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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
50/405

サクヤリウム(Skr)+トドニウム(Tdn)はトガリウム(Tgr)を燃焼させる

 二人をオロチのコクピットに押し込んで、三人で帝城に向かう。

「これが竜騎士のコクピットなんし!!凄いんし!周りが全部見えるんし!」

「あたしはスサノヲに乗ったことがあるのです!」

「ヘイカ・デシター!今度はアチシをスサノヲに乗せるんし!」

「ちなみにあたしが操縦したのです!」

「ヘ、ヘイカ・デシター!オロチの操縦をアチシにさせるんし!!」

「サクヤちゃんだと小さすぎて操縦できないのです!」

「できるし!背はトド姉とあんま変わらんし!」

 もう、勘弁してくれ。ゴメンって言ったら許してくれる?

「今の遣り取りをトンナ母さんと婆様が見たらなんて言うかな?」

 二人がすぐに静かになる。

 二人の苦手な名前を出すというのは、あまり良い手ではないのだが、それでも、煩すぎる。

 帝城の屋上部分で俺を、五人の衛士と共に待つコッペを見付ける。 

 静かに着床し、俺達が降りるとコッペが「おや?」と声を上げる。

「これは、これは、随分と可愛い魔狩りの方たちだ。」

 皮肉たっぷりの口調でコッペが俺達を出迎える。

「サクちん、気を付けるのです。仮面を付けてるのに可愛いとか言ってるオジサンは間違いなく変態なのです。」

 トドネが、コッペに聞こえるよう、サクヤに耳打ちする。耳打ちするならもっと小さい声でしていただきたいものだ。

「そうなんし、きっと、仮面を付けてる小さい女の子が好みの変態なんし。」

 サクヤはコッペをキッチリ指差して変態だと言い切りやがった。

 どっちもどっちだけど、どっちもどっちだよなぁ。

 指を刺されたコッペは蟀谷に青筋立ててるよ。たださえ、俺のことが嫌いなのに、もっと嫌いになっただろうな。

「で、陛下に話したいことがあると伺っておりますが、どのような用件ですか?」

「ドネちん、変態がまともに喋ってるんし。」

「気を付けるのです。変態の傍に寄ったら変態がうつるのです。」

 コッペの顔色が真赤になってるよ。

「まあ、コッペ、子供の言うことだ気にするな。」

「あ、あなたも子供ですがね…」

 コッペ、声が怒りで震えてるぞ。

「その子供三人が、わざわざ、なんの用なのですか?」

 皇帝陛下も子供なんだけどな。

「トガナキノに対する開戦時期について相談に来た。」

 コッペが鼻で笑う。

「お子様三人で陛下と開戦時期についてですと?ハッ!笑わせないで頂きたい。」

 サクヤが尋常ではない動きを見せる。

 コッペが瞬きした一瞬で、コッペの前に回り込みコッペの足を踏み抜く。

「ギャッ!!」

 あまりの痛みにコッペが頭を下げる。

 近付くコッペの襟首をサクヤが取って捻る。

「グッ!」

 襟首が絞まってコッペが声を出せなくなる。

 サクヤがコッペの右肩を掴んで下へと捻じり、コッペの上半身に負荷をかけ、動きを封じる。

 キッチリと右の肩甲骨と鎖骨の隙間に左手の指を捻じ込み肩関節を極めているため、コッペは右腕を殺されている。

 サクヤは喋らない。ジッとコッペの目を見詰めるだけだ。

 コッペは右肩を下、左方向へと捻じられ、絞められた襟首は逆方向へと捻じられているため、呼吸ができない。

 顔が蒼くなって舌が飛び出している。

 サクヤは無表情だ。まるで、いつ死ぬか観察してるみたいだ。

 コッペが連れて来た衛士五人の霊子体は既に俺が乗っ取らせて頂いているから動けない。

 俺の霊子回路は三十個以上あるのだ。五人の波長に合わせることはなんでもない。

「サク、その辺でやめてやれ、本当に死ぬぞ。」

 俺はサクヤの偽名で呼び掛けながら止めに入る。しかし、サクヤはその手を緩めない。

「まだ大丈夫なんし。あと、二秒ほどで意識を失くすんし。」

 怖えエエ。静かな口調で言うとか、我が娘ながら怖すぎだろ。この、いきなりの暴力行為、トンナの血が濃すぎるんだよなぁ。

「サク、やめろ。」

 俺の真剣な声を聞いてサクヤが「ちっ」と舌打ちして、ようやくコッペから離れる。

「サクちん、変態に触ったのです!変態菌がうつっちゃうのです!」

 サクヤが途端に顔を真赤にさせて「ドネちんにうつしたら治るんし!」と言ってトドネを追い回す。

 二人はキャーキャー言いながら楽しそうに鬼ゴッコを始める。

 四つん這いになって咳き込むコッペに俺が近付くと俺の影を見たコッペが俺の方を振り仰ぐ。

「ば、化け物が…」

 コッペが負け犬の遠吠えを口にする。

 俺は左頬の傷を歪めながら笑う。

「魔狩りをただの人間扱いしてくれるオメエは優しい奴だよ。」

 コッペが俺から視線を外す。

「さあ、とっとと案内しろ。時間がねえんだからよ。」

「くっ」

 コッペがようやく立ち上がり、俺達に背を向ける。

「二人とも、行くぞ。」

 俺の呼び掛けにサクヤとトドネの二人が走りながら俺の背中に突っ込んで来る。

「ドーンッなのです!」

「ドーンッなんし!」

「うぐっ!」

 もう、なんのなのコレ?


 案内された部屋は大きかった。

 五十畳ほどの広さか?

『悪趣味な部屋だな。』

 壁を見渡すと龍が描かれている。

 二枚の羽根を備えた空を飛ぶ龍が多く描かれている。水棲龍、東洋の龍も描かれている。

 龍同士が喰らい合い、戦っている図柄が壁一杯に描かれているのだ。

 天井を見上げれば、そこにも龍がいた。

 黒と赤の龍が互いに喰らい合い、爪を突き立て合っている。

 血みどろの部屋だな。

「おう!師匠、来たか!座れよ!」

 中央に置かれたテーブルも大きい。長大な一枚板で作られたテーブルの末席に俺は座る。

 テーブルの両側には十脚づつの椅子が置かれ、その半分ほどをジェルメノム帝国の執政官が占めていた。

 皇帝陛下は、当然、上座、俺の対面だ。

 俺と皇帝陛下は、十メートルは離れている。

 俺の両側にサクヤとトドネが立つ。

「で、なんの話だ?」

 陛下が気楽な調子で聞いてくる。

「構わんのか?何か重要な話の途中だったんじゃないのか?」

 俺の入室が気に喰わないのだろう、座っている執政官の全員が気難し気な表情を隠していない。

「フンッ!コイツらは臆病者の集まりだ。俺がトガナキノに攻め込むのを揃って反対してやがるのさ。」

 成程、まともな神経の持ち主たちか。

「まあ、わからんでもないな。あの国に攻め込むなんざ正気の沙汰じゃない。」

「なに?」

 陛下の顔色が一気に変わる。

「情報収集と綿密な計画、トガナキノの重鎮に対する調略と、やることは多い、準備も何もない状態であの国と勝負なんてできるもんか。」

 俺の言葉に執政官たちが頷き、皇帝陛下がテーブルの天板に自分の手を叩きつける。

「準備はできている!!」

 皇帝陛下の激高に俺は頷く。

「俺が盗んできたウロボロスと竜騎士だろ?」

「そうだ!!」

 俺は傷を歪ませながら笑う。

「俺が盗んできたウロボロスと同程度の大きさを持った航空母艦をトガナキノは六隻保有している。」

 皇帝陛下が言葉を失う。

「新神母艦一隻につき六隻だ。」

 執政官たちが騒めく中、皇帝陛下は黙り込む。

「他にも戦闘可能な国体母艦は六隻、つまり、同様の航空母艦が、あと三十六隻あるってことだ。」

 皇帝陛下の肩が震えている。

「航空母艦には俺が盗んできたのと同じ竜騎士が十四機、戦闘機が百六十機、強襲揚陸艦が十隻積載されている。つまり、一国体母艦には竜騎士が八十四機、戦闘機が九百六十機、強襲揚陸艦が六十隻になる。しかも、トネリ級駆逐艦と呼ばれる五百メートル級の駆逐艦が十隻、その駆逐艦にも竜騎士が七機積載されてるんだぞ。」

 皇帝陛下が顔を上げる。

 絶望していない。怒りに顔を歪めている。

「竜騎士に至っては全部で百五十四機。俺が盗んできた竜騎士はたったの二十機だ。」

 居並ぶ執政官たちが安堵の表情を浮かべる。如何にトガナキノに戦争を挑むことが馬鹿げているか、皇帝陛下にも伝わったであろうと思い込んでいるのだ。

 皇帝陛下は顔を真赤にさせて顔を歪めている。

 勝つ気だ。

 いや違うな。

『なに?』

 玉砕覚悟?

 違うな。

『どうした?何を悩む?』

 戦うこと、そのことが目的か?

『…』

 勝てる数字じゃない。でもコイツは戦うことを望んでいる。

 目的は聞いた。

 何森源也が憎いのだと。トガナキノのことは、これ程、憎んでいたか?

『いや、コイツが、これ程、憎んでいたとは思えんな。』

 そうだ、最初、コイツは、トガナキノを好かんと言っていた。セディナラと俺が、小芝居したお蔭で憎しみが生まれたのはわかる。しかし、それでもだ。

『うむ、尋常ではない感情の高ぶりだな。』

 皇帝陛下が音を立てて立ち上がる。

「全員で考えろ!!トガナキノに勝つ方法を!!トガナキノとは必ず戦う!奴らをこのまま好き放題にのうのうと生かしておくことなどできぬ!!全員で考えるのだ!奴らを皆殺しにする方法を!!」

 執政官たちが青褪める。

「いいか貴様ら!!今よりトガナキノとの戦を否定するようなことを一言でも口に出してみろ!今!この場で、即座に朕が縊り殺してくれるわ!いいか!全員で考えるのだ!トガナキノに勝つ方法を!!」

 執政官たちが顔を俯ける。

「カールソン!」

「ハッ!」

 立派な口髭を生やした白髪頭の男が顔を上げる。

「貴様は帝国軍統合大将であろう。何か策を言え。」

 統合大将であるが、無理なものは無理だ。カールソンは冷や汗を流しながら俯くしかない。それでも、統合大将としての責務か、白い口髭を震わせながら話し出す。

「敵国は、空中に浮かんでおり、密偵、間諜を送り込むことは難しく、また、その流通においても特殊な流通経路を採用しております。今までのように戦の準備を万全にすることも困難でありますれば、勝算は限りなく低いと考慮致します。」

 皇帝陛下が歯を剥いて顔を歪める。

「献策できぬのか…貴様…」

 ヤバい、殺気だ。統合大将が殺される。

「馬鹿なんし。」

 俺が口を開こうとした寸前、俺の隣から声が上がる。

 皇帝陛下が憤怒の表情のまま、視線を俺の方へと向ける。正確には俺の左側、サクヤの方だ。

「お前は馬鹿なんし。」

 皇帝陛下の視線を受けて、サクヤがさっきの台詞を繰り返す。

「き、貴様…死にたいのか…」

 サクヤが足首だけの力でフワリとテーブル上に乗る。

「力があるだけが皇帝の証なんしか?」

 皇帝陛下が目を剥く。

「献策しろ?皇帝陛下には策はないんしか?」

 サクヤがテーブルの上を、靴音を響かせながら歩く。

「権力を握っているのは、なんのためなんしか?」

 サクヤが、一歩、一歩、皇帝へと近づいて行く。

「お前の力は只の暴力なんし。」

 皇帝の前でサクヤが腰に手を当て堂々と立つ。

「暴力では解決しないことをアチシが教えてやるんし。」

 サクヤが皇帝に向かって、お出で、お出で、と指を動かす。

「師匠オオオオオオオ、このガキは殺してイイのかアアア?」

 その表情は、もう、人間の物とは言い難い。怒りに打ち震える魔獣のようだ。

 俺は諦めて背凭れに体を預ける。

「…殺せるならな。」

 俺の天秤は家族のための天秤だ。

 世界中が滅びようとも家族が無事であればそれで良い。

 サクヤを守るためにこの謀略がご破算になるのも仕方がない。仮にサクヤが勝ったとしても、きっと、皇帝陛下はサクヤを許さないだろう。

 この勝敗に関係なく、俺はサクヤを守るために皇帝陛下を殺さなければならない。そして、この国と戦争だ。本当の戦争。

 皇帝が右拳を振り上げ、テーブルに振り下ろす。

 音を立ててテーブルの天板が粉々に砕け散り、執政官たちが後ろに仰け反り、椅子を倒しながら倒れ込む。

 サクヤは滞空したままだ。

 皇帝が床を震わせるほどの踏み込みと同時に左拳を突き出す。

 サクヤが宙に浮いたまま、その左拳を、両手で上から抑え込み、その力に逆らうことなく皇帝陛下の頭上へと回転する。

 皇帝が右足を跳ね上げる。

 サクヤは、皇帝の頭上で既に一回転している。足でその蹴りを受ける。更に高く弾け飛び皇帝の頭上で更に回る。

 皇帝が体を回して、サクヤを追って見上げる。

「死ね!!」

 皇帝が右掌を天に向かって差し上げる。

 魔法だ。

 マイクロマシンを支配下に治めている皇帝は無詠唱で魔法を撃てる。

 炎の塊が連弾となってその右手から撃ち出されるが、サクヤは天井を蹴って天井を走る。

 炎弾がサクヤを追って天井で弾ける。

 サクヤが天井から壁を走る。

 サクヤの軌道を皇帝がその右手で追う。何発も発射される炎弾の数々をサクヤはその機動力で追い付かせない。

 執政官たちの悲鳴が轟き、室内には何発もの焦げ跡ができる。

 サクヤが消える。

 前に進むと見せて、後退したのだ。

 皇帝がサクヤを見失う。

「こっちだし。」

 皇帝の左側。

 サクヤの間合いだ。

 サクヤの声に、皇帝は咄嗟にサクヤの方を向こうと体を捻った。

 捻られた筋肉、硬直することを許されない状態の筋肉だ。その筋肉を突き破ってサクヤの右拳が皇帝の腎臓を直撃する。

「グブッ!!」

 砕けたテーブルの残骸、元はテーブルのあった場所を皇帝が転がりながら俺の足元にまで吹き飛ばされる。

 俺は皇帝を見下ろす。

 懇願するような目を皇帝が俺に向ける。

 俺は皇帝の肩を掴み、上体を引き起こし、皇帝の霊子体に俺の霊子体を同調させる。

「少しばかり楽になるだろうが、一時のことだ。」

 俺はシンクロした霊子体から皇帝の肉体へと霊子体を侵入させる。打撃を受けた腎臓の鬱血を取り除き、腫れを治めてやる。

「いいか?サクの動きは特殊だ。俺がそう仕込んだ。」

 サクヤを見ていた皇帝の顔が驚きを含んで振り返る。

「体内の精霊を霊子で支配し、全関節を自由自在に動かして、人の目では捉えきれない動きを見せる。少しでも互角に戦いたいなら、粒子の見える目を使え。」

「な、何故、それを…」

「俺の時代にもあったからだ。」

 俺は皇帝を立たせて、背中を軽く叩く。

「行け。」

 皇帝が肺一杯に空気を吸い込み、前のめりになってサクヤに向かって走る。

 皇帝の踏み込みも速い。

 仁王立ちのサクヤ、そのサクヤの両足の間に皇帝が右足で踏込む。

 右の拳がサクヤの顔面へと奔る。

 サクヤが胸椎を動かし、人体構造上ありえない部分で体を折って拳を躱す。

 皇帝は驚くことなく両の拳をサクヤに向かって飛ばす。

「フッ!!」

 神速の如き拳が奔る。

 何十発と奔る。

 サクヤがその悉くを避ける。

 皇帝の連打は凄まじい。凄まじいがサクヤの動きがその悉くを上回る。

 サクヤの動きを精霊の目で読み、ピンポイントでサクヤを捉えようとするが、サクヤが更にその上を行く。

 皇帝の顔が青褪める。

 無酸素運動を続けているためにチアノーゼを起こしているのだ。

 苦悶に歪み、汗を噴き出している。

 皇帝の瞳が虚ろになる。

 力尽きようとした最後の一撃。

 その一撃がサクヤの仮面を飛ばす。

 サクヤが驚きの表情を見せる。

 その表情を見た皇帝が少しばかり笑う。

 笑いながら膝を折る。

 サクヤは頽れる皇帝を、頽れるそのままに床に倒れさせた。

「ふっ」

 思わず笑う。

『思い出すな。』

 ああ。

『トンナちゃんと初めて会った時みたいだね。』

 ああ。

「へ、陛下!!」

 途端に周りの執政官が騒がしくなる。

 皇帝に駆け寄ろうと一斉に執政官が走り出す。

「騒ぐなし!!」

 サクヤの恫喝が執政官たちの動きを止める。

 ゆっくりとした動作でサクヤが落ちた仮面を拾い、再び顔に装着する。

 サクヤが皇帝を抱かかえる。

「寝室に連れて行くんし。案内するんし!!」

 う~ん、ウチの娘も漢らしく育ってるねぇ。

『喜んでるのか?』

 嘆いてるに決まってるだろうが!!

『だろうな。』

『だよねぇ。』

『でも、しょうがないよ。トンナちゃんの娘だもん。』

『強いのは良いことだ!』

『でもたまには弱い女の子と遊びたいよね。』

 一人の執政官がサクヤの前に立ち塞がる。

 カーネルだったっけ?

『カールソンだろ。』

 ああ、そうか、なんか、白い口髭と似た名前だったから間違えた。

「娘、皇帝陛下を渡せ。」

 サクヤが怒りを含んだ目でカーネルを睨む。

『カールソンだ。』

 ああ、そうそう、カールソン。

「下郎に皇帝の御身を任せる訳にはゆかぬ。」

 サクヤが怒りを含んだ瞳のまま口元を綻ばせる。

「皇帝、皇帝と煩いんし。」

 カールソンの眉がピクリと跳ねる。

「コイツはアチシと一騎打ちしたんし。コイツを助ける権利があるのはアチシだけなんし。」

 カールソンの口元が震える。

「コイツの言葉に殺されそうになってた臆病者は引っ込んでるんし。」

 拙いか?

「統合大将閣下。」

 俺の呼び掛けにカールソンが俺へと視線を転ずる。

「皇帝陛下を人質に取られてるようなもんです。どうです?ここは、戦略として寝室に案内してやったら。」

 俺の言葉にカールソンの口元が綻ぶ。

「ふ、フハハハハハ!そうか!人質か!うむ!成程、たしかに貴公の言うとおりだ!うむ!それでは、某が、その寝室へと誘導いたそう!」

 カールソンがドアの方へと向き直り、「扉を開けよ!」と大声で命じる。

 外側に控えていた執政官が観音開きのドアを開き、カールソンが先導する形で俺達は退室した。後に残された執政官たちは、全員、ポカンだ。


 皇帝陛下の寝室で俺、サクヤ、トドネ、カールソン、そしてコッペが皇帝のベッドを取り巻く。

 すぐに皇帝が呻き声を上げながら目覚める。

「お起きんしか?」

 サクヤが声音を和らげて皇帝に声を掛ける。

「き、貴様は…」

 皇帝が口を開くとサクヤが容赦なく皇帝の頭を叩く。

「貴様!陛下に何をする!!」

 コッペが叫ぶ。

「うるさいし。コイツはアチシに差しで負けたのし。それなのアチシを貴様と言ったのし。」

 コッペが口を開けたまま固まり、サクヤは皇帝を見下ろす。

「お前はアチシに負けたんし。だから、アチシのことはサク様と呼ぶんし。」

「な、なに!」

 サクヤがニヤリと笑う。

「呼びたくないならアチシに勝つことなんし。」

「くっ!」

 皇帝が顔を歪ませる。そんな二人の遣り取りを見て、俺は溜息を吐く。

「陛下はサクちんに勝ちたいのですか?」

 おっとトドネが参戦だ。

「当たり前だ!俺は誰にも負けたくない!俺は皇帝なんだからな!」

「皇帝だから皆に勝ちたいのですか?」

「そうだ!」

「では皇帝を辞めれば、誰にも勝たなくてもいいのです。」

「なっ」

「皇帝を辞めれば、サクちんのこともサク様と呼ばなくて良くなるのです。」

「そんなことのために皇帝を辞める訳にはいかぬ!」

「そうなのですか?皇帝になると、そんなことにも拘らなくてはならないのですか?」

「拘ってなどおらぬ!ただ負けることが許されんのだ!」

「なぜです?負けることが許されないのは何故なのですか?」

「皇帝だからだ。」

「でも、サクちんに負けたのです。負けたから、もう、皇帝ではないのですか?」

「…いや…皇帝だ…」

「そうなのです。貴方はサクちんに負けても皇帝のままなのです。と、いうことは、勝っても負けても皇帝のままなのです。」

「し、しかし…」

「皇帝が喧嘩で負けても誰も責めないのです。皇帝を責める人はいないのです。」

「…」

 皇帝がトドネを見詰める。

「戦争で死んだり、戦争で家を失ったりした人が、皇帝を怨むのです。」

「怨む…」

「そうなのです。怨まれないようにするには戦争をしないことなのです。」

「フンッ無理を言う。」

 皇帝がトドネから顔を背ける。

「どうしてなのです?何が無理なのです?」

「よいか?この世界をこのままにしておくことは俺が許さぬからだ。」

「何が許せないのですか?」

「喧しい!!」

 再び皇帝陛下の顔が変貌する。骨の髄から滲み出るような殺気が溢れ、その所為でその顔すらも変貌させる。

「師匠。」

 その顔のまま、皇帝が俺に問い掛ける。

「勝てぬのか?トガナキノには…」

「手はある。」

 俺の言葉に全員が俺に注目する。

「どうやればイイ!教えろ!」

 俺は溜息を吐く。

「三日後、建国記念の式典が催される。」

 全員が固唾を呑んで、俺の言葉に聞き入る。

「建国記念の式典には全竜騎士が稼働し、全軍で、その式典のイベントをやることになるだろう。」

「その時を狙うのか?」

「違う。逆だ。」

 皇帝の目が見開かれる。

「式典が終了したその翌日を狙う。」

「それで、成功するのか?」

 皇帝の言葉に俺は頷く。

「トガナキノは規模が大きく、整備された国だ。」

 皇帝が頷く。

「竜騎士を稼働させれば、翌日には点検整備が行われる。人員はシッカリと確保されているから全機がその日に点検整備をされる。」

「奴らは配備のシフトを組んでいないのか!」

 俺は頷く。

「敵のいない国だ、そこに油断が生じる。」

「そうか…」

 皇帝が両手に拳を作る。

「そうか!!」

 その拳を握り込む。

 皇帝が元気よく顔を上げる。

「カールソン!」

「ハッ」

「師匠と戦略を詰めよ!」

 カールソンが恭し気に頭を下げる。

「ハッ」

「師匠!勝つぞ!俺はトガナキノに必ず勝つ!」

 俺は俯き気味になって笑う。

「勝って貰わないと俺が困る。」

 そう、俺はトガナキノから重要機密を盗んで来た身だ。ジェルメノム帝国に勝って貰わないと困る立場なのだから。

 落ち着いた表情になって、皇帝がサクヤとトドネを見る。

「サクと申したか。朕は其方のことをサク様とは呼べぬ。喧嘩に負けたのだから其方のことをそう呼びたいのは山々だが、朕の立場がそれを許さぬ。」

 サクヤが鼻を鳴らす。

「フンッ仕方ないし、じゃあ、次からは姉弟子と呼ぶんし。」

「なに?」

「アチシの師匠はヘイカ・デシターなんし。だから、ヘイカ・デシターを師匠と呼ぶあんたはアチシの弟なんし。」

 皇帝が呆れたような表情を作る。

「はっハハ、そうか、俺はサクの弟弟子か?ハハハッそれは良い!うん!そうだな、これからは其方のことは姉弟子と呼ぼう!はははははは!」

 一頻り笑って、皇帝がトドネに視線を転ずる。

「其方の名も聞いておこう。」

 トドネが大きく笑う。

「あたしはドネと言うのです。」

 皇帝が頷く。

「ドネか、うん、憶えておこう。其方のお蔭で朕が何故、皇帝になったのか、その初心を思い出させて貰った。感謝する。」

 うん?

 えらく素直だな?なんだ?スッゲエ違和感なんだけど。

『確かにな、こんなにあっさりと感謝の気持ちを述べるなんて、この皇帝らしくない。』

 少しばかり、サクヤとトドネを見詰める皇帝の顔が優し気に見えた。

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