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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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一旦、帰宅してみた

「ただいまア。」

 無縫庵の玄関前まで瞬間移動して、玄関扉を開けて中に声を掛けるが、誰からの返答もない。

 皆、出掛けてるのか。

 ブーツを脱いで、家に上がる。

 ふと、玄関から続く天井を見上げる。

 格子に編まれた竹が寸分違わず、同じ寸法で四角を形成している。格子の目には綺麗な木目が走る、木の板が、隙間なく張られている。

 網代天井だ。

 天井と壁の境目には廻り縁、鴨居、全て綺麗な木目が走っている。

 白い漆喰の壁。

 黒い桜の廊下。

 思い出す。

 ヤート族の集落にあった家々を。

 家と呼べる物は少なかった。

 テントのような家ばかりだった。

 黒光りする床に足を投げ出し座り込む。

 ボンヤリと廊下の先を眺める。

 廊下に反射する光を影が遮る。

 曲がり角から黒い獣がのっそりと姿を現す。

「主人よ、そんな所に座って如何した?」

「ただいま。」

「うむ、元気に戻られてなにより。」

 ロデムスが俺を出迎えながら、ゆっくりと近付いて来る。

「あ。」

 ロデムスを見て思い出す。

「如何した?」

「いや、国から脱出する時にキバナリを一匹、思いっきりど突いたんだよな。」

 器用に顔を顰めやがるな。

「主人に、力一杯殴られたとあっては、堪ったものではないな。」

「やっぱそうか?」

 ロデムスが俺の隣に来て、座る。

「うむ、想像もしたくないのぅ。」

「ところで、お前さぁ。」

 ロデムスが顔を傾げる。

「うむ?」

「その爺臭い喋り方、なんとかならねぇの?」

 ロデムスが目を眇める。

「キャピキャピした話し方が所望かの?」

 キャピキャピって、また、古い言い方を、まあ、その感じじゃ無理だわな。

「いや、気にすんな。そのままで良いや。」

「ふん。」

 ロデムスが床に伏せる。

 俺も腕を枕にして横になる。

 ヒンヤリとした床が硬くて気持ちいい。

 いつの間にか眠る。

 誰に邪魔されることなく、俺は深く眠っていた。


 組んだ腕に重みを感じて、目が覚める。

 右を見る。

 ヒャクヤがロデムスと俺の間に挟まって横になっていた。

 左を見る。

 トンナがトクサヤを抱いて、壁と俺に挟まれて横になっていた。

 重みの掛かった上を見ると、そこにはアヌヤの膝があった。

 体を丸めて眠るアヌヤの膝が俺の腕に乗っていたのだ。

 皆を起こさないように、アヌヤの足の下から、そろりと腕を抜いて、上体を起こす。

 大きく開いた俺の足の間にコーデリアとトルタスが抱き合って眠っていた。

 コルナは、まだ仕事だ。トロヤリも学校だろう。

 コーデリアとトルタスの頭を撫でる。

「ううん。」

「くふふっ。」

 注意深く立ち上がる。

 俺が寝ていた床を振り返ると、そこには俺の型が切り抜かれていた。

 うん、器用なもんだ。

 よくもこれだけ詰め詰めで、俺に触れないように寝転がったもんだ。

 子供の寝顔は幸せにさせてくれる。

 幸せそうに眠る子供の顔は、幾ら眺めていても飽きがこない。

 もう、思い出せなくなってしまった、日本に置いて来た家族。

 幸せそうに眠るトルタスとコーデリアを見ていると、罪悪感が澱のように降りて来て、俺の胸に溜って重くなる。

 もう、子供が息子だったのか、娘だったのかも思い出せない。もしかしたら、二人いたのかもしれない。

 父はどうだろう。母は生きていたのか。

 妻はどんな人間だったのか。いたのか、いなかったのか、日本人なのか、そうではないのか。

 もうすぐ、俺は日本という国のことも忘れて、家族がいたことさえ忘れてしまうのだろうか。

 家族のことを思い出す機会が減っていく。

『それだけ、家族のことを考えない時間が増えている、と、いうことだ。』

 何故、思い出す機会が減っているのだろうか?

『この肉体がトガリの肉体だからだ。』

 トガリの肉体に日本の家族の記憶はないから。

『そうだ、だから、マサトの記憶が消えていく。肉体は精神体の刻んだ記憶を保存するが、あくまでも肉体が経験して、精神体に記憶として波紋が起こるのだ。その波紋を肉体が記憶として刻む。』

 精神体の記憶だけでは肉体に記憶として刻むことができない…

『記憶として刻むには足りない…そういうことだ。』

 そして、俺はトガリになるのか。

『すでにトガリだ。』

『俺もトガリだよ。』

『そうだね。俺達はトガリなんだよ。』

『強ければ誰でも構うもんか』

『トガリの方が女の子にモテるからイイよね。』

 うん、そうだな。俺達はトガリなんだ。うん。

 俺はトルタスとコーデリアの頭を撫でた後、一人づつ順番にベッドに運んだ。


「史上最低王の后になりたい!と、とんでもないことを言い出した女子がいた!!」

 このアナウンサー、いきなり、何をぬかしてやがる。後で()ちのめしてやろうか。

「その女子に降りかかった災難は!史上最低王の后になりたい残念女子のレッテルだけではありません!先に后として君臨していらっしゃる!神州トガナキノが誇る四女帝!!」

 オイ、女帝ってなんだよ。

「トンナ王妃!ヒャクヤ王妃!アヌヤ王妃!コルナ王妃の四女帝が黙っていらっしゃるわけがありません!!」

 だから、王妃って言ってるくせに女帝ってなんだよ。

「四女帝が君臨する限り!史上最低王の后に相応しいのかどうかは私達が決める!そう(のたま)ったからには、残念女子には堪らない!!そうです!本日から三日間に渡って四女帝の内!三女帝の試練を受けることになったのです!!」

 拙ったな。カーネルには建国セレモニーの中心は新神浄土だって言っちゃったよ。

『カールソンだ。』

 そうそう、カールソン。

 巨大な歓声が建物を揺らす。

 巨大なスタジアム。

 確かに俺が造った。

 でも、こんなに大きく造った記憶はない。

 いつの間にか、勝手に造ってやがった。てか、改築してやがった。いや、新築だろ、これ?

 もう見る影もないよ。ホント、マジで。

 凄い人員を裂いたらしい。

 一般市民も手伝って、昼夜を問わずに突貫工事をしたらしい。

 安寧城のある新神浄土ではない。

 城塞都市を載せている国体母艦としては、俺が五番目に造った国体母艦だ。

 聖天母艦とヘルザースが勝手に名付けて、城塞都市名は聖天浄土だ。

 基本的な構造は新神母艦と同じだが、安寧城がないため、艦橋っぽい突出した部分がない。中央役所としての建物が艦橋として建造してあるが、それほど高層の建築物ではないのだ。

 最下層の地盤面に当たる階層は弄っていないようだが、このスタジアムを造るために第二階層から弄り倒しやがった。

 聖天浄土のほぼ中央、そこを最上階層から第二階層までぶち抜きやがったのだ。

「…ここに住んでた…国民は?」

 俺が震える声でヘルザースに聞いたところ、「陛下が新たに国体母艦を建造して下さったのでな。そちらに移住して頂きました。」と、平然と答えやがった。

「文句は出なかったの?」

「はい。このセレモニーのチケットを各世帯の人数分渡すと申しましたら、素直に二つ返事でございました。」

 馬鹿じゃねえの?この国の国民。

 と、いうことで、聖天浄土の中央にはアリジゴクの巣に似た擂鉢状のスタジアムが出来上がっていた。

 仮に、このスタジアムが地上に建造されたとして、国体母艦が認識出来る光学機器を使えば、多分、成層圏から見てもハッキリと認識できるぐらいの大きさだ。

「収容人員は?」

「約百万人でございます。」

 やっぱ馬鹿だ。うん。最初はそう思った。

 空っぽのスタジアムを見た時にね。

 王妃になるための試練を見るために百万人って、馬鹿じゃねえの?そんなに入るわけねぇじゃんって思ったわけよ。

 で、今、凄い入ってる。

 もう満席。

 そんなに暇なの?ってくらい入ってる。

「強度とか、耐震性能とかは大丈夫なのか?」

「はい、一応、イデアの最終検査を受けておりますので、問題はないかと。」

 この国の、というか、この世界の人間に、強度という数値化された概念はなかった。以前、俺が、大工などの職人に「この建物の壁、耐力強度はどれぐらいなんだ?」と聞いたところ、「タイリョク?キョウド?なんですかそれは?」と聞き返されたことがある。

 この世界だけではなく、現代日本でも一職人が構造体の強度を問われて、ハッキリとした数値で答えられるか?と、問われれば、答えられないだろう。ただ、「震度七の地震だったら耐えられます。」とか、「震度八の地震でも全然平気ですよ。」と、いうような受け答えはできる筈だ。

 この世界の人間は、その全ての物を経験値と勘で作っている。

 だから、この世界の人間は「絶対に壊れません。」とか、「滅多なことでは壊れません。」と、簡単に口にする。

 百万人を収容できるスタジアムで、そんなことを言われた日には堪ったもんじゃない。

 信用度ゼロのスタジアムに百万人、ゾッとするよ。

 各国体母艦の城塞都市は階層型の都市だ。

 八層からなる階層の地盤プレートは、強度計算をして十分な耐力を持たせているが、その各階層の地盤プレートをぶち抜いて建てられたスタジアムだ。絶対に強度が落ちる。落ちるどころか、そのぶち抜かれた穴の大きさから、よく地盤プレートが圧し折れなかったもんだと感心すらする。

「下の階層から穴を作り、耐力壁と柱で補強しながら穴を広げていきましたからな。」

 ヘルザースが自慢気に言い放つ。

「でも、よく浮力と城塞都市の自重バランスを崩さなかったな。」

「当然、事前に計算しております。」

 城塞都市を支える最下層の地盤プレートは、質量変換システムと磁力によって浮遊している。浮力を与えられた物質は限りなく浮遊する。その自重と磁力のバランスによって、空中で静止するのだ。

 地盤プレートの一部と密集した建物を失くすことで、その自重バランスが崩れ、城塞都市は必要以上に浮き上がる。

「補強材の密度を必要以上に圧縮させ、その質量を重く、強度を上げておりますのでな。ちゃんと計算しております、ご心配には至りませぬ。」

「その計算、俺の企業を使ったろ?」

「うっ、ま、まあ、発注は致しました。」

 俺は、内緒ではないけど、国民には内緒で、企業を幾つか起こしている。

 野菜の品種改良や、肥料、養殖魚類の餌の研究、牧草の品種改良、あと、建築工学の研究、事故防止研究など、研究することを主な業務にしている企業がほとんどだ。

 高度な科学技術が与えられただけでは、問題が起きる。問題とは、俺がこのスタジアム建設に対して抱いた疑念のことだ。

 しかし、この国の国民は俺の抱いた心配事をクリアーしていた。

 馬鹿な国民だと言ってきたが…

『それでも着実に進歩している。』

 ああ、着実に前に進んでいる。

「馬鹿な国王に付いて来る馬鹿な国民…」

 俺の呟きにヘルザースが俺の方を見る。俺はヘルザースの顔を見る。

「だが、誇らしき国民だな。」

 俺の言葉にヘルザースが満面の笑みを見せる。

「御意。」

 ヘルザースの言葉に俺も思わず、笑顔になった。

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