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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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子供たちとじゃれ合うのって楽しいよね

 トロヤリがトクサヤをサクヤに渡し、立ち上がって新神武道の構えをとる。

 イズモリ達が俺の腕からトルタスとコーデリアを抱き上げる。

 俺は構えない。立ち上がったままの格好だ。

 俺とトロヤリから全員が離れる。


 この世界じゃ肉体と霊子体は関係ない。

 俺は力なく立ったまま。トロヤリは構えたままだ。

「うん。」

 そう思えるがそうじゃない。

「え?」

 トロヤリには俺の体がブレたように見えたはずだ。トロヤリがビクリと体を震わせる。

 後ろにも父さんがいる。

 トロヤリが振り返る。

 トロヤリを挟む形で二人の俺が存在する。

「え?」

 前と後ろ、トロヤリが交互に見回す。

 演算能力をフルに使おうと思ったら、霊子体を肉体で加速させなきゃならない。そうすることで、脳のクロック数が上がり、霊子回路の速度が速くなる。

 俺が三人、四人と増える。

 父さんの霊子回路は体中に三十六個ある。

「そ、そんなに!!」

 でも精神体は一つだ。

 だから、現実世界で分体を作り出しても、扱える分体は本来の力を発揮することができない。

「うん。」

 イズモリ達が分体を扱ってくれれば、五つの分体を扱うことができる。

「うん、でも、今、ここには、一杯、父さんがいるよ?」

 そう、無意識領域では複数の分体を同時に扱うことができる。何故だ?

「なぜだ?て、聞かれても、そんなのわかんないよ。」

 演算のみで生み出すことのできる分体だぞ。

 トロヤリを囲む分体は十二体。

 一体の分体が、突然、トロヤリに襲い掛かる。

「うわ!」

 トロヤリの腎臓を狙った右拳、その拳を、トロヤリは捻って避ける。

 父さんは話しているが、分体は勝手に動き出す。

 次々と分体が動き出す。

 正拳、手刀、貫手、肘、側蹴り、前蹴り、後ろ蹴り、膝、頭突き、分体が入れ代わり立ち代わり、様々な角度から多彩な技を繰り出す。

「くっ!」

 トロヤリが、正拳を躱し、手刀を受け流し、体を捻って貫手と肘を躱す。

 分体の同時攻撃にあっては、僅かな隙間に体を捻じ込むように滑り込ませ、間一髪で躱す。

 十数発の攻撃をトロヤリは躱しきる。

 いいぞ。

 次はこれだ。

 十二体の分体を一つに統合する。

「一体だけ?」

 トロヤリの言葉に俺は頷く。

「気を引き締めよ。さっきまでの攻撃とは違うぞ。」

 何森源也がトロヤリに注意を促すが、無駄だ。

 瞬きする間も与えずに分体がトロヤリの前に出現し、その右拳をトロヤリの眼前に止める。

「え?」

 トロヤリが呆然と立ち尽くす。

 俺の分体が消える。

「ええ?」

 トロヤリが俺の顔を見詰めながら驚きの声を上げる。

「ず、狡いよ!いきなりパワーアップさせるなんて!」

 俺は頭を振る。

 パワーアップさせていない。

「でも、さっきとスピードが全然違ったよ?」

 同じ演算スピードで分体を操作してた。複数の分体だと負担が大きくなるが、一体なら負担が軽減される。

「あ。」

 分体に自立させるプログラム…そうだな、術式を埋め込み、俺の意識からの発信を受信させていた。だから、精神体が一体でも複数の分体を操作できる。

 しかし、複数の術式を起動させている状態だから演算スピードに負荷がかかり、分体の動きそのものは遅くなる。

「うん。」

 一体ならばその負荷が軽減され、分体の動きそのものを向上させることができる。

「演算能力で相手を上回ることができれば勝てるってことだね?」

 そうだ。

 分体を再び作り出す。

 分体が無造作にトロヤリの右腕を掴む。

 トロヤリの腕が、上腕から捥げる。

「痛くない…」

 お前の感覚器官を繋げたまま、お前の右腕を取った。だから、痛みを感じない。しかし、痛みを感じるように捥ぎ取れば、現実世界のお前の腕も捥ぎ取られた状態になる。

「え?」

 見た目には捥がれていなくても神経が接続できない状態になる。物理的に神経が繋がっていても精神体において右腕を失ったと認識しているからお前の右腕は動かなくなるんだ。

 トロヤリの喉が上下に動く。

 父さんの分体から右腕を取り返してみろ。

 トロヤリが右腕を元通りにくっ付けようと傷口を擦り合わせる。

「つ、付かないよ。」

 トロヤリが焦りの声を上げる。

「落ち着け。父親の演算能力が上回っているため、貴様の意図することが実行できんのじゃ。」

 何森源也の言葉に俺は頷く。

 そうだ、その腕を取り返そうと思ったら、父さんの演算能力を上回る必要がある。

 トロヤリが俺の方へと視線を向ける。

 瞬間移動と言っても差し支えのないスピードでトロヤリが本体である俺に向かって蹴りを放つ。

 そうだ。

 父さんの演算を乱す必要がある。だから、分体ではなく、父さんの本体と直接、闘うんだ。

 俺はトロヤリの連撃を躱しつつ、右手だけでトロヤリを攻撃する。

「くっ!」

 加減はしているが、トロヤリにとっては脅威となるスピードと威力を調節する。

 次第にトロヤリは防戦一方となる。

 不意に左手での攻撃を織り交ぜる。

 トロヤリに右腕はない。

 右足で器用に防ぐ。

 俺は攻撃の回転を上げる。その連続攻撃の中に左を混ぜる。

 俺の左拳がトロヤリの防御をかいくぐる。

「ちいっ!!」

 トロヤリが顔を振って俺の拳から逃げようとするが、間に合わない。

 トロヤリの右腕が出現し、俺の左拳を止める。

 できたな。

 トロヤリが驚きの表情を見せる。

 一瞬だが俺の演算能力をトロヤリの演算能力が上回った訳じゃない。

「右手が…」

 トロヤリが自分の右手をしげしげと見詰め、分体の方へと視線を向ける。

 分体はトロヤリの右腕を掴んだままだ。

 トロヤリが俺の顔を見詰める。

 俺は頷く。

 精神体は自己修復できるんだよ。元素なんかは必要ない。自分の心で願えばどんなことだってできる。

 さっき、父さんが分体を作ったろう?

「あっ」

 もし、自分の腕が、自分よりも能力の高い者に奪われたとしても自分自身でその右腕を再生すれば良いのさ。

「そうか!それだったら相手の演算能力は関係ないね!」

 俺はニッコリと笑って頷く。

「兄ちゃん!交代っし!!」

 サクヤがこっちに向かってズンズンと歩いて来る。

「ええ?もうちょっと待てよ。ちょっとコツがわかってきたんだから。」

「兄ちゃんはもう良いのし!今度はアチシの番だし!」

 わかったよ。サクヤ、今度はサクヤの番だ。トロヤリ、サクヤとやったら、もう一度、父さんと手合わせしよう。

「もう、サクヤは我儘なんだよ。」

 トロヤリがブツブツと呟きながら俺とサクヤから離れる。サクヤは既に戦闘状態だ。

 ブローニュと闘った時のように両肩を自由自在に動かしている。

 脊椎の一つ一つをずらすように動かし、胸骨だけが上下に動いている。肋骨さえも動かしているのだ。

「フフン。この世界だと、体中が思った以上に動くのし。」

 それでも足りないな。

「え?」

 俺の腕があり得ない長さで伸長し、サクヤの体に巻き付く。

「ええ?!」

 サクヤ、まだ、既成概念に囚われてるぞ。

 俺の言葉を受けてサクヤが捕まったまま目を閉じる。

 目を開いた瞬間、サクヤが液状化し、俺の腕からスルリと抜け落ちる。

 フフッ

 スライム状になったサクヤが一気に伸び上がり、俺の顔目掛けて一瞬で元の人型に戻る。

 サクヤの右拳が俺の眼前で止まる。

「くっ!」

 空間制御だ。

 父さんの周囲の空間を父さんが支配してるんだ。

「ちいっ!!」

 サクヤが連撃を繰り出すが、俺の体に触れることはできない。周囲の空間を支配し、他人の侵入を俺が拒んでいるためだ。この空間支配を突き破るためには演算能力を高めるしかない。

 サクヤの連撃が止まる。

「ず、狡いんし…」

 サクヤが俯いて呟く。

 サクヤが項垂れる。

「…ず、狡いんし…」

 声が震えてる。

 俺は思わず、サクヤの両肩を抱きに行く。

「サクヤ…」

 俺の両手が肩に触れた瞬間、サクヤが体を回転させながら、俺の両腕を取る。

 俺の両腕を捻じりながら、俺を自分自身の背中に乗せる。

「とったし!!」

 サクヤが俺を叩きつけた瞬間に俺が消える。

「え?」

 すぐに上体を起こして振り返る。

 俺は動いていない。さっきと同じように立っている。

 サクヤの眉が歪んで、俺を睨みつける。

 俺は口角を上げて笑う。

 ウソ泣きは通じないぞ?

「じゃあ、せめて触れるようにしてくんし!!」

 父さんの演算能力を上回れば触れる。

「うううううううう!!」

 サクヤが地団駄を踏む。

 無意識領域で大きくなってもやっぱり子供だ。

 俺はサクヤの頭を撫でて、サクヤにはまだ早いよ。と声を掛ける。

「なんでなんし!なんで兄ちゃんには教えて、アチシにはダメなんし!!」

 霊子回路の使い方と霊子体を同調させる練度が違う。つまり、練習が足りないんだよ。

「どうやったらイイのし!?教えるんし!」

 それはまたの機会だ。

「なぜなんし!」

 教えれば、自分が強くなったと勘違いしてジェルメノム帝国まで付いてくるからだ。

「…」

 サクヤが黙り込む。

 サクヤが、ちゃんと成長して、教えても良いと思える時にちゃんと教える。必ずな。

 俺の言葉にサクヤが唇を尖らせる。

 表情をよく出すようになった。

 サクヤが勢いよく顔を上げ、手櫛で髪を整える。

 肩にかかった髪を勢いよく跳ね飛ばし、表情を消す。

「なんのことなし?」

 フッ

「なにが可笑しんし?」

 なんでもないよ。

 さあ、そろそろ現実世界に戻ろうか。きっと、母さんたちが待ってる。

 俺の言葉に子供たちがそれぞれに返事をする。

 この子達にどれだけの物を残せるか。どれだけの物を伝えられるのか。俺は、ふと、そんなことを考えながら、白い空間から現実世界へと戻った。

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