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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
33/405

え?皇帝陛下?こいつが?

 ジェルメノム帝国の城は巨大だった。

 高層ビルを幾つも重ねたビル群のような城だ。

 二番目に高い塔の上に、垂直離着陸機が着床する。

『こちらに着陸願います。』

 高層ビルのヘリポートのように整備された屋上だった。俺達を誘導する兵士の指示に従い、俺は垂直離着陸機の隣に着床する。

 カルザン達は上空で待機だ。

『どうぞ!降りてください!』

 垂直離着陸機から降りた男が、大声で俺達に呼び掛けてくる。

 オロチのコクピットハッチを開ける。

 自動制御プログラムに従い、オロチが跪き、コクピットハッチの前にステップ代わりの右手を差し出してくる。

 俺はマスタースレイブ基幹ユニットを外し、酒呑童子を脱着、オロチの右手を経由して跳び下りる。

「上空のお三方は、お降りになられないのですか?」

 俺達を誘導していた男が、不満気に言ってくるが、俺は仮面の下から男を()め上げる。

 俺の視線を感じた男がたじろぐ。

「オメエらを信用しろってのか?戦争やってたような国の連中をよう。」

「いえ、信用と言いますか、その…」

 俺は親指を立てて上空に待機する竜騎士を指し示す。

「俺に何かあったら、上の連中がこの城を吹き飛ばす。俺にとっちゃあ保険だよ。」

「ほ、ホケン?」

 そうか、この世界には保険ってものがないんだった。じゃあ、意味わかんねえよな。

「ハハハハッ!!」

 大きな笑い声が木霊する。

 風の強い場所にあっても負けない笑い声だ。

 笑い声のした方に顔を向ける。

「お前!この世界の人間じゃないな!!」

 子供だ。

 生意気そうな男の子がいた。

「いや!違うな!この時代の人間じゃないってことだな!!」

 いきなりバレた。

『馬鹿が。』

『あ~あ、やっちゃったよ。』

『肝心なところでコケるよねぇ。』

『バレたからにはブッ飛ばせ!』

『この城の探索してからで良いんじゃない?可愛い子がいるかもしれないしさ。』

 心持、顎を持ち上げた生意気な立ち姿。自信に満ちた雰囲気が、見た目からでも伝わって来る。

 しかし身長は俺と同じぐらい、一〇歳の姿をした俺とだ。

「へ、陛下!なりませぬ!このような場所に衛士も連れずに!」

 男が生意気な子供に向かって陛下って言いやがったよ。

 陛下と呼ばれた男の子が、駆け寄って来た男の襟首を掴んで捻じる。男は体を回転させながら宙を飛んだ。

(やかま)しい!!下がっておれ!下郎が!」

 うわあ。自信満々の態度に相応しい大上段な振る舞いだわ。

「おい!お前!」

 俺の方へとズンズンと歩いてくる。

 近付きながら、ニッコリと笑う。

「凄いな!遥か昔の魔法科学を復活させたのか!」

「え?いや…」

 陛下がオロチを見上げる。

「凄いロボットだ!いや!人が乗り込んで戦うんだから、大型アシストスーツになるのか!?どうだ?俺も乗せろ!」

「ヤダよ。」

「なに!?朕に逆らうのか?!」

「当たり前だろ。逆らうよ。」

『いや、普通は逆らわんだろ。皇帝陛下なんだから。』

 そうか?そうだよな。

 陛下が俺を睨みつける。睨みつけても怖くもなんともない。だって子供の癇癪なんだもん。

「貴様!」

 朕が、いや、皇帝陛下が俺の襟首を掴もうとするが、俺はそれを躱す。

「避けるな!」

 無茶を言う。

『いや、無茶じゃない。』

 そうか?そうだな。でも避けるよ。

 俺は次々と伸ばされて来る皇帝陛下の手を避ける。

「貴様!死刑にするぞ!」

「はあ?」

 俺は小鼻の脇を指先で掻きながら首を傾げる。

「ったく、しょうがねぇな、ほれ、掴めよ。」

 俺は襟首を差し出してやる。

 皇帝陛下がその襟首を掴む。

 捻って投げ飛ばそうとするが、俺が、その起こりを潰し、逆に捻って皇帝陛下を引っ繰り返す。

「ギャッ!!」

 背中から石畳の上に落ちた陛下が、変な声を上げて転げ回る。

「き!貴様!陛下になんたる無礼を!!」

 その陛下に投げられた男が、俺に駆け寄って来る。

「何もしてないよ?何が無礼なの?」

『スットボケたな。』

 スットボケたよ?それが何か?

「へ、陛下を投げ飛ばしたではないか!!」

 俺は両手を挙げて、頭を振る。

「俺は襟首を掴まれただけで、なんにもしてないよ?勝手に陛下様が転んだんじゃない?」

「な、な、何を…」

 男が顔を真赤にして言葉を詰まらせる。

「や、ゲホッゲホッやめよ!!」

 陛下が咳き込みながら上体を起こす。

「へ、陛下!」

 男が陛下に駆け寄り、背中を擦ってやる。

 咳き込みながらも陛下が立ち上がる。

「下がれ!」

 陛下が男を邪険に振り払い、俺を睨みつける。

 お?まだ来るか?

「お前、凄いな!」

 陛下が無邪気に笑う。

「今の技はなんだ?!どうやった?俺にもできるようになるか?!」

 俺は、若干、面喰いながら、「おお、理屈がわかって、その通りに体を動かせるならできるようになるよ。」と応えてやる。

 その言葉を聞いた陛下は目を輝かせながら「そうか!!俺にも教えろ!」と大声で前のめりになる。

「あ、ああ。」

 なんだ?やたらと無邪気だぞ?コイツが侵略国家の元首?摂政がいるのか?

「コッペ!この技を全兵士に教えてやったら!朕の軍は更に強くなるぞ!!」

 ああ、コイツだわ、戦争好きだ。

「お前、一体なんのために俺達を城に呼んだんだよ?」

 コイツ、俺の質問にキョトンとしてやがる。ホントなんなんだコイツ?

 邪険に振り払われたコッペと呼ばれた男が、陛下に耳打ちして、陛下が納得しながら頷く。

 コイツら冗談みてぇな奴らだな。

「おお!お前達に礼を言うために呼んで来いと言ったのだ!!」

 なんだ?コント?

「で、俺はお前から礼を言われてないぞ。」

 真剣に驚くなよ。お前も馬鹿か?

「そ、そうか!言っておらなんだか?」

 だから言われてないって。

「よし!では、こっちに来い!ちゃんと礼を言うぞ!」

 陛下が踵を返して走り出そうとするが、俺がそれを押し留める。

「待てよ!そういうことなら、俺達をこの国に派遣したお偉方が居る。そいつを呼び出すから、ちょっと待て。」

 陛下が振り返り、首を傾げる。

 え?俺、変なこと言った?

「あの溶岩の巨人を柱にしたのはお前達だろ?」

 真っ当なことを聞いてくるな。うん、わかりやすく言おう。

「うん。いいか?よく聞け。」

 俺の言葉に陛下がコクリと頷く。

「いいか?俺達は魔狩りで、魔獣を狩るのが仕事だ。」

 陛下がコクリと頷く。

「だから、本来は、あの溶岩の巨人を倒すことなんて知ったこっちゃない。無視したって良かったんだ。」

 陛下の顔が悲し気に歪む。あれ?俺、泣かすようなこと言った?

「いいか?泣くなよ?よく聞け。」

 陛下が口をへの字に曲げて、泣くのを我慢する。

 ホントにコイツが戦端を開いたの?

「でも、神州トガナキノ国の偉いサンが、偶々(たまたま)、近所の国に居た俺達に、あの溶岩の巨人を倒せって命令したから俺達が来たんだよ。わかる?」

 陛下が泣きそうなのを我慢して頷く。

「じゃあ、誰にありがとう、て、言えば良いのかわかるな?」

 陛下が俺を指差す。もう、ビシッて音がしそうなほどの迷いのない動きだった。

「うん、そうか。わかった。お前は俺達に礼が言いたい訳だ。」

 陛下がニッコリと笑って頷く。

「大体、朕はトガナキノを好かん!!」

 雰囲気を一変させて、両手を組んで憤慨してるよ。可愛らしいっちゃ、可愛らしいんだが、でも、ちょっとなぁ、困ったなぁ。

「なんで、トガナキノが嫌いなんだよ?」

 陛下が俺を横目で睨む。うん、まあ、迫力はないよ。子供なんだから。

「トガナキノはクルタス様を亡き者にした!」

 ああ、そういうことね。クルタスの野郎、キッチリ、種を蒔いてやがる。クソ。

「まあ、その気持ちはわからんでもないが、トガナキノはトガナキノで考えるところがあるんだろう。俺に礼を言いたいなら、そのトガナキノの偉いサンも一緒でないと、俺はどこにも行けないぜ?」

 俺の言葉に朕、いや、陛下が眉を顰める。ブー垂れたって駄目なもんは駄目だ。でないと俺のシナリオがグズグズになっちまう。

「わかった。では、ここへその者を呼ぶがよい。」

 テンション、ダダ下がりだな。まあ、しょうがない。

 俺は通信機を使って、セディナラを呼び寄せる。

『わかった、ウロボロスで降りる。』

「ああ、頼む。」

 通信を切って、すぐに機影が見える。

 成層圏からでもウロボロスの機動力ならすぐだ。小さな豆粒のような機影が見る間に巨大になっていく。その巨体を見て、陛下が目を丸く広げる。コッペと呼ばれた男も同じだ。

 上空、二百メートルほどの位置で停止し、船尾から一機の垂直離着陸機が発進する。

 反転ローターを使ったものではない。霊子による質量方向変換システムを使った機体だ。

 霊子ジェットを備えていないので高速飛行はできないが、正に魔法で飛んでいるような機体だ。

「ど、どうやって飛んでいるのだ!!」

『スットボケろ。』

 わかってるよ。

「さあ。」

 俺は、今は、トガナキノの国民であって、飛んで来ている垂直離着陸を造った国王ではない。だから竜騎士を始めとしたトガナキノの数々の発明品の構造や原理など知る訳がない、スットボケるのがベターだろう。

 一人乗りの垂直離着陸機だ。

 アダムスキー型円盤のような機体に一人乗りのコクピットを載せたような形状をしている。クラゲに見えなくもない。

 そのクラゲが着床し、コクピットハッチが圧縮空気の抜ける音と共に開く。同時にタラップが展開し、白い服を着たセディナラが降りてくる。

 この面々の中で、唯一、シリアスな表情を浮かべた(たら)しの登場だ。

「よう。」

 俺は気軽に片手を上げて声を掛けるが、セディナラは眉を顰めながら口角を上げる。なんだよ、ニヒルでカッコいいじゃねぇか。

 偉そうに踏ん反り返る陛下の前に跪き、右手を胸に当て、恭し気に頭を垂れる。

「陛下のご威光、この世をあまねく照らし、ご機嫌麗しく、御前にお呼び頂けたこと、光栄に存知ます。」

「ふん。」

 陛下はソッポを向く。

 セディナラはウロボロスの中で俺達の遣り取りを見ていたはずだ。だから、迷いなく陛下の前に跪いた。

 でも、この後どうするかっていう打ち合わせは…してねぇな…忘れてた…

「へ、陛下…」

 コッペが慌てて、陛下に執り成そうとするが、この陛下がそんなことをするはずがない。

「オイ、ちゃんとしねえと、さっきの技、教えてやんねえぞ?」

 俺の言葉に陛下が俺を睨みつける。俺も陛下を睨みつける。

 陛下が唇を噛み締めながらセディナラの方へと向き直り、「うむ、名乗りを許す。」と、ぶっきら棒に呟いた。

 セディナラがチラリと俺を見る。俺は口角を僅かに上げて悪い顔で笑う。

「はっ、私めは神州トガナキノ国外務執政官第五席…コウザル・セディナールと申します。」

 うん、嘘吐いた。よし。役職も言ってないし、今後、記録に残されてもそんな奴知らないって言い切ってやろう。

『国同士の遣り取りで…また、いい加減なことを…』

 俺じゃないよ?セディナラだからね?

『そういうのを詭弁と言うんだ。』

 俺は陛下に近付き、その肩に腕を回す。

「な!何をしておる!!」

 コッペは吠えるが、陛下は驚きながらも満更でもなさそうだ。

「皇帝陛下、じゃあ、場所をちゃんとしたところに移して、ちゃんと話そうぜ。」

 俺の言葉に陛下が渋々「うむ、わかった。」と応え、俺と共に歩き出す。

「これ!!陛下の肩から腕を下ろせ!!」

 コッペが俺の腕を掴んで、乱暴に陛下の肩から剥ぎ取るようにして振り回す。

「そう、怒るなよ。陛下は怒ってねぇだろ?」

「喧しい!」

 そう言って、俺を残して陛下とコッペが歩き出し、俺とセディナラがそれに追随する。

 俺は陛下とコッペの後ろ、そして、セディナラの前を歩く。

 掌がセディナラに見えるように手首を捻る。

 その不自然な動きにセディナラが俺の掌を見る。

 掌に傷をつくり、治療し、再び傷をつくる。

 掌につくった傷は文字だ。

 長々と書き綴った文章を読んだセディナラが咳払いをする。

 これで、俺からの指示は終わりだ。

 この皇帝陛下はクルタスと繋がっており、俺を違う時代の人間だと看過した。

 下手な動きは、マイクロマシンで察知される可能性がある。

『城に漂うマイクロマシンの周波数は奴の周波数と同じだろう。上書き防止に暗号化もされてる』

 体内に侵入して来てるマイクロマシンは?

『暗号キーを解析済みだ。暗号を復号化しないまま上書きして、ニセの情報を流してる。』

 どうする?全部、同じように上書きするか?

『お前はトドネの学校での前科があるからな。使えるようになった途端に無意識で使っちまうだろ?』

 うっ古傷を…

『古傷と言うほど昔じゃないだろうが。とにかく、今は使えない状態の方が俺達の素性を探られずに済むだろう。』

 そうだな、その方が良いな。それにしてもかなり高度な魔法使いってことか?

『そうだな。暗号化までしてるってことはその辺のノウハウをクルタスから教えられたんだろう。』

 うん、奴がこの国の最高の魔法使いで、フランシスカ王国で横行してた洗脳マイクロマシンの生みの親だな。

 無邪気な子供の振る舞いにマイクロマシンへの支配力、どちらも一人の人間としてイメージできないが、クルタスという点で繋げることはできるか。

『どういうことだ?』

 マイクロマシンを支配するということは、魔法使いであり、精霊回路を脳底に持っている。俺が今まで見てきた魔法使いと、この皇帝陛下には共通点、魔法使いに共通した人間性が見られない。

『たしかにな。冷静でもなければ、理知的でもない。』

 でも、クルタスによって後天的に創られた魔法使いならば…

『うむ、あり得ない話じゃない。』

 後天的に創られた魔法使いであるならば、演算能力の低い霊子回路か?

『そうなるな。演算能力の高い霊子回路を後天的に創ろうとすれば、霊子が不足する。理性的でない言動から、自己制御機能を持っていないだろう。演算能力の低い霊子回路だな。』

 幽子吸引集束スーツを着ている可能性は?

『捨てきれんが、さっきの癇癪を見る限り、着ていないだろう。あれだけ癇癪を起す奴が、あんな面倒臭い物を常に着ているとは思えん。』

 後天的に演算能力の高い霊子回路を作った者は、霊子枯渇状態を防ぐため、常に幽子吸引集束スーツを着ていなくてはならない。全裸になることができないため、体を洗うことが非常に面倒になるのだ。部分的にスーツを外して、脱いだ部分だけを拭いてから、再びその部分のスーツを着用し、別の部分を脱ぐ、という具合だ。

 汚れを分解消去すればよいのだが、これが中々に難しい。

 体を構成する物質と体に付着した汚れが、まったく別の物質であれば問題ないのだが、身体細胞の老廃物などの同様の構成物質だと、その判別が難しい。と、言うか、かなりの演算能力を必要とする。

 トガナキノの場合は、各住宅に備え付けている錬成器で事足りるが、個人の霊子回路や精霊回路では無理がある。仮に、その問題をクリアできたとしても、一生脱ぐことのできないスーツだ。そんな物をこの癇癪持ちが着ているとは考えにくい。

『問題は地下にセクションがあるかどうかだ。』

 そうだな。コイツがリンクできる量子コンピューターがあるかもしれん。

『直列同期できるなら、かなりの演算能力を有することになる。』

 イデアの話だと波状量子コンピューターの現存箇所は元日本列島しか判明していない。此処に波状量子コンピューターがあれば、問題だが、恐らくは無いだろう。波状量子コンピューターは何森源也が開発し、殺戮戦争を終結させた最後の秘密兵器だ。だから、此処には無いと判断して差し支えない。普通の量子コンピューターに限定できるのは助かる。

 コノエ。

『はい~。そちらに行きましょうかぁ?』

 いや、大丈夫だよ?

それより、この国の地下にセクションがあるかどうかを知りたい。

『…はい~、その国の地下にはセクションがありますぅ。荒渡来人の潜伏先を調べる時に記録してますぅ。なんなら、そちらに行ってご案内しますぅ?』

 いや、案内はイイよ。それより、そのセクションには量子コンピューターは?

『…量子コンピューターも記録にありますぅ。あの、そちらに行ってご案内しますぅ?』

 いや、それはイイよ、ありがとう。今は無理にマイクロマシンを侵入させるな。相手に気付かれると厄介だからな。

『…はい~…』

 なんだ?テンションが、ダダ下がりだな?

 長い廊下の先、長い階段を上る。廊下を挟んで幾つもの階段を上り、大きな部屋を抜けて、巨大な、ホールかと思えるような廊下に出る。

「陛下、お召し替えを。」

 コッペが皇帝陛下に声を掛ける。

 陛下が今着ている服は簡素な服だ。ヘンリーネックのTシャツに赤いベスト。茶色のズボンに黒の革靴。たしかに皇帝らしくない。街中にいる子供と同じだ。

「このままで構わん。」

 偉そうに踏ん反り返りながらそのまま大きな廊下を進む。

 巨人が通るのかと思えるほど大きなドアが見える。

 ドアの横には屈強な衛士がズラリと並び、ドアの開け閉めだけをする執政官が二人。

 皇帝陛下がドアに近付くとその二人が、厳かにドアを開ける。

「貴様らは待て。」

 コッペが俺とセディナラを止める。

「身体検査をさせてもらう。」

「必要ない!」

 コッペが真っ当なことを言ってるのに陛下が頭っから否定する。

 そりゃそうだ。俺の体に侵入させたマイクロマシンが陛下に情報を伝えているはずだ。勿論、ニセの情報をだが、だから、俺達の身体検査をする必要などない。

 下手な武器も自分には通用しないと高を括っているから、俺がナイフを持っていようとも関係ない。

「貴様は、一々、煩い!下がってろ!!」

 陛下に怒鳴られ、コッペが頭を下げて「申し訳ありません。」と一歩下がる。

 ヘルザースなら絶対に怒ってるよな。コイツとヘルザースを交換できねえかな。

「気にせず一緒に入って来い。」

 皇帝陛下直々のお許しだ。俺とセディナラはフリーパスで玉座の間に通される。

 赤い絨毯が玉座に向かって真っすぐに伸びている。

 大きな部屋だ。装飾も凝って、意匠の趣味も良い。大きな部屋に似つかわしい大きな窓。その割に柱が少ない。

『建築技術は発達してるな。少ない柱で、よくもこれだけの大空間を支えてる。』

『トラス構造も見えないねぇ。もしかしたら、天井内に隠してるかもしれないけど。』

『マイクロマシンを支配できないのが痛いねぇ。』

 そうだな。マイクロマシンを支配しちまえば、徹底的に調べることができるが、皇帝陛下自身が魔法使いじゃな。

『ぶっ叩け!!』

『可愛い子がいないか調べたいんだけどなぁ。』

 今後も此処に来るようになるから、後のお楽しみだな。

 玉座から一段下がった(きざはし)の両サイドには、高級執政官らしき人物が二人並んでいる。白い長髪、白い長髭が左に、同じく白い長髪の女性が右だ。玉座に向かって歩く皇帝陛下にその二人が頭を下げる。

 それを無視して、皇帝陛下が奥の玉座に跳び乗るようにして座る。

 俺とセディナラは静かにその前に立ち、セディナラが跪く。

「デシター、貴様も跪け。」

 セディナラがセディナラっぽくない台詞を呟く。

「はあ?なんで、俺が自分よりも(よえ)え奴に跪かなくっちゃならねえんだよ?殺すぞ?」

 若干、物騒な言葉を大き目の声で口にする。

「皇帝陛下の御前だ。跪け。」

 俺は顎を上げる。

「オイ、皇帝陛下様よぅ。俺も跪かなくっちゃならねえのか?」

「デシター!!」

 セディナラが怒鳴るが、その声に被さるようにして大きな笑い声が響き渡る。

「ハハハハハハハ!よい!!デシターと申す者!その方は跪かぬともよい!朕が許す!!」

 セディナラが俺を横目で睨み、軽く舌打ちする。俺は馬鹿にしたように笑う。

「申し訳ありませぬ。この者の無作法には、私もほとほと手を焼いておる始末でございまして。」

 皇帝陛下が追うように笑いながら「よい、よい。朕も堅苦しいのは嫌いなのだ。デシターのように振舞う方が気持ち良い!」と大きく笑う。

 ひとしきり笑った後、皇帝陛下が頷く。

「朕は初代ジェルメノム帝国皇帝、メルヘッシェン・フォーギース・バーナマム。デシター、お前の名前を教えろ。」

「長ったらしい名前だな。これからもメルヘッシェン・フォーギース・なんとかって呼ばなきゃならねえの?」

「朕のことは陛下と呼べ!」

 俺は鼻頭に皺を寄せる。

「陛下って言うのは勘弁して貰いてえな。」

 陛下が前のめりになる。

「なに?!なぜだ!なぜ!朕のことを陛下と呼びたくない!」

 直ぐに怒るな。

「俺の名前が、ヘイカ・デシターだからだよ。」

 俺の言葉に皇帝陛下様がキョトンとした顔になる。

「貴様の名前が、ヘイカ・デシターだと?」

 皇帝の言葉に俺は頷く。

「ハハ、ハハハハハハハハッ!そうか!それは陛下とは呼びにくいな!」

 大きな笑い声が反響する。

 上を向いて笑った後、皇帝が真直ぐに俺を見る。皇帝の目はその余韻を残していなかった。

「でも駄目だ!」

 真剣な表情だ。

「朕のことは陛下と呼べ!」

 俺は溜息を吐く。

「わかったよ。あんたのことは陛下と呼ぶよ。」

「よし!」

 満足気に陛下が頷く。

 ま、俺としてはどっちでも良いんだけどね。

「朕は貴様のことをデシターと呼んでやる!ありがたいと思え!」

 俺は陛下の言葉を鼻で笑う。

「ちげえよ。お前は俺のことを師匠と呼ぶんだ。」

「デシター!いい加減にせよ!」

 俺の台詞を聞いたセディナラが怒鳴る。

 陛下はキョトンだ。

「先程から、陛下がお優しいのをよいことに!不遜な言動の数々!神州トガナキノの面汚しが!今すぐに帰れ!!」

 俺はわざとらしいぐらいに眉を顰めて悪意を垂れ流す。

「ああ、そうかよ。ケッ、て、ことでな、陛下、オメエに俺の技は教えらんねえよ。じゃあな。」

 俺は踵を返すが「待て!!」陛下が俺を止める。

 俺はゆっくりと振り返る。

「セディナール!貴様は余計なことを言うでない!デシターは朕にその技を教えてくれると約束したのだ!帰らせてはならぬ!!」

 陛下のお言葉にセディナラが頭を深々と下げる。

「申し訳ありません。」

 態度は慇懃だが、声の中に恐れは感じられない。その所為か、陛下がセディナラの謝罪に対して眉を顰めてる。

 掛かったかな?

『の、ようだな。』

「で、陛下、お前は俺のことを師匠と呼べよ?」

「む…」

 陛下が背を仰け反らせて、嫌そうに顔を歪ませる。

「いいのか?今日、見せた技以外にも色々あるぞ?俺の技は我流だからな。俺にしか教えることはできねえぞ?」

「うっ!」

 人は限定品と言う言葉に弱い。

 陛下は項垂れ、小さな声で唸った後、その顔を上げる。

「わかった!デシターのことは師匠と呼ぶ!!」

 俺はニッコリと笑い、「よし。」と、応えた。さあ、セディナラと、もう一悶着起こしてもらおうか。

「じゃあ、さっさと用事を済ませろよ。」

 俺は話を進めろと、陛下を促す。

「うむ。」

 一言応えて、陛下がセディナラの方へと視線を向ける。

「セディナール、立て。」

 セディナラが静かに立ち上がる。

「神州トガナキノ国の今回の働き見事であった。礼を言う。」

 ホントに礼を言っただけで終わりやがった。

「陛下のお言葉を賜り光栄に存じます。」

 セディナラが頭を下げる。それを見た皇帝陛下が満足気に頷き、下がれと言おうとした瞬間だった。

「今回の一件ですが…」

 セディナラが言葉を発する。その言動に陛下が眉を顰める。

「非常に多くの被害が出たこと悲しく思いまする。もし、よろしければ、神州トガナキノ国からの援助といたしまして、街道整備、食糧援助を申し出たいと考えておりますが、如何でしょうか?」

 本来ならば発言の機会を願い出る所だが、セディナラは反感を買うためにワザとスッ飛ばしやがった。

「む、そのようなもの、朕は必要とは…」

 陛下の話している最中にセディナラが「恐れながら。」と口を挟む。

「皇帝たるもの臣民を慰撫し、安寧をもたらすのが常と考えまする。しかしながら、この国では戦争に明け暮れ、帝国を支える臣民に対する慰撫が、少々、損なわれておるように見て取れます。優秀なる皇帝たるものが、そのようなお考えでは、臣民に示しがつかぬのではございませんでしょうか?」

「なっ!」

 陛下が大声で驚きの表情を見せる。

 ジェルメノム帝国側で、さっきから表情を変えるのは陛下だけだ。玉座の両脇に控える白髪の二人は微動だにせず、突っ立ったままだ。

『人形のようだな。』

 人形そのものなのか、人形のようにされているのか…子供の癇癪に当てられたな。

「我が国の魔法科学は、この世の、およそ、どの国よりも進歩しておりまする。我が国の力をもってすれば、あの程度の損害であれば、二日とかからずに復旧することができましょう。如何です?援助をお受けになられませぬか?」

 うわぁ、最初に自慢して、助けてあげるよ?って、結構、嫌味な言い方だよな。

「必要ない!!下がれ!下がれ!下がれ!貴様の顔など二度と見とうない!!下がれ!!」

 マジで子供だわ。

 セディナラが馬鹿にしたように笑う。

「貴様!何が可笑しい!!」

「皇帝がこれでは、臣民も堪ったものではありませんな。いっそのこと、この国に攻め入ることが、臣民にとっては救いになるやもしれませぬな。」

 セディナラの言葉に皇帝の顔が硬直する。

 ジェルメノム帝国は、フランシスカ王国のトガナキノ総領事館に情報工作を仕掛けていた。ジェルメノム帝国がトガナキノを警戒している証だ。クルタスの一件もある。将来的にはトガナキノと一戦交える心積もりもあるだろう。

「き、貴様…」

 陛下が言葉を詰まらせる。

「陛下がトガナキノの総領事館に魔法を仕掛けていること、我々が知らぬとでもお思いですか?」

 陛下の顔色が変わる。

「デシター。」

 セディナラの呼び掛けに、俺は顔を上げる。

「なんだよ?」

 セディナラがキツイ視線を俺に向け、俺はその視線を躱す。

 伝わったかな?俺はセディナラに弱味を握られてるぞ?気付けよ?皇帝陛下様。

「竜騎士でこの国を攻めれば、幾日で制圧することができる?」

「ああ?」

 俺は、視線を下に向けたまま、答えることを渋る。

「幾日で制圧できるかと問うている。()く答えよ。」

 セディナラの言葉に俺は唇を噛み締め、一拍置いてから応える。

「…一日半もあれば…」

 セディナラが満足気に笑う。

「ならば、貴様は明日の昼まで此処に残り、陛下からお言葉を頂戴して戻って来い。」

 セディナラが俺からの答えを聞くこともなく皇帝陛下に向き直り、頭を慇懃に下げる。

「メルヘッシェン・フォーギース・バーナマム皇帝陛下、神州トガナキノ国外務執政官第五席コウザル・セディナールが謹んで、宣誓いたします。」

 セディナラが頭を上げる。

「神州トガナキノ国は、明日の正午をもって、ジェルメノム帝国への開戦を布告いたします。」

「なに!!」

 皇帝陛下が前のめりになる

「開戦を避ける術は、一つ、神州トガナキノ国が要求する二点の調印を締結することでございます。」

 皇帝陛下が玉座の肘掛けを握り込む。

「まず、神州トガナキノ国の総領事館が置かれているフランシスカ王国との終戦を締結すること。」

 皇帝陛下の顔が真っ赤になる。

「もう、一点は神州トガナキノ国からの援助を受諾することです。」

 皇帝陛下が体を震わせながら顔を下に向ける。

「皇帝陛下は幼い、直ぐにはお答えにはなられないでしょうから、このデシターを置いておきます。期限は明日の正午、それまでにお答えを頂戴したいと考えておりますので、お決めくださいませ。」

 セディナラが頭を下げ、皇帝陛下が顔を上げる。

「きっ!貴様!!貴様の国になど…!!」

 俺は視線で皇帝陛下の言葉を押し留めさせる。

 寂し気な視線。

 目を少しだけ伏せる。

 瞼を閉じ、下を向いて頭を軽く振る。

 そして、溜息。

 俺の様子を見て取った皇帝陛下が口を噤む、皇帝が玉座に座り直す。

 気が付いたか?

 俺とセディナラは仲が悪いぞ?

 俺は神州トガナキノ国の竜騎士を駆って、溶岩巨人を無力化したぞ?

 お前の師匠になったんだぞ?

 お前には洗脳魔法があるだろう?

 セディナラは俺を此処に置いて帰ると言ってるんだ、チャンスだろう?

 皇帝陛下は、再び、顔を伏せる。伏せたまま、口を開く。

「…承知した。では、明日の正午までに師匠に答えを持たせる…」

 よし。

 俺はセディナラの背後から皇帝陛下に軽く笑い掛けた。

 それを見た皇帝陛下は口角を上げた。

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