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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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史上最低王の后になるのに資格が必要か?問われれば必要なのは覚悟です!と、答えてしまう

 そのスタジアムの中央は、一キロメートルトラック競技ができるように設計されており、そのグラウンドの中央五十メートルが柵で囲まれている。

 観客席はその柵の間際にまで押し寄せており、もしもの時に備えて、魔導服を着た治安維持警察が待機している状態だ。

 五十メートル四方を柵で囲まれた、更に、中央、その中心部には格闘技戦用のリングと言っても過言ではない、いや、闘技場だな、これは。

 まあ、一段高くなった台と言うか壇と言うかが設置されてる訳なんだけど、その使用目的から言えば、闘技場かリングが適切だろう。うん、三十メートル四方の闘技場だ。

 南北にはゲートが設置されており、そのゲートからヒャクヤとブローニュが登場するんだろうな。

 おっと、北のゲートが輝き、ヒャクヤが現れる。

 一斉に歓声が上がる。

 ピンクのフレアスカートのゴシックドレス。赤いカチューシャには脳波で動く猫耳が健在だ。

 白いフリル付きニーソーが目に眩しい。

 アイドルでありながら、魔狩りであることもしっかりアピールするため、膝下のレッグガードと前腕のアームガードが違和感半端ない。うん、変だ。

「さあ!ご登場いただきました!!我らがアイドル王妃!あの史上最低王の后とは思えぬ可愛らしさと愛らしさ!そのお姿は我らに癒しと励みを与えてくださいます!!サラシナ!ヒャクヤ!テルナ!王ウウウウウウウウ妃イイイイイイイイッ!!」

「オイ」

「はい。」

「あのアナウンサー、ちょっと殺して来いよ。」

「ハッハッハッハッハッハッハ!」

 結構マジで言ったけど、後ろのヘルザースは笑ってスルーしやがった。

 スタジアムの最上階スタンド、天覧席に俺達はいる。俺は仮面を被って、素顔は晒していない。だから、周りは全面アルミナガラスで囲われ、座り心地の良い椅子に座って、踏ん反り返っているのだが、さっきから頻繁に、アナウンサーが、俺のことを史上最低王、史上最低王と連呼しやがるお蔭で気持ちのイイ天覧席が台無しだ。

 俺の隣には、トクサヤをおぶったトンナがいて、俺の後方にはヘルザース、ローデル、ズヌークが並んで座っている。

「え?殺してくる?死刑にすれば良いの?それとも八つ裂きの刑?絞首刑?どんなのが良いの?」

 トンナは相変わらずだ。

「イヤ、冗談だからイイよ。」

「そうなの?死刑にするならするよ?でも、どんな罪状なの?」

 コイツ、ホントに俺がディスられてることには無頓着だな。その割に訳のわかんないことで不敬だって言い出すんだから、ホント、どうなってんだよ、この姉ちゃんの頭ン中は。

「イヤ、ホント冗談だから。」

 ヒャクヤが両手を振り上げ、歓声に対して応える。

 空中に浮遊する大型モニターにはヒャクヤの満面の笑みがアップで映し出されている。

 ウィンクまでしてやがるよ。もう、絶頂って感じだな。

「ウチの体はトガリ陛下の物なの!でも!ウチの存在は皆の物なの!!」

 スタジアムが、再び、歓声で満たされる。

 うっぜええ。ヒャクヤ、スッゲエ、ウゼエ。

「調子に乗ってるね。」

 トンナもげんなりした表情だ。

 この場で小便チビリだってバラしてやろうか。

「トガリ、この場で、ヒャクヤってオシッコちびりまくってるよ、て、バラそうか?」

 この姉ちゃんも、良い笑顔で、酷いことを言いやがんな。俺みたいに心の中だけに留めておいてやれよ。

「いや、流石に可哀想だからやめてやって。」

「そう?大丈夫だと思うよ?」

 頬を赤らめながら嬉しそうに何を言ってやがるんだか。もう、やめてやれよ。

「いや、ホントにマジでやめろ。可哀想過ぎる。」

「さあ!対戦相手の登場だぁアアアアアア!!」

 アナウンサーの言葉に大型モニターの画面が切り替わる。

 南のゲートが輝きブローニュが現れる。

 気合の入った表情だ。

「おっしゃアアアアアアッ!!」

 ガッツポーズから両手を握ったまま、天を突く。

 こちらも同じく膝下にはレッグガード、なんで?と、突っ込みたくなるが、それは置いておこう。白のホットパンツに白い襟付きセミビキニ、上にはハードな印象の丈の短い革ジャン、手には指貫の赤いグローブと、可愛さを競うんだよな?なんで、戦闘態勢?

 その姿に観客から一斉に応援の声が飛ぶ。

「后になんかなるな!!」

「あんな王様のどこがイイんだ!!」

「ぐうたら王の后になんかになったら苦労するぞ!!」

「美人なんだから俺の嫁になってくれ!!」

 一斉に虐殺してやろうかコイツら。

「へ、陛下、如何いたしました?」

 ヘルザースが驚きながら俺を見上げる。

 あ、いけね、思わず椅子の上に立って、テーブルに足を掛けてた。

「テーブルの上に足を上げるなど、もっと、国王としての気品をお持ちになられませんと。」

 こういう、マナー的なことはヘルザースよりもローデルの方が煩い。

「いや、思わず、ムカッと来たもんでな。」

「はあ?」

 ヘルザース達には、観客の声は綯交ぜになって、ただの歓声にしか聞こえないが、俺は違う。俺の右耳は同時に複数の声を言葉として拾う。マイクロマシンがキッチリと、情報として拾って来て、俺の耳と霊子回路が、一瞬で情報を整理するからだ。

「あたしはぁぁ史上ぅウウウウ最低ぇ王ぅのっ!嫁にイイイイイッ!!なるっ!!!残念女子の称号を既に手に入れ!更なる称号を手に入れるため!残念女子が目指す先はぁぁ史上!最っ低!国王ぉぉの后!!更なる最っ低を目指す女子の心情たるや如何なものなのか!それは我々一般人には計り知れないものがあるのでしょう!可愛い!綺麗!美人!ゴージャス!如何な賞賛も賛美さえも!その女子が志す頂を知れば!雲散霧消する!そう!史上最っ低王の后を目指す女子!ロぅウウウウウエルぅウウウウウ!!ブぅロウウーニュウウウウウウウウウウウ!!」

「なあ、あのアナウンサー、ホントになんとかならねえの?」

 俺はアナウンサー席を指差し、ヘルザースに聞いてみる。

「なんとかなさりたいならご自分でどうぞ。今回のアナウンサーはアラネ様が…」

「あっ無理だ。」

 ヘルザースの言葉を遮る勢いで言っちゃったよ。

「先のカルザン殿の単独ライブのことを根にお持ちでしてな。」

「え?カルザンに抱き付けて、嬉しそうだったじゃねぇか。」

「ええ、私もそう申し上げたのですが、それと、舞台に無理矢理上げられたのは別だと仰られまして。」

 うん、そうだよね。アラネならそんなこと言いそう。

「大丈夫?トガリ。」

「うん、ダイジョブ。」

 なんか、建国記念日セレモニーが俺をディスルセレモニーになってるような気がする。

『心配するな、気のせいじゃない。』

 俺の心を圧し折りにくる奴がいるよぅ。

「さあ!両者が出揃いました!この試練では互いの可愛さを競い合い!ヒャクヤ陛下がブローニュさんの可愛さを認めれば、試練に合格したと見なされます!」

 おお、俺をディスっていない。

『ルール説明だからな。』

「でも、なんで、アラネがアナウンサーをしてんの?」

「ご存知なかったのですか?」

 うん、だって、アラネのことについては、なるべく避けてたから。だって、元許婚だよ?子供の頃に姉のトドネが、無理矢理、段取り付けた許婚なんだよ?

 それが結局、「あたしには、あんたの妻になることなんて絶対に無理!」と、断固としたお断りを入れられたんだよ?

「アラネ様は、今、国営放送局で働いていらっしゃいます。夫が、国営放送局に転職しておったものですから。」

 ええ…じゃあ、もしかして、‘今日は魔獣を狩りたい気分’のカルザン出演についても一丁噛みしてくるかもしれねえじゃん。

「お前、アラネって使いにくくねぇの?」

 なんだよ、キョトンとした顔しやがって。

「どちらかと申しますと、非常に重宝させて頂いております。」

「そうなの?」

「はい。」

 ヘルザースが至極当然のような顔で頷く。

「私共に対しては元王族としてではなく、完全に一般市民として接して下さいますからな。しかし、トンナ王妃…」

 ヘルザースがトンナの名前を出したところでトンナの方を見ると、なんかソッポ向いてやがる。

「う、ううんっ」

 ワザとらしい咳払いをヘルザースが挟む。

「まあ、王族の方々には、多少、睨みが効いておりますので、アラネ様の存在は非常に助かっております。」

 うん、この間、トンナ達が収録をすっぽかした件ですね。その時にアラネに叱られたんだろう。道理で、コイツらが真面目に仕事してると思ったよ。

「トンナ」

「なに?」

「あのアナウンサー死刑にしてきていいよ?」

「うん、無理。」

 アラネ、どんだけツエエんだ?

「さあ!それではまず!お二人の歌唱力対決です!!」

 アナウンサーの言葉に観客が盛り上がる。

 ヒャクヤは手を猫手にしてニャンコのポーズで満面の笑み、ブローニュは新神武道の構えをとっている。

「しかし!ただの歌唱力対決では、普段からアイドル活動をなさっているヒャクヤ王妃が圧倒的有利!そこで!今回の歌唱力勝負では!!即興!新曲での!勝負をしていただきます!!」

 あ、ヒャクヤの表情が固まった。

 対照的にブローニュの口元が厭らしく笑ってる。

 ヒャクヤ、嵌められたな。

 ブローニュとアラネは組んでる。うん。間違いない。

「可愛さではトガナキノ随一!ナンバーワンアイドルのヒャクヤ王妃です!そのヒャクヤ王妃が全くの素人!ブローニュ嬢の挑戦を受けて立ちます!!さあ!どのような歌が飛び出るのか!観客は固唾を飲んで見守ることでしょう!!」

 うん、ヒャクヤを追い込んでる。ヒャクヤに抗弁させないようにスッゲエ追い込んでるヨ。アラネ、お前は一体どこを目指してるんだ?

「メロディーはランダム!!今!この場で!そのメロディーに合わせて!即興で歌って頂きます!!それでは!先行はブローニュ嬢!!スタンバイを!お願いいたしまアアアアアアっす!!」

 アラネの声を一区切りにして、ヒャクヤが不敵な笑みを漏らす。うん?自信あり?作戦があるのか?それとも、実は、ヒャクヤもアラネと繋がっていて、ブローニュが嵌められたのか?

 ヒャクヤが満面の笑みを観客に向けて、手を振りながらゲートからその姿を消す。

 一人、その場に残ったブローニュが闘技場の中央で、仁王立ちとなる。

 で、これのどこが可愛さを競い合ってるの?って雰囲気だ。図ったようなタイミングで国体母艦の上空を雲が覆う。

 暗くなった闘技場に静かなピアノの音が流れ出す。

 朗々と静謐な弦楽器の音がスタジアムを包み込み、雲の切間が闘技場を照らす。

 ブローニュが顔を上げて、日の光を浴びる。手を目一杯広げ、大きく口を開き、その喉から信じられない高音を叩き出す。

 新神武道で鍛えに鍛えた体だ。肺活量と声量には、目を見張るものがあった。

 高く伸び上がる高音が天に向かって突き抜けていく。

 祈りにも似たその声にスタジアム中の観客が絶句した。

 ピアノのメロディラインにベースとドラムのリズム隊が加わり、音に厚みを持たせる。

 ギターにバイオリン、そして、管楽器の音が重なり、音を織りなす。

 ブローニュが小節を効かせる。

 え?

 あれ?

 え、演歌…?

 低音は重く、高音は伸びやかに。

 でも、凄く小節を効かせてますけど?

 歌詞は一人の男に対する情熱的な愛を歌い上げているものだった。切なく、情愛をたっぷりと含んだ歌。届かぬ想いをどうすれば届けることができるのか、淫靡な情感を含ませ、訥々と胸に刻むような歌詞だった。

 その歌を、小節を効かせて歌ってますけど、演歌のプロですか?

 静かに歌が集束していく。

 ブローニュから発せられた歌が、また、静かにブローニュへと集束していく。

 歌と共にブローニュがゆっくりと跪き、その頭を垂れる。

 楽器が鳴り止み、歌が、その場にブローニュという雫となって残る。

 静まり返り、再び、スタジアムの上空を雲が覆う。

 ブローニュが立ち上がり、満面の笑みを観客に向けた時、地鳴りを伴う稲妻が走った。

 スタジアムの観客席を、絶縁破壊を起こした爆発音にも似た歓声が満たす。

 天覧席のアルミナガラスを震わせるほどの歓声。

「スゲエな。」

 俺の呟きをヘルザースが拾う。

「誠に、我が娘であることを差し引いたとしても、娘にこれほどの才能があったとは…」

 でも、可愛かったか?可愛さ勝負だろ?良いのか?これで。

『良いんじゃない?だって、ブローニュ、凄く上手かったもん。』

 まあ、芸術家の集合人格が、そう言うんだから、良いんだろうな。

 ちなみに俺がスゲエなって言ったのは、観客の歓声に対してね。

『だろうね。でも、この世界の人間は演歌なんて聞いたことが無いだろうから、凄い新鮮に聞こえたろうね。』

 だな。

「素晴らしい歌声!ありがとうございました!!」

 総立ちで拍手をしていた観客はアナウンサーの言葉を無視して、拍手を続けている。

「さあ!続きまして!可愛いの原点!歌って踊れる魔狩りのオオオオっ王妃!ヒャクヤ陛下のご登場でエエエエっす!!」

 拍手が徐々に鳴り止み、静かになって、北のゲートが輝く。

 そのゲートから、ヒャクヤが、前転してからの伸身宙返りで登場する。

 再び大瀑布の如き拍手がスタジアムを包み込む。

 ピンクのゴシックドレスにハードなデザインの黒の皮ベストを着こみ、ちょっと印象を変えてきた。

 着地と同時に跪き、静かにメロディーが流れ出すのを待つ。

 いきなりリズム隊の音から始まり、ポップなメロディーとハードなリズムが重なり、結構、複雑なメロディーラインを構成する。

 ヒャクヤが俯いたまま立ち上がる。

 両腕は力なく垂れ下がり、片足を軽く曲げて立つ姿、瞼を閉じてジッと動かない。儚げな少女を演出しながら、きっと、複雑なメロディーラインを確認しているのだろう。テンポも速い、先の展開が読みにくいメロディーだ。

 先程のブローニュとは違って、これはキツイな。

 どのような歌詞を当て、どのように歌い上げるのか、今、ヒャクヤの脳はその構成のためにフル回転してるのだろう。

 一際強いドラムの一打。

 その瞬間を待っていたようにヒャクヤが動く。

 獣人特有の反射速度と運動能力を駆使して、読み取ったメロディーに合わせて体を自由自在に動かし、キレッキレッのダンスを披露する。

 その動きに合わせて、観客たちも立ち上がって踊り出す。観客を盛り上げるのは上手い。上手いが、この勝負は歌だ。

 可愛く、歌うことが勝負なのだ。

 踊りながらヒャクヤが口を開く。

 獣人だ。

 肺活量と声量なら、ブローニュに負けない筈だ。

 長いダンスの末、遂にヒャクヤが歌い出す。

 猫手で招き猫のポーズを決める。

「ニャン!」

 にゃん?

「にゃん!ニャンニャニャんニャンニャンにゃニャン!にゃにゃっニャン!!ニャン!にゃんニャンニャンにゃニャニャニャン!!ニャニュにゃニャン!!」

 うん。

 吃驚した。

 まさか、全歌詞をニャンで済ます気じゃないだろうが、取敢えず、これなら、歌詞は関係ない。

 歌なの?と、問われれば、歌です。猫の歌です!と、言い切ってしまえば勝ちのような気もする…

 犬のお巡りさんでも、ニャンニャンニャニャンって歌詞があるしな。犬のお巡りさんは何言ってるのかわかんなくって困ってたけど。

 うん、まあ、とにかく、ダンスには必ず猫手を入れて、可愛い仕草も取り入れてるから、勝負のルールとしては成り立ってる。

 成り立ってることは間違いない。…と、思う、多分。

 でも、まだ一言も人語が入ってきてませんが、大丈夫ですか?

 …

 …

 …

 …

 うん、取敢えず、最後まで聞いた。

 最後の最後までヒャクヤは‘ニャン’で歌い切った…

 犬のお巡りさんの気持ちがよくわかる。

 ある意味スゲエよ。マイ〇ル・ジャクソンが、ずっと「ポォウッ!」だけで、歌ってるみたいだった。

 演奏が終わった瞬間、ヒャクヤは観客席に向かって「だから好きなの!」と、歌詞を締め括った。

 うん、すいません。最後に一言だけ、人の言葉が入ってました。もう、なんか、取って付けたように好きなのって言われてもなぁ。

 何がどうして、何故、好きなのかは、まったくわからない。まったくわからないが、可愛い女の子に「だから好きなの」って言われたら、しょうがないわな。「じゃあ、僕も好きです。」って言っちゃうのが、お年頃の男の子だもんな。だから、男の子は「ありがとうございます。」ってことで、ニャンでもかんでも納得するだろう。うん、間違いない。

「歌?」

 トンナが俺の隣で全員が思っているだろう疑問を口にする。

「歌なんだろう。ヒャクヤが歌だと思ってるんなら…」

「歌なの?」

 もう一度、聞くなよ。心が折れるから。

「さあ?多分…」

 ほら、折れたじゃねぇか。

 俺とトンナは呆気に取られていたが、観客席は総立ち、拍手の嵐だ。

 ダイジョブか?この国の国民。なんか、全員、オレオレ詐欺に引っ掛かりそうで怖いんだが。

「なんとも凄まじい歌詞でした!!可愛さは文句なし!しかし!コレは歌なのか?!実際の所!審議だと思われます!!」

 アナウンサーの言うとおりだよ。

 ヒャクヤが手を挙げる。

「おっと!!ヒャクヤ陛下から直々の物言いです!!」

 え?相撲?

 アラネ、相撲、知ってるの?

「それでは!ヒャクヤ陛下からの物言いを、皆さん!聞いてみましょう!!」

 拍手が静まる。

 ヒャクヤが両手を広げて観客席に訴えかける。

「ウチの気持ちを猫語にして歌ったの。皆にはゴメンナサイなの。でも、ウチは国王陛下のことが大好きなの。だから、国王陛下に対する気持ちを歌ったの。」

 オイ、俺を巻き込むなよ?

「そうなの、だから、恥ずかしいから、皆にわからないように猫語にしたの。」

 両手を胸に、切なそうに訴える。

 スタジアムは静まり返っている。

「それでも、ウチのことを好きな国王陛下なら!ウチの猫語を理解してくれてるの!!」

 なに力強く言ってんだよ…わかるわけねぇだろ!!

「ふううん。やっぱりトガリって凄いね。」

 感心しながらトンナが俺を見る。

「そんな訳が…」

「素晴らしい!!ヒャクヤ陛下の歌は国王陛下に向けた愛の歌だったのですね!!それでは!天覧席の国王陛下にヒャクヤ陛下の猫語を翻訳して頂きましょう!!」

 …

 天覧席にいる全員が俺に視線を集中させてる。

 観客も一斉にこちらを見てる。

 ゴクリと唾を呑む音が木霊する。ああ、俺の喉だ。そりゃ頭の中で木霊するわな。

 一体どうしろって言うんだよ。

 え?マジで?

 百万人の視線って物理現象を起こすんだな。全身の痛覚が悲鳴を上げてるよ。

『諦めろ。』

 既に諦めてるから困ってるんだろ。

『マイクロマシンで広域拡声させる準備良し。』

 完っ全に他人事だな、お前。

「ウホンッ」

 うん、考えろ。

 結構長かったぞ…

『歌詞が長いから、要約すると言え。』

 うん。イズモリ、その調子で頼むぞ。

「ええ~、歌詞そのものが長いので、要約する。」

 百万人の人間が注目するって、スッゲエ緊張するのな。声が裏返りそうだよ。

『トガリは、いっつも行き当たりばったりの無茶をする。』

 おお!カナデラ!頼むぞ!ビバ!副幹人格!

「それでは、‘トガリは、いっつも行き当たりばったりの無茶をする…’まあ、最初の方はこんな感じだな。」

『私はそんなあなたに振り回されて、でも、やっぱり付いて行く。』

「ウッウウン、‘私はそんなあなたに振り回されて、でも、やっぱり付いて行く’だったな。」

 ヒャクヤ、なんだその期待一杯の目は。俺はもう既に一杯一杯だぞ!

『犯罪者であろうとも、嘘吐きであっても私はあなたが好き。』

「犯罪者…で、あっても…嘘吐きで…あっても私はあなたが好き…」

 カ、カナデラ?

『そんなあなたに付いて来て、私は王妃になった。やっぱりあなたは素敵で凄い人。』

「そ、そんなあなたに付いて来て、私は王妃になった。やっぱりあなたは素敵で凄い人。」

 嘘吐きで犯罪者が、素敵で凄い人?スッゲエ駄目なヤクザ者を想像しちゃうんですが、ちょっと、胸が痛いかも…

『極悪非道で優しいの、嘘に塗れていてもホントなの。』

「ご、ご、ご、極悪、ひ、ひ、非道で優しいの…う、嘘に塗れていても…ホ、ホントなの。」

 つ、辛いんですが…カナデラさん?

『で、最後に‘だから好きなの!’って言って。』

「で、最後に人の言葉で、だから好きなのって感じだったな…」

 俺の言葉が終わると同時に、一斉に観客がヒャクヤに視線を転じる。

「パパ~だから大好きなの~!!」

 嬉しそうに笑ってやがんな、あのバカ女…

 観客からの拍手を受けて、ヒャクヤはご満悦だ。

 最後は、全部、俺に丸投げしやがった。

 で、カナデラが俺をディスりやがった。なにコレ?なんの刑?

「へえ、そういう歌詞だったんだ。」

 トンナが素直に感心してる。そんな歌詞な訳ねぇだろ!なんの因果で自分自身で百万人の観衆の目の前で!自分自身が悪逆非道の犯罪者だって自白しなきゃいけねぇんだよ!もう!訳がわからんわ!!

『ヒャクヤの歌詞を翻訳しただけだから、自白じゃない。』

 そんな言い訳が通るわけねぇだろうが!此処にいる奴らのほとんどが新神記を読んでんだぞ!

「え~それでは!国王陛下の告白が聞けたところで、次の対決勝負に備え、お二方には、一旦、ご休憩に入って頂きます。闘演台では、次の勝負のために準備を致しますので皆さんもトイレに行くなどして適当にお待ち下さい。」

 なんだよ。その投げやりなアナウンスは。

 見ろよ、しっかりアラネが告白って補完しやがったじゃねぇか。

『見てない。聞いたがな。』

 もういいよ。

「でも、二人とも、歌、上手かったね。ね?」

「そうだね。」

 ヒャクヤのは、歌じゃない。あれが歌だったら、シンセサイザーの音も歌になる。ニャンニャン音の出るシンセサイザーだ。

「パパ~!!」

 ヒャクヤがノックもせずに飛び込んで来る。

 振り向いた俺の首に抱き付き、頬にキスして「ありがとうなの~!」と大喜びだ。

「もう、スッゴイ困ったの!」

 ええ、そうでしょうとも。

「歌詞なんて思い浮かばないし、ニャンニャン言って誤魔化せばいいと思ったの。」

 ええ、よくわかってますよ。

「でも、ウチが考えてたこと、よくわかったの!」

 え?

「ずっと、パパが言ってくれたようなこと考えながら歌ったの!」

 スゲエなカナデラ。

『そりゃあ、ヒャクヤとアヌヤとは俺が繋がってるからね。』

「パパとウチは一心同体なの!」

 そうか、そりゃあそうだよ。

 俺の副幹人格、カナデラはヒャクヤとアヌヤに霊子を供給するために繋がっている。そうか、じゃあ、満更、嘘の歌詞って訳でもなかったんだ。

『そうだよ?俺が作詞したんなら、もっとまともな歌詞にするよ。』

 ヒャクヤは本当に嬉しそうだ。

 ま、この笑顔のためなら、良いか。

『そうだよ。』

「ヒャクヤ陛下。」

 ローデルが渋面でヒャクヤの話し掛ける。

「うにゃ?」

「まずは、退出して頂き、ノックをしてから入室なさいますように、たとえ后陛下であらせられても、この部屋には国王陛下がいらっしゃるのですから、ちゃんとノックをして、国王陛下のご許可を頂戴してから入室致しませんと。」

 うん、ローデルはそういうの煩いよねぇ。

「うにゃ」

 ヒャクヤが眉尻を下げるが、ローデルは表情をまったく動かさない。

「やり直しておいで、こういうことに関しては、ローデルは絶対に折れないから。」

「もう…」

 ヒャクヤが渋々退出し、ノックの音を響かせる。

 へ…い、…

 うん?

 へい…こち…戻って…

 カルザンか?

 俺は、ヒャクヤに「お入り。」と言って、ヒャクヤの入室を確認する。

「向こうで呼ばれたんでな、ちょっと、向こうに飛ぶ。」

 全員が俺に注目する。

「何かあったのかしら?」

 トンナが心配気な表情を浮かべる。

「まあ、何かあったとしてもなんとかなるだろ。」

「そうだね。トガリが行くんだもんね。」

「じゃあ、パパ、気を付けてなの。」

 俺は皆に見送られながらジェルメノム帝国上空のウロボロスへと意識を向けた。

本日の投稿はここまでとさせて頂きます。お読み頂き、誠にありがとうございました。

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