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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
30/405

この人のこと憶えてる?俺は憶えてたけど、名前は間違えちゃった。エヘッ

「陛下…」

「デシター!」

「旦那ぁ。」

 背後からカルザン達の声が聞こえる。

「よう、よく来たな。」

 俺は振り返って、カルザン達に気軽に声を掛ける。

「よく来たな、じゃないですよ!どうして私たちを置いて、魔獣狩りに来ちゃうんですか!」

 う~んプンスカと怒るカルザン、超可愛いイイイ。もうちょっと、怒っててくれないかなぁ。

「へ、陛下!何がおかしいんですか!僕は怒ってるんですよ!」

 テルナドが振り返る。

「ああ、ダメダメ、父さん、カルザンさんの怒ってる表情を可愛いって思ってるから、怒ると逆効果になっちゃうから。」

 あ~あ、テルナドが余計なことを言う。

「あ、テ、テルナド殿下!!」

 慌ててカルザン達がテルナドに向かって跪く。

「ああ、良いですよ。今は、私は姫じゃなくって、魔狩りですから。皆さんの後輩魔狩りなんで。」

 テルナドが後頭部を掻きながら、皆に立ち上がるように促し、全員が顔を見合わせながら立ち上がる。

「後輩、言うてもなぁ…」

「そ、そうですよね、経歴で言えば、私たちよりも、ずっと前に魔狩りデビューされてますから…」

 そう、テルナドの資格取得時期が遅かっただけで、魔狩りの経歴で言えばテルナドの方がずっと先輩だ。ただ、今はそんなことよりも…

「カルザン。」

「はい?」

 カルザンが俺の視線に自分の視線を合わせる。

 俺の真剣な表情にカルザンの瞳にも真剣な色が現れる。

「お前、怒ったりすると自分のこと、僕って言うのな?」

 カルザンの顔が一気に赤くなる。

「な、何を真剣な表情で聞いてるんですか!ぼ、わ!私がどんな言い方をしようと別に関係ないでしょう!!」

 カルザンの言葉に俺は瞼を閉じて頭を振る。

 瞼を開き、真っ赤な顔のカルザンに、再び、真剣な表情で話し掛ける。

「カルザン、僕って言うお前が一番可愛いぞ。」

『カルザンも食べちゃおうよぅ。』

 それとこれとは別。カルザンは眺めて愛でるのがベストオブベスト。

 カルザンは何か言おうとして口をパクパクさせている。うん、やっぱり可愛い。

 そのカルザンの前に巨大な影が回り込む。

 俺は、突然目の前に現れた、その巨大な影を見上げる。

 屈強な肉体。

 巨大な大胸筋に申し訳程度に張り付いたオッパイ。

 褐色の肌。

 波打つ黒い髪。

 金色の瞳。

「カルデラ!」

 ドラゴノイドのくの字に曲がった眉が跳ね上がる。

 あれ?間違った?

「いや、カンデル?カンダス?カリメル?カルメラ?あれ?キャラメルなんてどうだ?グッと可愛い響きになるぞ。」

「カルデナだ!!」

 いきなり怒られた。

 ナをラと間違えただけじゃねぇか。そんなに怒るなよ。

「なんで、お前が此処にいる?」

「ふん!」

 ソッポ向きやがった。なんだよ、そういう態度って人としてどうなんだよ。まあ獣人だけど。

 カルデナはドラゴノイドだ。カルザン帝国時代から、カルザンの護衛役として、何度か俺とトンナにコテンパンにやられたことがある。

 だからって、この態度はないだろう。

「カルデナ、ダメじゃないですか。ちゃんと、自分の口でお願いしないと。」

 カルザンの言葉に、カルデナがソッポを向いたまま口を尖らせる。

「カルデナ、お前が、どうしてもって言うから一緒に連れて来たんですよ?言うことを聞かないなら帰ってもらいますよ?」

 カルザンの更なる追及にカルデナの唇が更に突き出され、目が泣きそうに歪む。

 その口がようやく開く。ソッポを向いたままだけど。

「わ、私…」

 声が小さすぎてよく聞き取れない。

「は?」

「私も…」

 ハスキーボイスで、小さな声って聞き取りにくいんだよね。

「は?」

「私も魔狩りになってやる!と言ってるんだ!!」

 いきなり、耳元で大声に切り替えるなよ。体がブルって震えちゃったじゃねぇか。

 俺は冷めた視線をカルデナに向ける。

 顔を真赤にして口をへの字に曲げたカルデナはちょっと可愛い。

「どうしようかなぁ。」

 俺の言葉にカルデナが屈んで俺に向き直る。

「な!き、貴様!魔狩りの加入者が少ないと聞いたから!わざわざ私が来てやったのに!」

 カルデナの言葉に口角を上げて笑う。

「へえ。加入者が少ないからねぇ。」

 カルデナの口が引き絞られる。

「もう、意地悪なんだから、良いじゃない。魔狩りにしてあげなよ。」

 テルナドが助け舟を出す。

「だ、大体、私はカルザン様の護衛なのだから、カルザン様が危険な場所に向かわれるのであれば、私も一緒に行動せねばならんのだ。それをカルザン様が、魔狩りにならないと一緒に行動できない、と、言うから仕方なくだな…」

「へえ。カルザンがねぇ。」

「うわあ。デシターの顔が、モノごっつう悪うなってるわぁ。」

「いや、どっちかと言うと嬉しそう、てのが正解だと思いやすがね。」

 カルザンがカルデナの肩を叩く。

「カルデナ、物事をお願いするのにそんな言い方じゃ駄目じゃないですか。魔狩りの資格は陛下から頂だいしなくてはならないのですよ。ちゃんとお願いしなさい。」

「ぐっ」

 カルデナが上を向いて唸り出す。

 そんなに、俺に頼みごとをするのが嫌なのか?

『トンナと二人で散々な目に合わせてるからな。』

『弱いのが悪い!』

『まあねぇ、護衛としてのプライドとか、ズタズタにしてるもんねぇ。』

『そうそう。』

『筋肉質の姉ちゃんも良いよねぇ。』

 クシナハラ、この姉ちゃんはやめとけ、きっとカルザンに一直線だから。

『だね。』

「ま、魔狩りになりたいので…」

 カルデナが俯き、呟くような小さな声で話し出す。

「お、お、お、おね、が、い、い、い、いたしま…す…」

 決死の想いってヤツだな。

「わかったよ。とにかく、資格試験を受けてないから、現時点では保留だけど、補欠メンバーってことで良いや。」

「な!」

 カルデナが顔を真赤にして俺を睨む。

「睨むなよ。テルナドだって資格試験を受けたんだから、お前は受けなくっても良いよ、とは言えないだろ?」

 カルデナの体中が震える。

「それは仕方ないですね。私たちよりも経験豊富なテルナド殿下が資格試験を受けてるんだったら、カルデナは免除という訳にはいきませんね。」

「カ、カルザン様…」

 カルザンの言葉にカルデナがショボンとする。

「それよりも父さん、皆を私に紹介してよ。」

「あ、そっか。ああ、でもその前に、テルナド。」

「ん?」

 テルナドが首を傾げる。うん、可愛いぞ。カルザンに負けてない。

「俺がこの姿の時は、父さんって呼んじゃ駄目だぞ。ヘイカ・デシターなんだからな。」

「あ、そっか。じゃあ、デシター君、皆を私に紹介して。」

「ああ、じゃあ、こっちの…」

 まずはブローニュを紹介しとこう、と、思って、ブローニュを呼び寄せる。

「…金髪デカパイが、頭スッカラカンの変態な、カンサーベを話す漫才師のブローニュ。」

「どぅもぅ!見た目はおバカ!中身は変態!金髪白人なのにヤートの古代語を話すことのできる行政院第一席ヘルザースの娘!ローエル・ブローニュでぇぇす!ってなんでやねん!!」

 ブローニュが俺の襟首を掴んで振り回す。

「謝りィ!世界中の金髪デカパイ姉ちゃんに頭下げまくりィ!!あんたが、あたしのこと、どう見てるか、今ので!よオオオオオオオオっく!わかったわ!!」

 俺は振り回されながら、「ブローニュを除く世界中の金髪デカパイ姉ちゃん、ゴメンナサイ。」と言って、テルナドの方を見る。

「な?馬鹿だろ?」

「う、うん、でも、新しい義母さん候補なんだよね?」

 テルナドの言葉に俺を振り回していたブローニュの動きが止まる。

「そ、そうなんや…」

 途端に汗まみれになるブローニュ、顔は真っ青だ。

「そうなんやも、何も、そうなるだろう。」

 ブローニュが俺を下ろして、テルナドに向かって深々と頭を下げる。

「こ、これから、よろしゅうお願いします。」

「でも、難しいと思うんですよ。」

 テルナドの言葉にブローニュが顔を上げる。

「え?」

 テルナドが中空を見詰めながら、何かを思い出すように話し出す。

「多分、義母さん達の試練には、根性さえあれば合格できると思うんですよね。」

 ブローニュが高速で首を上下に振る。うん、たしかに根性はある。

「でも、サクヤがねぇ…」

 ん?サクヤが?サクヤがどうしたんだ。

「え?サクヤ殿下が?」

 ブローニュも疑問に思ったようだ。

「サクヤは本気で殺しに行くと思う。」

 テルナドが無表情に言い放つ。

「え?」

 ブローニュの顔は、再び、一瞬で真っ青だ。

「もう手加減なしで、速攻で殺しに掛かると思うんですよ。」

「え?そうなの?」

 俺が吃驚だよ。

「そうだよ。ああ見えて、あの娘、スッゴイお父さんっ子だもん。隙あらば父さんの膝を独占するし。」

 そ、そうかなあ。

「デシター君、顔、顔、顔が凄いニヤケてるよ。父さんに戻ってるよ。」

 はっ、いかん、いかん。あまりに嬉しくって思わず。

「サクヤにとっちゃ、父さんは理想の男性像なんだよね。だから、父さんを誑かすような女性に対しては、結構、マジで殺しに行くと思うんだ。」

「え?え?理想の男性像なの?マジで?」

 思わず声が高くなる。いや、サクヤは俺よりもトンナのことの方が好きそうだったからさ。ホント、思わずだよ?

「そうだよ?だから、サクヤって、父さんには厳しいでしょ?理想の男性でいて欲しいんだよ。」

 ああ、そういうことか。うん、うん。だから、母さん泣かすなとか、凄い煩いんだ。そか、そか、サクヤの理想の男性は女性を泣かしたりしないもんな。うん、父さん、母さんを泣かしたりしないよ。

「陛下、物凄く嬉しそうですね。」

「え?そう?うん、カルザンにもわかる?うん、スッゲエ嬉しい。」

 もう語尾に音符が付くくらい嬉しい。

「だから、この間、ヘルザースさんが来た後も、ブローニュさんのことを絶対殺すし、て、こっそり言ってたから。」

 テルナドの言葉にブローニュが真っ青になって項垂れてる。なんか、ブツブツと呟いてるから、ソッとしとこう。俺は嬉しかったからな。

「で、こっちがカルザン、カルザンのことはよく知ってるから、もう良いな?」

 ご機嫌な俺の言葉にテルナドが頷き、カルザンに右手を差し出す。

「カルザンさん、よろしくお願いします。」

「私の方こそよろしくお願いします。」

 カルザンがテルナドの右手を握り、上下に軽く振る。うん、普通の挨拶だ。

「こっちの禿親爺がドルアジ、元は奴隷商人だから、攫われたり、襲われたり、セクハラされそうになったら、構わずブッ飛ばせ。」

「そんなことする訳ねぇだろ!!」

 おう、元気になりやがったな。

「あはは、大丈夫だよ。顔は怖そうでも、優しそうなオジサンじゃない。」

 テルナドがドルアジに手を差し出す。

「ドルアジさん、よろしくお願いしますね。」

 ドルアジが顔を真赤にする。

「へ、へい。こちらの方こそ、よろしくおねげぇいたしやす。」

 握手を終えたテルナドが俺の方を見る。

「デシター君を含めた四人ってことだったから、正規のメンバーはこれだけだね?」

「そうだな。後は新規に補欠のカルデナだけだ。」

「補欠、補欠と言うな!」

 カルデナが怒鳴る。

「まあ、カルデナは俺とトンナに酷い目に合わされてるからな、それで、俺のことが気に入らないんだろう。ってことで、コイツはドラゴノイドだ。」

 物のついでにカルデナも紹介しておく。

 テルナドがカルデナに近付き、右手を差し出す。

「カルデナさん、お話はトンナ義母さんから聞いてます。よろしくお願いします。」

 カルデナがテルナドの前に跪き、握手のために差し出された右手を下からソッと支えるようにして握る。

 テルナドの手の甲に軽くキスし、「光栄でございます。少しでも殿下のお力になれるように精進いたします。」と、騎士っぽく言いやがった。

「お前は、カルザンのために働くんだろ?」

「貴様!騎士のなんたるかが全くわからんのか!!」

 俺の突っ込みにカルデナが立ち上がって、真っ当に怒鳴る。

 シャレのわからん奴だ。

「うん、魔狩りだからな、騎士なんて知らん。お前も魔狩りになるんだろ?じゃあ、騎士は廃業ってか、お前、騎士じゃないだろ?カルザン帝国じゃないんだから。」

「ぐっ!」

 カルデナが言葉を失くす。

「お前、護衛役だとか騎士だとか言ってるけど、カルザンと守護者の契約も結んでねぇだろ。」

「うっ」

 俺の言葉にカルザンが首を傾げる。

「なんですか?守護者の契約って。」

 俺はカルザンの言葉に呆れ顔になり、カルデナの方へと視線を向ける。

「なんだ、教えてもいねぇのか。」

「ひ、必要ないからだ…」

 カルデナが下を向いて呟く。

 俺はカルザンへと視線を転ずる。

「獣人が好きになった人と契約を結びたがるってのは知ってるな?」

「はい、噂で聞いたことがあります。トンナ陛下たちは陛下とご契約してらっしゃいますよね。」

 俺はカルザンの言葉に頷く。

「契約には三種類あって、優先される上から、使徒、下僕とあるんだ。で、一番優先度の低い契約が守護者の契約。」

「ああ、成程。」

「そ、そんな物!!」

 カルザンが頷く後ろでカルデナが吠える。

「わ、私は!契約などに縛られることなくカルザン様を御守りするのだ!一生!カルザン様に仕え!一生!カルザン様を御守りすることが!私というドラゴノイドの生き方なのだ!!」

 顔を真赤にして下を向いて言い切りやがった。

 成程、そうか、うん。そいつはそいつで立派な考え方だ。トンナ達は俺との形ある契約を望み、カルデナは形のない契約を望む。一人の男を愛するということに違いはない。

「フンッ成程な、カルデナ、俺、お前のことを気に入ったよ。」

 カルデナがキョトンとした顔で俺の方を見る。

「カルザン、男冥利に尽きるな、テメエ、中々、イイ女を連れてるぞ。」

「え?」

 カルザンの腹を小突きながら、俺はカルザンに笑い掛ける。カルザンがキョトンとして、カルデナは顔を赤らめたまま俯く。

 契約に頼ることなく、自分の気持ちだけで好きな男に仕える。うん、そいつは、そいつで、一直線で良いじゃねぇか。

「お、お前が!私のことを好きになっても!私はカルザン様に仕える身だからな!私のことは諦めろ!」

 カルデナが大声で俺を振る。カルデナは勘違いしてるが、俺はこの世界で初めて振られた。

「はっ、はは、ははははっ!!」

 俺は久しぶりに何も考えずに大きく笑った。

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