それでもブローニュは反応した。

 ダンスにアレンジしたとはいえ、新神武道の動きをしていたのだ、体は闘いの最中にあった状態だ。

 無理な体勢から、ブローニュが背中を後ろに逸らせる。

 僅かではあるが、ヒャクヤの間合いからブローニュが外れる。

「フッ!」

 ヒャクヤが呼気を吐き出しながら手刀を横薙ぎに払う。

 ブローニュは寸前でその手刀を躱していた。

 時間が止まる。

 ヒャクヤが動きを止め、ブローニュも動きが止まっている。音楽も途中で止まった。

 空気さえも固まったような状況で、青い布がはらりと舞った。

「ヒィャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 絶叫と共にブローニュのマイクロ・ビキニがはだける。

 歓声が巻き起こる。

 ブローニュの胸の下で切られたマイクロ・ビキニは、乳首を隠していた肩紐部分が上に弾け、股間を隠していたパンツ部分が前方へと弾ける。

 ブローニュは、慌てて、胸と股間を抑え込んで、その場にペタリと座り込んだ。

 セーフ。

 見えてな~い。ブローニュ百パーセント。

 ブローニュが顔を真赤にさせて、涙目になっている。キツイ眼差しでヒャクヤを見上げる。それに対してヒャクヤは堂々とした立ち姿だ。

「静かにするのっ!!」

 スタジアムに轟く一喝。

 ただならぬ空気感を身に纏ったヒャクヤの咆哮だ。一瞬で、絶叫していた観客たちが黙り込む。

 ヒャクヤはあれで根性入ってるからなぁ。

『うん、クルタスに腕を斬り落とされても、平気で殴りに行ってたもんねぇ。』

 そっか、カナデラは直で見てたんだっけ。

「おチンコおッ立ててる奴は見つからないようにするの!!千切ってやるの!!」

 ウワアアア。お后様ぁ。その発言はどうなんでしょうか?

「後でお説教ですな。」

 ほら、ローデルが反応してるよ。やっぱ、おチンコは拙いよ。なんでもかんでも‘お’を付けりゃお上品になるって訳じゃないんだからさぁ。

 観客席のほとんどの男性が股間を押さえて座り込んだよ。スゲエなブローニュの水着威力。

 ヒャクヤが観客席をゆっくりと見回し、最後にブローニュで視線を止める。

 ブローニュと睨み合う。

「観客席を見るの。」

 ブローニュが言われた通りに視線を観客席へと向ける。

「男性客のほとんどが座ってるの。」

 ブローニュが、再び、ヒャクヤに視線を留める。

「男性客のほとんどがお前の水着姿におチンコをおっ立ててるの。」

 あ、また言った。

「お前はイヤラシイだけなの。可愛くないの。」

 ああ、それで怒ってたのか。

「勝負なのに、お前は、最初から、その勝負を放棄したの。棄権したも同然なの。」

 冷徹な瞳をブローニュに向ける。

「そんな覚悟でパパの奥さんになろうとするなんて!!絶対に許せないの!!」

 怖。

 ブローニュは俯いて肩を震わせている。

 観客席もアナウンサーもヒャクヤの言葉に黙ってしまったままだ。

 テレビのバラエティーのような感覚で俺達はこの勝負を見ていた。しかし、ヒャクヤにとっては真剣勝負なのだ。獣人の誇りと伝統、そして、本当に俺の嫁に相応しいのかどうかを見極めるために真剣に勝負していたのだ。

「あたしも…」

 ブローニュが口を開く。

「あたしもヒャクヤ陛下みたいに可愛いぃなりたかったんや!!」

 顔を上げて、泣きながらブローニュが吠える。

「でも無理やねん!!国王陛下のために!強くなるために!小っちゃい時から新神武道をやっててん!!どんだけ可愛い水着着たかて!ぶっ細工になるだけなんや!!」

 うん、俺もそう思った。

 新神武道で鍛えられた体は引き締まっているが、同時に女性を感じさせない筋肉がついている。

 胸も尻も大きく、女性としての魅力は十分にある。

 その体に見合った顔付は可愛いではなく、美人、ゴージャスという言葉の方がピッタリとはまる。

 ヤート族のような幼さはない。白人女性の方がヤート族などのアジア系よりも大人びて見える。そして、もっとも致命的なのは広背筋だ。

 発達した広背筋が、女性らしい、いや、可愛らしいシルエットを許さない。

 白人の太い骨格。

 膨大な筋量を積載するために肩幅が広い。背中を丸めて嘆くブローニュ。その背中は、女性には似つかわしくないほどに盛り上がっている。俺はその体付きをよく知っている。トンナと同じ体型だ。ブローニュが后となるべく目指した先にトンナがいる。

 顔を覆うことができずに、鼻水を垂らしながら、ブローニュが泣く。

「あ、あたしかて…可愛い水着を着たかってん…せ、せやけど…せやけどっ!!」

 言葉にならずに泣き声となる。

「ちっ!」

 俺の隣でトンナが立ち上がろうとする。俺は、そのトンナの腕を掴んで、トンナを止める。

「トガリ、行ってやらないと、ブローニュが!」

 トンナが泣きそうな顔で懇願するが、俺は頭を振る。

 俺はブローニュの体を覆うようにマントを再構築してやる。

 ヒャクヤがそのマントを見て、天覧席の方へと顔を向ける。

「パパ?」

 遅れて、泣きじゃくっているブローニュもこちらへと顔を上げる。

 ヒャクヤの視線を受けて、俺は頷く。

「そうやって泣いてる姿は可愛いので!それで!良しっ!!」

 俺の大音声がスタジアム内に響き渡る。

「トガリ…」

 俺の隣でトンナがホッとしたような顔を向ける。

 ヒャクヤが大きく溜息を吐く。

「もう、パパったら、お邪魔ん子大王なの。」

 ヒャクヤがブローニュの前に跪いて、ブローニュを覆うマントに付いているボタンをはめる。

「ヒ、ヒャクヤ陛下…」

 ヒャクヤが微笑む。

「最後の最後でパパに台詞を取られちゃったの。でも、不細工でも、不格好でも、笑われても、可愛い心は最後まで捨てちゃダメなの。お婆ちゃんになっても可愛さは大事なの。でないと、男子は女の子に幻滅しちゃうから。それから、これが一番大事なことなの。」

 ヒャクヤが俯き、笑いながらブローニュへと視線を送る。

「不細工になっても、頑張ってるあなたを、決してパパは笑わないの。生きていることは戦いなの。そう、パパは言うの、だから、逃げることはあっても戦うことは放棄しちゃダメなの。次に勝つために逃げることはあっても放棄しちゃダメなの。それが、パパに好かれ続けるコツなの。」

「ヘ、ヘイカ…」

 ヒャクヤが大きく笑う。

「パパが、ああ言っちゃったから合格なの。次はコルナと勝負なの。」

 ヒャクヤが、仕方がないといった表情を浮かべて、笑う。

「ヘ、陛下ぁアアアアアア!」

 ブローニュがヒャクヤに抱き付き、声を上げて泣き出す。

 静かに拍手の波紋が広がっていく。

 静かだった拍手が、やがて、地を叩く豪雨のように激しさを増す。

「ヒャクヤ陛下に教えられました。強く、勇ましく、可憐であれ、そして、可愛くあれ。それが、男を惹き付けておく秘訣なのだと。ブローニュ嬢の前途に幸あらんことを。明日も頑張って欲しいと、切に、切に願います。」

 アラネが静かに締め括る。

「よし、今日の所は、これで、終了だな。」

 俺はそう言って立ち上がる。

「向こうに行くの?」

 俺はトンナの方へと顔を向け、「ああ。」と応える。

「それじゃ。」

 トンナが立ち上がって、俺をお姫様抱っこに抱え上げる。

「お、オイ!」

 トンナが良い笑顔で俺を見下ろす。

「恥ずかしい?恥ずかしかったら一〇歳の頃の姿に戻ってよ。」

「お前なぁ。」

 トンナが口を尖らせ、眉を顰める。

 瞬間移動で無縫庵に戻るつもりだったが…まあ、いいか、これも家族サービスだ。

「しょうがねえなぁ。じゃあ、無縫庵までちゃんと連れ帰ってくれよ。」

「うん!!」

 俺は一〇歳の頃の姿に戻って、意識をウロボロスの俺へと切り替えた。

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