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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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儲ける隙があるなら儲けてしまえ

「また、あくどい顔で笑っておいででございますぞ。」

「そう言うな。こっから先はお前か、スーガの仕事だ。」

 ヘルザースの忌憚のない言葉に俺は平然と返す。

「はあ?」

「いいから、このまま、お前が出て行って、俺の言うとおりにデモ隊に説明してこい。」

「はあ、まあ、承知いたしました。」

 ヘルザースがゆっくりとした足取りで、再び、献花台の前に現れる。

 カルザンに軽く頭を下げ、「カルザン様、ご苦労様でした。」とカルザンを労い、デモ隊に向き直る。

「それでは、皆さんが、カルザン様が魔狩りを続けることにご納得されたと思いますので、ここで、一つ、重大発表を行いたいと思います。」

 澄まし顔で言ってるが、その内容は、俺から直接言われてる内容だ。

「本日、今、この時をもって、カルザン様のファンクラブを設立いたします。」

 デモ隊が騒つく。カルザンはキョトンだ。

 当然だ。ファンクラブなんて、この世界には概念さえないんだからな。アイドル活動をしているヒャクヤにさえファンクラブは存在しない。ヒャクヤは王族だから、国民側からすれば恐れ多くて近付くことさえ憚られるからだ。

「このファンクラブに加入なさった場合の特典は、次の通りです。」

 ヘルザースの言葉にデモ隊が静まり返る。

「年に三回開かれる、カルザン様の単独ライブ、え~今日のような催しですな。その単独ライブに優先的に来場することができます。」

 波の音のように、デモ隊を騒めきが奔り抜ける。

 カルザンは吃驚顔だ。

「な!何を言っておるのだ!あ奴は!」

 カルデナが俺の隣で叫ぶ。

「カルザン様の単独ライブは、会場の関係上、チケットをお持ちの方しか観覧することができません。しかしながら、ファンクラブに加入いたしますと、優先的にチケットを買うことができます。」

 波の騒めきが大きくなる。

「お前。カルザンのライブ、見たくねえの?」

 俺の言葉にカルデナが「ぐっ!み、見たい!」と小声だが強い口調で宣う。

「しかも、年に五回、カルザン様との握手会、え~これは、カルザン様と握手をするだけでございますが、カルザン様と握手している間はカルザン様とお話もすることができます。その握手会に参加することができます。」

「くうっ!私でさえしたことがないのに!!」

 カルデナ、どんだけプラトニックなんだ…一体幾つだ?

 もう、台風上陸ぐらいの波の音だな。デモ隊、超興奮状態。

「そして、なんと、月一回、催される、カルザン様とのお食事会にも参加できるチャンスがございます。」

 絶叫、悲鳴が安寧城前の広場を覆い尽くす。

 カルデナが拳を握り締め、「フンッ!カルザン様とのお食事ならば、何万回もしておるわ!!」と、自慢気に言ってるが、うん、多分、一緒に食事はしてないだろ。護衛として、食事をしているカルザンの後ろに立ってるだけだろうな。

「カルザンの後ろでカルザンの食事風景を見てるだけだろ?」

「ぐっ!だから、その時は一緒に食事をしておるわ!」

「脳内妄想か?」

「くっ!そ、それでも一緒に食事しておるのだ!」

 カルデナが泣きそうな顔で訴え掛けてくるが、もう、スルーだ。

 ヘルザースが両手を何度も振り下ろし、身振りを交えて「お静かに、お静かに。」とデモ隊に訴えかける。

 デモ隊が静かになったのを見計らい、再び、ヘルザースが口を開く。

「ただ、お食事会の方も握手会の方も人数に限界がございますので、握手会の方はファンクラブ員限定で百名様まで、お食事会は、同じく、ファンクラブ員限定で十名様までといたします。」

 デモ隊を不穏な空気が包み込む。

 そう、トガナキノ国民は限定という言葉に極端に弱い。

「ファンクラブ員になるためには、会員登録が必要でございます。」

 もう、全員、ヘルザースの言葉を聞き逃すまいと必死だ。

 ヘルザースの隣に立つ、アラネを始め、ヘルザースの奥さん達も必死の形相だ。

「各ご家庭に設置の錬成器にカルザン様ファンクラブ会員登録用の呪言契約書が生成できるようにしておきますので、まずは、その呪言契約書を生成して下さい。」

 アラネが簡易錬成器でメモ帳を再構築し、頷きながらメモを取ってる。

「その呪言契約書を生成いたしましたら、会員証を生成することができるようになりますので、その会員証を生成し、最後にその会員証を皆さんの簡易錬成器で分解保存してください。これで、会員登録は完了でございます。」

 広場を埋め尽くす全員がメモメモとメモを取っている。異様な光景だ。

「なお、ファンクラブ、運営のために年会費といたしまして、年に三千ポイントを徴収いたします。」

 おお、メモを取る手が止まってない。年会費が必要って言ったら、波が引くように人が居なくなるかと思ったけど、全然、そんなことない。スゲエなカルザン。

「それでは、カルザン様の初ライブ、これにて終了となりますので、皆さん、お足元にお気を付けて、お帰り下さい。では、ファンクラブへの会員登録は、先着順で個別番号が振られますので、お早い、ご登録をよろしくお願いいたします。」

 もう、凄い勢いで、皆、帰り出す。

 別に登録番号が若いからって、何か特典があるわけじゃないんだけど、なんか、ファンクラブって若い登録番号で競ったりしそうじゃない?

「あたしの方が先に登録したから、カルザン様への愛はあたしの方が上ヨ!」

 とか、言ってたりしてさ。まあ、その辺のことをくすぐるつもりでヘルザースに言わせたんだけど、皆、急いで帰り始めたよ。

 デモ隊を押し留めていた、警官隊もヤレヤレって感じで肩を落として溜息だ。一部、女性警官が、「あたしも帰って良いですか?」と上司に訴えてるのを見かけたけど、まあ、それも良しとしよう。

 隣をチラリと見ると、カルデナが親指の爪を齧って、焦った表情を浮かべてる。

 うん、キッチリ、くすぐられてる。

 俺は左手にカードを再構築してカルデナの前に翳す。

「こ!これは!!」

「カルザンファンクラブの会員証だ。会員ナンバーは、真っ新の一番。誰が何と言っても、お前がカルザンのファン第一号だからな。」

 カルデナが自然と跪き両手を俺に向かって差し出してくる。俺はその手の上にカードを置いてやる。特別製の金色のカードだ。

「おっおおっおおっ!!」

 両手でカードを掲げ上げ、雄叫びを上げるカルデナに向かって、俺は口を開く。

「そのカードは特別製だ。」

 カルデナが顔を俺に向ける。

「そのカードはカルザンの親衛隊長の証だ。だから、ファンクラブの握手会ではお前はカルザンの警護に付き、食事会では常にカルザンの隣で食事ができるようになっている。」

 うん、そんだけ。別にカルザンを護るための特別な機能は付けてない。ただの金色のカード。それでも、カルデナは、口を大きく開けて、驚きの表情を見せている。

「そ、そのような重要なカードを私に…」

 重要かどうかは人それぞれだな。

「そうだ、そのカードを使えば、カルザンと、益々、仲良しになれる、カルザンとの絆を強める特別のカードだ!!」

 俺はカルデナを指差し、宣言するように言ってやった。

 どちらかと言えば、カルザンを更に追い込むカードだけどね。

 カルデナはカードを胸に滂沱の涙を流してる。

「お、お前…いい奴だったんだな…」

 うん、カルデナ、お前も詐欺師には気を付けろ。

 俺はカルザンの方を振り返る。

 ま、カルザンだけが、ボー然としてるけど、仕方がない。

 カルザンの可愛さは罪だからな。背負っていくしかないのだヨ。

 俺はカルザンに近付き、その肩を後ろから、軽く叩く。

 カルザンが悲惨な顔で俺の方を振り返る。

「うん、諦めろ。その可愛さが引き起こした事故だ。」

 悲惨な顔でも可愛いカルザン。うん。仕方がない。

「大体、‘今日は魔獣を狩りたい気分’で顔出しになるだろ?そうなったら、絶対、同じ展開になるって。」

「そうでしょうか…」

「心配するな、ファンクラブ会員登録の呪言契約書には、街中でお前のことを見かけても、話し掛けたりしないってことが、規約に明記してある。」

「な!なに!!」

 俺の後ろでカルデナが叫び、カルザンが首を傾げる。

「いいか?テレビで顔出しすれば、多くの国民がお前のファンになる。現に今日は凄いことになってたろ?」

 カルザンが頷き、カルデナが「た、たしかに!!」と、一々うるさい。

「‘今日は魔獣を狩りたい気分’で、続けて顔出ししてみろ。その数はもっと増えるんだぞ。」

 うん、しかめっ面も可愛いぞ。

「そうなってくると、お前が街中を歩いているだけで、ファンが次から次へと寄って来る。」

 うん、泣きそうな顔も可愛いぞ。

「そ、それは困る!!困るぞ!!」

 うん、カルデナ、お前の気持ちはわかってるから、一々、口に出さなくてもいいから。

「だから、ファンクラブの規約に街中でお前を見かけても話し掛けたりしないってことを明記したんだ。」

「そ、そういうことか…しかし、それでは、私もカルザン様に話し掛けることができないではないか…」

 う~ん、カルデナが結構うるさい。

「ですから、それが、どうして、心配しないで良いことになるんですか?ファンクラブに加入していない人達には関係ないじゃないですか。」

 カルザンの言葉に俺はニヤリと笑う。

「そ、そうだぞ!どうしてカルザン様が心配しなくて良いのだ?!!」

 カルデナの言葉に俺は口をへの字に曲げる。

「取敢えず、カルデナは黙っててくれる?ちょっと、話し辛いから。」

 俺は振り返ってカルデナに迷惑そうな表情を隠すことなく話し掛ける。

「な、何故だ?!私はカルザン様のことを思ってだな…」

「いや、お前の台詞が微妙に話を邪魔してるんだよ。」

「そ、そんなことはないだろう!ちゃんと、お前の話に合わせて受け答えしてるではないか!!」

 もう、だから話し難いんだよ。

「だから、俺はカルザンに話し掛けてるのに、お前が後ろで受け答えするから、俺が話し辛いんだよ。」

「うっ」

「とにかく、カルデナは少し黙っててください。で、陛下、話の続きを聞かせてください。」

 カルザンの言葉にカルデナが項垂れる。俺は、カルザンに向き直って話を再開させる。

「人の心理ってのは面白いもんでな。」

 カルザンが頷く。

「会員は対価を支払ってカルザンと特別な関係を築く。その特別な関係を維持するために普通とは違う我慢を強いられる。それは、カルザンとの特別な関係を維持するための認識されない対価だ。」

「どういうことです?最初に仰った対価と後の対価は違うのですか?」

 カルザンの言葉に俺は頷きながら答える。

「違う。最初の対価はお前と特別な関係、ファンクラブ会員になるための対価、つまり、ポイントだ。」

「はい。」

「後の対価は、話し掛けたいけれども、話し掛けては、カルザンとの特別な関係が破綻してしまうから我慢を強いられるという対価だ。この対価は本人が対価を支払っているとは認識しないで支払っている。」

「成程。」

「そういう対価を支払う会員は、どうやって、その我慢を呑み込むと思う?」

 カルザンが首を捻る。

「私なら!朝に見たカルザン様の一挙手一投足を目に焼き付け、起きてる間はず~っとカルザン様のその動きを思い出しているぞ!寝る前などは、座禅を組みながらカルザン様のことを考えるのだ!そうすると、夢の中でもカルザン様と一緒に過ごすことができるのだ!」

 割り込んできたカルデナを俺とカルザンが冷めた目付きで睨む。途端にカルデナが、一歩、下がって、シュンと項垂れる。

 俺は再びカルザンに向き直り、言葉を続ける。

「周りの人間にも同じ我慢をするよう、その我慢を強いるんだ。」

「え?」

「理由付けはなんでも良い。例えば、プライベートを楽しんでいるカルザンがファンから話し掛けられていると、カルザンが困る。だから、話し掛けないようにしよう。とか、そう言った理由にすり替えて、ファンクラブの会員は、ファンクラブに入っていないファンが話し掛けられないようにお前を護ろうとするんだ。」

「そ、そういうモノなんですか?」

 うん、驚いた顔も可愛いぞ。

「そういうモノなんだよ。きっと()()が、お前の親衛隊を結成して、お前を護るようになるぞ。」

「私が!!私がカルザン様を警護致します!!」

 カルデナ復活だよ。

「そ、それはそれで、ちょっと、困りますね。」

「え?」

 再びカルデナがシュンと項垂れる。

「でも、街中を自由に歩けなくなるよりはマシだろう?」

「はい、確かに。」

「お任せください!!このカルデナ!命に代えてもカルザン様を警護致します!!」

 カルデナ復活。うるせえ…。

 まあ、カルザンの警護は、従来通りカルデナに任せて、うん、アラネには、カルザンの限定グッズ販売の仕事を頼んでおこう。そうすれば、アラネも納得するだろうからな。それに、ウフッ今日のデビューライブの映像も、ちゃんと保存してあるから、お宝映像として売れるぞぅ。

「陛下。」

「うん?」

「今、凄い悪い顔で笑ってましたよ?」

「そ、そうか?気のせいだろ?」

 俺は慌てて、自分の顔を擦り直した。

 カルザンに、また、阿漕(あこぎ)ですよ。て、言われるからな、内緒にしとかないとな!

「ところで陛下、ファンクラブを起ち上げたのは結構ですが、誰が、このファンクラブの運営を継続させるのですか?」

「それは勿論、陛下でございましょう。」

 カルザンの疑問をきっかけに、今まで黙っていたヘルザースが平然と俺に押し付けてきやがった。

 俺は、テメエがやれよ!と言いそうになるが、口を半開きにしたまま、思い留まる。

 うん。

 かなりの収益を上げることができるし、カルザンは魔狩りだ。しかも魔獣狩りユニオンのカメラスタッフでもある。

 魔獣狩りユニオンのイメージアップとPRにも効果的だし、カルザングッズは元素と専用の錬成器を造れば、幾らでも売り出せる。

 ‘今日は魔獣を狩りたい気分’での出演交渉にも一丁(いっちょ)噛めるしな。うん。

「うん。任せろ。」

「え?」

「ほう?」

 二人が同時に驚く。

「俺がカルザンのファンクラブ運営を管理してやるヨ。」

 魔獣狩りユニオンの下部組織として芸能事務所を構えよう。ヒャクヤとトドネもいるしな。

『トドネは嫌がってただろう?』

 うん、トドネは受付嬢が本職で、ヘルプ的な立ち位置でアイドルをやらせよう、その方がレアなアイドルとして人気が出るかもしれん。会いたい奴は魔獣狩りユニオンに来れば良い訳だから、握手会とかしなくても良いしな。

「棒読みですね。」

「また良からぬことを企んでおいでではなさいませんでしょうな。」

 ヒャクヤは王妃だから、当然、握手会とかはなし。歌がメインのアイドル活動で、いっそのこと‘今日は魔獣を狩りたい気分’のオープニングとエンディングのテーマソングもヒャクヤに歌わせよう。

 今まではCDとかの販売はしてなかったから、芸能事務所の起ち上げと同時にレコード会社起ち上げもやっちまうか。

『随分と起業することになるぞ?』

 いいじゃん。街中にヒャクヤの歌が流れるんだ。そういうのも有りだろ?

『まあ、たしかに、吟遊詩人の職場提供にもなるしな。』

 そうそう、経済は関係ないけど、国民の勤労活性化には繋がるだろ。

『しかし、俺達が取り仕切るのか?』

 いや、ハルタにやらせよう。

『なに?奴は奴隷解放保護局の局長だぞ?』

 良いだろ?魔獣狩りユニオンの事務員兼奴隷解放保護局の局長兼魔狩り芸能事務所の所長だな。

『スーガのことをブラックだとは言えんな。』

『国王がブラックだったんだね。』

『そういうことだねぇ。』

『人生は戦いだぞ!』

『可愛い子が増えるんだから、良いじゃない。』

「よし、じゃあ、芸能事務所を起業するから、一旦、ユニオンの方に戻るぞ。」

「あ、あの、私はこの前の映像を編集し終わっているので、放送局の方に行きたいんですが。」

「某は行政院に戻りますので。」

「あ、そう。じゃあ、セディナラの方が終わり次第、俺の方にも連絡をくれ。」

「御意。」

 ヘルザースの返事を受けて、俺はユニオンの事務所に瞬間移動した。

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