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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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いつどこから去来するかわからない死を覚悟する時

 トンナに呼ばれて、再び、聖天浄土のスタジアムに戻る。

 天覧席に置いておいた分体に意識を移すだけの作業なので、突然、視点が高くなる。一瞬、戸惑うが、今は国王陛下トガリだと認識し直して、意識を切り替える。

「大丈夫?向こうで何か起こった?」

「イヤ、別になんでもなかったよ。」

 笑いながら応える。サクヤが内緒で向こうに来てるなんて言ったら、激高したトンナが絶対に行くって言い出す。

 そんなことになったら、今までの苦労が全てオジャンだ。

「次の勝負はなんだ?」

「はい、どうやら、料理勝負のようですな。」

 見れば、闘技場には二台の錬成器が据え付けられ、大きなキッチンシンクが設置されている。

「錬成器があるなら料理にならないじゃないか。」

「多分、食材と調理器具だけの錬成だと思う。食材を調理するのは二人が直接やるんだと思うよ。」

 流石はトガナキノ料理研究家第一人者。この勝負はトンナに解説して貰おう。

『トンナちゃんに教えてるのは俺なんだけどね。』

 二人が同時にゲートから現れ、観客が再び湧き上がる。

「さあ!やって参りました!第二試練!ここから先も目が離せない!次の勝負は皆もわかってる料理勝負!ただし!!ただの料理とは訳が違う!!」

 二人が観客に向かって手を振る。

「食材!調理方法は自由!!しかし!しかし!テーマはぁアアアアアアア!!」

 スタジアムが静まり返る。

「可愛いぃイイイイイッお弁当!!」

 観客が一気に沸点にまで盛り上がる。

「そう!誰かに食べてもらいたいお弁当!!誰かのために作る料理は、悪戦苦闘しながらも楽しい物です!そんな中でも恋する乙女が真剣勝負!ガチで!後先考えず!必死にもがいて可愛く見せようと努力する!それが!!お弁当なのです!!」

 押し寄せる怒涛のように歓声がスタジアムを揺らす。

 ヒャクヤが手首の簡易錬成器で白いフリフリエプロンを再構築する。ピンクのゴシックドレスの上にピッタリとはまったエプロンだ。

 で、未だにレッグガードとアームガードを付けてるのは何故?

 ブローニュも負けじとエプロンを再構築する。

 黒地に白抜きの髑髏が描かれ、‘味で殺す!!’と書道家が書いたような漢字が抜かれている。手にはやっぱり戦闘用の指ぬきグローブだ。

 可愛い勝負じゃなかったの?

「ルールは簡単!!制限時間は僅か一時間!!調理器具自由!!食材自由!!調理法自由!!ただし!錬成器を使えるのは食材の再構築のみ!!以上です!!それではぁアアアアアアアアッ!!」

 一斉に観客が静まり返り、ヒャクヤが舌で唇を舐める。ブローニュが不敵な笑みを浮かべて両の拳を打ち合わせる。

「レディぃイイイ…ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 両者が一斉に走り出し、観客が、同時に雄叫びにも似た歓声を上げる。

「さあ!始まりました!始まってしまいました!女としての女子力を問われる料理勝負!しかも!お弁当を作るという圧倒的女子力勝負!喧嘩が強い?ノンノン!可愛い女には必要ないわ!美人ですって?ノンノン!そんなの三日で飽きちゃうわ!優しいですって?あなたはそれをどうやって証明するの?気遣いができる?あなたはそれをいつ実行するの?そう!胃袋を掴め!!さあ!鷲掴みにしろ!!気遣いができるから!弁当を男に渡すのだ!意中の男の胃袋に丁度いい適切な量!冷めても美味しいレシピは当たり前!目で楽しませて味で虜にしろ!胃袋を掴まれた男は絶対に離れることはない!料理は優しさ!意中の男のことを想ってカロリー計算!栄養補給!そしてなんと言っても!その男が欲する味を極めろ!!」

 スッゲエなアラネ、なんか、スゲエ説教されてる感が半端ないわ。

 俺が恋愛相談に行ってる女子の立場かと思えてくるわ。

「ト、トガリ…」

 トンナの呼び掛けに、俺は「ん?」と言いながらトンナへと顔を向ける。なんか、真剣な表情になってますけど?

「あ、あたしの料理、お、美味しい?」

 ほら、アラネさん、此処に、あなたに惑わされてる女がいますよ?責任取って頂けますか?

「美味しいよ。大丈夫。心配しなくっても十分に美味しいから。」

 問題は食べさせ方なんだけどね。

「ほ、ホント?」

 俺は何度も頷く。

「ホント、ホント。本当に美味しいから心配しないで。」

 できれば、フォアグラを作る的な食べさせ方はしないで頂きたい。

「良かったぁぁ。なんか、アラネちゃんの言葉を聞いてたら不安になってきちゃって。」

 うん、だろうね。

「二人が食材を再構築し!早々と調理に掛かります!」

 アラネの言葉に、俺達は、再び、闘技場へと目を向ける。

 ヒャクヤは、ジャガイモ、ニンジン、カボチャを切って、茹でてから、それぞれをペースト状に裏ごししてる。

 スパイスと塩コショウで味付けして、そのまま、一旦、冷蔵庫に仕舞う。

 牛肉のブロックを再構築、うん、脂身が少ない。ヒレだな。そのヒレ肉ブロックにタコ紐を巻き付ける。一旦、強火で炒めて、多めのバターを投入、弱火に切り替え、コンソメ、デミグラスソース塩コショウでヒタヒタになるように煮込みだす。

 時折、ブロック肉を回し、まんべんなく火が通るように気を付けている姿は丁寧で真摯に見えた。その合間に鯛と鮃、車海老にタラバガニを再構築し、単分子包丁で削ぐように薄く切っていく。

 単分子包丁を扱うにはかなりのテクニックを要する。俎板まで切ってしまうからだ。包丁としては扱い難い単分子の刃物、その単分子包丁を使ってヒャクヤが鯛と鮃を薄く、薄く削いでいく。

 三枚に開くのが一般的だが、ヒャクヤは、五枚、六枚と削いでいく。

 アラを残して、透明の身が何枚も出来上がる。

 沸騰させたお湯に、温度が下がらないようにアラをゆっくりと入れる。お湯の温度が下がれば、出汁と一緒に臭みが出るからだ。アラと一緒に鯛と鮃の兜も炊く。

 車海老は腹の筋を切って、タラバガニは小さめに切り分け、それぞれに飾り包丁を入れている。

 車海老とタラバガニを沸騰したお湯に通して、直ぐに冷水に浸し、取り上げる。

 飾り包丁の切れ目が開いて、白い藤の花が咲く。

 素直に感心する。

 胡瓜、キャベツ、レタス、プチトマトを再構築し、今度は包丁ではなく、切先の鋭利なデザインナイフを使って、器用に形を切り整えていく。

 大根は薄いカツラムキに飾り包丁を入れて、湯に通す。

 大き目の弁当箱、螺鈿細工の施された綺麗な弁当箱が用意され、その弁当箱の周囲から、切り出された胡瓜、キャベツ、レタスが盛り付けられていく。

 葉っぱだ。

 綺麗に切り出された、花を咲かせそうな葉をイメージしてる。イヤ、見る側にイメージさせている。

「驚いたな…」

 素直な感想が呟きとなって漏れ出る。

「ホントだね。あの子、結構、器用だったんだ。」

 俺の隣でトンナも感心してる。

 ペースト状にしたジャガイモにクリームを混ぜ込み、ソースに仕上げ、切り出されたサラダに回しかける。

 アラから取った出汁を金属製のボウルに入れて、更に氷を一杯に入れた大き目のボウルに入れる。

 獣人のパワーで出汁の入ったボウルを高速で回転させる。

 うん、一気に出汁が冷えるはずだ。

 高速で回している出汁の中にお酢と醤油、そして、ソースにしたニンジンを垂らし入れる。

 魚に含まれたゼラチンが固まり、一瞬でジュレができる。

 先に盛り付けたサラダの内側にニンジンポン酢のジュレを敷き詰め、その更に内側には、肉を煮込んでいた煮汁と合わせたカボチャのソースを薄く敷く。

 薄造りに仕上げられた鯛と鮃の片側に、ほんの少しのワサビを塗って、ワサビを塗られていない方を上にして、クルクルと巻く。

 鯛と鮃の花が出来上がる。

 ワサビの緑が花のがく片となっているのだ。

 ニンジンのソースには僅かな醤油とお酢が入れらていた。成程、刺身の花として仕上げるのか。

 俺の知る、現代日本では考えられない弁当だ。時間が経過すれば、食中毒を起こす可能性がある。しかしこの国では、食材が腐る心配をしなくても良い。うん、俺にとっては意表を突いた弁当だが、トンナ達にとっては当たり前のことだ。

 ニンジンジュレの上に刺身の花が咲き、更に車海老とタラバガニの花が咲く。カツラムキにされた薄い大根は綺麗な飾り包丁が入れられ、ユリの花になっている。

 その内側に、再び、胡瓜、レタスそしてキャベツの葉が添えられ、サラダ用のソースが回し掛けられる。

 レアに仕上がったヒレ肉も薄く切られて、紅い花となる。

 紅い花は花托の部分にマスタードが塗られて、その形を整えられている。

 弁当の中央には複雑に切られた数個のプチトマトが複雑に重なり合って大輪の花を咲かせている。

 焚き上がったご飯を食紅でピンクに染める。

 ピンクのご飯と白いご飯、そして、とろろ昆布に海苔を使って、ヒャクヤが人を作る。小さな親指姫のような人形だ。

 真赤な福神漬けをデザインナイフで、小さく、小さく切り取る。

 赤い瞳が出来上がる。とろろ昆布を使ったのは自分の髪の毛が白いからか。

 その人形がプチトマトの花の上に載せられる。

 花畑の中央で、大きな花が咲き、その上には小さなヒャクヤがいる。

 切なそうな笑みを浮かべて、食べようとしている人を見ているヒャクヤだ。

 うん。文句なしに可愛く仕上がっている。味も美味いだろう。うん、間違いない。

「あの子、やるじゃん。」

 トンナも褒めてる。

 トンナが褒めるということは、料理人、美食家の集合人格であるイチイハラが認めるということだ。

 凄いぞ、ヒャクヤ。お前のことで感心したのは、多分、これが初めてだ。


 で、問題はこっち。


 そう、ブローニュね。うん。

 ブローニュの方は、なるべく見ないようにしてた。

 うん。

 ちょっと、怖い。

 だって、見たことのない食材が一杯出てきてたから。

 虫とか、あまり、見掛けない食材って訳じゃない。

 うん、初めて見る物体。

 いや、物体としか言いようがないんだもん。

 何それ?っていう奴が一杯、って言うか、全部、そういうのを使ってた。

「あれは…?」

 ズヌークがブローニュの使ってる食材を見て言ってるのね。

「わからん。」

 ヘルザースね。コイツらにわからないんだから、この世界にポッと出の俺にわかる訳ないよね。

「ジルネシアか?」

 ヘルザースが呟いてるのね。うん、ブローニュの食材を見ながらだよ、もちろん。

「食えるのでしょうか?」

 ローデルね。使ってる食材を知っていても、食えるかどうかはわからないってことだよね?ね?これって食材?

 でね、ブローニュが食材と言って良いのかどうかわからない物を包丁で切ると、その食材が「ヒィイイイイイイイッ」とか、「シギャアアアアアッ」とか、「ピギャアアアアアッ」とか、なんか、あり得ない叫び声を上げてるんですよ。植物っぽいけど、声を上げてるの。

 ね?

 何か、わからない物体って、俺が言ってるの、わかるでしょ?

 マンドラゴラ?叫び声を聞くと、死んじゃうんじゃなかったっけ?

 ね?

 怖いでしょ?

 観客には耳を塞いでる奴がいたもん。

 アラネも最初は実況してたけど、今、黙り込んでるもん。

 もう、水を打ったようにしーん。

 百万人がだよ?

 百万人がしーんだよ。

 多分、ヒャクヤの手元を見てたのは、俺とトンナだけなんじゃないだろうか。

 二人が、同時に「出来たああああ!!」「出来たの~!!」と声を上げる。

 奇しくも二人ともキャラ弁だ。

 ヒャクヤのキャラ弁は文句なしに可愛いし、美味しそう。

 それに対して…

 うん、なんて言ったらいいんだろう。

 ブローニュの弁当ね。

 ブローニュの弁当もキャラ弁なんだけどね、キャラ弁なんだけど…

 そのキャラがね。ちょっとね。うん。

 キャラ弁のキャラがね、動いてるんですけど?

 最初は目の錯覚かなぁ?って思ってたんだけど。やっぱ、動いてるのね。

 なんか、ウネウネとか、ピクピクって感じで動いてて、時折、「ヒャアアア…」とか、「シァヤアアア…」とか、声を出してるんです。

 赤いソースが所々に塗られてて、血にしか見えない。

 血に塗れた悪魔が喰いそうな弁当。

 出来上がった弁当を二人が掲げて、観客席は、しーんだ。

 多分、てか、ほぼ、間違いなく、ブローニュのせいだと思うんだけど。しーんって静まり返ってるの。

「さ、さあ!おふたりの…り、力作キャラ弁が出来上がりました!出来上がりましたが!え?なに?ち、ちょっとお待ちください!」

 アラネの方も、なんか騒ついてるっぽい。実況が止まってたしね。

「…大丈夫だって!お腹壊すことなんてないよ!心配しなくっても大丈夫!…このまま予定通り進行して大丈夫だって!」

 うん、内輪の話はマイクを切ってからしようね。

「…平気、平気、死なないって、もしもの時は私が責任取るから…」

 誰かがあの弁当を食うのか…

 その展開を予想してか、観客席も騒めいている。

「さて!お待たせいたしました!それでは、お二人に聞いてみましょう!ズバリ!そのお弁当は誰のためにお作りになったのですか?!」

 ヒャクヤが「パパのために作ったの!」と、元気よく答える。うん、ありがとう。嬉しいぞ。

 ブローニュが「へ、陛下のために作りました。」と、若干、モジモジしながら答える。うん、お前は俺を毒殺する気だな。

「やはり!お二人とも、サラシナ・トガリ・ヤート陛下のためにお作りになられたのですね!」

 二人がアナウンスに応えるように頷く。

「それでは!お二人の力作キャラ弁を!国王陛下自らに御試食して頂きましょう!!」

 …

 …

 …

 …

 …

 え?

 …

 …

「食べるの?」

 なに?トンナ、今、何か言った?ちゃんと俺のわかる言語で話してくれる?

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