戦況報告って聞く気にもならない理由ってわかる?俺は今回分かったよ
総領事館に戻って衣服に染み込んだ水分を分解消去する。
玄関前のピロティだ。今回は、鍵を分解再構築して開けてしまう。そう何度も衛士を働かせるのも申し訳ないからね。
勝手知ったるというか、マイクロマシンでこの館の内部構造は知り尽くしてる。総領事のいる執務室へと向かい、ノックを二回してから返事を聞かずにそのまま入る。
総領事が驚きながらもテルナドの顔を見て、慌てて机の脇に跪く。
「よい。お立ちなさい。」
テルナドの言葉を受けて、総領事が立ち上がり、テルナドは応接セットのソファーに腰掛ける。
俺は魔狩りパティーのリーダーだが、一般人だからテルナドの後ろに立ったままだ。
「ご無事にお戻りいただき、喜ばしい限りでございます。」
総領事がテルナドに声を掛ける。
「うむ。心配をかけたな、大義である。捕獲した魔獣はイデアに直接取りに来させた。戦争には介入しておらぬから安心いたせ。」
総領事が深々と頭を下げる。
「感謝いたします。テルナド殿下のご配慮、痛み入ります。」
テルナドが顔を上げて総領事に厳しい表情を見せる。
「しかしな、感心せぬ。」
「は?」
「私が戦争をしている国に呼ばれたということは、貴様が画策してのことではあるまいか?と、いうことだ。」
総領事の額に一気に汗が浮かぶ。
「め、滅相もございません。」
「そうかな?貴様は私が魔獣狩りユニオンに加入したことを知らなかったのであろう?」
総領事は俯くばかりで応えない。
「貴様、トガリ国王陛下が参られると思っておったのだろう?」
俯いた総領事の顔色はわからないが、汗の雫が滴っている。
「父ならば、この状況を憂い、戦争を止めるため、なんらかの動きを見せるであろうからな。」
総領事が顔を上げる。
「け、決して、そのようなことは…」
言葉の途中でテルナドの視線に抑え込まれる。
「嘘を申す家臣か、見くびられたものよ。父が相手であれば、素直に甘えるであろうに、これも私の至らなさか。」
総領事が音を立てて正座する。
いや、だから痛くねえの?
「おい、土下座ならやめとけ、最近、土下座をされると腹立つようになってきたからな。」
もう、ホントに勘弁して貰いたい。真っ当な大人が土下座してくるって、結構、こっちが堪えるんだヨ?
「この者の申す通りだ。腹立たしくなる故、立つが良い。」
テルナドの言葉に総領事が静かに立ち上がる。
「処罰は受けます。私の一存にて画策いたしましたこと、誠に申し訳ありません。」
「誰がそのようなことを申しておる。貴様に嘘を吐かさせたのは私の至らぬ部分であったと申しておろう。貴様にはなんの罪もない。」
総領事が顔を上げる。
「勿体無きお言葉…誠に…」
テルナドが総領事にきつい視線を送る。
「謝るでない。それよりも現在の戦況を私に説明せよ。」
総領事が驚きの表情を見せる。
「早ういたせ。このまま、この状況を、指を咥えたままとあっては、国に戻った時に父に会わせる顔がない。そこに座って、早う、説明いたせ。」
「ぎ、御意!」
総領事が慌てて、執務机の引き出しから地図と大量の書類を持ち出してくる。
応接セットのテーブルに地図を広げ、書類を繰りながら、説明を始める。
「まずは、戦争の発端ですが、有耶無耶となっておりました領土問題が原因となっております。ライン川から東をパオルーム王国が支配していたのですが、ジェルメノム帝国にパオルーム王国が吸収されたため、領土問題が蒸し返された形となっております。」
うん、なるほど。
「元々はライン川の西側の一部分を…」
総領事が地図を指し示す。
「テルンナド王国が支配しており、フランシスカ王国と領土紛争をしておりました。しかし、そのテルンナド王国がフランシスカ王国からの支援を受けたパオルーム王国に吸収されたために領土問題が、一旦、沈静化しておりました。」
「パオルーム王国はフランシスカ王国と領土争いはしておらなんだのか?」
テルナドの言葉に総領事が頷く。
「その通りでございます。パオルーム王国とフランシスカ王国は友好国であり、同盟国でもございました。」
ふんふん。で、ジェルメノム帝国がパオルーム王国を吸収したから、元々の領土であったライン川の西側の領土問題が噴出した訳ね。
「現在、この四か所で戦場が展開されており、ジェルメノム帝国フォーミューレン侯爵が征西討伐将軍として軍を率いております。」
戦場となる四か所を総領事が指し示す。
「この戦場ではヒューデル伯爵が四個大隊を率いており、橋頭保を築くべく最も大きな戦力を集中させております。それに合わせて、こちらの戦場では囮として、ゴルンデルベルク伯爵が二個大隊を率いております。ヒューデル伯爵の補佐的な軍として、こちらの戦場ではドルデウス伯爵が軍を展開しております。こちらは、中規模ながら艦隊を組んでおりますズワイスデーノース伯爵が、隙あらば橋頭保を築くために軍を侵攻させております。」
うん。もう、お腹一杯。名前だけでも覚えられない。
「しばしの間は膠着状態でおったのですが、戦場に魔獣が現れたことで動きがありました。」
「うむ。魔獣が襲ったのはフランシスカ王国の本陣であったな?」
総領事が頷く。
「左様でございます。そのためにゴルンデルベルク伯爵の軍が予定以上に軍を侵攻させることができたため、現在、この地点に橋頭保を築いておると報告が上がってきております。その為に、展開されております戦場そのものが移動しております。今夜にでも各軍はこの地点に集結し、明朝には総力戦になると予測されます。」
なるほど。よくわかんないけど。
「更には、現在、フランシスカ王国のメルディンス男爵にジェルメノム帝国のズワイスデーノース伯爵から調略が仕掛けられており、ジェルメノム帝国のヒューデル伯爵からはフランシスカ王国のノーモーク伯爵への調略も仕掛けられている状況です。」
もう、誰が誰で、誰が何をやってるのかも不明です。
「ノーモーク伯爵は出現した魔獣をメルディンス男爵による陰謀であるとフランシスカ王国総大将のコクンドラス侯爵に訴えており、フランシスカ王国の国軍は機能的に停滞しておる状況です。」
ふ~ん。で、出てきた人の名前を覚える必要ってある?AさんとかBさんで良いんじゃね?ダメ?もう、全然わかんないや。長ったらしい名前が出て来た時点で聞く気が萎えちゃったからな。
「それとこちらに補給路が展開されておりますが、この補給路を断つべくフランシスカ王国側は隣国のベルンスト共和国に救援要請を出しており、ジェルメノム帝国は、同じベルンスト共和国に対し、補給物資の供出を要請しております。」
いや、もうどうでも良いです。もう、よくわかんないから。
『テルナドが、なんと答えたらいいのか聞いてきてるぞ?』
わかんないのに答えようがないじゃん。
テルナドの考えで応えて良いって言っといて。
『テルナドもあまり理解できてないらしい。』
テルナドは何かを考えてる風で、難しい顔をしてる。
そっか、お前もわかってないのか。うんうん、しょうがないよね。
じゃあ、わかった。って、応えとけって言っといて。
『…良いのか?』
良いんじゃない?もう、わかんないから、力技でやるヨ。
『また、いい加減な行き当たりばったりか…』
失礼な。
「うむ。わかった。では、しばらくは考えたい。部屋を用意いたせ。」
うん。それで良いや。
「承知いたしました。」
総領事が立ち上がり、執務室を出て行く。
執務室の傍に誰もいないことを確認してからテルナドへと視線を向けると、テルナドも俺の方へと不安気な視線を向けていた。
「お前、若いんだから記憶力良いよな?」
「若さで言ったら、父さんと二歳しか違わないじゃない。」
そうでした。俺、十六歳で、テルナドは十四歳でした。でも、トガリの中身は五十一歳のオッサンなんだよ。
『オッサンを良いことに甘えるのは感心しないがな。』
うるせぇよ。お前も五十一歳なんだからな。その内、ブーメランで返って来るぞ。
「父さんは魔法力が凄いんだから、さっき出て来た人の名前、全部、覚えてるでしょ。」
うん。俺の魔法力は、全部、他の副幹人格のモノですから。父さんは凄くないんだよ?
「覚える必要がないから覚えない。」
「うわあ、卑怯な言い方だぁ。」
「ヤートは存在自体が卑怯だから、それで良いのだ。」
『七本の鼻毛が伸びてくるぞ。』
『鉢巻して。』
『腹巻に。』
『ステテコだな!』
『でもママさんは美人だからOKだね。』
ノックの音が響く。
「入れ。」
テルナドも女だよな。よくもこう、コロコロと態度を替えられるよ。
総領事が頭を下げながら「お部屋が整いました。」とテルナドに応える。後ろには大勢のメイドが控えている。
「うむ。」
そう、一言、頷いてテルナドが立ち上がり、俺達は貴賓室へと案内された。
ま、なんとかなるでしょ。




