ほっとくと何をしでかすかわからないのが子供です。だから防犯グッズは必須です
「陛下!起きて下さい!」
いきなり、カルザンのドアップ、うん、今日は良いことがありそうだ。って顔じゃないな。切羽詰まり気味ですな。
『唇を伸ばしてチューしちゃおうヨ。』
しねえよ。
「どうした?」
俺はブリッジの指揮者サブシートで意識をハッキリさせ、座り直して姿勢を整える。
「どうしたじゃないですよ!サクヤ殿下とトドネ様にジェルメノム帝国への降下許可をお出しになったんですか?!」
「はあ?」
なに言ってんの?俺がどういう状態だったかわかってるだろ。
「二人がハンガーの整備員に陛下から命令を受けたって言って、勝手にジェルメノム帝国に向かったみたいなんですよ!」
「はああああ?カルザン!お前、何してんだよ!」
「何してんだよ、じゃないですよ!陛下は、操艦員に現総指揮者は私だって通達を出してないんですか?!」
…うん。
出してないわ。
「があああ!!しまったアアアアアアアッ!!!」
思わず頭を抱えて立ち上がる。
「まったく、もう…どうするんですか?」
「ど、どうしよう?」
「だから!それを私が聞いてるんです!」
う、ううう、ど、どうしよう、ホントになんにも思い浮かばねえわ。
『兎に角、通信してみたらどうだ?』
そ、そうか。そうだな。
「サクヤとトドネは何を使って発艦した?」
俺の声に操艦員の一人が振り向く。
「竜騎士一機で発艦されております。」
なんでええ?なんで、一番、火力の大きな兵器で発艦するのかなぁ。
「一応、記録ですと、ヘイカ・デシターから竜騎士の慣熟訓練を実施するように、と、命令されたからだと残っていますが。」
そんな命令出す訳ねぇだろうが。もう、二人ともなに考えてるんだよ。
『オロチのコクピットに行け。』
え?どうして?
『各竜騎士の補助プログラムは、イデアの複製で統一されてる、オロチなら二人の乗った竜騎士をハッキングできるだろう。』
そうか!よし。
「カルザン、俺も出る。」
「え?」
カルザンの驚いた顔が一瞬で竜騎士のコクピットに変わる。
「搭乗者確認、指紋、網膜、脳紋、身体組成構成物質適合率九十四パーセント、霊子体波長同率、ヘイカ・デシターと確認、オロチ、起動します。」
オロチのコクピットハッチが閉まり、火が入る。
「オロチ、ハンガーアウト。」
オロチを支持するダンパーが稼働し、霊子供給パイプが外れる。オロチが自律起動で立ち上がる。
酒呑童子の胸部装甲が閉じて、代わりにフェイスマスクが上がり、同時にオロチ操作用のマウスピースが迫り上がって来る。
マウスピースを咥える。
「バランサー正常、カメラチェック、正常、フィードバックシステム正常値、各可動部霊子モーター正常、連動正常、オロチ、オールグリーンを確認、出るぞ。」
『了解、目視障害物なし、精霊感応波オールグリーン、発艦許可出します。』
電子音と共に発艦許可を報せるランプが点灯する。
ハンガーからオロチを発艦させて、ウロボロスから急速に離脱する。
「オロチ、先に発艦した竜騎士を確認できるか?」
「できます。マーキングしました。」
「よし、ソイツの操作系を奪う。」
「了解しました。マスターの補助が必要になります。」
俺は目を閉じる。
後ろから迫り出してきた霊子感応ヘルメットが分割されて、酒呑童子の頭部と接続される。
俺の脳内イメージで様々な軌跡を描く光が奔る。
稲妻のように、幾何学的に、様々な軌跡を描いて光が奔る。一際大きく輝く光の輝きを中心に捉える。
光の塊に迸る光が集中する。
「接触しました。」
光の塊が汎用型竜騎士の形を成す。
その全身をくまなく走査するように光が奔り抜け、大きく輝き、竜騎士のコクピット内を俺の脳内に投影する。
「竜騎士一00二の操作系、把握しました。」
よし。
「こらっ!!」
「うわっ!」
「なんっ!!」
シート上で爪先立ちしたサクヤが、霊子感応ヘルメットを被り、上半身のマスタースレイブ基幹ユニットと接続されており、トドネが、ズリ落ちたような姿勢でマウスピースを咥え、下半身のマスタースレイブユニットと接続されている。
まったく、器用なことを…
「ト、トガ兄ちゃんの声なのです!」
「と、父さんなんし?」
サクヤ達が駆る竜騎士のメインモニターに俺の顔を投影させる。
「何をしてるんだ!!」
「やっ!」
「ひんっ!!」
三百六十度全面モニターに、突然、俺のアップが映し出され、二人が驚きの声を上げる。
「デ、デシターなんし…」
「デシター君なのです。」
意表を突いた俺のドアップに気圧されて、二人が身を縮こませる。
まったく、何をしてるんだか。
「今すぐウロボロスに戻るぞ!!」
「ま、待ってください!!」
「あ?」
トドネが慌てて自由になる両手を振りながら、懇願するような目を向けてくる。
「ジェルメノム帝国の皇帝陛下の元に行きたいのです!」
「ああ?」
何を言い出してやがるんだ?
「開戦まで時間があるんし。」
「そ、そうなのです!だから、皇帝陛下の気を惹き付けておきたいのです!」
『成程な、あの癇癪持ちのことだ、あと三日間、我慢できないかもしれんな。』
むうん。でも、わざわざ、トドネとサクヤが行く必要はないだろう。
「稽古をつけてやるんし。」
『うむ、他の者より、サクヤとトドネが陛下の相手をする方が効果的だな。』
「あたしは陛下のお話し相手になるのです!」
まあ、年齢も近いし、子供相手に無碍な様子は見られなかったしな。
『アイツも変質的な執念を除けば、普通の子供として考えられる。』
その変質的って部分が気になるんだよ。
『チビトガリを持たせればどうだ?』
魔法使いのアイツにバレねえか?
『チビトガリは無意識領域での接続同期だからな、量子テレポーテーションを使う訳でもマイクロマシンを使っている訳でもないから大丈夫だろう。』
いや、精霊の目で見られたら一発でバレるだろう?
『ふむ、そうか、そうだな。じゃあ、トガリの外見じゃなく、カルザンの外見にしよう。』
それになんの意味が?
『トガリの外見、この場合はヘイカ・デシターの外見だな。その外見を使用した場合は、ヘイカ・デシターが魔法使いだとバレる。』
うん、ヘイカ・デシターの分裂体だとわかってるんだからな。
『しかしカルザンの外見で、カルザンの霊子体の周波数に合わせた分裂体ならカルザンが魔法使いだと判断される。』
うん。それはわかってるよ。
『トガナキノの国民は全て魔法使いだから…』
ああ、カルザンが魔法使いでも問題は無いと。
『そうだ。二人を心配したカルザンが二人の護衛としてカルザンの分裂体を身に付けさせた。そういう設定なら問題ないだろう。』
よし。
俺はオロチを汎用型竜騎士の正面に回り込ませて、副椀も使って汎用型竜騎士を固定し、互いのコクピットハッチを開放させる。
気圧の変化で、強い風が吹き込みサクヤとトドネの髪を乱暴に弄ぶ。
俺は汎用型竜騎士に跳び乗り、一旦コクピットハッチを閉じる。
「か、帰らんし。」
「お願いなのです。」
二人が連れて帰られると思って、俺の思惑から外れたことを口にする。
俺は無言のまま、手甲を外し、左袖を捲って、グローブを外す。
左手首を切り離す。
「いっ!」
「痛し…」
二人が顔を歪める。
再生した手首を更に切り離し、二体のチビトガリを作り出す。
赤いコートを着たチビトガリと黒いコートを着たチビトガリだ。
「フン、人形っぽくないな。」
俺は右手に赤チビトガリ、左手に黒チビトガリをぶら提げ、まず、その外見をカルザンに似せながら、女性へと変容させる。
よし、後は人形っぽくだな。
『頭身を少なくしようか。』
オッケイ。
俺はその頭身を変化させる。
足先と手、そして頭を大きくさせる。
う~ん、顔が今一可愛くねぇな。
『任せてよ。』
おう。芸術家肌のカナデラ先生、頼んますよ。
『顔面の骨格を変形させるよ。』
輪郭は丸く、顔の各パーツは顔の中心よりも、若干、下寄りにし、更に中心へと寄せられていく。
鼻がチョコンと可愛く小さくなって、口も小さくなる。
『極端に変形させると、気持ち悪くなっちゃうからね。』
微妙に配置バランスを変形させる。
『瞳を大きめにしてっと。』
うん。良いんじゃねえか?
『髪型と色も変えとくよ。』
うん、これなら俺の人形だとはバレないな。
ちょっとリアル系の可愛い人形の出来上がりだ。
「オイ!頭が大き過ぎてバランスが取りにくいじゃねぇか!」
赤チビカルザンが一丁前の文句を言う。
「良いんだよ。お前らはサクヤとトドネにくっついてるだけの人形になるんだから。」
「ケッ!なんだよ、それ!つまんねぇ役回りさせんなよ!」
黒チビカルザンは口がワリイな。
『カルザンに似せても中身は俺達の分裂体だからね。』
じゃあ、しょうがないか。
「いいから。とにかく、人形の振りして、二人にそれぞれがくっ付いてろ。無意識領域からイズモリの方に状況を送って来いよ?」
サクヤとトドネに二体のチビトガリを差し出す。
二人とも吃驚顔だ。
「な、なんしか?コレ?」
「な、な、な、な、なんなのですか?」
赤チビカルザンと黒チビカルザンが、俺にぶら提げられたまま、両手を振り回す。
「なんしか?じゃ、ねえよ!トガリ様だよ!お前のお父様じゃねぇか!」
「可愛いとかなんとかぬかしやがれ!」
うん、二体とも口が悪い。しかも、外見がカルザンだから余計に腹が立つ。カルザンの姿をした物は押しなべて、すべからく、全てお淑やかでなければならない。
俺は二体の首根っこを掴み直し、俺の眼前に近付ける。
「お前ら潰すぞ?二人にくっ付いたら、死んでも離れるな。喋るな。動くな。イイな?」
「お、おう。」
「わ、わかったぜ。」
俺は赤チビカルザンをサクヤの頭の上に乗せ、黒チビカルザンをトドネの左腕に掴ませる。
「いいか、二人とも、このチビトガリは俺の分身だ。この二体のチビトガリ、いや、カルザンに似せたからチビカルザンだな。とにかく、このチビカルザンを絶対に離すな。」
俺の言葉に二人が小刻みに首を縦に振る。
「よし、じゃあ、ジェルメノム帝国に行って良し。」
二人が笑顔になる。
「あいがし!」
「ありがとうなのです!!」
竜騎士のコクピットを再び開放する。風が吹き込み俺の黒髪が顔に巻き付く。
俺がオロチに跳び移ろうとした時、トドネが声を上げる。風に負けない大きな声だ。
「やっぱりトガ兄ちゃんは凄いのです!こんなことまでできるなんて!」
俺はコクピットの縁を掴みながら、顔だけでトドネを振り返る。
「なに言ってる!お前が連邦捜査局に行った時だって!そのチビトガリを使ってたんだぞ!」
トドネの顔が驚きの顔になる。
「え?」
「憶えてるか?!セザル・ゴンザレスって賞金稼ぎの事情通を!」
「あ、ハイなのです!」
「あれは!チビトガリを変形させた奴だ!」
「ええ?ええええええっ!!」
トドネの驚く顔を見て、俺は口角を上げる。
「よっ!」
正面に待機していたオロチに向かって跳ぶ。
「ど、道理で、色々ヒントをくれると思ったのです。」
俺は、オロチのコクピットで、耳では聞き取れない筈のトドネの呟きを聞く。
よし、大丈夫だな。
「ふふ、やっぱりトガ兄ちゃんは優しいのです。」
そうだろ?特にお前と子供たちには優しいぞ。
オロチを汎用型竜騎士から離す。
汎用型竜騎士の周りを一度旋回してから俺はウロボロスへと戻った。
「どうだったんです?追い付けなかったんですか?」
ウロボロスに戻った俺をカルザン達が出迎える。
カルザンが切羽詰まった顔でハンガーに駆け込んで来て、俺に迫って来る。後ろにはカルデナ、テルナド、ドルアジが続いている。
「カルザン」
俺の真剣な眼差しにカルザンが身を引きながら頬を赤らめる。
『イヤ、走って来たから、血行が良くなってるだけだろ。』
うん、詳しく言うとそうだ。
「ど、どうしたんですか?何か問題でも起きたんですか?」
カルザンが屈んで、ヘイカ・デシターである俺の顔の高さに合わせる。
俺はカルザンの言葉に頭を振り、カルザンの両肩を力強く握る。
「さっきの表情で、陛下、好きですって言ってくれ。」
カルデナの打ち下ろしの左が俺の顔面に飛ぶ。
寸前で躱す。
あっぶねえ、普通の人間なら首から上が捥げ飛んでるぞ。
「なにしやがんだ!死ぬとこだったろうが!!」
「喧しい!!貴様!カルザン様に不埒なことを申すな!!」
うん、俺もどうかしてた。カルザンの可愛さが悪い。
「デ、デシター君…」
「旦那ぁ」
テルナドとドルアジは呆れ顔だ。
「そ、そんな…ぼ、僕が、へ、陛下とだなんて…」
『うん、カルザンはその気がありそうだよ。』
いや、気の迷いだ。疲れてるせいだ。
俺はカルザンの両肩を軽く叩いて「スマン。疲れから冗談を言ってしまった。」と謝っておく。うん、あくまでも堂々と謝っておく。テルナドの前だからね。
「あ、い、いえ、僕も吃驚して、どう返していいのかわかりませんでした。」
「カ、カルザン様!そんな満更でもないような顔をなさらないでください!」
カルデナ半泣き。
「な、何を言ってるんですか!僕にはそんな趣味はありません!!」
うん、カルザン、一人称が僕になってるぞ。
「そ、そんなことより!トドネ様とサクヤ殿下はどうしたんです?!一緒じゃないじゃないですか!」
俺はカルザンの言葉に頷く。
「うん。帝城に行かせた。」
「え?」
「なに?」
「ええ?」
「か、構わねえんですかい?」
俺は歩き出す。
四人が俺に追随する。
「ああ、一応、手は打った。だから心配ない。ただ、何かあった時はこの作戦はその時点で失敗だ。尻尾を巻いて国に帰る。」
「まあ、お二人がご無事なら、作戦が失敗しても別に構わないんですが、一体、どんな手を打ったんですか?」
それは言えないな。だって説明するのが面倒臭いんだもん。
「発信機兼盗聴器兼盗撮カメラを二人に持たせた。」
「それでなんとかなるんですか?」
頷きながら俺は八咫烏に近付く。
「なる。俺がいつでも瞬間移動で二人を助ける。」
「そうですか、なら、安心しました。」
俺は八咫烏の前で立ち止まる。
「デシター君、どうしたの?」
俺が何故、八咫烏の前で立ち止まったのかわからず、テルナドが俺に聞いてくる。
「テルナド、このハンガー内の監視カメラを全て止めろ。」
「え?」
「カルザン、ハンガー内の操艦員、整備士、全員をハンガーから退去させるんだ。」
「は、はい?」
俺の真剣な雰囲気に、二人は、俺の意図を汲み取れないまま動き出す。
指を組んで、乾いた音を立てる。
「旦那、どうなさるんですか?」
ドルアジの言葉に口角を上げる。横目でチラリとドルアジを見る。
「テルナド、サクヤ、トドネ専用の竜騎士を造るんだよ。」
「え?こ、此処でですかい?」
俺は笑いながら頷いた。




