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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
31/405

俺、ジェルメノム帝国のことが嫌いだわ

「兄弟、ジェルメノム帝国の編隊だ。」

 セディナラの言葉に俺は顔を上げる。

 メインモニターが遠くに爆撃機を捉える。

 この世界で俺はレーダーを作ってはいないし、その存在の確認もしていない。マイクロマシンが情報を伝えてくれるからだ。

 コノエ達のマイクロマシンがリンクされたウロボロスの精霊感応器は、世界中、余す所なく全てを検知する。

 ウロボロスに設置されている量子コンピューターはイデアの複製プログラムを稼働させている。

 マイクロマシンで捉えた情報を映像にして、詳細にブリッジのメインモニターに映し出す。

 ジェルメノム帝国の首都から飛び立った爆撃機は三機、輸送機が五機だ。

「ん?あれは?」

 巨大な翼長を備えた巨大な機体、輸送機っぽいけど他の輸送機と形状が違うし、大きさも桁違いだ。

「イデア、メッシュ、Aブロックのアの6をズームアップしてくれ。」

 メインモニターは方眼のように六分割のメッシュで分けられている。その一分割がアルファベットで分けてあり、そのブロックの中の一点が、五十音と数字で示すことができる。俺はその一点を指示してその巨大な機体をズームアップさせる。

「イデア、この機体はなんだ?お前の記録にあるか?」

「あります。軽戦闘機を十機搭載した航空輸送機です。」

 最大戦力と見るべきか、否か。フランシスカ王国で得た情報だと、他の周辺国家にも戦争を仕掛けているのだから、これが最大戦力ではないだろう。時間稼ぎかもしれない。

 ジェルメノム帝国の機体が溶岩巨人の蒸気で霞んでしまう。

 航空輸送機が尻のハッチを展開させて、次々と軽戦闘機を吐き出す。

 折り畳まれた主翼を展開させて、ロールしながら軽戦闘機が、その体勢を立て直し、溶岩巨人に向かって速力を上げる。

 溶岩の巨人を眼下に、爆撃機がその頭上を通過する寸前に爆薬を投下する。

 巨人の足元で閃光を放ちながら、爆発が起こる。しかし、巨人は物ともしていない。

『勿体無い。』

 どうして?

『俺なら、高密度に圧縮した水を投下する。』

 おう、水蒸気爆発を利用するってのか。

『そうだ、対象は自らが高温を発している。なら、それを利用しない手はない。』

 と、言うことは…

『科学技術を持っているが、根本的な科学知識を有していないということだ。』

 成程、科学力に振り回されるパターンだな。

『俺なら徹甲弾に圧縮した水を詰め込んで、巨人の体内に存置させる。』

 高温で水蒸気爆発が発生し、溶岩の巨人は破裂して、冷やされるってことか?

『そうだ。存置させるポイントは足と地面との接触点がベストだがな。』

 お、輸送機から降下部隊が出動したぞ。

『どういった編成だ?』

「イデア、降下部隊をズームアップ。」

 パラシュートを使用した降下部隊が拡大され、ピントがフォーカスされる。

「なんだアレ?」

 黒い卵だ。

『モニター越しだから、構成元素を見ることができんな。』

 黒い金属光沢の卵、比較対象となる物体が傍にないため大きさはわからないが、長径は一メートルほどではないかと思える。

「爆弾か?」

 俺は思わず言葉に出していた。

 信管を下に向けるためにパラシュートを付けているのか?

 地面近くに達してパラシュートが離脱する。土煙を上げて次々と黒い卵が地面に落ちる。

 地面にめり込み、直立している。

 赤い閃光を放ちながら、幾何学的なラインが無数に走る。そのラインから黒い卵が分解する。

 複雑な機構を経て、その形状がズングリとしたヒトガタへと変形した。

「金剛だ。」

 セディナラが呟く。

 俺の見たことのある金剛は主体構造部が石で作られていたが、この金剛は金属で作られている。

 ズングリとした丸いフォルムに黒い金属光沢、各関節にはシリンダーが見え隠れしている。

『アシストスーツの可能性はないのか?』

 どうだろうな、映像だけでは、その判別がつかん。

「セディナラ、あれが金剛だってのは、どこでわかった?」

 俺の言葉に、メインシートに座るセディナラが振り返る。

「以前、見たことがある。フォージサイドステークスで、だったかな?シマ割で揉めてた時に相手方が持ち出して来やがったんだ。」

 ああ、筋者時代の話だな。

『丁度いい、一機、手に入れよう。』

 は?

『どういう構造なのか知っておきたいと思っていたんだ。手に入れろ。』

 また、お前は無茶を言う。

『いいから、手に入れろ。』

 もう、しょうがねえな。

「セディナラ、ちょっと、出て来る。」

「なんだって?」

 セディナラの返事を聞くことなく、俺は瞬間移動する。


 巨人の通った跡は散々な状態だった。

 亀裂の入った地面がハッキリとわかる。砂になってしまった土、亀裂の中は黒い溶岩石で埋められ、亀裂傍の草木はそのままの形状を保ったまま、黒く炭化している。少し離れた周囲の草木は茶色く変色して枯れたようになっている。

 亀裂が走る度に地面が揺れているため、間断なく地震が起きているような状態だ。お蔭でこの亀裂付近の動物は逃げているが、復旧作業にはかなりの時間を要するのではないかと思えた。

 イデア。

『はい。』

 この付近一帯の生物群の復活には結構な時間が掛かりそうか?

『左様でございますね。地盤そのものが損傷しておりますので、土中の微生物群から復活させる必要があります。気候、地盤面、それぞれの環境整備と併せての復旧が必要になりますので、二年から三年は掛かりますでしょう。』

 むう、テルナドに破壊の神と言われても仕方がないな。

 破壊するのは一瞬だが、元の状態に戻すのにはかなりの時間を要する。微生物群の役割をマイクロマシンにやらせれば、期間は短くできるが、最終的には微生物群の復活を望みたい。

 大量の水蒸気を立ち昇らせながら侵攻する巨人を見上げる。

 早目に始末しないとな。

『そうだな、これ以上被害を広げるのは、あまり感心しない。』

 轟音と共に巨人の周囲で爆発が起こる。

 巨人は物ともしないでその歩みを止めない。

 黒いカルビン装甲を身に纏い、悪魔のような出で立ちとなって、俺は低空を飛翔する。

『気を付けろ。巨人に近付き過ぎると輻射熱で燃えるぞ。』

 真空の層で熱を遮断できねぇの?

『真空で?』

 そう、真空で。

『なぜ、真空で熱を遮断できると思う。俺には、その結論に至った理屈がわからん。』

 え?真空で熱って遮断できないの?

『できる訳がない。真空は燃焼現象を抑制するだけだ。太陽からの熱は宇宙という真空の空間を介在して受けているだろうが。』

 あ、そうか。

『溶岩をつくり出すほどの高温だ。通常のマイクロマシンでは燃える。防ぐ手段は無いと思え。』

 ええ?じゃあ、どうやってあの巨人は動いてるんだよ?マイクロマシンじゃなかったのかよ?

『ドノバの霊子操作能力が主だ。高密度の霊子を岩石に集中させることで、岩石の密度が上がり、高温となって溶岩となる。霊子に指向性を持たせて溶岩そのものを流動させて、あの形状を保っているんだ。』

 俺は目を眇めて、巨人を形作る溶岩を見詰める。

 たしかに、溶岩は絶え間なく流れ続けている。

 足元の亀裂から立ち上がるように流れ、その右足を形成し、うねりながら、体、腕、頭を形作り、最後は左足を形成、溶岩の終着点は左の足元、地面の亀裂部分だ。

 おお、スゲエな。たしかにあの亀裂部分で巨人の溶岩が循環してる。

『だから、あの巨人を止めるには、足元の亀裂から巨人を分離させなきゃならん。』

 そうか、だから、足元に水蒸気爆弾か。

『そうだ。しかし…』

 ?

『さっき、説明したのに、やっぱり理解してなかったのか。』

 い、今更なこと言うなよ。大体、さっきのは説明にもなってねぇだろうが。

『お前に説明することが、俺にとっては一番難しい。』

 な、お、お前、そ、そんなこと言うなよ!同一人物だろ?!

『一番近しい者が、最も理解しがたい者だってことだね。』

『そうだねぇ。俺達だってイズモリのことは今一わかんなかったりするし。』

『そういうことなら、俺はお前達のこと、全然、わからん!!』

『ラブだよ。ラブが一番大事なんだよ。』

 も、もう良い、とにかく、金剛を鹵獲するぞ。

『ああ、とっととやれ。』

 むう、なんか納得がいかん。

 俺は巨人を大きく回り込み、ジェルメノム帝国の金剛を観察する。

 熱さを感じない金剛は巨人になるべく近付こうとしたようだ、巨人の通った亀裂付近に十数機の金剛が頓挫しているのが確認できた。

 コイツを持って帰るか。

『駄目だ。熱で軟質素材が溶融してるはずだ。なるべく完全体で手に入れたい。稼働中の金剛を鹵獲しろ。』

 もう、我儘だなぁ。

 三十機以上の金剛が距離を取って、巨人を取り囲んでいる。各金剛は右腕に備え付けられている巨大な砲身を巨人へと向け、何発もの砲弾を撃ち出していた。

 俺は巨人から、一番、距離を取っている金剛に目を付ける。バックパックが巨大な通信設備っぽい、指揮官のような金剛だ。

 その金剛にマイクロマシンを侵入させようと試みるが、獣人や魔獣と同じでマイクロマシンが吸収される。

『幽子の消費量が多いな。』

 金剛も魔獣並みに幽子を消費するってことか?

『そういうことだ。接敵が必要だな。』

 もう、面倒くせぇ。

 目を付けた金剛の背後に回り込み、スピードを上げて、一気に近付く。

 卵に手足を付けたような金剛の直前で緊急停止、頭部と思しき部分を両手で挟み込み、高電圧の電流を流し込む。

『おい、回路が焼けたりしてないだろうな?』

 それはわからん。

 電流を流し込まれた金剛は動きを止めた。

 金剛を持ち上げるために金剛の霊子と周波数帯を合わせる。

 俺の霊子を流し込み、金剛の操作系を把握する。

 途端に吐き気が俺を襲う。

 俺は堪らず、金剛の横に吐いた。

 頭の中に、直接、手を入れられて、掻き回されるような感覚。それ程の酩酊感。

『周波数帯を変えた。』

 吐き気が収まり、平衡感覚が元に戻る。

 なんだったんだ?

『わからん、だが、霊子を同調させるのは危険だ。力技で引上げろ。』

 ち、力技?どうやるんだよ?

『量子情報体を使って、身体能力そのものを引き上げろ。』

 骨格強化と筋増量?

『この悪魔のような装甲も酒呑童子と同じようなアシストスーツに作り変えろ。』

 俺は骨をカルビン化させ、最大筋量を増やすために伸長、増大させる。併せて筋量を増やして、体を巨大に変容させる。

 同時に外骨格装甲にアシスト機能を付加、霊子ジェットエンジンを増設、悪魔のような風貌から黒いドラゴンのような風貌へと変貌させる。

 カルビンでできた黒い五爪を擱座した金剛に突き立て、引き上げる。

 ぐっ結構重いぞ!

『金属の塊だ、当たり前だろ。外骨格を強化しろ、筋力と荷重に各関節が持たんぞ』

 外骨格を更に強化し、各関節の脱臼を防ぐ。

「グオオオオオオオ!!」

 地面にめり込んだ金剛が浮き上がり、俺の両足が地面にめり込む。

 霊子ジェットが蒼白い霊子を吐き出し、周りの土を捲れ上がらせる。

 と、飛べるか?

『やれ。』

 お、お前は、言うだけだから気楽だよな!

『つべこべ言うな、できるからやれ。』

 抱えた金剛に膝を打ち付け、体重を後ろに傾け、遠心力を利用して金剛を右肩に担ぎ上げる。ジェットの推進力を増加させ、後ろに倒れないように調節する。膝を折り曲げ、飛翔準備をする。

『進行方向の空気を除去して、逆に足側の気圧を引き上げろ。ルート設定は俺がしてやる。』

 真空チューブみたいな物か?

『そうだ。気圧差を使えば飛べる。』

 とっととやれよ!

 体が突然軽くなる。

 足元から押されるような感覚。

 爪先が地面を蹴る。

 ジェットを爆発させるように推進させる。

 音を置き去りにして、地面を抉って、空中へと飛翔する。

 ジェルメノム帝国はレーダーとか使ってねえのか?

『使ってるな。レーダー波を感知してる。』

 じゃあ、どうする?直接、ウロボロスに帰ったら、俺達がウロボロスの乗組員だってバレちまうぞ?

『マイクロマシンをレーダー波その物に干渉させろ、乱すだけで充分だ。』

 気軽に言ってくれる。

『コノエのマイクロマシンだ、コノエにやらせろ。』

 コノエ!

『はい~。やっぱりそっちに行きますぅ?』

 違う。お前のマイクロマシンでレーダー波に干渉して、こっちの動きを攪乱させろ。

『…はい~、了解なのですぅ…』

 俺達はコノエがレーダ波を乱す中、音速を超えて成層圏へと到達する。重力を利用してコースを微調整、ウロボロスへの着艦ルートに乗る。

「セディナラ、後部発着場を開けてくれ。」

『了解した。』

 ウロボロスの上空を回り込み、その後方へと体を向ける。後部発着場のハッチが開く。

 遠目には小さなハッチに見えるが、巨大なウロボロスのハッチだ。近付けばハッチその物も大きい。

 複雑な機構を持った六本のシリンダーに支えられたハッチを潜り、俺はウロボロスの後部発着場に着床する。

 だらりと垂れ下がった金剛の足が音を立てて、発着場の床に接触する。

 疲れたアア。

 メッチャ重かった。流石は金属の塊。

 発着場に備え付けられたゲートを使って、テルナド達が次々と現れる。

「もう、デシター君はいきなりなんだから。」

 うん、娘に君付けで呼ばれるのって、なんか新鮮。

『もう何度も呼ばれてるだろ。』

 何度、呼ばれても新鮮なんだよ。

「これが金剛かぁ。」

 ブローニュが素直に興味を示す。

「あたしも初めてでさぁ。」

 ドルアジも興味津々だ。

「ふん。金剛ごときが欲しかったのか貴様は。」

 カルデナが金剛を鼻で笑う。

「私は何度か見せてもらったことがありますけど、動いてるのは初めて見ました。」

 カルザンは元皇帝だからな、カルザン帝国にも何機かあったんだろう。

 ん?

『アンダルなら何か知ってるか。』

 苦労して鹵獲することなかったんじゃね?

『実物があるのと無いのとでは、大違いだ。』

 ま、そういうことにしとくか。

 俺は立ち上がりながら、黒い外骨格を分解、元のデシターの姿に戻る。

「イデア、アンダルを呼び出してくれ。」

 通信機で呼び掛けながら手元にカメラを内蔵したタブレットを構築する。

『アンダル様に通信をお繋ぎすればよろしいのですか?』

「いや、アンダルに見てもらいたい物がある、アンダルをそっちのブリッジに呼び出すか、アンダルの手元に画像を送れる通信機を再構築するかしてくれ。」

『承知しました。』

 イデアが、一旦、通信を切る。

 俺は三脚を再構築し、タブレットを設置する。

 金剛を右目で見る。

 鋼鉄製の外殻だ。内部構造を確かめるために俺は外殻の継ぎ目からマイクロマシンを侵入させ、外殻の分離を試みる。接合されている訳ではない。ネジで止められている訳でもない。

 どうやって、外殻装甲を本体にくっ付けてんだ?

『パズル、いや、日本の絡繰り箱と同じだ。一か所の装甲を外すことができれば、順次、他の装甲を外すことができるようになってるんだろう。』

 俺は金剛の外殻装甲を手で探りながら、その鍵となる部分を探す。

 これか?

 金剛の尻に当たる部分、ここに特殊な形状をした装甲を見付ける。

『俺と交代しろ。』

 え?

『お前に一々説明するのは面倒だ。俺と交代しろ。』

 わかったよ。

 俺は無意識領域、白い空間に引っ込み、イズモリと交代する。

「ハイ、マサト、久しぶり。」

 おう。皆、揃ってるな。

 白い空間には俺達が揃っていた。揃って、擱座した金剛を取り巻いている。

 この金剛は、無意識領域に作り出された仮想金剛だ。

「まあね。俺にとっちゃ、初めての金剛だからねぇ、しっかり見ておきたいからねぇ。」

 カナデラ、前々から言ってたもんな。金剛を手に入れろって。

「そうそう、もう、創作意欲満々のカナデラにとっちゃ、玩具だからね。」

「強くなるためなら、なんでも使う!それぐらいの貪欲さは必要だぞ!」

 タナハラは相変わらず平常運転だな。

「可愛い女型金剛なら大歓迎なんだけどね。」

 クシナハラも相変わらずだな。

「ロボット、ロボットぉ、ロロボットぉ。」

 トーヤ、元気だったかい?

 俺は視線を合わせないトーヤの頭を撫でる。

「ふん、これか。」

 イズモリの声に俺達は、一斉に顔を仮想金剛の方に向ける。

『オイ、独り言を呟くなよ。気持ち悪い奴になっちゃうじゃないか。』

 表出人格となったイズモリに話し掛ける。

 黙ってろ。

 イズモリの心の声が無意識領域内で鳴り響く。

 仮想金剛の尻部分の外殻装甲、その一部分が、イズモリの見えない手によって複雑に動く。

 外殻装甲から浮き上がり、回転し、金属のはまる音が鳴り、再度、回転する。更にその装甲が縦に回転する。尻の部分にポッカリと穴ができたような状態だ。

 その穴の中にレバーが見える。

 レバーが引かれて、各装甲が展開する。

 よし、交代しろ。

 イズモリの言葉に、俺は再び表出人格となって、各装甲が展開した金剛を見詰める。

 霊子を通すチューブが各駆動系に繋がっている。

 駆動系を右目で見る。

 白いマイクロマシンが見える。

『成程な、そういうことか。』

 おい、一人でわかってねぇで、ちゃんと説明しろよ。

『マイクロマシンは霊子の指向性、つまり、単純な命令を受けて稼働する。』

 うん。

『俺達は霊子金属を使うことで、霊子に反応させて、駆動させている。つまり、霊子金属の、そういう性質を利用して動かしているってことだ。』

 うん。

『この金剛の場合はメインフレームにマイクロマシンで構成したシリンダーを使ってる。シリンダーに霊子を通して、マイクロマシンその物を動かして駆動させている。』

 ふ~ん。

『…』

 なんだよ?

『わかってないだろ?』

 わかってねぇよ。

『…』

『つまりだね。エネルギーと命令を与える原動力は、霊子に違いないんだけど、設計思想その物が違うんだよ。』

 おう、カナデラ、頼むぞ。

『俺達の造った酒呑童子とスサノヲは運動スピードとかの運動性能を引き上げるために駆動系統を工夫したのね。』

 うん。

『その結果、採用したのがチェーンを巻いて駆動させる方式と変形歯車を組み合わせて駆動させる方式な訳、だから、この金剛みたいにシリンダーを使用していないのね。』

 成程。

『シリンダーを使用すれば、パワーはあるけど、色々と不都合が出て来るんだよ。』

 例えば?

『運動性能においてスピードが出ない、可動域が限定されるために柔軟性に欠ける。』

 イ、イズモリ…お前、説明したいの?

『しかし、霊子金属が簡単に手に入らない場合は、このマイクロマシンシリンダー方式の方がコストパフォーマンスとしては優秀だ。』

 やっぱり、お前、話したかったのね。

『そうだ。』

 冷静にそうだ。て、言われてもな。

『どうしても、現代科学を身に着けている俺達は、シリンダー方式は油圧、空気圧といった圧力利用しか思い付かなかったが、成程、筋肉と同じ駆動方式でシリンダーを駆動させるアイディアは、中々、秀逸だ。』

 また、わかんないことを言い出したよ。

『つまり、筋肉ってのは、二つの異なる繊維が入れ子のように並んでて、その繊維が動くことで駆動するのね。』

 うん。カナデラの説明でもよくわからん。

『シリンダーを構成する物質その物がマイクロマシンでできているから、物質その物が動けという命令を受ければ、動くんだよ。』

 おお、今のは、カナデラの説明よりもイズモリの説明の方がわかりやすかった。

『え、えええ~。』

 でも、それだったら、霊子金属でもマイクロマシン金属でも、どっち使ったって一緒じゃん。

『これだ…』

『だ、だから、霊子金属は、直接、霊子に反応するから、霊子の指向性を受けて、簡単にパワーアップできるの。乗り手の霊子量の多さとか、乗り手の感情によって、機体性能が上がるんだよ。』

 成程、うん、わかった。つまり、俺達の造った酒呑童子とか竜騎士の方が性能では上ってことだ。

『ま、まあ、そういうことだね…それだけじゃないけど…』

『な?コイツに難しいことを説明すると、虚しさだけが残るだろ?』

『うん。』

 ヒデエなお前ら。

『いいや、酷くない。』

『酷くないよ。』

 二人揃って否定しやがった。くそ。

 とにかく、この金剛って奴は、マイクロマシンシリンダーで稼働してるんだ。

『稼動じゃなくって駆動だよ。』

 どっちでも良いだろ。

『もう。』

『諦めろ。俺は随分前から諦めてる。』

 駆動系統がマイクロマシンで構成された金属でできていることはわかった。

『駆動系はそれだけじゃないな。』

 そうなのか?

『マイクロマシン製のシリンダーを作るのは高度な科学技術力が必要だ。それだけじゃあ、この世界じゃコストパフォーマンスが掛かり過ぎる。』

 じゃあ、他にも駆動系に何か使われてるのか?

『緑色の軟質素材があるだろ。』

 ああ、メインフレーム周りにある、この、絡み合ってる奴か?

『そうだ。それは生物だな。』

 え?

『霊子に反応する植物だろう。』

 へえ、そりゃ吃驚だ。

『コイツに関しては、アンダルに聞いてみないと詳しいことはわからんな。』

 どっちにしても霊子がエネルギー源なんだな?

『そうだ。』

 じゃあ、その霊子はどこから来てる?

『中枢部分を見てみろ。』

 …

 真黒だったタブレットにアンダルが映し出される。

『大変お待たせして、申し訳ありま…』

 アンダルが言葉を詰まらせる。

『こ、金剛…鹵獲なさったのですか?』

 カメラに写っている金剛を見て、アンダルが顔を歪ませる。

「アンダル。」

『は、はい。』

「精神体はどうやって殺す?」

 俺の言葉にアンダルが下を向く。

『洗脳魔法と…薬物を使用いたします。』

「肉体は生きている状態で、精神体には死んだと錯覚させるのか?」

『左様でございます。』

 俺は金剛を見詰めたまま、微動だにしていない。

「カルザン帝国にもこの金剛があったそうだな?」

『はい。幸いにも運用いたしたことはございませんが、ありました。』

 その言葉を聞いて俺は目を閉じる。

 信じる、信じないは別問題だ。アンダルがそう言ってくれて、内心、胸を撫で下ろす。

 良かった。運用したことがあるって言いやがったらアンダルの面を見たくなくなるとこだった。

「陛下、どうしたんです?」

 カルザンが俺とアンダルの会話を疑問に思ったのだろう、俺の顔を覗き込んでくる。

「この金剛、生きた人間を使ってる。」

「え?」

「なっ?」

「むう。」

「ええ!」

 俺の言葉を聞いた全員が驚きの声を上げる。

「アンダル、説明しろ。」

 俺の言葉にアンダルが重い口を開く。

『使用する人間は剣奴が最も良いとされております。』

 戦う奴隷か。

『先程、申し上げました通り、使用する剣奴の精神体を洗脳魔法と薬物で殺し、剣奴の脳を取り出し、伝達魔法の呪符にて封印し、金剛に埋め込むのです。』

 伝達魔法、マイクロマシンで情報の遣り取りをする魔法か。俺がマイクロマシンから情報を貰っているのと同じだな。

『そうすることで、封印された剣奴の霊子体は操作者の命令に従い、金剛は半自立的に稼働するのです。』

「そうか。わかった。」

 俺は立ち上がる。

 本来、人間は三位一体だ。

 霊子体が行動の根本である欲求を発し、それを受けた精神体が実行するべきかどうかの判断を下す。その判断に従って肉体が、理論付けを行い、更に実行すべきかどうかを決定し、霊子体のエネルギーを使って実行動を起こすのだ。

 人に命令されても、その行動原理は同じだ。命令を肉体で理解し、その命令を履行することが適切かどうかを精神体の揺らぎが判断し、肉体が霊子体のエネルギーを使用して実行動を起こす。

 例えば、命令された内容が自分のやりたくないことだったとする。

 何故やりたくないのか?

 肉体である脳味噌は理屈を並べ立て、メリット、デメリットで判断する。

 しかし精神体は違う。理屈ではない。

 やりたくないからやらないと判断する。それを肉体が理屈にする。面倒くさい、という感覚は、労力に見合っていないという理屈に置き換えられる。疲れる、という感覚は、健康状態に不安を感じる。と、いう風にだ。

 やりたくない仕事であっても命令されれば実行するのは、脳、つまり肉体がやらなければならないと判断するためだ。理屈でやらなければならないと理解しているから、やりたくなくとも実行するのだ。

 この精神体が欠ければ、その連携した働きが崩れる。

 崩れればどうなるか?

 霊子体の発するエネルギーもしくは肉体の欲する本能、脳の中枢に存在する生存本能のままに動く、倫理観の欠如した人間が出来上がる。

 金剛は精神体の代わりを別の人間、操作者がするのだ。命令を脳が理解し、命令されるままに霊子体が肉体を稼働させる。つまり、直接、器となっている金剛を稼働させるのだ。

 だから、金剛に霊子体の波長を合わせた時、頭の中を掻き回されたような感覚と吐き気に襲われた。俺の霊子体の流れを乱されたせいだ。

 イズモリ、分解消去する。

『ああ。いや、分解の前にコイツに使用されている植物についても聞いてくれ。』

 そうだったな。

 俺は再びタブレットに向き直る。

「アンダル。」

『はい。』

「コイツに使用されてる駆動系の植物、コレはなんだ?」

『はい、その植物は魔草であります。名をクレナツブリと申しまして、人の霊子に反応して伸縮します。』

 キドラが言ってたな、魔草は人を襲うと。

「魔草か、なら、霊子を取り込んで成長するのか?」

『はい、人が襲われますので、その通りだと思います。』

 コイツもBナンバーズってことか。

『わかった。じゃあ、分解しても良いぞ。』

 ああ、見てるだけで気分が悪くなる。

『ゴーストを使ったアイテム、作らなくって良かったよ。』

 ああ、呪いの魔道具な。

 俺は無言のまま、金剛を分解消去する。

 脳を取り出したところで、精神体は存在しない。取り出された脳はただの肉だ。

 金剛が輝き、光の粒子となる。

 俺はきつく、瞼を閉じる。

「デシター君…」

 テルナドが俺の肩をソッと押さえる。

 目を開く。

「テルナド、俺の顔を見るな。」

 恐らく、娘には見せられない顔だ。

 体中から殺気が溢れ出す。

 周りの全員が体を震わせるのがわかる。

 分解したいと思って分解した訳じゃない。死んでいるも同然だ。罪悪感を抱くこともないし、罪悪感以前の問題のはずだ。それでもだ。

 分解させられたのだ。俺の手から零れ落ちた、名も知らない剣奴。その剣奴を俺の手で分解させられた。

『兄弟、そろそろ、ジェルメノム帝国の首都だ。』

 ブリッジからのセディナラの連絡で、俺は正気を取り戻す。

 深い所から息を吐き出し、俺は顔を上げる。

「クソ忌々しいが、ジェルメノム帝国の救援に向かう。」

「え?」

 俺の言葉を意外に思ったテルナドが声を上げる。

 カルザンが笑う。

「テルナドさん、これが、陛下が陛下たる所以なのですよ。」

 その言葉にドルアジが笑う。

「旦那は、お優しいんですよ。ですから、腹立たしくとも罪のない人は傷付けないんでさあ。」

「せやねん。テルナドちゃん、自慢してエエお父さんやで。」

 ブローニュの言葉にテルナドが笑う。

「ふふ、史上最低王って言われてるのに?」

 く、テルナド、お前が言うな、グッサリ来るから。

「良くも悪くも、殿下の父親は王ということだ。」

 カルデナが口角を上げて笑う。

「こっぱずかしいこと言うな。とにかく、竜騎士で出る。」

 俺は急ぎ足で、後部発着場に待機させてある竜騎士へと向かう。

「ちょ、ちょう、待ちいや!あたしらも出るって!」

「そうですよ!竜騎士の搭乗テストだってまだなんですから!ついでに私たちも出撃します!」

「カルザン様!危険です!」

 ブローニュとカルザンが俺を追って来る。そのカルザンを追ってカルデナが走る。

「好きにしろ!邪魔だけはするなよ!!」

 邪険に言ったと思う。でも、そう言われた二人の顔は笑っていた。

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