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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
47/405

脱出だアアアッ!!(挿絵あり)

「テルナド、痛くないか?」

「ダイジョブだよ。」

「カルザン」

「い、い、いつでも、い、行けます。」

「ドルアジ」

「へい。いつでも行けやす。」

「ブローニュ」

「エエで。」

「行くぞ。」

「待て!!」

「あ?」

「なぜ私には声を掛けんのだ!!」

「カルデナ、声が大きい。」

「そんなことはどうでも良い!私にも声を掛けろ!!」

「じゃあ、カルデナ、お前は残っとけ。」

「よし!任せろ!っ違う!!」

 吠えるカルデナを置き去りにして俺は走り出す。

 俺は麻袋に入れたテルナドを肩に担いでいる。その後をカルザン、ドルアジ、ブローニュが続き、少し離れてカルデナが追って来る。

 俺達は全員、顔の上半分を隠した仮面を被り、外見的な特徴を誤魔化すため、各自の身長を変えたり、髪の毛の色、瞳の色まで変えている。カルザンに至っては胸を膨らませて性別まで変えている。

 もう、これが可愛いんだけど、何故かカルザンの魅力が半減したような気がする。

『カルザンは男の子なのに美少女ってのが良いんだよ。』

 うん、クシナハラの意見に賛成だ。

『大丈夫か?』

 大丈夫、美少女のような美少年だからカルザンは可愛い。それが女の子になってしまったら、美少女が美少女になるんだから当たり前だ。

『えっと、つまり、カルザンが女の子になってしまうと、普通に美少女?』

 だな。

 魔狩りの登録証もニセの本物を発行させているので、此処にいる全員は存在しない存在だ。

『なに?』

 ん?ややこしいか?

『説明になってないだろ。』

 存在しない人物になりきっているカルザン達の存在しない人物の魔狩り登録証を発行して…まあ、どうでもイイや。

『お前たちは、この世に存在しない全くの別人になりきっているのだが、魔獣狩りユニオンには存在する人間として登録されている。と、いうことだろうが。』

 そう、そう。そういうこと。

 俺達の行動は魔虫に監視させている。音声データは、思わず本名を言ってしまうので、記録させないように真空の膜で俺達を覆っている。

 真空の膜は俺達を一集団として覆っているので、空気が直ぐに無くなることはない。まあ、無くなりそうになったら、足元から取り入れればいいんだけどね。

『空気を取り込む時に魔虫が侵入してこないように気を付けろ。』

 わかってるよ。

 魔虫は羽ばたくことで飛んでいる。だから真空では飛べなくなる。この真空の膜は魔虫の接近を阻む役割も兼ねているのだ。

 この映像が流されることで、ヘイカ・デシター一味はこういう連中なのだとトガナキノ国民に認識させる。

 ヘイカ・デシター一味の姿を国民に晒しておけば、本来の姿に戻ってトガナキノで過ごすことが可能になる。

 うん。嘘吐き国王です。国民を騙しまくり。クルタス事件の顛末も嘘吐いたりしてたからね。

『史上最低王の名は伊達じゃないな。』

 任せろ。

『皮肉のつもりだったんだがな。』

 うん、任せろ。

 不審者発見の報は、既に飛んでいる筈だ。

 俺達は、新神浄土の第一階層を走り続けている。

 新神浄土の第一階層は、車のみが走る階層だ。疾走する車の間を縫って、俺達は自分の足で走っている。

 新神浄土の車は、全てにイデアの複製プログラムが搭載されているので、俺達を感知、危険だと判断した時点で、回避行動をとるか。もしくは制動が掛かって停止する。

 こちら側が車に接触することを気にせず動けるのだから、人の往来する第二階層以上よりも逆に安全だ。

 駐車スペースと車道だけの第一階層、此処にはキバナリが少ない。少ないがいる。

「止まりなさい。」

 虎柄の猫ちゃん状態のキバナリが、真空の膜を突き破って、俺達に並走しながら声を掛けてくる。

「自主的に止まらないのであれば、強制執行しますよ?」

 う~ん。トイガーに話し掛けられてるみたいで微妙にシュールなんだけど。

「止まらないよ。止めてみな。」

 俺の言葉にキバナリが「あれ?」と声を上げる。

「もしかして、陛下ですか?」

 あれ?バレた?

「なんでわかった?」

「霊子体が登録されている周波数ですから。」

「あ、そうか。」

 俺は霊子体の周波数を変換する。

「これでどう?俺だってわかる?」

「それなら大丈夫です。わかりません。」

「じゃあ、強制執行して良いよ。」

「え?どうしてです?」

「とにかく、俺はテルナドを攫った誘拐犯だから。」

「そうそう、キバナリ君、あたしを助けてよ。」

 ジタバタしてないテルナドが、麻袋の中からキバナリに声を掛ける。

「そうですか、何か事情がおありなのですね。わかりました。では、」

 う~ん察しの良すぎる猫ちゃんだ。現代日本なら動画にとってアップしたいところだよ。

 キバナリが速度を上げて、俺達の前に回り込み、その頭を俺へと向ける。周囲の幽子と組織構成元素を取り込んで、一気に巨大化する。

 耳鳴りを誘う、金属を弾くような音が鳴り渡る。

 キバナリが小さな体を瞬間的に巨大化させたのだ、キバナリ周囲の空気が圧縮膨張し、俺の作り出していた真空の膜を弾き飛ばした音だ。

「くうう。」

 全員が耳を押さえる。

「イッタああい。」

 麻袋の中でテルナドが悲痛な声を上げる。

「あ、すみ…」

 拙い。

 テルナドの声を聞いたキバナリが謝ろうとする。音声データが残る。

 俺は、最高速度でキバナリの懐に飛び込む。

「あっ!」

 油断し切っているキバナリが俺へと視線を向け、顔を下げる。

 右足を踏み込み、体を沈め、キバナリの首元に右の猿臂を打ち込みながら伸び上がる。抉るように捻る。

「ぐっ!!」

 キバナリの上体が浮き上がる。

 露になったキバナリの腹。

 その腹に左の掌底を当て、体中の関節を捻って、新神武道の貫を打ち込む。

「がああっ!!」

 キバナリがのたくりながら倒れ込む。

 スマン。

 心の中で謝っておこう。帰ってきたら龍肉を上げる。だから許してくれ。

 もうちょっと手加減したかったのだが、そんな暇はなかった。

「急ぐぞ!!」

 俺の声が聞こえたのか、質量方向変換機能を使って、浮遊する酒呑童子が現れる。

 新神浄土の全建物を支える建物基盤、その第一階層は、高さは十五メートルの大空間、現代日本の首都圏外郭放水路のような光景だ。立体駐車場が規則正しく立ち並び、アルミナガラスのはまった天窓からは、柔らかい日差しを取り込んでいる。柱の代わりに立体駐車場が第二階層の地盤面を支えている。

 立体駐車場から何体もの酒呑童子が現れ、床面を滑空して俺達へと向かって来る。

 銃は持たせていないか。

『いや、後方の酒呑童子は携帯してる。』

 ちっ、ヘルザースめ、そこそこ本気じゃねぇか。

「止まれ!制止を聞かぬ場合は強制執行する!止まりなさい。」

 そう言われて止まる奴がいるかよ。

 俺は後方へと左手を振って、俺の後ろに一列で並べと合図する。

 カルザンをカルデナが抱え上げる。

「おっちゃん!後ろに回りィ!!」

 ブローニュの声にドルアジがブローニュに道を譲る。

 俺達の動きに抵抗する意思を読み取った酒呑童子たちが一気に加速する。

 群体のように酒呑童子が一斉に俺達に襲い掛かる。

「ハッ!!」

 左から左回し蹴り、右からは右回し蹴り、正面上空からテルナドを奪おうと酒呑童子が腕を伸ばしてくる。その直下にも、やはり、酒呑童子が右前蹴りを奔らせる。

 頭に飛んで来る右回し蹴りを左に振って躱す。

 腹に飛んで来る前蹴りは体を捻って躱す。

 脛足に飛んで来る左回し蹴りは跳んで躱す。

 テルナドを奪おうとする両腕には空中へと跳ね上がった俺の足を絡ませる。

 右肩に乗せたテルナドが落ちないように右腕で担ぎ直し、左腕で、躱した左回し蹴りを掴み、酒呑童子に絡ませた足を捻りながら、前蹴りには体で巻き付く。

 俺の掴んだ左回し蹴りで俺の体が回転する。

 俺というロープに巻き取られた四体の酒呑童子が激しい衝突音を立てる。

 四体の酒呑童子が絡み付くようにぶつかり合い、俺だけがその塊から弾き飛ばされる。

 テルナドを肩に担いだまま、凄まじい回転と共に俺は飛ばされ、浮遊する酒呑童子に蹴りを入れる。勢いを殺さないように回転しながら、次々と酒呑童子を蹴り飛ばす。

 俺が着地した時、浮遊していた酒呑童子は全て地面に叩き伏せられていた。

 よし。

「来い!!」

「よっしゃアアアアアア!!!」

 ブローニュが加速する。

 ブローニュは茨木童子を装着している。そのブローニュの頭上を越すように俺はジャンプ、バク転をしている俺の直下をブローニュが通る。

 ブローニュの肩を掴んでブローニュの両肩に着地。

 ブローニュが道を阻む酒呑童子の群れに突っ込む。俺は、ブローニュの両肩を踏み台にさらに前方へと飛びながら、酒呑童子の頭を蹴り飛ばす。

 カルビン化した骨と強化した筋肉で酒呑童子の頭をサッカーボールのように蹴ったのだ。

 その衝撃は普通の装甲ならば拉げるが、最小のマイクロマシンを塗布された酒呑童子は物ともしない、たとえ、酒呑童子の装甲を拉げさせる衝撃であったとしても、その衝撃は装着者にまでは届かない。俺はマイクロマシンを操作して、装着者の脳を、直接、揺らす。

 映像を残しているのだ。俺は魔法が使えないことになっている。どうしても俺が酒呑童子に直接衝撃を与える演出が必要になる。

 意識を失いかけて棒立ちとなった酒呑童子をブローニュがラッセル車の如く薙ぎ倒す。

 銃の発射音。

 一発の銃声が呼び水となって次々と銃声が鳴り響く。

 俺は空中だ。

 同士打ちにならない瞬間を狙っての射撃だ。

 甘い。

 霊子回路フル稼働。脳のクロック数を引き上げる。

 ゾーンに入る。

 時間が止まる。

 空気が塊となって俺を包み込む。

 撮影中だ。

 体の一部分を粒子化させて、弾を叩き落とすことはできない。

 ゆっくりと時間が流れる。

 ゼリー状になった空気を踏み抜かないように力を調節、足場を確保。

 そんな中で俺の左腕だけが通常の時間の中で動き出す。

 抵抗が消える。

 空気の壁を俺の左腕が突き破る。

 音のない空間で、俺を囲んだゴム弾が空気の流れに押し流され、正確な軌道を外れ、ありもしない方向へと進みだす。

 音速を超えた衝撃波が酒呑童子を巻き込み、酒呑童子の足を空中へと浮かせ、スローモーションのように酒呑童子が回転を始める。

 ゾーンを解除。

 凄まじい轟音を響かせて、ゴム弾は散り、俺の周囲に居た酒呑童子が散々に吹き飛ばされる。

 爆心地の中央で着地する。

 走る。

 一歩目から最高速だ。

「ちょっ!」

 テルナドが声を上げる。

 ジグザグに走って、酒呑童子を手当たり次第に打ち抜く。

 体中の関節を稼働させ、通常ではあり得ない角度で新神武道の貫を放つ。装甲を通して衝撃が内部のマイクロマシンに届き、マイクロマシンがその衝撃を中の人間にまで響かせる。

 俺の通り過ぎた後は酒呑童子が力なく膝から頽れる。

 うん、心配するな、ちゃんと手加減したからな!

 安寧城直下のゲートに辿り着き、その後をブローニュたちが追い付いてくる。

「は、速いって、デシターは、速すぎやって。」

 ブローニュが息を荒くして両手を膝に置く。

 ドルアジは喋ることもできず、カルデナは、その仮面の下から俺を睨みつけている。

「なんだよ。」

 思わずカルデナを問い詰めた。

「貴様、本当に化け物だな。」

「褒めてるのか?」

「フンッ呆れてるのだ。」

 呆れながら睨みつけるって器用だな。オイ。

 俺は安寧城直通のゲートを起動させるために肩からテルナドを下ろし、麻袋からテルナドを出してやる。

「エロエロエロエロエロッ」

「うわああっ!!」

 出した途端にテルナドが俺にゲロをぶっ掛けやがった。

 俺の胸から下はゲロ塗れだ。

「な、何すんだよ!」

「だ、だってップ、め、目が回っエロエロエロエロッ」

「ウワアアアッ!」

 む、無造作に吐くなヨオオオ!全然、避けられねえじゃねぇかあ!

『弾丸は避けられたのにね。』

 イチイハラ、うるせぇよ。

「ちょ、ちょっと、誰か!誰か分解してくれ!」

「え?そんなん、自分で分解しィや。」

 ゲロ塗れの俺は動くこともできずに周りを見回す。

「俺は魔法が使えないだろぅが!誰か分解してくれよ!」

 撮影中ですから、そういう設定ですから。

「ほしたら、チューしてくれたら分解したるわ。」

「お、お前はゲロ塗れの俺とチューして楽しいのか?嬉しいのか?」

「ゲロ塗れはマイナスやけど、かまへんデ。」

 へ、変態、恐るべし。

 俺に纏わり付いているゲロが分解される。

「むす、私の前で何言ってんですか?」

 テルナド、分解してくれたのね。やっぱ娘だわ。

「あっ。いや、その…」

 四つん這いで情けない顔をしたテルナドの言葉にブローニュがおたおたする。そりゃそうだ。娘の前でなに言ってんですかってことだよね。

「今後はちょっと自重して下さい。」

「あ、はい。」

 娘って言葉は言い直したのに、誘拐犯を説教してる被害者って拙いんじゃないの?

「デシター君もちょっと気を遣ってよね。あんなに振り回されたら酔うに決まってるじゃない!」

「あ、はい。すいません。」

 俺も説教されちった。エヘ、ここはカットで。

 取敢えずテルナドを脅す小芝居をして安寧城のゲートを起動させないとな。

「オッサン、お前がテルナドを脅す役だ。」

「え?あたしがですかい?」

「お前がだよ。お前の顔が、一番強面なんだから、お前がやれよ。」

「ええ?でもあたしの顔も仮面で隠れてますぜ。」

「仮面も強面に作ったんだからお前がやれよ。」

 デザインと色は皆それぞれだ。

 俺の仮面は黒に生物的な曲線を用いた悪魔のような仮面、カルザンはSFっぽい白い仮面だ。不本意ながらカルデナもカルザンとお揃いの仮面にしてある。カルデナの雰囲気には似合わないんだけどなぁ、だって、泣きそうな顔で「カルザン様とお揃いで!」て、怒るんだもん。

 ブローニュは鳥をイメージした赤い仮面、ドルアジも黒に生物的な仮面だが、どちらかといえば鬼をイメージしてる。

「へ、へえ。そいじゃ、失礼して。」

 ヘコヘコと頭を下げながらドルアジがテルナドの後ろに回り、優しく、「ゲートを起動して下せい。」と下男のように囁きかける。

「イダッ!!」

「お前は趣旨を理解してんのか!!」

 思わず、ドルアジの尻を蹴り飛ばしてた。

「俺達はテルナドを誘拐した誘拐犯だぞ!それを!オメエは!」

「もう、優しいドルアジおじさんが可哀想だよ、デシター君がやりなよ。」

 俺が怒鳴っているのにテルナドが割り込んでくる。

「ちっ、しょうがねえな。」

 そう言いながら、俺は右手にナイフを抜く。テルナドの後ろに回り込み、テルナドの腕を軽く捻って、テルナドの首にナイフを当てる。

「お姫様よう、このゲートを起動させてくれよ。」

 ドスの効いた声でテルナドの耳元に囁く。

「嫌よ。殺すなら殺しなさい。これでも私はサラシナ・トガリ・ヤートの娘よ。貴様らの言うとおりになんかしたら父上に会わせる顔がないわ。」

 あれ?なに言ってんの?この子。

「いや、テルナド、本気はいいから、素直に言うこと聞いてくれる?」

「ええ?なんで?ここはあたしの迫真の演技が光るところでしょ?」

 俺はテルナドから離れて左手で頭を掻く。

「えっと…」

 俺、なんのためにこんなことしてるんだっけ?

「ほら、早くしてよ。‘お父様に会える機会があると良いがな’ぐらい言ってよ。」

「あ、ああ、そうか。」

 俺は再びテルナドの首にナイフを当てる。

「へっ、お父様に再び会えると思ってんのか?会えるとしたら、手足を切り取られた達磨になった姿を晒すことになるぜ?」

 ちょっとグロめにアレンジしてみた。

「ええ?それ、ちょっと酷くない?」

 あれ?この子、なに言い出してんの?

「イヤ、これぐらい言っといた方が良いかなって…」

「ダメよ。今回の事件はニュースとして放送するんでしょ?小っちゃい子供も見るのよ?そんな酷いこと想像させちゃダメじゃない。」

「あ、そっか。」

 俺は再び頭をポリポリと掻く。

「じゃあ。」

 三度、テルナドの首にナイフを当てる。

「フンッお父様に再び会えると思ってんのか?また会えるとしたら、そりゃあ天国だぜ。」

「まさか、父上にまで手を出そうと思ってるんじゃないでしょうね?」

 いや、それはちょっと無謀な奴になっちゃうだろ?どうやって返せばいいんだよ?

「そうか!あんたたち、トロヤリ達を…!」

 あ、そか、俺の子供は他にもいるんだ。そか、そか。

「フンッ察しが良いな、オメエが言うことを聞かねえなら他の王子様とお姫様を攫うだけだ。」

 テルナドが自分から背中を反らして、俺が力を込めたように演技する。

「お前の態度次第で、他の子供には手を出さねえ。」

 俺はテルナドの耳元に唇を近付ける。

「こんな感じか?」

 蚊の鳴くような俺の囁き声にテルナドが首を縦に振る。

「わ、わかったわ。」

 よし、娘に合格点を貰った。俺、できる父親。エッヘン。

『全然、そうは思えんのだが。』

『まったくそうだよね。』

『ホント、情けないよ。』

『もっとしっかりしろ!!』

『テルナドちゃんの耳舐めてみて。』

 クズナハラ、いい加減にしろヨ?

『ああ!クズナハラって言った!!ひどいヨ!』

 テルナドがゲートの方に顔を向ける。

「サラシナ・テルナド・ヒラギが命じる、ゲート開封、第四ハンガーに通じよ。」

 このゲートは王族専用のゲートだ。したがって、事前に登録されている王族の網膜、声紋、脳紋、そして、3Dスキャンによる組織構成物質の適合率九十パーセントが求められる。

 ゲートのインターフォンが「サラシナ・テルナド・ヒラギを確認しました。他の四人にあっては王族としては確認できません。」と機械音声で答える。

 俺の体は組織構成適合率九十パーセント以上あるはずだが、身長、体重、声紋は全く違う別人だ。

「この者たちはあたしの侍従だ。このままゲートを使わせる。」

 ゲートのインターフォン横のパネルがスライドし、細いスリットが口を開く。

「了解いたしました。身分証の提示を願います。」

 俺はイデアに作って貰ったニセの魔狩り登録証をそのスリットに差し込む。

「遺伝子情報がサラシナ・トガリ・ヤートと重複しております。再度、登録検査を受けてから本ゲートをご使用ください。」

 うん、ここもカットだな。

『嘘吐きのくせに、その嘘がボロボロだな。』

 いや、それだけトガナキノのセキュリティが優秀だってことだな。うん。

 カルザン、ドルアジ、カルデナ、ブローニュと次々に正体がバレていく。

「よし、テルナド以外は、俺が、全員、瞬間移動させる。」

 もう、それしかない。

「記録はどうするの?ゲート使用記録が変な形で残っちゃうよ?」

 テルナドの疑問はもっともだ。

「イデアに改竄させるからダイジョブだ。」

『何が大丈夫だ。いい加減で適当な計画を立てるからボロボロじゃないか。』

 説得力のある映像が残ればイイんだから、そんなに細かいこと言うなよ。

『まったく…』

 と、いうことで、ボロボロの嘘を取り繕いながら俺達は第四ハンガーに瞬間移動した。

 テルナド以外の四人はあくまでもゲートを使用した風を装っている。うん、完璧。ボロボロじゃない。

 第四ハンガーには魔狩り専用の武装である竜騎士が収められている。

 オロチを初めとする俺達の使った竜騎士もここに収納されており、整備を終えて、次の出撃に備えている状態だ。

 点検整備に関して言えば、そのほとんどがオートマチックだが、やはり最終チェックは人の手によって行われている。ヒューマンエラーの方が怖いのだが、チェック機構を何重にもかけるのは、国の慣例的な物とした方が良い、と、いう理屈をイズモリが提唱したのでそういう体制になっている。

 魔狩り専用母艦、ウロボロスも整備環境は整っているのだが、整備を実行する者がいないため、新神母艦にて整備している状況なのだ。

 竜騎士に限らず、酒呑童子、八咫烏など、国が使用する運用機械のほとんどが、一度の使用で点検整備が繰り返される。

 その第四ハンガーにも酒呑童子が待ち構えていた。

挿絵(By みてみん)

 霊子レールガンを構えて、ズラリと並ぶ酒呑童子はざっと見積もって三十体ほどだ。

 俺はテルナドの首筋にナイフを当てて、一歩前に出る。

「私に構うな!この者達を捕えよ!!」

 オイオイ、余計なことを言うなよ。ホントに一斉に掛かって来たらどうすんだよ?

 俺は口角を上げて不敵に笑う。

「俺には、貴様らと違って躊躇(ためら)いはないぜ?」

 頼むから動くなよ?

「道を開けろ。お姫様の首に傷がつくぜ?」

 お願いします。このナイフの刃は引いてあります。ですから、皆、下がってください。

 酒呑童子を装着していない唯一の男が一歩前に進み出る。

「貴様、名前は?」

 大柄な男だ。身長は優に二メートルを超えている。

 幅もあれば厚みもある。骨格の大きさだけで言うならトンナやカルデナも見劣りする程の大きさだ。

「聞いてどうする?」

 男が首から乾いた音を立てながら首を回す。

「卑怯者の名を墓標に刻むためだ。」

 七つの傷の男ですか?

「卑怯者が素直に名乗ると思ってるのか?」

 男の眉が歪む。

「馬鹿の見本市に出たいなら、そう言えよ。お前の名前を一番に上げてやるから。」

 直情的に怒るかと思ったが、男は笑った。

「新神記に書かれた陛下のようなモノ言い、気に入った。かなり、肝が据わっていると見た。」

 何が言いたいんだ?てか、何がしたい?

「武人として貴様にチャンスをやろう。」

 あ?まさかとは思うが、俺を倒せば道を開けてやるなんてことを言い出すんじゃないだろうな?

「俺と闘え!俺に勝てば道を譲ってやろう!!」

 …

『馬鹿か?』

『前時代的だね。』

『残ってるんだよねぇ。確かに六年前まではこういう遣り取りしてたんだからね。』

『良いじゃねぇか!俺は好きだぞ!一騎打ち!』

『おんなじムキムキでも女の子じゃないとね。』

 俺は俯き、「貴様、名前と所属、それと階級を言え。」と静かに問い質す。

 男が大きく笑う。

「我が名はライドニクス!カンザス・ライドニクス・ゴートだ!この栄えある神州トガナキノ国軍、新神第一旅団新神連隊〇六二八小隊所属!第二十三席!中尉だ!」

 うん。憶えた。降格決定な。こういう奴は一兵卒からやり直させよう。

 どこの馬鹿が誘拐犯の台詞に正々堂々と素直に名乗るんだよ?席次まで言いやがったし。

『ま、目の前の馬鹿ぐらいだな。』

 俺はテルナドにナイフを当てたまま、その立ち位置をブローニュに譲る。

 前に出てライドニクスの前に立つ。

「ゴート族ってことは複合(キメラ)獣化人(ノイド)だな?」

 ライドニクスが大きく笑う。

「そうだ!!心して掛かって参れ!」

 カルデナもそうだが、竜人と複合獣化人には特に魔法が効き辛い。と、いうのも幽子の消費量が他の獣人よりも半端ないためだ。

 常にコイツらの周りでは幽子の枯渇状態が起こる。そのために幽子を活動源としているマイクロマシンの動きが鈍るのだ。

「で、獣化しないのか?」

「フハハハハハハハッ!子供相手に獣化など!末代までの恥となるわ!」

「馬鹿が。」

 カルデナの小さな呟きを俺の右耳だけが捉える。

 ゾーンに入る。

 音速を超えることを気にせず、俺は足を踏み出す。

 ゼリー状に固まった空気を突き破り、俺の体が摩擦を失くした床を滑る。

 肩甲骨から先の関節を加速させて、腕を下から前へと突き出し、掌底をライドニクスの腹に当てる。関節を固定、加速を殺すことなく、前へと体重移動。

 四十五キロの鉄の塊が音速を超えてライドニクスの腹に打ち当たったことになる。

 突き破れる皮膚と筋肉、内臓を瞬時に再生治療し、ゾーンを解除、ライドニクスを吹き飛ばす。

「ごっアアアアアアアアアアア!!!!」

 木霊のような叫び声をこの場に残し、ライドニクスが軌道上の酒呑童子を巻き込みながら遠くに吹き飛んでいく。

 さらば、ライドニクス、貴様の武人魂は貴様の降格と共に葬られることであろう。

 トガナキノの最高視聴率を誇る‘今日の王室’、その影響は計り知れない。

 王族大好き、テルナド大好き、王様嫌いなこの国民が、テルナドを人質に取った俺達をこのまま通すはずがない。ライドニクスとの約束なんてなんのその、知ったこっちゃねぇわ、と、言わんばかりに酒呑童子が群体となって動き出す。

 人を無力化させるスタングレネードが一斉に放り込まれ、ゴム弾を発射するレールガンが次々と火を吹く。

 バッカ野郎!スタングレネードでも数に限度があるわ!こんなにいっぺんに放りやがって!耳と目が完全にいかれちまうだろうが!コイツら、殺さなけりゃ何したって良いと思ってんじゃねえのか?

『思ってるだろう。この国ならどんな怪我も治る。』

 出た。超他人事発言。

 俺は音速を超えた後ろ回し蹴りを放つ。

 衝撃波が俺の周囲で巻き起こり、投げ込まれたスタングレネードの悉くを押し返す。

 ゴム弾も巻き込まれ、その軌道を大きく外れる。

 時間差をもって、酒呑童子たちの頭上で次々とスタングレネードが閃光を発する。

 俺はゾーンに入ったまま、酒呑童子たちに次々と打撃を打ち込む。

 ま、ポーズなんだけどね。

 実際は酒呑童子と装着者の間隙に存在するマイクロマシンに命じて装着者の脳を直接、揺らしてるんだけど、そんなの視聴者には伝わらないしさ。

「な、なんで!?なんでデシターみたいにやっつけられへんの?!」

 後ろでブローニュが叫んでいるが、やっつけられる訳がない。酒呑童子は単体で魔獣狩りができるように設計しているのだ。どれだけ新神武道を極めても素手でなんとかなる代物ではない。

 まあ、俺の闘いを見て、新神武道免許皆伝のブローニュが、素手で酒呑童子を倒すことができると信じたんなら、視聴者も騙せるだろう。

『ブローニュがただの馬鹿だから騙せてるんだろう。』

 …

 そ、その可能性は否定できん。

 俺は周囲の酒呑童子を昏倒させ、ブローニュを取り囲み、ジリジリと近づく酒呑童子に狙いを変える。

 ゾーンに突入、音速を超えないように調節しながら加速、一気にブローニュの周りを取り囲む酒呑童子に近接する。

 左右の酒呑童子に対して交互に掌底を打ち込み、左足を軸に回りながら、酒呑童子の懐に潜り込む、突き上げるように掌底を、その腕を捻って隣の酒呑童子に猿臂を打ち込む。

 ブローニュの周りをクルクルと回りながら掌底と猿臂を打ち込んでいく。

 ゾーンを解除。

 ブローニュの周りを取り囲んでいた酒呑童子が一斉に吹き飛び、昏倒する。

「フウッ」

 一息吐いて、俺は、再び、ゾーンに突入、酒呑童子の群れに向かって加速する。その後をブローニュたちが、スローモーションで追い縋って来る。

 俺は歩きながら、その体重を酒呑童子に預けるように掌底を打ち込みながら目的の竜騎士へと向かう。

 酒呑童子を全て吹き飛ばし、ゾーンを解除、俺はブローニュからテルナドを託され、次々と竜騎士に乗り込む。

 本来なら、登録された霊子体の周波数が起動鍵となってコクピットに火が入る。しかし俺達は霊子体の固有周波数を変換している。したがって、俺でも今の竜騎士は使えない。

 サラシナ・トガリ・ヤートの霊子体の周波数で管理されているためだ。

「お姫さん、支配権移譲ドミネーショントランスファーを頼むぜ。」

「わかってるわよ!」

 テルナドが嫌そうな素振を見せながら瞼を閉じる。う~ん、娘に邪険にされながらも言うことを聞いて貰えるっていうのも有りだな。娘からツンデレされてるみたいでイイ。

「人在りて人無し、サラシナ・トガリ・ヤートの名の下全ての精霊に命じる。力ある者に是なる無を、力無きサラシナ・テルナド・ヒラギに力を、支配権移譲ドミネーショントランスファー!」

 テルナドを中心に第四ハンガー内が青白く輝く。

 コクピットに火が入る。

「よし!」

 俺は背中にオロチ操作用の腕を再構築し、コクピット内の酒呑童子を装着する。

 酒呑童子と竜騎士のマスタースレイブ基幹ユニットを接続、せり上がって来た竜騎士のマウスピースを噛み締める。

 オロチの両前腕に内蔵された荷電粒子砲をハッチに向ける。

「行くぞ!!」

「はい!!」

「よっしゃアアア!!」

「へい!!」

「フンッ!!」

 オロチの掌を開口、砲口と化したオロチの両手から加速された荷電粒子が吐き出される。

 轟音と爆炎を撒き散らし、ハッチが吹き飛ぶ。

『やはり、内部からの衝撃には脆いな。』

 イズモリの言葉を胸に留めながら、オロチを発進させる。

 四体の竜騎士が俺に続く。

 国体母艦の後方から発進した俺達は、安寧城に接岸している政務専用艦を掠めて高空へと向かう。

『いくらか国体母艦に損害を与えるか?』

 その方が説得力あるな、よし。

 国王専用政務艦、斑鳩に照準を合わせる。

「てい!!」

 羽の形状をした霊子砲からF型マイクロマシンでコーティングした徹甲弾を発射。

 同じ最小のマイクロマシンを塗布した斑鳩なら、そうそう墜ちることはないだろうと高を括っていたのだが、十数発のF型徹甲弾は拙かったようだ。

 あ。

 見事に火を吹いて爆発した。

『同じマイクロマシンで矛と盾をやったら、数で勝る徹甲弾の方が勝つに決まってるだろ。』

 うん、実証実験成功。

『取り繕うなよ。』

 イヤ、実験したかったんだよ。ホントだよ?ホントだからね?

『その言い訳の仕方、トンナちゃんと一緒だね。』

 イヤ、ホントだぞ?その証拠にブリッジにも一発撃っとくからな?一発なら塗布されてるF型マイクロマシンが剥がれるだけだろ?な?この演出のために斑鳩で実験したんだよ。いきなり、ブリッジに十発ぐらい撃って、ブリッジ大破、なんてことになったら大変だからな。な?

『好きにしろ。』

 より凶悪犯を演じるために俺はブリッジに回り込む。

 あ。

『どうした?』

 ヘルザースが居る。

 俺は躊躇なくF型徹甲弾を撃ち込んでやる。

 ヘルザースが苦々し気にこっちを睨んでる。ププーッざまあ見ろだ。

 俺は気分良く、魔狩り専用国体母艦、ウロボロスへと進路を向けた。

本日の投稿はここまでとさせて頂きます。お読み頂き、誠にありがとうございました。

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