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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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俺の変態に関する基準がおかしいのか?

「ダアアッ!!疲れたア!」

 テルナドがベッドに飛び込み仰向けになる。

「シッ」

 俺は人差し指を口に当てて、テルナドにボリュームを下げるように注意した。

 テルナドが両手で口を押える。

「まだ外にメイドが待ってるから、静かにしろ。」

 テルナドが肩を竦める。

 廊下にはメイドが数人待機している。

 俺がテルナドに対して妙なことをしないように見張っているのだ。野宿の場合は、テルナドの自己責任だが、総領事館で俺がテルナドに妙なことをしたら総領事の首が飛ぶ。うん、物理的に。

 まあ、そんなことは起こらないのだが、俺は、今はヘイカ・デシターとして振舞ってるから致し方のないことだ。

「見張ったってしょうがないのにね?」

「それでも、責任があるからな。大人って大変なんだよ?」

「もう、また、子ども扱いする。」

「だって、思春期もまだだろ?反抗期だってないし。」

「何言ってんのさ。思春期まっしぐら乙女に対してぇ。」

 あ?

「ちょっと待て、思春期まっしぐらってどういうことだよ?」

 テルナドがキョトンとした顔をする。

「思春期は思春期だよ。」

 おい。ちょっと待ちなさい。父さん、お父さんモードで聞いちゃうよ?

「テルナド、ちょっと此処に座りなさい。」

「座ってるよ?」

 うん、座ってた。

「思春期ってことは好きな男の子とかいるのかな?父さん、怒らないから言ってごらん?」

 テルナドが眉を(ひそ)める。

「なんか、その台詞って怒ることが当たり前みたいじゃない。」

 俺は首を振る。

「怒らない。怒らないから言ってごらん。」

「まあ、良いけど。」

 腹を括る。

 覚悟が必要だ。

 その男の子を殺さない覚悟が。

「あたし、トロヤリのことが好きなのよ。」

 …

『…』

『…』

『…』

『…』

『…』

「…は?」

 テルナドが頬を赤く染める。

「え?なに?え?トロヤリって六歳児のトロヤリ?弟の?俺とトンナ母さんの間にできたトロヤリのこと?は?え?意味わかんないんだけど?」

 テルナドが少し俯く。

「ちょ、ちょっと待て、うん、色々、色々、なんか変なことが起こってるぞ。」

 テルナドの顔が徐々に下を向く。

「まずな。うん、まず、トロヤリは弟だぞ?うん。弟、その辺のことはわかって言ってるのか?」

 テルナドがコクリと頷く。

「でも、血は繋がってないし。」

 うん、繋がってない。繋がってないけど、そういう問題か?それで良いのか?

「うん。繋がってないよな。繋がってない。でも、八歳も年下だぞ?お前に比べたら全然年下だぞ?わかってて言ってる?ん?」

 六歳といえば、現代日本で小学校一年生だ。その一年生を中学校二年生のお姉さんが好きだと?変態か?俺の娘も変態だったのか?

「だって、トロヤリが生まれた時から母さんに言われてきたし。」

「え?なに?コルナ?コルナが何か言ったの?」

 テルナドが頷く。

「トガナキノの国王は、まずは、八歳以上年上の獣人を嫁にするのが仕来りだ。だから、お前はトロヤリの嫁になるのだ。って。」

 うん。俺とトンナの年の差、八歳。で、トンナは獣人。

 ああ、テルナドとトロヤリの年齢差も、丁度、八歳じゃん。

「って!そんな仕来りなんかあるかアアアア!!」

「と、父さん。声がデカいって!」

 テルナドが飛びついてくる。嬉しいけど、今はそんなことに喜んでいる場合じゃない。

「大体、仕来りってなんだよ?!まだ建国して六年程で、国王になった奴は一人だけだぞ!?」

 俺はテルナドの両肩を押さえて、真剣に問い質す。

「テルナド、それはコルナ母さんの洗脳魔法だ。今すぐ、父さんが解除してやる。目を瞑ってジッとしてろ!」

 テルナドが眉を歪めて、口を窄める。

「もう、違うよ。」

 ハッキリと断言するが、信じちゃいけない。強力な洗脳は他人の言葉に耳を貸さなくなる。

「最初の頃は、母さん、何言ってんのよって感じだったんだけど、最近はホントにトロヤリなら良いかなって思うようになってきたんだよ。」

 め、目眩が…俺は、よろめきながら二、三歩後ろに下がった。

「もう、そんなにショックを受けないでよ。これでも、結構、勇気を出して言ったんだよ?」

 ダメだ。ショタだ。俺の可愛い娘がショタになっちまった…

『ショタ?なんのことだ?』

『正式には正太郎コンプレックス。さる漫画の主人公で半ズボン姿の少年のことね。で、年下って言うか、年端もいかない少年を好む女性をショータローコンプレックス、略してショタコンって言うの。』

『ほう、流石はクシナハラ、そっち方面には明るいな。』

『え?明るいって?ショタコンに明るいも暗いもないよ?』

『いや、いい。気にするな。』

「だって、トロヤリってしっかりしてるじゃない?時々、ホントに六歳児か、コイツ?って思うことあるもん。」

 うん。たしかに、それは俺も思った。俺とトンナの子供とは思えない。ちゃんと先のことを考えてるし、なんか、一人で大きくなったような面してても許せる感じだ。

「いや、でも、それだけに大人になったらどうしようもない奴になるかもしれないぞ?そんな奴、この世の中には一杯いるからな?」

 テルナドが再び俯く。

「父さん、あたしがトロヤリのお嫁さんになっちゃ、イヤ?」

「いやいやいやいやいや、嫌なんてことはない。そんなことは絶対にない。ホント、これはホントだよ。」

 テルナドがニッコリ笑う。

「良かった。」

 ああ、なんか、娘が少女を通り過ぎて、乙女になった瞬間に立ち会ったのかもしれない。

 いや、いやいやいや、いや!違うぞ。ちょっと待て、テルナドの笑顔に(ほだ)されて、変な方向に向かってるぞ。

「いや、嫌じゃないけど、嫌じゃないけど、なんか、変な感じなんだよ。そう、そういう問題じゃないんだ。」

 テルナドが首を傾げる。

「なにが?」

 うん。無垢な表情で返されると何と言っていいのかわかんないけど。

「いや、もう、ホント、なんか変な感じなんだよ。」

 テルナドが頷きながら俺の肩に手を置いてくる。俺の目を見詰めながらウンウンと頷く。

「お嫁に行っても、ずっと、一緒に暮らしてあげるよ。今は、ちょっと、混乱してるだけ。でも大丈夫、すぐに整理できて、納得できるから。ね?」

 はいいいい?何言ってるんすか?この子は。

 テルナドが俺を抱締める。

「父さん、大好き。」

「…うん、父さんも大好きだよ。」

 変態でも、可愛いからね。うん。

「あたしは父さんも母さんも好きだし、サクヤにトクサヤも大好き。コーデリアもトルタスだって可愛くって大好きだし。オルラ婆様も大好きなの。」

 うん。それはよくわかってる。

「でも、トロヤリはちょっと違う。」

 あれ?恋する乙女の表情じゃない。

「あの子はちょっと、なんて言うのかな…異質なんだよね。」

「異質?」

 テルナドが頷く。

「六歳なのに、なんだか、もう成人しちゃってるような所があって、あの年で、もう、王様になるために何が必要なのかってことを考えてる。」

 王様になるために必要なもの?なんだろ?

「この間もね。」

「うん。」

「トルタスとコーデリアが喧嘩してたの。」

「うん。」

「トロヤリはそれをジッと観察してた。」

「止めずに?」

 テルナドが頷く。

「そう、もう、魔獣狩りの時みたいにジッと観察してたの。」

「ふうん。」

「で、後で聞いたんだ。なんで、止めなかったの?って。」

「うん。」

「そしたら、なんて言ったと思う?」

「いや、想像もつかねえな。」

「トロヤリね。真面目な顔してこう言ったのよ。」

「うん。」

「人間が感情を発露させるのは大人よりも子供の方が直截的です。子供を観察していれば、感情発露に至った経過と原因の因果関係を知ることができます。二人を観察していて最近わかったことは、人間は傷つくことで怒りの感情を発露させるのだとわかりました。って言うのよ。」

 割かしゾッとした。

 言葉遣いが大人顔負けって言うよりも、論理的で相手に伝わるように話をしっかり組み立ててる。

 何故、喧嘩を止めなかったのか。その問いに対して、まず、最初に答えを提示しながら、その答えに対して、話し相手が疑問を抱くようにしてる。

 そして、その答えに対する解説を述べてから相手の抱いた疑問を解消させている。

 話し相手に話を聞かせる組み立て方だ。

『かなり老成化してる。』

 いや、それよりも…

『…?』

 何森源也のことを連想したよ。

『…』

 いや、何森源也って言うよりも、お前だ、イズモリ。

『…』

 何森源也に最も近い、何森源也そのもののコピーはお前だろ?

『…ああ。』

 そのお前が、子供だったら、今みたいな喋り方をするんじゃないか?

『そうかもしれん。』

 俺の前と他の人間の前では喋り方を使い分けてる可能性はないか?

『今まで、トロヤリと接してきたお前が違和感を抱いているのならば、その可能性は否定できん。』

 何森源也の精神体、消滅してないよな?

『ああ、人格形成に必要な大半は引き剥がしたが…たしかに、何森源也に似てるかもしれん。』

「だからさ、なんか、あたしが付いててやらなきゃいけないような気がするんだよね。」

 そうかもしれない。もし仮に何森源也の精神体がトロヤリの中で育っていれば、その育て方を間違ってはいけない。慈しんで、人間を愛せる大人に育てなければいけない。

 ゴーストは強烈な思念がその場に残留することで発生する。

 何森源也が存在した世界は人類の無意識領域内だ。

 全人類の無意識に繋がった世界で、何森源也はトガリを見つけ…まさかとは思うが、まさかとは思うが、今度はトロヤリを…見つけた…?

『可能性としては否定できんな。俺達の、いや、トガリの遺伝子は何森源也とほぼ変わらない遺伝子だ。トロヤリとの融和性は高いだろう。』

 俺はテルナドを見詰める。

 不安そうな表情。

 俺はテルナドを抱締める。

「お前がいてくれて、本当に良かったよ。」

「うん。」

 テルナドから離れる。

「だから、トロヤリには誰かが付いててやらないとダメだと思うの。」

 俺はテルナドの言葉に素直に頷き、テルナドの隣に座る。

「未来を見通すことができれば、って何度も思うよ。」

 テルナドが首を傾げて俺の顔を覗き込んでくる。

「王様だからじゃない。助けられる人を何人も取り溢してきた。」

 テルナドが視線を外す。

「仕方ないよ。世界中の戦争だって止められないんだもん。」

 俺は頷く。取り溢した人の中に自分の家族が含まれていなければ良いと思う。

 将来、トロヤリと対決するようなことにはなりたくない。

 取り溢せない。

 どうすれば、間違いなく道を進むことができるのか。

 あの時、何森源也の精神体を完全に消滅させれば良かったのか?クルタスみたいに。

『そうとは言い切れん。上手く国民を導く王になるかもしれん。』

『そうだね。マサトとトガリの混じり方を見る限り、そこまで心配する必要は無いと思うよ?』

『大丈夫だよ。何森源也みたいに変に捻じ曲がるのは、環境の所為ってとこが大きいからね。』

『良いじゃねえか!何森源也なら、また、ぶっ倒せばいいだけだ!』

『愛情で育まれれば大丈夫だよ。ラブだよ。ラブ。』

 お前達と話すと気が楽になるよ。

「とにかく、今回の戦争でも取り溢せないな。」

 テルナドがニコリと笑って頷く。

 この子がトロヤリの傍にいてくれれば心強い。

「で、どうするの?」

 今度は俺が笑って頷く。

「今の戦場でヤートと獣人を救出しても国に残されたヤートと獣人が再度投入されるから、戦争そのものを止めなきゃならない。」

 テルナドが頷きながら「うん、そうだね。」と相槌を打つ。

「派手な演出で止めるよ。」

 テルナドが首を傾げる。

「今の戦場で戦争を止めても、戦争自体は継続されるからな。恒久的にやめさせるには、調印させる必要がある。」

「うん。で、そうするにはどうするの?」

「国体母艦をこっちに来させるんだ。」

 俺はニヤリと笑う。

「史上最低王の面目躍如だ。」

 俺の言葉にテルナドが顔を顰める。

「そんなこと嬉しそうに言うから、誤解を受けるんだよ。」

 なるほど、たしかにそうだ。今後は気を付けよう。

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