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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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ヘルザースが鶏冠にくるようなことですが、まあ、良いでしょう、いつものことですから。と、言ったのはスーガだったりする

 テルナドの部屋を出て、部屋の前に佇むメイドに頭を下げて、隣の貴賓室に入る。

 材料に関しては吟味されているが、簡素な造りのあっさりとした部屋だ。華美な装飾の類は一切見られない。

 ベッド横の応接セット、そのソファーに座って、俺は通信機を再構築し、相手を呼び出す。

『如何いたしました?』

 いきなりこれだよ。お前は誰だよって感じだよ。

 現代日本の電話でも特殊詐欺対策とか、着信が出るようになってから名乗らねえ奴が増えてたけど、コイツの場合はそうじゃねえからな。

「お前、スーガだよな?」

『ヘイカが私に掛けてきたのですよ。寝惚けていらっしゃるのですか?』

 これだよ。

「寝惚けてねえよ。今夜、って言っても時差があるか。そうだな。今から三時間後ぐらいかな、それぐらいの時間に到着するように、ウロボロスを来させてくれ。」

『承知しました。』

「あ、それと、外務執政官のそこそこ偉いのを搭乗させておいてくれ。」

『ご指名はございますか?』

「うんにゃ、特にねえな。」

『承知しました。ご用件は以上で?』

「ああ。」

 突然、通信を切られる。

 挨拶も何もあったもんじゃねえよ。

 スッゲエ邪険に扱われたような気がする。

 仕事で忙しいのに通信してくんな、て、言われたような感じ。

 俺は立ち上がって、窓のカーテンを開く。

 窓外では小雨が降り続いている。

 コノエ。

『はい~、何か御用でしょうかぁ?』

 今から三時間ほど、ライン川周辺を嵐にしてくれ。

『どの程度の嵐にしますかぁ?』

 ライン川が溢水するかしないかの程度で一時間ほどだな。

『ではぁ、微妙な調整が必要になりますのでぇ、嵐に強弱が生まれますがぁよろしいですかぁ?』

 ああ、それについては任せるよ。で、俺の合図で嵐を止めて晴天にしてくれ。

『了解ですぅ。で、あたしもそっちに行きますぅ?』

 いや、来なくても大丈夫だけど?どうして?

『…なんでもないですぅ…』

 じゃあ、よろしく頼むぞ?

『はい~。』

 空からしっかりとした雨粒が降り始める。

 地面を叩く雨音が激しくなる。

 庭木が激しく揺れ始め、窓を掠める風切り音が物質的なモノを含ませる。

 突風が窓ガラスを叩いて震わせる。

 天を光の龍が奔り、空気の絶縁断裂が発生する。

 轟音が雨音をかき消すと、負けじと雨足が激しさを増す。

 雨の降る中、稲光を走らせることは、中々に難しい。その点では流石はコノエとサエリであると言わざるを得ない。

 イデア。

『はい。』

 ドノバとのリンクを繋いでくれ。

『承知いたしました。』

 ドノバは地殻調節を行うAナンバーだ。

 ガノンと対を成しており、ガノンがメンテ中の時などに代わって地殻調節を行う。

 普段はコノエと同じでスリープモードだ。

『お呼びでございますか?マスター。』

 ああ、お前に頼みたいことがある。

『はい。どのようなご要望でございましょうか?』

 うん。AIの方が、断然、家臣っぽい。

『は?』

 イヤ、こっちの話だ。それで、頼みってのは、溶岩のことだ。

『はい。』

 お前らは溶岩を思ったとおりに扱うことができるのか?

『溶岩と申されますと、答えに困るのですが、マントルの動きを制御しているのは私です。』

 平地で噴火とかさせることはできる?

『それは、可能であると申し上げますが、かなりの時間を要します。』

 どれぐらい?

『場所にもよりますが。』

 ライン川付近なんだけど。

『左様ですね、ざっと見積もって、二百年程でしょうか。』

 あ、じゃあ、ダメだ。

『お急ぎでございますか?』

 うん。三時間後ぐらいでお願いしたい。

『承知いたしました。それでは地中の岩盤を熱して、小規模ではございますが噴火作用を引き起こすように頑張らせていただきます。』

 できる?

『精一杯頑張らせていただきます。』

 お前って。

『はい。』

 営業マンっぽいね。

『ありがとうございます。今後もご期待に添えるよう、精一杯頑張りますので、よろしくお願いいたします。』

 ああ、営業マンで良かったのか。

 イデア。

『はい。』

 今度はバセルだ。

『承知いたしました。』

 バセルは、海流調節を行うAナンバー、ナルセと対を成す。

 ナルセの補助として造られたAIアンドロイドだ。

『バセルです。』

 おう、悪いが、海流の調節をして、ライン川を逆流させて貰いたい。

『アマゾン川のポロロッカのようにですか?』

 そうだ。今、ライン川付近はコノエが嵐にしてる。で、ライン川に艦隊が停泊してるはずだから、その艦隊が身動きできないように逆流させて欲しい。

『了解です。それでは、船が転覆しない程度の方が良いですね?』

 ああ、流石によくわかってるじゃねぇか。

『そりゃあもう、マスターが人死にを嫌うってのは、よく理解してるつもりですから。それで、時間としては、どの程度の時間を?』

 そうだな、今から三時間程を考えておいてくれ、ドノバにも別の命令を与えてるから、その命令を実行した時に止めてくれれば良いよ。

『了解しました。それでは、ライン川を逆流させます。』

 ああ、頼む。ところで。

『はい?』

 お前はアーゾン川って言わないのな?

『はい。アマゾン川はアマゾン川ですから。』

 地名の更新とかはしないの?

『できますし、しておりますが、アマゾン川はアマゾン川です。』

 あ、そう。わかってるけど、今風には言わないってことね?

『はい。』

 うん。AIプログラムにも(こだわ)りがあるんだ。

『はい?』

 いや、こっちの話、じゃあ、よろしく頼んだよ。

『はい。』

 暴風が音を立てて梢を揺する。

 稲妻が奔り、横殴りの雨が渦を巻いて上空へと駆け上がる。

 複雑な軌跡を描く風が、木の枝を折り、地面の上にできた水溜まりを逆巻く。

 うん。ちょっと、やりすぎっぽいんですけど。俺の気のせいかな?

 まあ、いいや、これで、奴らも今夜は動かないだろ。

 俺にも、ちょっと休息をくれ。飯だって食ってないしな。

 とにかく、魔狩り専用の国体母艦、ウロボロスが来るまでは時間ができた。俺は伸びをしてから、部屋を出ると、テルナドの部屋の前には、まだ、メイドが立っていた。

 ずっと立ってるのも疲れるだろうに、大変ですなぁ。

 メイドに軽く会釈して、テルナドの部屋をノックする。

「どうしたの?」

 テルナドがすぐに顔を覗かせる。

「飯にしようか?」

「うん。」

 テルナドが嬉しそうに笑う。

 やっぱり、テルナドも腹が減っていたようだ。

 俺は応接セットを分解消去し、床にビニールシートを再構築、その上に龍を調理した数々の料理を並べる。

「も、もしかして、龍肉?」

 俺は自慢気に「フフンッ」と鼻で笑う。

「え?え?嘘、久々!」

「だろ?とっておきの龍肉だぞ。家に帰っても皆には内緒だぞ?」

 テルナドが上下に激しく首を振る。

 竜騎士を配備してから、龍は保護対象となっている。絶滅危惧種に指定した。

 とにかく美味すぎるのだ。

 下手な牛如きでは太刀打ちできないジューシーな肉。脂の甘味が口中に広がり、その柔らかさは溶けかけのチョコレートのようだ。

 一噛みした瞬間は、明らかに肉の感触なのに人の体温で一気に蕩けていく。

 実は、龍の肉は大量のマイクロマシンの影響を受けており、霊子との親和性が高いのが原因で美味くなる。

 人の霊子に敏感に反応し、その個人の好みに合わせて肉の組織構成が変化するのだ。つまり、どんなに料理の下手な人間が調理しても口に入れた瞬間にその肉は最高の料理へと変質する。

 勿論、味付けについては料理人の腕によって左右されるが、それでも、水準以下の料理に成り下がることはない。

 テルナドが思春期の乙女らしくない食べ方で次々と龍肉を口の中に放り込んでいく。

 ドアからノックの音がする。

「どうぞ。」

 俺は振り返って訪問者に入って来るように促す。

 総領事が頭を下げながら、「失礼いたします。」と入って来る。顔を上げて目を剥く。そりゃそうだ。姫殿下が床に座って龍肉を口一杯に頬ばっているのだから、驚くのも無理はない。

 そんな総領事に向かって、俺は、お出で、お出で、と手を振る。

 ビニールシートの空いた所を叩いて、此処に座れと指示する。

 口の中の龍肉を呑み込んで、「お前にも食わしてやるよ。」と、言って、骨付きの龍肉を差し出す。

「は、はあ。」

 総領事が座りながら、その龍肉を受け取り、口の中に入れる。

 一噛みして、総領事の顔色が変わる。

「こ、これは!」

 俺はニヤリと笑ってやる。

「りゅ、龍肉ですか?!」

「当り。」

 テルナドが悪戯っ子のように笑いながら応える。

「し、しかし、これはご禁制の…」

「ダイジョブ、ダイジョブ、この間、はぐれの三頭を狩ったんだよ。その時の肉だから問題なし。それに、一口食ったんだ、お前も共犯だよ。」

 保護対象なので、こちらから龍の住処である高山に出向いて狩ることはできないが、時折、群れからはぐれて人里に飛来する龍がいる。

 そのはぐれの龍にあっては狩っても良いということになっている。だから合法なのだが、滅多に食えない肉ということもあって、総領事の立場で食して良いのかと自責の念が湧いたのだろう。

 総領事は眉を顰めて肉を眺めるが、それでも龍肉の誘惑には勝てなかったようだ。ニコリと笑って大きな口を開けて喰らい付く。

「うむ。美味しゅうございますな。やはり、龍肉、されど龍肉でございます。」

 総領事の言葉にテルナドが頷く。

「美味い物の前では獣人も無力、父上も仰っていたが、まさに獣人に勝とうと思うな。獣人には龍肉を与えよ。だね。」

「誠に、その通りでございます。国交のない国との会食においても、この龍肉を使用いたしますれば、その場の雰囲気が一気に和みますからな。」

 俺は龍肉を頬張りながら、総領事の方に視線を向ける。

「で、総領事閣下は、何しに来たの?」

 俺の言葉に肉から口を離して、「そうでございました。」とテルナドの方へと向き直る。

「実は、お食事の用意ができましたので、ご招待に伺ったのですが、龍肉のことで、つい、失念いたしておりました。」

 テルナドが頷く。

「しょうがないよ。滅多に口にできないご馳走だからね。」

 テルナドも床に座っての食事中だ。先程までとは打って変わって気軽な言葉づかいで総領事に応える。

「まあ、今日の食事に関しては、私に総領事が招待されたってことで良いんじゃない?」

 テルナドの言葉に総領事が頷き、「左様でございますな。」と応える。

「それにしても…」

 俺は肉を食いながら総領事に話し掛ける。

 総領事が俺の方へと視線を転じる。

「さっきの戦況報告、随分と詳しく把握してたな。調略云々なんて、普通はわかんねぇだろ?」

 骨付き肉を右手に総領事がニコリと笑う。

「トガナキノの魔法使いは優秀ですからな。」

 それが答えだと言わんばかりに、総領事が答えにならない回答を言う。

「へえ、そんなに優秀なの?」

 総領事が頷き、テルナドが代わって答える。

「デシター君は知らないの?トガナキノの魔法使いは他国の宮廷魔導士百人分って言われてるんだよ。」

 俺が目を剥いたよ。

「マジで?」

 二人が笑いながら頷く。

「魔導学校が設立されているのもトガナキノだけでございますからな。大体、国民全員が魔法使いの国など、他国では俄かに信じられないことでございますよ。」

 総領事が誇らしげに補足してくれる。

 水を差すようで悪いが、このタイミングだな。

「その割に油断が過ぎるように思うがね。」

 俺の言葉に二人の表情が曇る。

 俺は人差し指を唇に当てて、二人に静かにするように指示を出し、音もなく立ち上がる。

 既に総領事館のマイクロマシンは俺の支配下だ。

 総領事館に勤める魔法使いの霊子に周波数を合わせて、マイクロマシンを上書きさせて貰ってる。

 呪言を詠唱することなく俺はドアを分解消去する。

 二人のメイドが立っている。

 一人は消えたドアに当てていたのであろう集音器を片手に、一人は見張り役として周囲に気を配っている様子だ。

 一瞬、驚いた表情を浮かべるが、直ぐに逃げようと動き出す。が、俺がそんなことを許す筈がない。

 逃げようと体重を移動させた瞬間に二人の動きを止める。

 強制的に動きを止められた二人は、そのままの体勢で床に転がった。

「なっ!何をしておる!!」

 二人の様子に驚いた総領事が怒鳴り声を上げる。

「何をしておるって、スパイ行為そのものじゃねぇか。アンタこそ、何言ってんだよ。」

「グッ」

 俺の突っ込みに総領事が黙る。

 俺は二人を転倒させたままに上を向く。

「デシター君?」

 テルナドが、俺が何をしているのか理解できずに俺の名前を口にする。俺は話し掛けるなという意志を込めてテルナドに向かって手を差し出す。

 少しして、廊下の向こうから引き摺るような音が聞こえ始め、その音が近づいて来る。

 消えたドアの方へと視線を向ける。

 倒れた二人を避けて男が現れる。

 年の頃は二十代前半、白人の男だ。

「デルンベルク!」

 足を引き摺る男の名前を総領事が叫ぶ。

「総領事館付きの魔法使いだな?」

 デルンベルクと呼ばれた男が顔に大量の汗を流し、震えながら頷く。

「総領事、この男はフランシスカ王国が用意した魔法使いか?」

「い、いえ、トガナキノの魔法使いです。」

 俺の言葉に総領事が動揺を隠すことなく答える。

 俺は右目でデルンベルクを見詰める。

 洗脳用のマイクロマシンが脳内に見える。洗脳用のマイクロマシンに俺のマイクロマシンを接触させることはできない。異常を感知した洗脳用のマイクロマシンは中核となっているマイクロマシンを起動させ、脳組織を破壊するためだ。

 したがって、マイクロマシンで、この男の洗脳を解除することはできない。俺は侵入させた俺のマイクロマシンで脳の電気信号を阻害して、筋肉を俺の思い通りに動かしているだけだ。

『料理に混入されたか?』

 総領事を狙わずに魔法使いを狙うところが狡猾だな。

『総領事にはトガナキノに対する報告義務があるからねぇ。』

「料理人はトガナキノの人間か?」

「はい。この館の人間は全てトガナキノの人間でございます。」

 総領事の言葉に俺は頷き、「この館の人間、全員を集めろ。休暇中の者もだ。」と総領事に指示する。

「しょ、承知しました。」

 総領事が慌てて部屋を飛び出して行く。

「大丈夫?総領事を一人で行動させて?」

 テルナドの言葉に俺は頷く。

「メイドの脳内に仕込まれた精霊はこの魔法使いの周波数と同じだ。」

 俺は入り口で硬直している魔法使いへと視線を向ける。

「最初にこの魔法使いが洗脳されて、他の者たちはこの魔法使いに洗脳されたんだろう。」

 高度な洗脳魔法ではない。

 問題はどうやって、洗脳用のマイクロマシンを構築させたかだ。

 一種類の洗脳用のマイクロマシンで複数の命令を被洗脳者に実行させることは難しい。複数の命令を実行させようとすれば、複数の洗脳用マイクロマシンが必要になってくる。また、複数の命令に矛盾を生じさせてもいけない。矛盾が生じれば被洗脳者は洗脳されていることに気付くからだ。

 俺と同程度の魔法使いならば、制約なしに洗脳魔法を仕掛けて、完全に人間をハッキングし、ロボット化することもできる。しかし、今、目の前にいる魔法使いは思考誘導に近い程度、俺から見れば軽い洗脳魔法しか受けていない。

 俺は体を硬直させている魔法使いに近付き、魔法使いの髪の毛と血液を摂取する。

「うえっ」

 テルナドが気持ち悪そうに顔を歪める。

 こういうことをすると、必ず、俺の家族は顔を歪めるが、しょうがねぇんだよ、必要なんだから。

 俺は魔法使いの遺伝子情報を読み取り、魔法使いを分解し、再構築する。当然、洗脳用のマイクロマシンを取り除いた状態でだ。

 俺の手の中に肉眼では捉えられないマイクロマシンが残る。

 手を口に当て、そのマイクロマシンを取り込み分析する。

『五種類だな。』

 五種類もあるのか?

『マイクロマシン同士で情報を伝達させる機能を持ってる物と受信機能を持っている物がある。』

 つまり?

『この魔法使いは命令を受信して、自分自身の霊子を使って集めた情報を送信してたってことだ。』

 マイクロマシンは使いようによっては、様々な情報をもたらしてくれる。その方法で、限定的ながら情報の遣り取りをしていたということか。

『マイクロマシンを使った遠隔盗撮と盗聴と言い換えることができる。』

 生体盗撮聴機か。

 一体どうやって混入させた?

『調理は錬成器で行っているだろうから、食べ物じゃないな。』

 異物の入り込む余地はない。

 飲み物か。

『地方特産の飲み物が怪しい。』

 ワインか。

『コニャックか。』

 人が集まってくる情報をマイクロマシンが伝達してくる。

 俺は硬直したメイドと魔法使いを部屋の奥へと移動させ、その到着を待つ。

 総領事が部屋の前で立ち止まる。

「全員、集めました。」

 総領事の言葉に俺は頷く。

「一人づつ入れろ。」

 総領事に促され、俺の指示通りに一人づつが入室してくる。

 俺は洗脳用のマイクロマシンに侵されている者を右に、されていない者を左に分ける。

「デ、デシター。」

 テルナドが俺を呼ぶ。

「どうした?」

 選別を中断してテルナドの方へと顔を向ける。

「顔が怖いよ。」

 気付かない内に俺の顔は怒りに歪んでいたみたいだ。

「すまんな。どうしても腹立たしくってな。」

 中断した選別を再開しながら、俺はテルナドから顔を背ける。

「それはわかるけど…」

「テルナド。」

 俺は前を向いたままテルナドに語り掛ける。洗脳用マイクロマシンに侵されているのは全部で六人だ。先のメイド二人を含めれば八人。

「覚えとけ、人の意志を無理矢理捻じ曲げる野郎はクソ野郎だ。」

「う、うん。」

「そんな奴は、そんな目に遭ったことがねぇから他人にできる。暴力や権力で他人の意志を捻じ曲げる野郎はクソ野郎だ。」

「それはわかるよ。でも…」

 俺はテルナドの言葉を待つ。

「今の、と、デシターを見てると、デシターが、そんな奴らと一緒になるような感じがして、ちょっと怖いよ…」

 テルナドの言葉に俺は驚いた。思わずテルナドを振り返る。

 俺の顔が怖く見えたのか、テルナドが少しばかり怖気づく表情を見せる。

 そんなテルナドに、意識して優しく笑い掛ける。

「お前はイイ子だ、(かしこ)いしな…俺がそんな奴になったら、お前達が俺を止めろ。」

 テルナドの表情が曇る。

「そ、そんなことできる訳ないよ。」

 俺は左右に首を振る。

「できるよ。そういう風に育てられてる。」

 そうかもしれない。

 もしかしたら、トロヤリは、いつか、俺を倒すためにその身の内に何森源也の因子を宿したのかもしれない。

『俺達のブレーキ役か。』

 そう思えると少し肩が軽くなるな。

『そうだねぇ。』

『息子と対決か!そいつは滾るじゃねぇか!』

『余計にしっかりと育てないとダメだね。』

『だ~か~ら~ラブだよラブ。』

 五人の副幹人格の言葉に思わず笑顔になる。その顔を見てテルナドの顔が少しばかり晴れやかになる。

 総領事に視線を向ける。硬い表情の総領事の瞳は困惑と恐れを滲ませていた。

「総領事、この右側によけた奴らは洗脳精霊を身に宿してる。ゲートを潜らせて、一旦、トガナキノに帰せ。」

 総領事は顔を上げ、力なく「はい。」と応えた後、その八人を連れて総領事館のゲートへと向かおうとしたが、それをテルナドが押し留める。

「待ちなさい。」

 テルナドの言葉に踵を返そうとしていた総領事の動きが止まる。

「総領事館の警戒を抜けて洗脳精霊の侵入を許したのは、本国が施した警戒結界の不備。貴様の責を問うつもりはない。陛下も、その点はご理解下さる。」

 総領事がテルナドに向き直り、頭を深々と下げる。

「ただし、今後は、そうはいかぬ。その八人を、無事、本国に送り届け、本国で事が起こらぬように注意するのは貴様の責だ。」

「はっ!細心の注意を払って、検疫いたし、その後に本国に送りまする。」

 総領事の言葉にテルナドがフワリと笑う。

「うむ。シッカリといたせ。」

「御意!」

 さっきと違って少しばかり元気を取り戻した総領事がキビキビとした動きで八人を連れ出す。

 ホント、うちの子たちはシッカリしてやがんなぁ。母ちゃん連中の育て方が良いのかね?

『信じがたいがな。』

 うん。ホントに信じられん。

「さて。」

 そう一言置いて、俺はテルナドを振り返る。

「洗脳精霊を侵入させた奴を追うぞ。」

 俺の言葉にテルナドが驚きの表情を見せる。

「そ、そんなことできるの?」

 ニヤリと笑う。

 歯を剥きだした獰猛な笑みだ。

「できるさ。」

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