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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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味で殺されるぅぅ

「食べるの?」

 トンナが俺には理解できない言葉で話しかけてくる。

「お、お食べになるのですか?」

 ヘルザースの言葉もやっぱり理解できない。

「二人の力作!神州トガナキノ国の国王陛下であれば、必ずや御試食頂けるものと信じております!もし!お断りになられるようなことになれば!私が!責任を持って!この企画の後始末を付けさせて頂きます!!」

 食っても死ぬし、食わなくても死ぬ、そういうことですか?

「ヒャクヤ陛下もブローニュ嬢も!精一杯!陛下のためにお作りになられました!その女の心を!乙女心の結晶を打ち砕くようなことはなさらないと!私は!強く信じております!切に!切に!サラシナ・トガリ・ヤート陛下が!この闘技場に御降臨頂けることを願っております!」

 アラネが俺の背中を押す。死ねと押す。

 ボー然としたまま、俺は、ブローニュの方を見る。

 あ?

 アイツ、あんなにオドオドとしてたか?

『ふむ、確かに違和感があるな。』

『そうだね、歌の時は自信満々だったのにねぇ。』

『料理は得意じゃないんじゃない?』

『もっと堂々としろ!!』

『もう、皆、気付いてないの?』

 なんだ、何がだ?クシナハラ。

『彼女の指、グローブから出てるんでしょ?』

 ああ、それが?

『指、結構、傷があるんじゃない?』

 魔虫を使って、俺の網膜にブローニュの手のアップを投影させる。

 古傷、イヤ、治りかけの生傷が多いな。

『練習の成果だよ。てか、結果?』

 流石だな。

『なにが?』

 見えてなくても予想がつく、ってか?

『女性を見る時はね、手を見るのよ。手には年齢と仕事量が現れるからね。それで、性格とかがわかるわけ。』

 成程、仕方がないか。

 俺は立ち上がる。

「へ、陛下!!」

 ヘルザースが慌てて、俺の横に回り込む。

「な、なりません!我が娘が作りし物は、人の食する物ではございませぬ!!」

 おい、おい、実の父親、それは無いだろう。

「我が娘ながら、お恥ずかしいですが、あんな物を食してはなりませぬ!」

 ヒデエな、おい。

「うむ。如何に陛下が寛大であろうとも、アレを食するというのは、あまりにも無謀かと。」

 ズヌークも真剣だ。

「ヘルザース閣下の面前で、このようなことを申すのは憚られるのですが、某も御やめになられるべきかと。」

 ローデルも仕事モードで止めに来る。

「お…」

「あんたたち、馬鹿?」

 俺が話そうとしたところで、トンナが割り込んで来る。

「は?」

 ヘルザース達が一様に驚きの表情でトンナを見る。

「トガリよ?トガリが食べるのよ?あんた達じゃなくってトガリが食べるの。あんた達と同列に考えてるなら、それって…」

 闘技場を見ながら話していたトンナが殺気を孕んだ目でヘルザース達を見る。

「不敬よ。」

 出たよ。

 俺をディスってることに対しては、不敬だって言わないくせに、どうして、ここで不敬だって言い出すのかね。

 ほら、ヘルザース達が黙っちゃったじゃない。もう、俺は、「お前たちが、それ程、止めるのなら仕方がない、お前たちがアラネに撤回するように言ってこい。」て、言おうとしたのに。

 そりゃね。食べてやりたいよ?あんなに手が傷だらけになるぐらい頑張ってんだからさぁ。

 でも、止めてくれる奴がいるなら乗っかりたいじゃない。乗っかりたくなるじゃない?ね?それが人情ってもんでしょ?

「ね?トガリ。」

 良い顔で笑ってやがんなぁ。もう、しょうがねぇよ。腹をくくるしかねえな、ったく。

 俺は瞬間移動で闘技場に現れる。

「おオオオオッと!!ついに陛下のご登場だアアアアぁぁアアア!!」

 アラネが盛り上げようとするが、観客たちは一言も発しない。

 静まり返っている。

 不味いとか美味いとかは言っちゃダメだ。百万人にブローニュの料理が不味いと印象付けてしまう。

 味の評価をすれば、国王に、なんたる物を差し出すのかと、ヘルザースが切腹する。

 体内のマイクロマシンを操作して、顔面筋を制御して固める。平坦な声になるよう、同じように横隔膜を制御。

 テーブルと椅子を再構築する。

 ヒャクヤ、ブローニュの順に視線を向ける。

 二人とも緊張している。

 俺は静かに呟くように二人に命じる。

「料理をもて。」

 二人が喉を鳴らして、俺の前にキャラ弁を置く。

「ふむ、ヒャクヤの食材は調理中も見ておったのでわかっておる。」

 ヒャクヤが微笑む。

「ブローニュ、これらの食材は何か、余に説明いたせ。」

「は、ハイ!」

 ブローニュが緊張しながら説明を始める。

「す、全て、陛下のお体に良い物をと考えて選びました。滋養強壮、鎮静効果のある物ばかりです。」

 薬膳料理か。

『毒にもなるな。』

 そうだな…

「では、食材の名を教えろ。」

「ハイ!」

 ブローニュが、一つ、一つ、指で示しながら説明する。

「これは、スグニシタルという魔草の根で、高血圧に効果があります。で、こっちがジキニシタルの実で、血行亢進に効果が、そして、これは、ヨミジイクでして、精力増強に効能があります。」

 うん、魔草って言った?

「ブローニュ、魔草と申したか?」

「は、ハイ!魔草です!魔草は幽子を溜め込んでいるので、とっても薬効があるんです!」

 だから、ウネウネと動いていたり、「キッシャアア」って鳴いてたりするんだ。

「で、料理の上に掛かっているソースはゲキカーシヌの実とシブミシヌの実を擂り合わせたもので、覚醒効果があります。それから、デザートにはハカナルの実を用意してありまして、この実は、鎮静効果があります。」

 うん。

 高血圧に効果があるってことは、血圧を下げるんだね?で、血行亢進に血行増進?精力増強と覚醒効果に鎮静効果?

 ブローニュ、お前は俺をどうしたいんだ?

 味で殺す!

 ブローニュのエプロンが目に入る。

 うん、殺す気満々だ。

‘すぐに死に至る’と‘(じき)に死に至る’で、俺は‘黄泉路を行く’訳ね。しかも死者に鞭打つ意味で‘激辛で死ぬ’と‘渋味で死ぬ’で、追い打ちが掛かって‘墓成る’でチーンってことか。

 うん、殺す気満々だな。なんで、こんな名前の魔草を選ぶのかね?まあ、英語っぽい発音で言ってたらわかんないよね?うん。

 もう、泣きそう。

「うむ、余の体を気遣ってくれたのだな.」

 チラリとヒャクヤの方を見ると顔を真っ青にしている。

 赤い、激辛死ぬと渋味死ぬのソースがたっぷりと掛かった、すぐに死に至るの根を箸で摘まむ。

 摘まむと同時に魔草の根が「シッシャシャシャシャ!」と笑い声のような音を発する。

 腕の形に切られた部分が、俺の霊子に反応して、一層、激しく動く。

 逃げちゃダメだ。

 俺は躊躇することなく口の中に放り込む。

「い、行ったぁアアアアアアッ!!流石はサラシナ・トガリ・ヤート陛下です!躊躇うことなく!ウネウネと蠢く魔草に喰らい付いたアアア!!流石はヤート!私の従兄です!!そんじょそこらの(やわ)な王族とは違います!!幼い頃より、姉!トネリに鍛えられた悪食は健在です!!」

 噛む勇気!

 今、俺に必要なのは噛む勇気!!

 まず、痛みが来た。

 うん、スッゲエ痛い。辛すぎるんだね。

 涙腺をマイクロマシンで塞ぐ。

 仮面をしてて良かったよ。顔色までは見えないだろうからね。

 それでも顔面の毛細血管を調節して、顔色が変わらないようにしたよ。頑張ってるよ俺。

 開こうとする汗腺を無理矢理閉じる。

 痛みの次は沁みる。

 沁みるよおオオオオ!

 渋味がスッゲエエ沁みるんですけど!しかも酸味がスゲエ!この、すぐに死に至る!コレ、スッゲエ、酸っぱいんですけど!!

 痛みしかないよオオオオオオ!味なんてしないよおおお!口ん中に棘だらけの小さな鉄球を一杯に入れられてるみたいだよおお!

『とにかく分析するから飲み下せ。』

 無茶苦茶言ってる奴がいるよオオオオオオ!

 ウネウネと動く感触が喉元から胃袋へと移動して行く。胃袋の中でも動いてるよ。なんだコレ?

『霊子を吸引して動いてるんだ。消化されるまで動き続けるな。』

 なんだソレ?食べた後まで気持ち悪いのか。一体、ブローニュはどういうつもりでこんな物を俺に食わせるんだ?

『トガリの体を気遣ってのことじゃないの?』

 ああ、そうか、一瞬、本当に殺されるんじゃないかって思った。

 味のわからないまま、俺は激痛に耐えながら、次々とブローニュの料理を口の中に放り込んで行く。

 最初の一口目では煩かったアラネも黙り込み、スタジアムは静まり返っている。

 観客は恐ろしい物を見るような目で俺を見詰めている。

 いつ死ぬのか、と、心配しているような表情の者までいる始末だ。

 最後の一品を飲み込んで、俺はブローニュに対し、「うむ、ご苦労であった。」と声を掛ける。

「あ、味は、味は、どないでした?」

 最後の最後に関西弁に戻りやがったな。

『それだけ知りたいってことだね。』

 それはわかるが、答える訳にはいかない。

「この勝負は可愛さを競うものであろう。ならば、味のことは差し控える。」

 ブローニュが懇願するような目で俺を見る。

「余が、美味い、不味いを口にすれば、罰せられる者が出る。そのことを承知でと言うならば、敢えて答えてやろう。」

 俺の言葉にブローニュが俯き、「ありがとうございました。」と小さな声で締め括る。

 うん、だって、不味いとしか言いようがないんだもん。無理だよ。

 引き続き、俺はヒャクヤの弁当にも箸を伸ばす。

 ヒャクヤの弁当は安心だ。

 調理していた様子をシッカリ見てたからな。味も体にも良さそうだった。

 で、ヒャクヤの弁当も口に入れたんだけど、まったく、味がしない。

 うん、そりゃそうだ。ブローニュの弁当のお蔭で、口ん中が壊滅状態だからね。くそ。

 よく味わおうと思うんだけど、食感さえ感じることがない。

 鼻から抜けていく風味だけでもと思うのだが、嗅覚まで馬鹿になってる。

 なんか腹立ってきたぞ、なんで、この美味そうな料理を味わうことができねえんだ?

『ま、ま、そう言わずにさ。ブローニュだって頑張ったんだから。』

 クシナハラ、お前ってホントに女には優しいのな?

『そんなことないよ。好みの子だったら、男の子にも優しいよ。』

 うん、そうだった、お前はそんな奴だった。

 俺はヒャクヤの弁当も空にして、二人に向き直る。

 観客たちは、俺がブローニュの弁当を平然と空にしたことで、しーんと静まり返っている。

「二人ともご苦労であった。先に申した通り、味を評することはできぬ。」

 ヒャクヤが、笑いながら頷く。

「いいの。パパが全部食べてくれたから、それだけでも十分なの。」

 ヒャクヤの言葉に俺も笑顔になる。

「ヒャクヤは単分子包丁という扱い難い物を使って、上手く調理していた。感心したぞ。」

「エヘっ」

 ヒャクヤが可愛らしく笑う。

「ブローニュは、その手を見れば、如何に努力してきたかが窺い知れる。よく頑張ったな。」

「え?」

 ブローニュが驚きの表情を浮かべる。

「うん?その指の傷、包丁で切ったんじゃないのか?」

「ちゃうで。」

 オイ。

 オイ、クシナハラ。

『…』

 ブローニュが俺の眼前に両手を差し出す。

「この細かい傷な、これ、新神武道の練習で、巻藁に貫手を打ち込んだ時にできた傷やねん。」

『いや、実際に見てないからさ、俺は。』

 なにを言い訳してやがんだ。この、クズナハラ!

「大体、あたしが料理の練習なんかする訳あらへんやん。」

 ケロッとした顔で言い放ちやがった。

「じゃあ、今日作った料理、味見したことは?」

「練習してへんのやさかい、する訳ないやん。」

 俺は無言のまま、先程食べた料理をテーブル上に再構築する。

 消化せずに、胃袋の中で分析分解したから、ブローニュの作った料理そのままだ。

「え?」

 ブローニュが、再び、驚きの表情を見せる。

「食べろ。」

 ブローニュがウネウネと動く魔草を見下ろし、再び、俺へと視線を転ずる。

「え?」

「お前が、俺にどんな物を食わせたのか、自分自身で身をもって知ってみろ。」

 ブローニュが無邪気に笑う

「そんなん無理やわ。陛下やさかいに食べられるやろと思て作ったんやもん。こんなん、あたしには食べられへんわ。」

 ブチっとな。

 俺は有無も言わせず、ブローニュの口中にブローニュ自身が作った料理の数々を再構築してやる。

「ぐっ!うっううむっ!」

 途端にブローニュの頬がパンパンに膨らみ、目を白黒させだす。

「ぐっがっあああああああ!!」

 ブローニュがウネウネと動く魔草の腕を口から食み出させ、喉を掻きむしりながら倒れて、ゴロゴロと転がり出す。

 俺は転がるブローニュを放って、天覧席に瞬間移動し、音を立てて椅子に座った。

「も、申し訳ございません。」

 即座にヘルザースが頭を下げる。

「お前の娘、二度と料理させるな。」

「は、後ほど厳しく申し付けておきまする。」

 のた打ち回るブローニュを数名の係員が抱え上げて退場となった。

 ヒャクヤは、静まり返る観客たちに、優雅に手を振って、ゲートから退場だ。

「ま、トガリなら、なんでも食べれちゃうもんね。」

 トンナが笑いながら、そう言ってくるが、シャレにならんから、なんでも出してくるなよ。

日付が変わってしまいましたが、本日の投稿はここまでとさせて頂きます。お読み頂き、誠にありがとうございました。

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