どいつもこいつも子供だ!うん、俺も含みます。はい…
帝城上空でウロボロスを停止、滞空させたまま皇帝陛下の到着を待つ。
反転ローターで空を飛ぶ小型の垂直離着陸機が帝城から離陸し、ウロボロスの左舷に回り込む。
ウロボロスは他の国体母艦とは違って、甲板に城塞都市を載せていない。
艦橋も突出しておらず、よりマッコウクジラのような外観をしている。左舷側の離着陸ハッチが開き、垂直離着陸機が吸い込まれるように滑り込んでくる。大きさは国体母艦としてはかなり小さいが、それでも二万人収容できるのだ。国体母艦と呼んでも差し障りはないだろう。
俺達は指揮ブリッジではなく、左舷側のハンガーで皇帝陛下を出迎えた。
俺以外の者たちが皇帝に対して跪く。
堂々とした少年が三人の執政官を引き連れて、ウロボロスに降り立つ。生意気そうな笑顔は元気一杯のやんちゃ坊主そのものだ。
俺は冷めた目付きで皇帝陛下を出迎える。
俺も皇帝陛下も顎を少しばかり上げ、皇帝陛下は真直ぐに、俺は首を傾げてニヒルに笑う。
皇帝陛下が右手を差し出してくる。
「師匠、やったな!」
皇帝陛下の右手を握って、「望み通りに盗んで来てやったぜ。」と応える。
「ああ!これでトガナキノに勝てる!あのクソったれ野郎をぶっ殺してやる!!」
俺のことだな、うん。
「そのためには作戦の打ち合わせが必要だな。」
「いらん!!」
イヤ、いるだろ。なに言ってんだコイツ。
「師匠がGナンバーを守りながらトガナキノに向かう!トガナキノの機動兵器は師匠が撃破!トガナキノはGナンバーの核攻撃で一瞬にして消滅だ!!」
シンプル・イズ・ベストと無鉄砲はイコールか?
『考えなし、と言うんだ、こういうのは。』
「陛下、オメエ、本気で言ってるのか?」
俺は皇帝陛下の右手を強く握る。
「なぜだ?ダメか?」
「当り前だろうが、核攻撃でトガナキノがどうにかなると思ってんのか?」
皇帝陛下が目に見えて不安気な表情を見せる。俺は皇帝陛下の右手を離し、ウロボロスのハンガー内を見渡す。
「このウロボロスだって核攻撃ぐらいじゃビクともしねえよ。奴らの本拠地、国体母艦が核攻撃でどうにかなるもんか。」
そう、国体母艦はどうにもできない。Gナンバーの攻撃が核攻撃だと聞いて、ちょっとホッとしたが、周辺を放射線で汚染するのは勘弁願いたい。だから、核攻撃はなんとか押し留めたい。
「では、どうする?どうすればトガナキノを消滅させることができる?!」
俺は皇帝陛下を振り返る。
「なんのためにコイツを盗んできたと思ってるんだ?」
「あっ!!」
俺はニヒルに口角を上げて笑う。
「コイツの船首には巨大霊子砲がある。」
皇帝陛下の顔が見る見る明るいものへと変わる。
「分解弾を国体母艦に撃ち込み、装甲を引っぺがしたところにコイツを突っ込ませて霊子砲で一撃だ。」
皇帝陛下が満面の笑みを見せる。
「凄い!凄いぞ!」
皇帝陛下が跳ねまわる。両手を振り回して、跪いたテルナドたちの周りを跳びまわる。
まるっきり子供の行動だ。これが本当に殺戮戦争以前に生まれた人間の行動か?トロヤリの方がずっと大人っぽいぞ?
『確かに違和感が強いな…』
『トロヤリは何森源也の影響が強いでしょ?』
『たしかにね。そのことを差っ引けば、こんなもんでしょ?』
『子供ならな!こんなモンだ!』
『可愛い女の子との出会いがないよぅ。折角、別の国に来たんだから女の子との出会いが欲しいよぅ。』
普通の子供ならコレでイイ。
しかし…
『そうだ、コイツが普通の子供と同じであることがおかしい。』
「師匠!コレで奴に勝てるな!!」
俺に向かって精一杯の笑顔を向ける。
「ああ。勝てるだろう。」
純粋に喜ぶ皇帝陛下の顔、その顔はどこまでも純粋で無垢に見えた。
「なんだったのアイツ?」
テルナドが呆れたように話し掛けてくる。
「俺にもよくわからん。」
皇帝陛下は、喜び勇んでウロボロスの艦内を見て回り、指揮ブリッジを最後に、一旦、帝城に戻ることとなった。俺達は皇帝陛下を左舷ハンガーから見送ったところだ。
テルナドの件や、竜騎士をどうやって操作できるようになったのかなど、疑問に思う点は幾らでもあるだろうに、そう言った点には、一切、触れることはなかった。
「本当の子供のようでしたが、それよりも、本当に皇帝なのですか?」
カルザンがもっともな疑問を口にする。
俺達は話しながらブリッジに戻るべく歩き出す。
「ホンマや、あんなんが皇帝陛下やったら、国なんかすぐ亡ぶんちゃう?」
しかし、その科学技術力で既に数カ国を侵略吸収している。
「フンッ!皇帝は世界広しと言えどもカルザン様だけだ!」
うん、カルデナ、お前はカルザンお花畑脳だってことは知ってる。
「トロヤリちゃんよりも子供っぽかったのです。」
俺と同じ感想をトドネが口にする。
「旦那のようにとんでもない力を持ってるんでやすかい?」
ドルアジの言葉に俺は眉を顰める。
「持っていると言えば持ってるが、それでも普通の魔法使いよりも数段上って程度か。」
「アチシとあんまり変わらないんし。」
サクヤの言葉に俺は頷く。
「その程度で父さんと遣り合うって、やっぱ、子供としか言いようがないよ。」
「アチシは子供じゃないし!」
「お前のことを言ってるんじゃないよ。」
「サクヤちゃんはまだ子供なのです。」
「トド姉!アチシは子供じゃないし!」
「ニヒッ!サクヤちゃんは子供なのです。そうやってムキになるところが子供なのです。」
「笑うなし!トド姉のオタコンチン!」
「オタコンチンでも、あたしは子供じゃないのです。」
「ちょっと、あんた達、煩いよ。子供じゃないってんなら、静かにしなよ。」
トドネが笑い、サクヤが顔を真赤にさせて口を噤む。
ああ…
異常なる日常風景
ここがジェルメノム帝国上空のウロボロスの中じゃなくって、周りにカルザン達がいなけりゃ、普通に、毎日繰り返されてる日常の風景なのに。
なんでコイツらがいるんだろう?
『いい加減諦めろ。』
諦めてるよ。諦めてるけど、大丈夫なのか?こんな状態で。
『なんとかなるっしょ。』
『そうそう、今まで通り、なんとかなるよ。』
『戦いにハンデはつきもの!いつも万全の状態で戦えると思うな!』
『帝国に下りて可愛い子を探そうよ。』
うん、なんとかなることを祈ろう。
ゲートを潜って指揮ブリッジに戻る。
俺は総指揮者のシートに座り、サクヤとトドネは俺の両隣りに再構築したサブシートに座る。カルザン達はウロボロスの操艦自体はできないので、索敵シートに座り、周囲の警戒状況を確認している。
俺の通信機が鳴る。
ヘルザースからだ。なんだ?さっきのこと怒ってんのか?
俺は通信機にイヤホンのジャックを差し込み、周りの人間に通信相手がヘルザースだとバレないようにする。
「どうした?」
『先程は、存分にお楽しみだったようですな。』
うん、怒ってるな。
「まあ、何かしとかないとな、裏切りの説得力が増すだろ?」
『その件に関しては結構でございます。』
「じゃあなんだよ?」
『兎に角、トガナキノのテレビ放送をご確認ください。』
俺は、操艦員に、大きなメインモニターにトガナキノの国営放送を映し出すよう指示する。
メインモニターに投影された映像は煙を噴き上げる国体母艦だった。
『ヘイカ・デシターが国王専用政務艦を撃墜してくれましたのでな、その映像を使って国民にヘイカ・デシター討伐作戦を敢行する旨を放送しております。』
ヘルザースの言うとおり、画面には第二のクルタス現るというテロップが映し出され、強奪されたウロボロスの詳細なデータが解説されていた。
『現在、ヘイカ・デシター討伐隊を編成しておりますが、皆、かなり殺気立っております。』
「本気で掛かって来ると、そういうことか?」
『左様でございます。ただ…』
「なんだ?」
『三日後に建国記念日を控えておりますので、ヘイカ・デシター討伐の出発式は四日後になります。』
「え?建国記念日?そうだっけ?でも、イイじゃん、別に、そんなの気にしなくても。」
『いえ、何を仰っておられるのですか。建国記念日のセレモニーには陛下にもご出席して頂くのですぞ。』
え?今までそんなの出てませんけど?
「毎回、出てねぇだろ?欠席にしとけよ。」
『今回はそういう訳には参りませぬ。』
「なんで?」
『ブローニュの后候補資格試練がありますので。』
は?
「え?なんで?」
『建国記念日のセレモニーの一環として、明日から、ブローニュには、三日間に渡って、后になるための資格試練を受けてもらいます。』
「いや、内容じゃなくって、どうして、今、このタイミングな訳?」
『その台詞は私の方でございます。』
「え?」
『何故、このタイミングでヘイカ・デシターが脱出したのですか?』
うん、適当に、気分的に、今かなぁって思って。
「な、なんとなく…」
通信機の向こうでヘルザースが溜息を吐く。もう、これ見よがしに大きな溜息だ。
『兎に角、国民には‘今日の王室スペシャル三日間の后祭り’と銘打って新たな后誕生なるか、と、予告しておるのです。一日目はヒャクヤ陛下と二日目はコルナ陛下、そして、建国記念日当日はアヌヤ陛下と闘わせる予定なのですから、至急、ブローニュを此方に帰して頂き、陛下も分体をお作りになって下さい。』
「ち、ちょっと待って。」
俺はそう言って、ブローニュに視線を向ける。
「ブローニュ。」
俺の呼び掛けに、ブローニュは首を傾げながら振り返る。
俺は手振りでブローニュを呼びつける。
ブローニュがトコトコと俺に近付き、「娘がいるけど、キスか?」と囁いてくる。
「馬鹿、ちげぇよ。」
小さな声で話し掛ける。
自然とブローニュも小さな声になる。
「じゃあ、なに?」
「お前、明日からヒャクヤ達と闘うってホントか?」
ブローニュがキョトンとした顔をする。知らなかったのか?
「せやで。」
知ってたし。
「なんで、そのことを俺に言わねえ?」
「なんで、あんたが知らんの?」
ごもっとも。
「うん、わかった。向こう行ってて。」
ブローニュが離れて行ったのを確認して、俺はヘルザースとの通信を再開する。
「なんとかならねえのか?」
『なんとかして頂くために陛下にご連絡しておるのですぞ。』
まったくだ。
「じゃあ、建国記念日の放送は中止ってことで。」
『国民の反乱が起きまする。』
「…」
そうだよね。御前会議で言ってたもんね。‘今日の王室’が放映されないだけで、酷いことになるって。
「わ、わかった。なんとかする。」
『よろしくお願いいたしますぞ。』
「うん。わかった。」
ヘルザースとの通信を切る。
ブローニュの方を見る。
ブローニュはカルザン達と「明日っからお后様になるための資格試練やねん。」と元気に話してる。
まあ、最悪、ブローニュは、いなくってもイイか。
『そうだな、絶対に必要なピースという訳でもないからな。』
問題は分体の方か。
『そうだ、この状況で分体を作って誰に任せるかという問題が浮上するな。』
トガナキノに作る分体の方は意識の二割ほどで操作するか?
『まあ、どちらにせよ、開戦の時期を建国記念日以降にする必要があるな。』
そうか、そうだよな。そうした方が間違いないもんな。ウウ…クッソウ、面倒くせぇなぁ。ややこしい時にややこしいことを。
『ややこしくしたのはお前だ。』
クッ!
「誰か、悪いがジェルメノム帝国に、俺が帝城に向かうと報せてくれ、皇帝陛下と話がしたい。」
「了解しました。」
俺の言葉に操艦員の一人が応える。
「アチシも行くし。」
「じゃあ、あたしも行くのです!」
サクヤとトドネが即座に手を挙げる。
「いや、俺だけでイイよ。」
「行くし!」
「行くのです!」
もう、言うこと聞けよぅ。
何度か同じ遣り取りをしたのだが、二人は断固として行くと言って聞かない。周りの皆は親子と従妹だと知っているため、生暖かい目で見守ってくれるだけで、誰も口を挟んでこない。
結局、俺が折れることになった。
はあ、なんだよこれ。




