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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
32/405

新型(挿絵あり)

 魔狩り専用国体母艦は黒を基調にしている。

 悪役のデシターが乗る国体母艦だ。黒が適切だろうと思って、そうした。だから、積載している竜騎士も黒だ。

 ヘイカ・デシターの竜騎士は、神々しさを強調したスサノヲとは違い、悪魔かドラゴンを彷彿とさせるデザインだ。名前はオロチ。

 ノッペリとした凹凸のないフェイスに後頭部から長い尻尾が伸びている。

 頭の部分だけを取り外せば、某有名異星人映画、「キッシャアア!!」とか叫びながら人を襲い、腹の中から飛び出してくる奴。

『エイ〇アンとハッキリ言ったらどうなんだ?』

 ハッキリ言えないからお前の台詞も伏字になってるぞ。

『そうか。』

 まあ、その異星人の幼生体みたいなデザインだ。

 その後頭部からは二本のサブアームが伸びている。このサブアームは翼のようなデザインだ。

 竜騎士は飛翔するのに翼を必要としないので、あくまでも翼のような物だ。形状は蝙蝠と同じ形状で、皮膜部分は複雑な面構成によって虹彩反射を起こすアルミナガラスが分割して設置してある。遠目から見れば虹色の翼だ。

 蝙蝠の翼は、哺乳類前肢の骨格と同じだ。腕、手首、指の間に皮膜が広がり、各骨格は人間の腕のように動かせる。

 このオロチの翼も同じ構成にしてあるが、指に当たる部分を独立稼働させ、霊子砲兼腕となるように設計した。皮膜部分を細かく分割したのは、この指に当たる部分を(しなやか)に可動させるためだ。

 つまり、このオロチにはメインとなる二本の腕と副椀となる十本の腕が設置されていることになる。

 戦闘力の向上だけに特化した凶悪な機体だ。

 俺は、酒呑童子を装着し、その機体に乗り込み、後部発着場から出撃する。

 宇宙が近い。

 太陽を背に白い雲海の遥か上空から藍色の空を滑空する。

 続けて、カルザンとブローニュが出撃して来る。

 オロチの翼を展開し、空中から溶岩の巨人を見下ろす。

『ちょ、ちょっと!デシターの竜騎士だけ、なんでそんなカッコエエのん!狡いわ!』

『本当ですよ。私の竜騎士にも翼を付けてください。』

「付けるのは構わねえが、どうやって操作する?」

『え?』

 俺の言葉にカルザンが驚き、黙り込む。

 そう、人間の腕は二本だ。背中には腕は生えていない。その上、オロチの片翼を構成する五本の霊子砲は指であり、腕でもあるのだ。計十二本の腕と二枚の翼を操作できなければならない。

 霊子感応ヘルメットを装着すれば可能なのだが、それは、ただの理屈だ。

 竜騎士の操作はマスタースレイブ方式だ。搭乗者はマスタースレイブ基幹ユニットを体に装着することで、竜騎士に搭乗者の動きをトレースさせる。

 搭乗者の身体に無い物を竜騎士に設置しても、搭乗者はそれを操作できない。二本しか腕のない人間が四本腕の竜騎士を操作することはできないのだ。

 たとえ霊子感応ヘルメットを装着したところで、無いはずの腕を操作することは不可能に近い。まず、感覚がない。ゼロコンマの判断を要求される戦闘中に感覚のない腕を自由に扱えるようになるには、かなりの訓練を要するはずだ。

 標準的な形質を持った人間には、同じ形質を持った竜騎士しか操縦できない。

 だが、俺は違う。

 俺は背中に腕を作っている。

 俺は俺の肉体データを保存している量子情報体を使って、背中に五本の指を生やした腕を構築している。その指先には更に小さな五本の指が生えている。ヘイカ・デシター専用の酒呑童子がその腕とオロチのマスタースレイブ基幹ユニットを繋ぐ。

 俺は、自分の体を特異な形質に変形させることで二本の腕と二枚の翼、その特殊な形状の機体を自由自在に動かすことができるのだ。

 後頭部から伸びるテールについては、オロチの自律操作だ。機体のバランスをとるためにオロチが自動制御で動かしている。

挿絵(By みてみん)

 丸い地表を眼下に望み、雲を通り抜け、緑豊富な地表を確認する。

 体中から水蒸気を噴き出す溶岩巨人の頭部が近い。

 かなり大きい。

 巨人は、まるで、雲を生み出しているかのように大量の水蒸気を噴き出している。

 その周囲をジェルメノム帝国の戦闘機が飛び回り、ミサイルを発射している。発射されたミサイルの数々は、溶岩巨人が発する高温に阻まれ、巨人の体に届く前に爆発している。

 金剛も同じく巨人を攻撃するが、金剛ごときの攻撃では巨人は痛痒さえも感じていない。

 溶岩の巨人は侵攻を止めない。

 遠く、森の切れ目に点在する町が、見える。

 その町を避けるようにして地割れは奔っているが、溶岩巨人は時速百キロメートルで進んでいるのだ、あと、二、三十分もすれば森を越えるだろう。

「町が増えてきてるな。」

 俺は心ならずも呟いた。

 避難はされているようだが、溶岩の満たされた地割れで街道も畑も無茶苦茶だ。う~ん、やりすぎたかな?

『復旧にかなりの時間を要するな。』

 食糧援助と復旧援助がいるな。

 俺は巨人の眼前を牽制しながら周回する。

 戦闘機の編隊に僅かな乱れが生じる。

 俺達、竜騎士を確認して混乱しているのだろう。

 俺のオロチを筆頭に四機の竜騎士が、突然、現れ、好き勝手に飛び回っているのだ、戦闘機の編隊を組んでいるリーダーは、巨人の周りを飛行するのも困難になっているだろう。

 俺は編隊のリーダーと思しき戦闘機に狙いを定めて、旋回しながら、その戦闘機の背面に取り付く。

 コクピットを確認する。

 ヘルメットとバイザー越しにでもパイロットの焦りがありありとわかる。

 戦闘機如きの旋回能力と機動力では竜騎士の足元にも及ばない。

 パイロットは必死で竜騎士を振り離そうと旋回行動を繰り返すが、俺は戦闘機と同一軌道を飛行し完全に戦闘機に取り付いた。

「戦闘機のパイロットに告ぐ。俺達は味方だ。神州トガナキノ国魔獣狩りユニオンから派遣された魔狩りだ。これからは俺達の指示に従え。無線機はあるか?」

 マイクロマシンで空気とコクピットのキャノピーそしてパイロットのヘルメットを震わせ、パイロットに俺の言葉を伝える。

 パイロットがオロチを振り仰ぎ、親指を立てる。

「よし、使用している無線の周波数帯を指で教えろ。」

 パイロットが片手の指を、数回、立てたり折り畳んだりして、使用している周波数帯を教えてくる。

 俺は教えられた周波数帯に合わせて無線を開局する。

「ジェルメノム帝国に告ぐ、こちらは神州トガナキノ国、魔獣狩りユニオンのヘイカ・デシター、義によって助太刀する。了解ならば、溶岩巨人の討伐にあっては、以後、こちらの指示に従え。」

 一拍置いてから無線機がジェルメノム帝国からの電波を受信する。

『こちらはジェルメノム帝国軍統合大将、カールソン・フォーマル・ハウゼンである、貴殿の申し出、了解した。以降は溶岩巨人の討伐に関して、貴殿の指示を受け入れる。』

 フン、指揮下に入るとは言えないわな。

「了解、では戦闘機部隊及び地上部隊にあっては溶岩巨人から五百メートルの距離を取って後退、最終防衛ラインを構築させろ。」

『…了解した。』

 オロチを戦闘機から離す。

 俺は無線機を閉局する。

 戦闘機は旋回運動を交えながら溶岩巨人から離れた。

「行くぞ!各自!神州トガナキノ国の魔狩りが最強だと証明してみせろ!!」

 オロチの霊子ジェットがパワーを増して、速度を上げる。

 カルザン達の竜騎士は汎用型だ。それでも、ただ歩くだけの溶岩巨人如きでは相手にならない。

 四機の竜騎士が高低差を付けて溶岩巨人の周囲を旋回する。

 噛んでいたマウスピースを放す。

『メインコントロール、操縦者から離れました。オートコントロールモードに移行します。』

「オロチ、攻撃があれば避けろ。」

 まあ、無いんだけどね。一応ってことで。

『了解いたしました。』

 俺はコントロールパネルに指を走らせ、水蒸気爆弾構築のプログラムを入力する。

『各竜騎士のイデアプログラムと同調完了、新規入力されたプログラムを各竜騎士に送信、送信完了いたしました。』

 イデアの複製プログラムが仕事を完了させる。

「各機は溶岩巨人の足元に向けてレールガン砲撃、使用する弾は炸裂型水蒸気爆弾を使用。順次、撃て!」

 設計図さえあればイデアの複製プログラムが、各竜騎士の弾倉内にて、どのような弾でも再構築する。

 各竜騎士の両腕が前腕から先をクルリと回して二門の砲身を晒す。

 旋回しながら三機の竜騎士が溶岩巨人の足元に向け、レールガンを撃つ。

 計六発の炸裂弾が溶岩巨人の足元に埋まり水蒸気爆発を起こす。

 爆発で飛散した溶岩が一気に冷え固まって凶悪な砲弾と化す。

 俺はマウスピースを噛み締め、その意識を飛散する溶岩石に合わせる。メインモニターとは別にサブモニターが立ち上がり、そのサブモニターの中で飛散する溶岩石をロック。『照準しました。』と、イデアプログラム、オロチが応える。

 翼の中央に設置された幽子集束ホイールが回転し、周囲の幽子を収集し、収束させる。

 圧縮された幽子に指向性が与えられ、霊子となる。与えられた指向性は照準した標的に命中しろ、だ。

 翼の副椀、十本が、関節を固定し、その関節ごと縦に割れる。割れ目に折畳まれていた霊子反応棒が起立する。向かい合った霊子反応棒が互いに霊子を交錯させて、霊子砲の砲身となる。各副椀の根本に設置してある弾倉に幽子、霊子を消費し続けるマイクロマシンを仕込んだ砲弾を構築。

「分解弾発射。」

 言葉と共に意識の指がトリガーを引く。

 蒼白い霊子で構築された霊子砲の砲身に沿って弾が連続射出され、一本の霊子砲から数十発の分解弾を撃ち出す。

 一発撃つごとに微妙に稼働させて、その照準を変える。射出時に、僅かに外れた照準も霊子に与えた指向性でその対象を追尾する。

 霊子砲から青白い霊子の糸を引いた弾が飛び散る溶岩石を追う。

 飛び散った溶岩石を一つ残らず撃ち抜き、溶岩石が分解される。

 幽子と霊子を消費し続けるマイクロマシンは物質の結合を弱めさせる。周囲の幽子を消費し尽くし、幽子の枯渇状態を作り出せば、そのマイクロマシンその物も消える。

 常に、霊子か幽子を供給されなければ自壊するマイクロマシンだ。

 龍はこのマイクロマシンを絶妙に調節して、その質量を減らして空を飛ぶ。俺はこのマイクロマシンを当初は多用していた。

 竜騎士の装甲にも暗黒精霊、F型マイクロマシンを塗布した上に、更にこのマイクロマシンをコーティングしていたのだ。

 内部から霊子を伝導させて、そのマイクロマシンを維持していたのだが、霊子の消費量が大量だったことと霊子供給量のバランスが微妙であったため、その採用を取りやめたマイクロマシンだ。

 しかし、マイクロマシンからの守りで言えば、このマイクロマシンは適任となるため、安寧城の中央コントロールルームの外壁にのみ使用していた。兵器として使用するのはこの分解弾が初めてだ。

 ただ、射出すれば分解弾はすぐに自壊するが、霊子砲によって霊子を受け続ける状態であれば、その形態を保持した状態で飛翔する。

 着弾までの時間計算とそれに見合った霊子量の計算が必要だが。オロチの演算能力と俺の演算能力が重なって、その着弾時間を外すことは、ほぼ、無いと言っても良い。

 この弾が着弾すれば、幽子の供給が間に合わず、どんな物質も塵一つ残さず分解する。

 炸裂弾によって、地割れから足元を分離された溶岩巨人が傾倒していく。

 さあ、倒れる前に圧縮だ。

「各機離脱!」

 各竜騎士を溶岩巨人から離し、俺は倒れようとしている溶岩巨人の直上に回り込む。

「全霊子砲展開。一極集中砲撃。」

『ルシフェルモード起動します。』

 オロチが俺の意図を汲み取り、そのモードを起動させる。

『搭乗者の霊子吸引、パワーゲージ三十パーセント、霊子砲射出準備完了まで約四秒。』

 オロチのコクピット内が蒼白く染まる。

 その蒼白い光がオロチのスリットを奔り抜け、背中の翼へと集中する。幽子集束ホイールが音を立てて高速回転し、周囲の幽子を取り込み、放出した俺の霊子を補充する。

『照準固定しました。』

 翼の霊子砲が溶岩巨人の中心部に狙いを定める。

 各霊子砲の砲身が、再び蒼白い閃光を発生させ、副椀として使用する時には指となる部品が霊子を集束させる霊子反応棒となる。

『霊子集束座標固定しました。』

 指であった霊子反応棒の先で蒼白い霊子が球状に圧縮される。圧縮された霊子が赤い輝きへと変わる。

『霊子圧縮率四十パーセント、惑星上での臨界値です。』

 臨界値を超えれば、ブラックホールを生み出してしまう。ブラックホールを一瞬でも生み出せば、ブラックホールを解除する時に惑星を消滅させるだけの爆発を生む。

 俺は、意識の中でトリガーを引いた。

 十本の霊子砲から撃ち出された霊子が溶岩巨人を撃つ。

 空気が震えて、雲が散る。

 その変容は一瞬だった。

 圧縮した霊子を一か所に撃ち込まれた巨人は、周りの空間を拉げながら、捻じれて凝縮を開始する。

 溶岩巨人を中心に空気が渦を巻いて一時的な嵐を巻き起こし、周囲一帯の木々を引き抜いた。

 巨人から色が消失する。

 密度差の生じた空気と歪んだ空間が金属の軋り上げるような悲鳴を轟かせる。

 腕も足も捻じり込まれるようにして、凝縮していく。

『ひ、引き込まれます!!』

 カルザンだ。

「落ち着け、溶岩巨人の方を見るな、意識を上に向けて飛ぶことだけに集中しろ。竜騎士が墜ちることはない。」

『わ、わかりました。』

 空気その物が渦を巻く、周囲の細々とした塵芥を巻き込みながら。

 物理的な衝撃を伴った甲高い音が響き渡り、巨人の凝縮が止まる。

 巨人は黒い岩の柱と成り果て、その自重で地面へと沈んで行く。周りの地面を押し退け、盛り上げながら徐々に深々と沈んで行く。回転するように凝縮されたため、巨大な質量を持った柱が轟音を響かせながら地面へと深々と捻じ込まれていく。

 三分の一を地上に残し、その三分の二を地下へと埋める形で、その岩は止まった。

 それでも大きい。

 地盤面から軽く四十メートル以上は顔を覗かせている。

 滑らかな表面をした一本の黒い柱。

 綺麗な円柱を形成している。

 うねる溶岩の名残、回転しながら凝縮したためなのか、黒い大理石のような模様が捩じれて薄っすらと出ていた。

 オロチをその柱の上に着陸させる。

「スゲエな。オロチが映り込んでるよ。」

 真っ平らな柱の上面。渦を巻いた模様が浮き出ているが、その表面は研磨されたように、綺麗にオロチを映し込んでいた。

『う~ん。ちょっと、欲しいかも。』

 カナデラの物欲を刺激したな。

 でも、たしかに、ちょっと欲しい。

 他の竜騎士も同じように柱の上に着陸する。

『凄いですね。磨いたみたいにツルツルですよ。』

『ほんまや。ピッカピッカやん。』

『これは、カルザン様の宮殿を造るに相応しい土台となります。』

 三人も、いや、驚いてるのは二人か、二人が口々に驚きの言葉を発してる。

『後方から小型機が接近しております。』

 オロチの言葉に俺はマウスピースを放して振り返る。

 来たな。お迎えだ。

 再びマウスピースを噛んでからオロチの翼を畳み、俺はマウスピースを放して三百六十度全面モニターに映る機影を振り仰ぐ。

 ヘリコプターに似た機体だ。デザイン自体はオタマジャクシのような形状。ローターが機体下に取付けられている。ローターは一つしか見当たらない。

『反転ローターか。』

 大きさも小さいな。

『二人乗りぐらいだな。』

 俺は無線を再び開局する。

『…ガナキノ国の魔狩り諸君、聞こえているか?返信どうぞ。』

「こちらは神州トガナキノ国魔獣狩りユニオンの魔狩り、ヘイカ・デシター。再度、発信よろしく。」

『おお、開局して下さいましたか。この機体に付いて来て下さい。我が君が謁見をお許しになっておいでです。』

 おお、おお、謁見を許すってか、居丈高だね。

「カルザン、ブローニュ、カルデナ、お前らは降りるな。顔を知られないようにしろ。」

 俺の言葉に、三人が三様に返事する。俺は、顔の上半分を隠した仮面を構築し、マウスピースを噛んで、オロチを再び発進させた。

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