表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
34/405

クルタスの遺産

 セディナラを乗せたウロボロスを見送り、俺は通信機でカルザン達に一斉通信を行う。

「お前らも、一旦、帰れ。」

 三人が三様に了解と応え、三機の竜騎士が雲の向こう側へと消える。

「なんだ?あの三機は帰してしまうのか?」

 隣に立つ陛下が不満気に聞いてくる。

 何を言ってやがる、その方がお前にとっても都合が良いだろ?

「ああ、このオロチだけでも、この城ぐらいならどうとでもできるからな。」

 ワザと陛下の言いたいことを取り違えて答えてやる。

「き、貴様…」

 コッペが、一々、煩い。

「うるせぇよ、お前。そんなことより、俺の部屋を用意しろ。」

 コッペが俺を睨みつける。

「うむ、コッペ、師匠の部屋を用意してやれ。師匠。」

 陛下に呼ばれて視線を陛下に向ける。

「師匠、後で話しに行く。それまで部屋から出るなよ。」

 俺は左頬の傷を歪めて笑ってやる。

「ああ、じゃあ、コッペ、案内してくれ。」

 俺は陛下に返事して、コッペにワザと命令口調で指示する。コッペの視線が俺の思惑通りにキツクなる。

「こ、こちらです。」

 渋々だな。まあ、そうなるように仕向けてるんだけど。

 コッペが歩き出し、俺も一緒に歩き出す。

 マイクロマシンを支配することはできない。この城に漂うマイクロマシンは、全て、皇帝陛下の支配下だからだ。キッチリと暗号化された命令に上書きしようとすると陛下に感知される恐れがある。

 俺が魔法使いだとバレるのは避けたい。

 どんなことが原因で俺の素性がバレるとも限らないからな。

『保険という言葉を不用意に使うからだ。』

 そうだよな。そいつも問題だ。この時代の人間じゃないってことをなんとか誤魔化さないとな。

『そのことだが、保険という言葉で、奴は何故、俺達が違う時代の人間だと気付いた?』

 え?

『奴は、先に、違う世界の人間だと指摘した。何故、そのことに気が付いた?』

 そりゃ、保険って言葉を使ったからだろ?

『この世界には保険という概念その物がない。ならば、保険という言葉を聞いただけでは、違う世界の人間、違う時代の人間だと気付くことはできない。』

 そうか。保険という言葉を知っているから、俺が違う世界、違う時代の人間だということに気が付いた。

『そうだ。違う世界と言った後に違う時代の人間と訂正した。』

 保険という言葉が使われていた時代を知っている…

『そういうことになる。』

 奴はクルタスのことを知っていた。

『クルタスは月面基地に保存されていて、五百二十年前、何森源也に発見されている。その頃に保険機構が残っていたと思うか?』

 殺戮戦争の直前だろう?クルタスが保存されたのは…

『そうだ。殺戮戦争時代に保険機構が残っていたとは考えにくい。』

 それどころか、人間がマイクロマシンボディに置換したのはその前だ。マイクロマシンボディに保険は必要ないだろう?

『全人類が置換した訳じゃない。殺戮戦争直前まで残っていてもおかしくない。』

 どっちにしろ、殺戮戦争以前の言葉ってことじゃねぇか。じゃあ、何か?この国の皇帝は殺戮戦争以前の人間だってことか?

「どうぞ。こちらです。」

 コッペが忌々し気に部屋のドアを開ける。

「ご苦労さん。」

 部屋に入る手前で、マイクロマシンを操作しそうになって、踏みとどまる。

 危ない、危ない。思わず、マイクロマシンを操作するために霊子体を伸ばしそうになったよ。

『気を付けろ。癖になってるからな。』

 部屋に入る。コッペがドアを閉じる。俺は立ったまま、イズモリとの話を再開する。

 この国の皇帝は殺戮戦争以前の人間かもしれないってことはわかった。でも、人間がそんなに長生きするには何かしらのロストテクノロジーが必要だ。

『クルタスとどこで出会ったかは推測の域を出ないが、たった一人、クルタスと奴を繋ぐことのできる人間がいる。』

 …何森源也か…

『…そうだ。』

 またか!

 また、何森源也か!!

『殺気を漏らすな。』

 ああ、わかってる。

『殺戮戦争以前から生き残ってるとすれば、何森源也との繋がりを疑うべきだ。』

 そうだな。そうだ。そうに違いない。奴は、先に違う世界の人間と指摘した。と、いうことは、何森源也が何をしていたのか正確に知っているということだ。

『こうなってくると、下手な嘘は通用しない。』

 そうだな。違う時代の人間だと認めよう。

『?』

 違う世界の人間だと認めれば、俺が何森源也のコピーだってことになっちまう。トガリの馬鹿げた力と何森源也のコピーだってことは簡単に繋がる。

『そうだな。それは拙い。奴はクルタスを葬ったトガナキノを憎んでいた。折角、懐に入れそうな時にトガリだとバレるのは良くない。』

 俺達は、あくまで、トガリとは別人で、トガナキノに外部から入国した人間。無頼を気取ったヘイカ・デシターでいなけりゃならない。

『違う時代の人間、クルタスとは繋がりを持っており、クルタスの無念を晴らすためにトガナキノに潜入し、トガナキノ転覆を虎視眈々と狙ってる。』

 そういう人物像を演じ切る?

『うむ。奴がクルタスとどの程度の繋がりがあったのかを探る必要があるぞ。』

 俺はテーブルを挟んで並べられた二脚の椅子の内、窓側の一脚に座る。

 わかってる。何森源也のことも知ってる風を装う。

『深追いは禁物だぞ?』

 ああ、久しぶりに見せてやるよ。大嘘つきの本分ってヤツを。

 クッションの効いた椅子だ。深々と座る。

 ノックの音が部屋に響く。

「どうぞ。」

 一人の(はしため)を連れて、コッペが顔を見せる。

「この者をお付けします。部屋の前に待たせておきますので、ご用があればその呼び鈴を。」

 テーブルに置かれた呼び鈴に視線を落とす。

「わかった。じゃあ、とにかく、何か飲み物を用意してくれ。あと、腹に何か入れたい。」

 婢が頭を下げ、「承知いたしました。」と応えて、コッペと共に出て行った。

 支配をしていないマイクロマシンでも、その振動を拾うことができる。俺の右耳は、右目と同じく、そういう耳だ。

 ドアの向こう側、ドアから離れて、コッペが婢に洗脳精霊を混入するよう指示している。

 洗脳魔法に掛かった振りもしなくちゃな。

『信用されるには、一番手っ取り早い。』

 まあ、嘘の情報を流すにも丁度良いか。

『そうだ。』

 コッペ達が部屋から完全に離れて、暫くして、突然、ドアが開かれる。

「よう!師匠!来たぞ!」

 早いな。洗脳魔法にまだかかってないんだけど?良いのか?

「おう、座れよ。」

 陛下が跳び乗るようにして、対面の椅子に座る。

「話ってのはな…」

 陛下が話し出したところで、ドアがノックされる。

「誰だ!!」

 俺より先に陛下が怒鳴る。

 ドアが開けられ、婢が顔をのぞかせる。

「お、お飲み物をお持ちしました…」

 いきなり怒鳴られて委縮してるよ。

「うむ、入れ。」

 陛下に促されて、サービスワゴンを押しながら、婢が入って来る。テーブル横で金属製のクロッシュを開け、中のコーヒーとクッキーをテーブルに並べる。

「ありがとう。」

 俺は、婢に礼を言うと同時にカップを持つ。

「待て。」

 陛下が右手を俺に向けて、待ったを掛ける。

「誰に指示された?」

 陛下がキツイ眼差しで婢を見る。

「こ、こちらの方に言われて、お、お持ちしました…」

 うん、その通りだけど?何か拙かったのか?ちゃんと洗脳用マイクロマシンが混入されてるぞ?

「違う!誰に言われて!コーヒーをこのように入れろと言われたのかと聞いている!!」

 うん。それはコッペだ。

「…コッペ様に…」

 婢は慄くばかりだ。

「師匠、そのコーヒーは元に戻せ。」

 俺は言われた通りにサービスワゴンにコーヒーを戻す。

「どうした?」

「なんでもない。コッペがいらぬことをしようとした。」

 陛下が婢を再び睨み付ける。

「淹れ直して来い!」

「は、はい。」

 婢がサービスワゴンを押しながら「失礼いたします。」と、言って部屋を出て行く。

『拙いぞ。』

 何が?

『コイツは粒子が見える。』

 精霊の目を持ってるってことか?

『そうだ。感情コントロール、いや霊子体のコントロールが必要だ。』

 わかった。

「一体どうしたんだ?」

 洗脳用マイクロマシンが入っていることがわかったから下げさせた?

「なんでもない。コッペが質の悪いコーヒーを用意したんだ。」

 へえ、立派な言い訳だ。

「凄いな、見ただけでわかるのか?」

「ふふん、見ただけでわかるもんか。香りでわかるんだよ。」

 うん、破綻してない。

 精霊の目のことも言う気はないようだ。

「そうか、気を遣わせるな。」

 陛下がニヤリと笑う。

「そんなことはどうでも良い。それより、お前の話を聞かせてくれ!」

「俺の話?」

 白々しく恍ける。

「そうだ!お前!この時代の人間じゃないだろう?!」

『洗脳用マイクロマシンを使わずに聞いてきただと?なぜだ?』

 俺のことを疑ってるからだ。

『なに?』

 クルタス並みの力量なら洗脳用マイクロマシンを無効化するかもしれん、俺にもそれだけの力量があるかもしれんと、力量を計りかねてる。

『成程、自分よりも演算能力の高い人間を知っている。しかも、その人間はクルタスだった可能性がある。』

 そうだ、だから、クルタスと同じ時代を生きたかもしれない俺の力量を諮れない。

 どのカードを切るか…

「お前はクルタスの弟子か?」

 こちらからも探らせて貰おう。

「なに?!」

「以前、インディガンヌ王国でクルタスの弟子を名乗る女に会った。お前もクルタスの弟子か?」

 陛下の眉が顰められる。

「女の名前は?」

「シャザル・カンデ。」

 陛下の目が大きく見開かれる。

 よし、追撃だ。

「最初は金剛鬼っていう肉鎧を着てやがったが、俺が引っぺがしてやった。」

 これで俺が魔法を使えると思い込んだ筈だ。

「どうやって?」

 俺は右掌を広げて陛下の眼前に差し出す。

 霊子を同調させて陛下の霊子に指向性を与える。マイクロマシンは使わない、ヤート族が使う気配を伸ばす技、その発展型だ。

「うっ!?」

 陛下が己の意志に反して立ち上がり、自分で転ぶ。

 体を起こして俺の顔を見る。陛下の顔は驚きの一色だ。

「こうした。」

「す、凄い!凄いぞ!どうやった!?どうやって俺を転がした!」

 俺は背凭れに凭れ掛かる。

「霊子体を同調させた。」

「ど、同調?!」

 陛下の言葉に頷く。

「霊子体は精神体からの発信を受けて体を動かそうとするエネルギー源になる。」

 俺の言葉に陛下が頷く。

「俺が陛下の霊子体に同調して、陛下の精神体から発信を受ける前に、俺が、陛下の霊子体を動かした。そうすることで、陛下の肉体は俺の意思に引き摺られて勝手に転んだのさ。」

「そ、そんなことが…」

「できるさ。」

 俺はニヤリと笑う。

「意表を突けば、相手の精神体が信号を発する前に、相手の霊子体を奪うことができる。現に陛下の霊子体を奪ったろう?」

「凄い…お前、本当に凄いな!」

 よし、俺が魔法使いではないと思い直したはずだ。一旦、魔法使いかと疑わせて、その疑問を事実と実体験で否定する。完全に否定していないが、それでも俺が魔法使いかもしれないという疑問は陛下の中で薄れる。もう一押しだな。

 俺が手を差し出し、陛下がその手を握る。俺は陛下を助け起こしながら、「で、陛下はクルタスのなんだ?弟子か?友人か?なんだ?」

 先に質問してきたのは陛下だが、その質問を俺の質問にすり替えた。俺は先にどうでも良い質問に答え、更には助け起こされることで、陛下は自分自身で俺の質問に答えなければならないと無意識に思い込む。

「違う、クルタス様は…恩人だ。」

「恩人?」

「そうだ、恩人だ。」

 ピンとこないな。クルタスが恩人だと?

 突っ込んでみるか。

「ピンとこないな、俺の知ってるクルタスは他人を助けるような男じゃなかった。」

 陛下が目を伏せる。

 クルタスの人物評としては間違っていないはずだ。

 陛下が俺に視線を合わせる。

「朕は特別だ。だから、クルタス様は朕を助けた。」

 なんだ?何故、応えるのに一拍置いた?

 特別…特別とはどういう意味だ?俺は陛下を右目で再確認する。

 普通の人体構成と組成元素だ。立派な人間の子供だ。異常に長生きしてるのに普通の子供?違う。

『そうだ、普通の子供という点で異常だ。』

「マイクロマシンボディへの置換…クローン培養技術…人間保存技術…陛下は、俺を違う世界の人間と言った。」

 切り札を切る。

「何森源也の精神体コピー…?」

「違う!!朕は!断じて!奴のコピーなどではない!!」

 激高した…コピーなのか?だから、忌避感が高まった?それとも何森源也に対する憎しみ?

「何故、そんなに怒る?」

 そうだ、何故だ?何森源也のコピーであるなら、かなりの時間が経っている。既に別人格としてオリジンを構成している筈だ。俺のように。

 ならば憎しみだ。何森源也に対する憎しみ。

 陛下が肘掛けを握り締め、肩を震わせる。

「奴は…奴は、朕を失敗作と断じた…だから、奴は朕を冷凍保存したんだ!!」

 成程、組み上がってきたぞ。

「その冷凍保存から解放したのがクルタスか?」

「…そうだ…」

 陛下の震えが止まる。

 顔を上げる。

 驚きを隠せなかった。腹の読み合いの最中、俺はポーカーフェイスを保つことができなかった。

 およそ、人間の浮かべることのできる表情の中でも、最も残忍な表情を浮かべた子供が目の前にいた。

 先程までの無邪気さは影をひそめ、老成した大人の表情を浮かべる子供、その子供は冷酷なまでに残忍で、憎しみを湛えた心を内包していた。

 一目で、そうだとわかる程の憎悪と殺気、俺にはとても真似することのできない表情だ。

 久方ぶりに背筋がゾッとした。汗腺を閉じなければ、大量の汗を掻いていただろう、それ程の殺気だった。

「奴は人間の未来を創るのだとほざいていた。」

 殺気その物が口を開く。

「創れるものか。クルタス様がいなくなったとしても、朕がいる。」

 憎しみという名の子供が、溢れ返った憎しみの汚泥を吐き出す。

「それ程、人間を憎んでいるのか?」

 答えによっては、今、この場でコイツを殺さなければならない。

「フッ、人間を憎む?人間は憎むにも値しない…憎いのは…何森源也、ただ一人だ。」

 残忍な表情を浮かべたままに冷笑を漏らす。

「何森源也か…」

 俺は呟く。

「それよりも…」

 陛下が俺を睨む。

「貴様は、一体、何者だ?クルタス様のことも何森源也のことも知っている貴様は、なんなんだ?」

 立場を合わせすぎるのは危険だ。少しだけ距離を取る必要がある。

「陛下は、月面に大昔の施設があることは知っているのか?」

 なんのことかわからずに、陛下が前のめりだった体を起こす。

「月に?」

 よし、知らなかった。

『早計だ。知らない振りをしている可能性がある。』

 何故、知らない振りをする?

『俺達を敵か味方か判別するためだ。』

 賭けに出る。

『またか、行き当たりばったりなことを…』

 賭けに負ければ、此処でコイツを無力化する。

『好きにしろ。』

「クルタスが月で保存されていたことを知らないのか?」

 大袈裟に驚いた風を装う。それを見た陛下が顔を伏せる。

「く、クルタス様は、あまり、ご自分のことを話されなかったんだ。」

 俺の右目は陛下が本当のことを話していると見抜いている。

『賭けに勝ったな。しかし油断するな。』

 わかってる。

「クルタスと俺は殺戮戦争を生き抜くために月の施設で自分達を保存したんだ。」

 陛下が顔を上げる。

 これで、俺と陛下の間にシンパシーが生まれる。しかし、俺を保存状態から復活させたのがクルタスであってはならない。そうなっては、出来過ぎだからだ。

『何森源也との繋がりはどうする?』

 クルタスと出会う以前に何森源也の仲間だったということにする。

『成程、良いだろう。』

「俺は何森源也を裏切って、月に逃げた。クルタスは俺を放置したまま、保存状態から復活させなかった。」

 陛下の眉が跳ね上がる。

「俺を復活させたのはトガナキノだ。奴らは軌道エレベーターを持ってるからな。」

 陛下の眉間に皺が寄る。

「俺を保存したまま放置したクルタスと何森源也、二人を殺そうと思ったが、既にトガナキノに殺された後だった。」

『よし、空白の期間を長く設定したな。その方が、今後、辻褄を合わせやすい。』

 俺は視線を天井に向ける。

「俺は空っぽだ。トガナキノに言われるままに魔獣を捕獲して、魔獣を売り払う。ただ、それだけの存在だ。」

 陛下の眉間から皺が消え、俺は陛下に視線を向ける。

「死んだ相手を憎み続けるんだから、陛下は凄いよ。」

 俺の言葉に、陛下が、再び、眉間に皺を寄せる。

「お前も憎めばいい。」

「誰を?」

「お前から憎む相手を奪ったトガナキノを。」

 俺は口角を上げて笑う。

「そのトガナキノに俺は救われた。」

「でも、お前はまともに扱われていない!さっきの執政官の態度はお前をまともに扱っていない!!」

 よし、セディナラの小芝居が利いてる。もう一押しだ。

「しょうがねぇよ。俺には魔法が使えない。霊子を自由自在に扱うことはできるが、俺は魔法が使えない。」

 俺の言葉に陛下が口を半開きにする。

「ま、魔法が使えない?!何故だ!そんな訳がない!あの時代に生きた人間だったら霊子回路があるはずだ!!」

 俺は笑う。静かに、諦めたように笑う。

「あるよ。あるから霊子を自由自在に使える。」

「なら、何故!マイクロマシンを使うことができない?!」

 俺は溜息を吐く。

「トガナキノの国王、奴は化け物だ…」

 陛下の唇が歪む。

「奴は自分自身で霊子回路を作れるそうだ。」

「なに?!」

 陛下が音を立てて立ち上がる。

 え?そんなに凄いことなのか?

『当たり前だ。誰もが作れるようなら、殺戮戦争の時、月に人間を保存する施設を造ったり、地下にシェルターを造ったりしない。』

 そ、そうか。そうだな。

「トガナキノの国民は全員が魔法使いだ。演算能力は劣るが霊子回路と同じ機能を持った精霊回路を生まれる前に作られるからな。」

「そ、そんなことが可能なのか…」

 俺は深く頷く。

「奴は俺の霊子回路を改変した。」

 陛下が座り直す。

「霊子回路は脳底にある。霊子回路でマイクロマシンに命令を走らせようとすれば、改変された霊子回路はマイクロマシンに命令を走らせずに俺の脳に、直接、別の命令を走らせる。」

 陛下の喉が鳴る。

「反射脳である延髄と橋、そして、視床下部が刺激され、呼吸の乱れ、心拍、血管運動異常、全身の筋肉痙攣、ホルモンの分泌異常が引き起こされる。」

「な…」

「わかるか?全身が意志に反して狂い、コントロール不能の状態に陥り、酸素を取り込めなくなり、幻覚と幻聴に襲われ、体力を著しく奪われる。体中の臓器が悲鳴を上げ、感覚が徐々に奪われ、刻々と近付く死に恐怖する。」

 俺は陛下を睨む。

「だから、俺は生き延びるために、魔獣を狩るために、霊子を自由自在に操る技を身に着けた。生きるために必死だったんだよ。」

 テーブルが分解消去される。

 俺ではない。陛下だ。

『分解はできるか…厄介だな。』

 マイクロマシンを理解してるんだ、できて当たり前だろう。

『だな。』

 その陛下が立ち上がり、俺を指差す。

「ヘイカ・デシター!朕と共に立て!!」

 言われた通りに立ち上がる。

「朕は必ず!トガナキノを倒す!奴らの空中都市を!全て!殲滅してやる!!」

 俺は首を振る。

「無理だ。どうやって、あの国体母艦を破壊するって言うんだ?クルタスだって無理だったんだぞ?」

 陛下が手を下ろして、ニヤリと笑う。

「できる。朕には秘密兵器がある。足りなかったのは貴様が乗っているロボットだ。」

「竜騎士が?」

 陛下がコクリと頷く。

「朕の持つ秘密兵器は機動力に欠ける。どうしても支援する兵器が必要だ。でも、トガナキノのロボット以上の火力と運動性能、そして、機動力のある兵器がなかった。」

 陛下が俺の目を見詰める。

「しかし、師匠を初めとする貴様らが、あのロボットと共に帝国に来れば、トガナキノに勝てる!!」

 よし。

「無理だ。あの竜騎士、ロボットの使用権原は俺達に設定されてるが、所有権限を有していない。俺達がトガナキノを裏切れば、あのロボットは使えなくなる。」

 陛下の眉間に再び皺が寄る。

 さあ、どうだ?諦めきれないのなら、コイツは本気でトガナキノと戦争する気だ。あっさり引き下がるなら本気じゃない、何か別の目的があるはずだ。

「使用権原と所有権限、誰が設定してる?」

「国王がやっていると聞いてる。」

 陛下の瞳が落ち着きなく、左右に揺れる。

「サラシナ・トガリ・ヤートだけしかできないのか?」

 呟きだ。俺に聞いたわけではない。

「Aナンバーズならどうだ?奴らならプログラムの改変を…」

『拙かったな。コイツ、AIプログラムを知ってるぞ。』

 陛下の動きが止まる。

「あの溶岩の巨人…あれは一体、なんだ…」

 陛下の呟きに俺の中で警鐘が鳴る。あの溶岩巨人がドノバンの創り出したものだと気付かれた。

『拙いな。』

 踏み込む。

『なに?!』

「あの溶岩巨人、Aナンバーズの仕業じゃないのか?」

『オイッ!?』

「貴様もそう思うか!」

 陛下が嬉々として俺の方を見る。

『賭け過ぎだぞ。』

 勝ち続ければ問題ない。

『まったく…』

 どういう理由付けができる?

『コイツとAナンバーとの繋がりが不明だ。知らぬ存ぜぬを押し通せ。』

「貴様ならどう見る?」

 陛下の問い掛けに俺は俯き、一拍の間を置く。

 俺はトガナキノじゃ、よそ者の下っ端だ。当然、Aナンバーズとトガリの繋がりを知ってる訳がない。でも、今のヘイカ・デシターは、何森源也と繋がりがあって、クルタスとの繋がりも持っている。だから、Aナンバーズのことはよく知っている。

『コイツはAナンバーズのことを俺達が知っているという前提で話してる。だから、俺達がAナンバーズのことを知っていても問題ないか?』

 俺は顔を上げ、ゆっくりと頭を振る。

「詳しくはわからん。ただ…」

 俺の言葉に陛下が俺を睨むように見つめる。

「俺は、トガナキノの奴らから、あの地点で待機するように言われ、あの溶岩巨人を撃退するように命令を受けた。そのことを考えると、トガナキノの奴らはなんらかの方法で、あの地点でAナンバーズが何かをすることを知っていたことになる。」

 俺の言葉に陛下が大きく笑いながら頷く。

「トガナキノの奴らは、Aナンバーズとも敵対してる!」

 陛下の言葉に俺は俯き、言葉を続ける。

「しかし、問題はAナンバーズが、どうして、あの地点に溶岩巨人を出現させたかだ。」

『まだ続けるのか?危険だぞ。』

 いや、トガナキノとAナンバーズの敵対関係を補強する必要がある。

「む、たしかに…」

 俺の言葉に陛下が眉を顰めて俯き加減になる。

「秘密兵器があると言ったな?」

 俺の言葉に陛下が顔を上げる。

「そうか!Aナンバーズは朕の秘密兵器を奪いに来たのか!!」

 これで、溶岩巨人の目的がハッキリとした。それを敵対しているトガナキノが阻止しようとして俺を派遣したことになる。

『イデアの件はどうする?Aナンバーズとトガナキノが完全に敵対していると思わせて良いのか?』

 それは拙い。竜騎士のプログラムはイデアの複製プログラムを使ってる。トガリはイデアとのみ契約していることを伝えるか?

 いや、うん、その情報も中途半端にする。

「しかし、完全に敵対しているとは言い難いな。」

 陛下が眉を顰める。

「なぜだ?何故、そう思う?」

 一転、陛下の声が小さくなる。

「竜騎士に使用されている操作支援補助プログラムだが、あのプログラム、Aナンバーズのイデアと言ったか?そのイデアの複製だと聞いたことがある。同じAナンバーズでも、トガナキノに加担してる奴と敵対してる奴がいるんじゃないのか?」

 陛下が肘掛けに自分の拳を叩きつける。

「…イデアめ…どこまでも朕の邪魔をしよって…」

 コイツ、イデアとも浅からぬ因縁があるのか。

「しかし、そうなると余計にあのロボットを自由に使えるようにするのが難しいな。」

 よし、Aナンバーズのことは陛下の中で完結したな。

『気は抜くな。』

 わかってる。

『よし、じゃあ、さっきの続きだ、助け舟を出してやれ。』

 ああ、わかってる。

「王族なら…」

 さあ、助け船だ。縋りつけ。

 俺の言葉に陛下が顔を上げる。

「王族なら、なんだ?!」

「クルタスとの戦いを再現VTRで見たことがある。」

「うむ。」

「そのVTRの中で、王族の、なんといったかな…トドネだったか?まあ、その女の子なんだが、その子が使用権原を持っていないロボットを操作できるようにしていた。」

 支配権移譲の呪言は公開していない。しかし、トドネが支配権移譲を使ってスサノヲを操作できるようにした事実は公開している。

「それだ!王族の一人を攫え!ソイツを使って、あのロボットを使えるようにすればいい!!」

 よし、これで、問題なくテルナドを俺達の仲間として連れて来ることができる。

『下地はできたな。』

 ああ、これで間違いなくフランシスカ王国との戦争は終わる。

『トガナキノとの戦争に全力を出すだろう。』

 でなければ、トガナキノには勝てない。

「師匠!貴様は王族の一人を攫って、朕の国に来い!朕が師匠に生きる意味をやる!!」

 陛下が俺に右手を差し出し、大きく笑う。

 なぁんか、俺が、昔、ヘルザース達に言ってきたことと同じようなこと言ってない?

『間近で客観視すると、かなり、その、アレだな。』

 うん、アレだな。

『アレだねぇ。』

『うん、ちょっと恥ずかしいね。』

『こういうのが男同士だ!』

『陛下が女の子だったら、なお良かったのに。』

 俺は照れ笑いを浮かべながら、陛下の右手を握った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ