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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
20/405

これって魔獣?

話を完結させるため、この話で、一旦、投稿を休止いたします。お読み頂きありがとうございます。

 元カルザン帝国の隣国、元ハルディレン王国と四カ国同盟を結んでいた国が、今回の目的地だ。

 エルラント王国。

 うん、結構普通の名前。この世界の中では、まだ覚えやすい。

 元々はカルザン帝国の一角であった国だ。

 カルザン帝国の南と接しており、ハルディレン王国の西端とも接していた。

 ティオリカンワ王国と同じく、俺達は、まず、元連邦捜査局の建物、その屋上に着陸する。

 太陽は完全に沈み、真っ暗な闇が支配している。連邦国家であった頃は、発電所があったため、夜になっても明るかったが、今となっては月明りだけが頼りだ。

 この国の王都は、カルザン帝国の南の防壁としての役割を担っていた。そのため、山岳都市を形成しており、標高三百二十メートルの尾根に都市がある。どの国も戦争を意識して造営されているため、都市機能としては今一のものが多い。

 ガラン号が魔獣狩りユニオン支局の屋上に到着すると同時にペントハウスのドアが開き、男が一人出て来る。

 白人の体格がガッシリした男だ。

 その精悍な体付きには似つかわしくない黒縁の眼鏡を掛けている。

 絶対に伊達眼鏡だ。トガナキノでは視力矯正用のマイクロマシン薬、精霊薬がある。なのにコイツは眼鏡を掛けてる。賢そうに見えるようにカッコつけているのだ。絶対。

 ビッキーが着床して、俺達が体を捻り出し、屋上のコンクリートを踏みしめると、男がやおら跪く。

「ああ、王族と同等以上の扱いなら気にしなくて良いぞ。立って話してくれ。」

 俺の言葉を聞いた男が、一旦、立ち上がり、口を開こうとするが。テルナドの顔を見た途端、再び跪く。

「し、失礼いたしました!テルナド殿下の御前にて働きしご無礼!何卒!お許しいただきたく存じ上げます!」

 もう、この世界の人間、面倒くせぇ。

「構うな。私は、今、一魔狩りとして、このヘイカ・デシター麾下の一員として参っておる。私に対しても一魔狩りとして接することを許す。立て。」

 あれ?テルナドって、結構、王族向き?堂に入ってるじゃねぇか。

 男が跪いたまま話し出す。

「は、お許しいただき、ありがたき幸せ。」

 男がそう言って、やっと立ち上がり、胸に右手を押し当てて頭を下げる。

「エルラント王国にまでご足労頂き、誠にありがとうございます。名乗ることをお許しいただけますでしょうか?」

「いいよ。名乗んなよ。」

 男は答えない。

「許す。名乗れ。」

 テルナドが俺と同じことを言う。

 父さん、言ったよ?

「ありがたき幸せ、私めの名はヒュージ・コールマンと申します。」

 いいね、幸せ一杯で、テルナドに許してもらうたんびに幸せになるって、こいつも頭おかしいんじゃねえの?

「で、白い靄状の魔獣が出るって?」

 男は答えない。

「出没する魔獣に関する詳細を知りたい。詳しい者はいるか?それと、狩場へ案内できるか?」

 テルナドが俺と同じことを言う。

 だから、父さんが言ったよ?

「は、魔獣の詳細に関しましては、ご報告いたしました以上のことは不明でございます。狩場へは私めがご案内させていただきます。」

「じゃあ、そこに連れてってくれ。」

 男はやっぱり答えない。もしかして、俺って透明人間?声も聞こえない?

「よし。では、そこに向かおう。案内(あない)せよ。」

 うん、テルナド、父さんは透明人間みたいだから任せます。

「はは!それでは王城にて、魔狩り到着の報告を致します故、まずは、そちらに向かい、のちに、狩場へとご案内いたします。」

 これが面倒なんだよね。

 城塞都市の城門から入っても、入らなくっても、一旦、入国の手続きって言うか、一度、入りましたよって報告が必要なんだよね。

 地上からなら城門で入国手続きと王都入城手続きをして、それから魔狩りユニオン支部に行くって段取りになる。でも、王城には、一旦、出向いて、「来たよ。」って報告をしなきゃならない。

 ガラン号で、直接、入国すると王城の方で入国と入城の手続き、それと入国の報告をいっぺんにできるんだけど、それも面倒臭い。

 ヒュージの先導でテルナド、俺の順で、街中を歩きだす。

 俺達は武器を再構築できるから手ぶらで街中を歩けるけど、普通は武器を携行して街中をうろつくことになる。武器の携行は魔狩りだけに許された特権だ。

 魔狩りの資格を持っているかどうかは、国々で発行される魔狩り武器携行許可書が必要になる。

 一国での許可証で、国交のある国同士なら通用するが、国交のない国なら不法入国で許可書以前の問題で即逮捕だ。

 そういうことになると面倒なので、ヘルザースは世界的に魔獣狩りユニオンを広める作業を続行中だ。

 魔獣狩りユニオンを世界中の公的機関として認めさせることができれば、魔獣狩りユニオンの発行する魔狩り資格書で事足りるようになる。

 坂の多い街だった。

 上がったり下がったりを繰り返す、起伏の激しい街だ。

 尾根沿いに造営された都市だから仕方ないが、戦争のない時代なら廃棄されてもおかしくない街だ。

 風化の進んだ石畳は波打っており、山から削り出したような家屋が並んでいる。すぐ傍に王城が見えているのに行ったり来たりを繰り返すせいで中々到着しない。

 連邦捜査局は、大概が城の近くに建築されているが、エルラント王国では、この地形のせいで適当な場所がなかった。そのために城から離れた位置に建築されたのだ。

 家々からは、蝋燭の明かりが頼りなげに漏れている。月と星の明かりで、足元が覚束なくなることはない。

 道の片側は常に照らされているからだ。

 山の斜面に造られているため、その片側に建てられた家は必ず反対側よりも低くなり、月明りが路面を照らすのだ。

 遠くで犬の遠吠えが聞こえる。

 雰囲気あるねぇ。

 犬の遠吠えを聞きながら、王城に到着する。

 煌々と焚かれた篝火に衛士五人の影が揺らめく。

 城門の衛士にヒュージが俺達の到着を報せ、直ぐに王城の方から三人の執政官たちが駆けつける。

 執政官たちがテルナドに向かって跪く。

「神州トガナキノ国テルナド殿下、御自らが御出馬とは痛み入ります。国王陛下が只今参ります故、今しばらく、迎賓館にて御身をお休めいただきたく…」

「無用だ。我らがエルラント王国に到着したことを国王陛下に報せればそれでよい。狩場に案内せよ。」

 執政官の言葉を遮り、テルナドがお姫様らしく取り仕切る。

「はっ。承知いたしました。それでは、こちらへ。」

 執政官が、立ち上がり、テルナドを王城へと招き入れようとする。

「狩場は王城内か?」

 俺の言葉に執政官が立ち止まる。

 俺の立ち位置を読むことができない執政官が、俺どのように扱ってよいのか判断できず、一瞬、躊躇する。

「この者は魔獣狩りパーティーのリーダーであり、私の上役となる者だ。貴賤なく応えよ。」

 テルナドの一言で、執政官が頭を垂れ、「失礼いたしました。」と応える。

「はい、そちらの方の申す通り、狩場となるのは王城内でございます。」

 執政官が改まって話し出す。

「現れるのは決まって深更、玉座の間に現れまする。」

 なるほど。わかった。

「魔獣じゃねえな。」

 俺の一言で全員が足を止める。

「祈祷師か魔法使いを呼びな。俺達は用なしだ。」

「ええ?!そんな!行こうよ!」

 テルナドが一気に女の子の口調に戻り、全員がキョトンとする。

「いや、コイツは魔獣じゃねぇ。魔虫でもねえよ。ゴーストだ。」

 俺の言葉にテルナドが眉を顰める。

「いいじゃん!ゴーストだって!あたしの資格試験なんだからさぁ。」

 俺も眉を顰める。

「いや、ゴーストは専門外だ。無理。」

 何が無理って、幽霊だよ?お化けだよ?無理に決まってんじゃん。

「いいじゃん!どうせ、あたし達は魔法使いでもあるんだからさ!」

 さっきは適当に祈祷師か魔法使いを呼べって言ったけど、魔法使いだからって幽霊を退治できるか?と、言われるとわからない。多分、普通の魔法使いじゃ無理だ。

「実は宮廷魔導士に退治するように命じましたが、手も足も出ず、逆に気が違ったようになる始末でございまして、何卒、彼奴の討伐をしていただきたいのです。」

 執政官の一人が外堀を埋めてくる。

「なんだ、テメエらもゴーストだってわかってるんじゃねえか。なら、別の祈祷師を呼べよ。」

 執政官が手と首を激しく振る。

「いえ、魔導士が通用しなかったものですから、逆に、これはゴーストではなく、得体の知れぬ魔獣ではないかと結論に至りまして、恥も外聞もなく魔獣狩りユニオンに依頼いたした次第で。」

 いや、ただ単にその魔法使いが三流だったってことだろ?

「もっと腕の良い魔法使いが街にいるだろ?」

「それは、もっと無理でございます。街中の魔法使いを玉座に入れて、討伐させるなど…」

 たしかに国王の権威はダダ下がりだわな。

「ただでさえ、連邦解体の憂き目に遭っておりますのに、そのようなことが国中に知れ渡っては内乱の芽を育てることになりまする。」

 コイツら大丈夫か?そんなことまで部外者の俺達に話して。

「なに?そんなに大変なの?」

 俺の問い掛けに執政官がチラリとテルナドへと視線を送る。

「はあ、なんと申しましても、神州トガナキノ国での医療技術消失が()(いと)うございます。急遽、奴隷を輸入し、施療院の機構改革を行いましたが、あまり芳しくはありませぬ。」

 別の執政官が頷き、別の問題を取り上げる。

「発電所の閉鎖と軍備増強も臣民を圧迫しております。」

 また、別の執政官が口を開く。

「テレビで‘今日の王室’が見られなくなったため、臣民の国王への反感は高まるばかりでございます。」

 スゲエな‘今日の王室’。

 そうか、テルナドがいるからエルラント王国の窮状を、なんとかトガリに取り次いでもらおうと、そういうことか。

「そのようなことは知らぬ。元はと言えば、貴様らが神州トガナキノ国の庇護を良いことに大国主議会で好き放題なことを申したのが原因ではないか。その責を我が国に向けるなどとは言語道断である。」

 テルナドの一言で執政官全員が土下座する。

 出たよ。

「いえ!滅相もございません!」

「神州トガナキノ国に責など毛頭もなく!我々の出過ぎた口が、国を思うあまりに言い方を誤ったにすぎません!」

「も、申し訳ございません。」

 三人の執政官が見るも無残に撫で斬りだ。テルナドの一言で。

「よい。では()く、案内(あない)せよ。」

「ありがたき幸せ。」

 テルナドの言葉に、救われたような表情を浮かべる執政官たち。そして、立ち上がり、そそくさとテルナドを案内し始める。テルナドは、そのままズンズンと歩き出す。

 あれ?

 俺、魔狩りのリーダーでぇ、ゴースト退治は反対してるんだけど?あれ?テルナドがリーダー?

 あれ?

『ゴーストだろうと退治はできる。』

 ホントかよ?

『ゴーストは残留している精神体だ。』

 精神体って残留するの?

『考えにくいが、できる。』

 でも、そんなことはどうでも良いんだよ。

『退治できるか、できないかが、問題じゃないのか?』

 問題じゃねえよ。

『じゃあ、何が問題だ?』

 …

『怖いんだよね?』

『ああ、俺も苦手かも。』

『お、俺は苦手じゃないぞ!!』

『可愛い子ならなんでも良いよ。』

 …

『怖いのか?』

 怖いよ…

 そうですよ。苦手で、怖いですよ!そうですが!それが何か?問題でもありますか?幽霊怖いのって普通でしょ?人に迷惑かけてないでしょ!怖いんです!

『ただの精神体だ。怖がるようなもんじゃない。』

 知らねえよ!怖いもんは怖いんだよ!どうすんだよ!テルナドの目の前でチビッたりしたら!もう、父親の威厳もクソもねえよ!

『心配するな。すぐに分解消去するか、栓を閉めとけ。』

 なんだよそれ。そりゃ栓を閉めとけるよ?でも、そんなことより、怖いもんは怖いんだよ!

『仕方あるまい。その怖い物にテルナドが向かって行ったんだ。行かないで済ますこともできんだろう?』

 う…

『ほれ、さっさと行け。』

 うう…

 俺は重い足を引き摺るようにして歩き出した。

 幾つかの部屋を通り過ぎ、玉座の間に通される。

 執政官たちは、テルナドがいるため、身体検査をすることができず、結局、武器を携行しているだろうという理由から、国王との謁見はできなかった。てか、面倒臭いから謁見できなくて良かった。

 玉座の間で俺とテルナドだけが残される。

 俺とテルナドは部屋の隅、柱の陰に身を隠す。

 大きな窓から月光が差し込んでいるが、その程度の光量では、この部屋を明るく照らすことなどできる訳もなく、ただでさえ深い闇を更に濃いものへとしていた。

 俺は声帯を震わせ、エコロケーションで周囲の警戒を怠らない。テルナドはオウルノイドなので、暗闇に対してはかなりの耐性を持っている。視力は人間の百倍の感度があり、聴力もかなりの物だ。

「父さん、エコロケーション止めて。耳に痛いよ。」

 す、すいません。

 と、いうぐらいに聴覚が発達してる。でも、エコロケーションを止めると、父さん、暗闇の中で怖いんですけど。

『右目で粒子の動きを捉えろ。赤外線も見れるだろうが。』

 いや、そんなことしたら、幽霊が見えちゃうじゃねぇか。

『何のためにエコロケーションを使ってた。』

 …素早く逃げるため…

『娘を置いてか?』

 いや、引っ担いで逃げるよ。

『その娘が何処に行ったか見えなくなってるぞ。』

 え?

 俺は慌てて周囲を見回す。

 ああ、もう、オウルノイドはこれだから、もう!

 オウルノイドは梟の特性を持っている。隠密性にかけては並び立つ獣人はいない。同じオウルノイドのコルナは、その身の軽さで、トンナ、アヌヤ、ヒャクヤ、オルラの四人掛かりの攻撃を凌いだことさえあるのだ。

 テルナド、いるのか?

『心配するな。テルナドとは話せてる。』

 そ、そうか。なら、良いんだけど。

 テルナドとは使徒の契約を結んでいる。当初は下僕の契約であったのだが、クルタスの一件が切っ掛けで、使徒の契約へと上書きした。その契約のせいで、テルナドは霊子を俺から補充する必要がある。俺とテルナドの霊子体は繋がっており、その霊子供給調節担当がイズモリだ。だから、イズモリとテルナドは常に会話することができる。

『おい、呼吸が荒いぞ、テルナドが静かにしろと言ってきてる。』

 そ、そんなこと言ったって、し、しょうがないだろ?

『ビビってることがテルナドにバレるぞ。』

 う、それは拙い。父親としての威厳が問題だからな。

 俺は蹲り、静かに呼吸を整える。粒子の動きを見逃すまいと意識を集中する。

 何時間、そうしていたのか、月光が弱まり、柱の影が徐々に移動する。

 俺の右目は粒子の動きを捉えている。

 乱れが生じる。

 来た。

 うう。来ちゃったよ。

 明滅する粒子。

 固形化していない、不規則に明滅を繰り返す粒子が、僅かずつではあるが集まってきている。

 左目で見ても何も見えない。

 おい。どうすりゃいいんだよ?残留した精神体って言ってたよな?どういうモノなんだ?

『精神体は、精神体だ。どこかに器となる物があるはずだが、その器では動くことができない。そのために精神体だけがさ迷い歩いているんだ。』

 だから、その精神体だけでどうしてウロウロできるんだよ!

『強烈な思念が残ってるんだろう。思念そのものが強力だから、周囲の幽子に指向性を与えるほどの影響を及ぼす。そうなると、周囲の量子が物質化し、人の目にも見えるようになるということだ。』

 じゃあ、生き返るってのか?

『それは無理だ。そこまでの演算能力を人間は有していない。例え持っていたとしても、精神体だけで、そこまで複雑な思考はできるはずがない。』

 できるはずがないって、できたらどうすんだよ!

『できない。肉体の脳がないからな。』

 あっ。

『人間を構成するのは、あくまで三位一体であることが前提条件だ。精神体は波状量子でできているため、生前の強烈な記憶だけで動いている。つまり、思い付きだけで動いている状態だ。考察や論理性は皆無だ。そういった思考は肉体の脳がなければできん。』

 じゃあ、幽霊って言っても大したことはできねえじゃん。

『そうだ、精々が重なった時に波状量子の波が干渉し合って気が狂うぐらいだ。』

 ダメじゃん。

 それ、ダメじゃん!

『だから、波状量子が干渉し合わないように肉体が存在するんだ。』

 だから!幽霊には肉体がないから!肉体があったら!普通の人じゃん!!

『最初に言ったろ。どこかに器があるはずだと。』

 でも!その器がどれかわかんねえだろうが!

 見ろよ!段々人間っぽい姿になってきてるよ!どうすんだよ!

『精神体が周囲の幽子に指向性を与えて、元素が人間の形になろうとしている、と、いうことは、自身の形態を人間に近付けたいという指向性が働くからだ。精神体に重ねるように、人間のような形をした物質を再構築してやれ。』

 ええ?!幽霊を生き返らせるのか?!

『そう錯覚させてやるんだ。』

 錯覚させて、どうするんだよ!

『いいからやれ。』

 俺は空気中から炭素を集めて、真っ黒なヒトガタを作ってやる。精神体が形を成そうとしている、その空間にだ。

 黒い炭素が靄のように集まり、徐々にその形をヒトガタへと固まっていく。

『どうだ?』

 うん、重なってる。

『精神体がある程度の重なりを見せたら、幽子が指向性を持ち、自分自身で形を作ろうとする。再構築を途中でやめてみろ。』

 俺は再構築を中断する。

 俺は中断したはずなのに、ヒトガタが構築されていく。イズモリの言ったとおりに精神体が、周囲の幽子に指向性を与えて、炭素を収集し、物質化しているのだ。

『どうだ?ヒトガタが出来上がったか?』

 ああ、出来上がった。

『よし、テルナドの高圧集光銃で撃たせてみる。』

 う、撃たせてみる?撃たせてみるだと?なんだ?確信があって、ヒトガタを形成させたんじゃないのか?!

『何を言っている?確信などあるはずがないだろう?俺だって精神体だけの存在など見たことないんだから。』

 シレッと言いやがったな!シレッと言いやがった!!

 テルナドが高圧集光銃を真黒なヒトガタに向かって撃つ。

 暗闇に閃光が走り、一瞬、部屋が眩い光に照らされる。

 ああ!もう!合図ぐらいするように言っとけよ!赤外線網膜が焼かれた!

『すぐに直せ。』

 治すよ!お前、その漢字違うからな!

『どっちでも良い。早く対象を確認しろ。』

 この野郎、無意識領域に行ってブッ飛ばしてやろうか?!

『多分、あとで、来てもらうことになる。早く確認しろ。』

 燃え盛るヒトガタを確認する。

 元が炭素なだけによく燃えてる。

 ダメだ。ヒトガタから離れて、動き出してる。

『やっぱりそうか。』

 やっぱり?!やっぱりって言った?!

『仮の肉体を与えて、致命傷になるであろう物理的攻撃を仕掛ければ、自分が死んでいると認識するやもしれんと思ったが、そう、簡単でもないようだな。』

 なんだ?試してんのか?実証試験か?オイ、オイ、勘弁してくれよ!

『奴の周波数を特定検知して、無意識領域に引っ張り込め。』

 ええ?ヤダよ!そんなの怖いじゃねぇか!

『無意識領域なら俺達も精神体だ。奴と同じ存在になるんだ。怖くないだろう。』

 うう。そう言われればそうだけど…

『クルタスに止めを刺したときと同じだ。やれ。』

 で、でも…

『マサト、無意識領域に来れば俺達もいるんだから大丈夫でしょ?』

 そ、そうか!イチイハラ、カナデラ、タナハラにクシナハラもいるんだ!

『おい、なんで、俺の名前が出ない?』

 俺は幽霊の周波数を特定検知し、その周波数帯に俺の周波数帯を合わせる。

 行くぞ。

 腹を据えて、俺は自分の内側に落ち込んで行く。

 俺の体は音を立てて床に倒れ込んだ。

 その音を聞いて、テルナドが俺の傍へと駆け寄ってくる。

 駆け寄ってくるが、俺はその足音を途中で見失った。

 真暗な世界に落ち込み、僅かに光る白い点を見つけ、俺はその白い世界へと飛び込んだ。

 俺達と一人の男がいた。

 俺達に囲まれ、一人の老人が()(つくば)って呻いている。言葉にはなっていない。なっていないが、何かを話そうとしていることがわかる。

 俺達がその老人を囲む。

 老人が発している言葉。どんなに耳を澄ましても言語として認識することができず、ただの音としか思えない。

 老人の周囲で白い世界が変容する。

 僅か、六メートル四方ばかりの空間が老人の強烈な思念によって変貌する。

 幼い男の子、その幼子(おさなご)が自分よりも少しばかり年上の少年に毒を盛る。

 母親が褒め称え、幼子が満足気に頷く。

 幼子が次々と人を殺していく。

 人を殺しながら幼子が少年へと成長していく。

 ある時は事故に見せかけ、ある時は己の手を汚し、ある時は人を使って。

 戦場、街中、王宮と場所も様々だ。

 殺す度に母親が青年を褒め称え、青年は、その母親さえも殺す。

 青年が成人となり老成しながら人を殺す。

 奴隷であったり、臣民であったりと様々だが、自分の子供さえもがその対象となる。

 認知症を患い、幽閉されて、やっと、人殺しの歴史が終わる。

 最後は自分自身を殺して、再び、幼子の世界が始まる。

「延々と殺してるな。」

「酷いね。」

「よくも、これだけ人を殺せるもんだよ。」

「ぶっ叩くか!」

「可愛い子を殺すなんて万死に値するね。」

 先代の国王か。

「殺し過ぎて気が狂ったか…」

 いや、違うな。

 全員が俺に注目する。

 殺しても、殺しても、未だ殺したりぬってヤツだな…

「人殺しの記憶がリプレイしてるのは、そのせいか…」

「陰惨だね。」

「害悪にしかならない思念だよね。」

「消しちまおう!」

「この精神体を利用すれば、呪いのアイテムとか作れそうじゃない?」

 カナデラ…

「いや、嘘、嘘、冗談だって。ホント、冗談。」

 嘘吐け、割かし本気で創作衝動に揺り動かされてるだろ。

「へへ、やっぱり、バレるよね?」

「俺達の間じゃ、嘘を吐いても無駄だ。」

「わかってるよ。うん、じゃあ、先代国王は消滅ってことで。」

 俺達は右の拳を振り上げる。

 延々と人殺しの記憶をリプレイさせる先代国王に向かって、全員が一斉に拳を振り下ろし、俺達の精神体の波が先代国王の精神体に干渉する。

 先代国王の精神体は俺達の波に打ち消され、その姿を消滅させた。

 陰惨な光景を映し出していた空間が真っ白な空間へと戻る。

 討伐完了だな。

「相手は幽霊だから、調伏が正しい。」

 細けぇな。

 カナデラ、欠片でも隠し持ってねぇだろうな?

「持ってない、持ってない。そんなことしないよ。」

 俺は意識を覚醒させる。

 テルナドが膝枕していてくれた。

「大丈夫?」

「ああ。」

 俺は起き上がって、首を回して乾いた音を立てる。

「ゴーストは?」

 炭の焼ける臭い。月光に照らされた空間に煙が薄っすらと漂っている。

「消滅させた。」

「無意識領域で?」

「ああ。」

 ヒトガタが熾火を残して、床の絨毯に煙を立ち昇らせている。

 俺は真空を作り出し、その火を消す。

「なんだ。あたしも連れてってくれれば良かったのに。」

 俺はテルナドに視線を向ける。

「そんなことしたら、空っぽ状態の俺を守る奴がいなくなるだろ?」

 テルナドが口を尖らせる。

「だって、あたしの試験だし。」

「いいよ。合格、合格。テルナドの力はよくわかってるから。」

「ちぇっ。」

 わざとらしく舌打ちするが、可愛さは損なっていない。俺はテルナドの頭を撫でて、立ち上がる。

「さあ、依頼完了だ。契約履行証明書に公印もらって帰るか。」

「は~い。」

 気のない返事を聞きながら、俺はテルナドを連れて、玉座の間を出る。

 俺達を出迎えてくれた執政官たちは、玉座の間の控室で待機しているので、執政官たちを連れて、玉座の間に取って返す。

「一応、調伏しといたけど、どこかにゴーストの器になる物があるはずだ。」

 執政官三人が一様に俺の方へと視線を向ける。その内の一人が焦ったような口調で話し出す。

「そ、その器はどこにあるのかわからないのですか?」

 俺は頷く。

「わからん、でも手掛かりがある。」

 執政官たちが喉を鳴らす。

「先代国王、人殺しが趣味の先代国王が一番執着してた物。それが器だ。」

 俺の言葉に執政官三人が一斉に玉座を見る。

「ふん。ただの椅子に執着してた訳ね。」

 俺は執政官三人を見上げる。執政官三人が俺を見下ろす。

「新しいのに替えたらどうだ?それで、きれいさっぱり解決するぞ?」

 三人ともに困った顔をしながら、額を突き合わせて、ボソボソと話し出す。

 どうせコイツらだけじゃ結論は出ねえだろうな。

 内緒話が終わり、三人の執政官が俺の方に向き直る。

「玉座については、後日、改めて協議いたします。此度は誠にありがとうございました。」

 一人が礼を述べ、頭を下げると、後の二人も頭を下げる。

 今回はテルナドがいたから、三人ともに丁寧な対応だった。うん。王族偉大。

「じゃあ、これに公印押して来て。」

 俺は執政官三人に契約履行証明書を差し出す。

 契約履行証明書を受け取りながら「そ、そのう。玉座を交換する折には…」と中々に厚かましいことを言い出そうとしたので、「今すぐ交換するなら、俺がやってやるけど、後日ってんなら、改めて依頼を出してくれ。ここまで来るのにも労力が掛かるし、大体、魔獣じゃなくってゴーストだったからな。受けるかどうかわからん。」とすぐに断る。

 執政官は諦めたのか、書類を持って玉座の間を立ち去る。

「じゃあ、後始末して良いな?」

 そう言いながら炭素のヒトガタが燃えた所まで歩く。

「い、いえ。他の者にも説明する必要がありますので、そこは、そのままでお願いいたします。」

「あ、そう?じゃあ、このままにしとくよ?」

 俺はそう言って、元の場所に戻る。

 すぐに書類を持った執政官が戻って来るかと思ったが、中々、戻って来ない。

 俺は地図を再構築して、廃品となり果てた雷精魔導具の集積場所を聞き、小型の輸送艦が搬出作業を行う旨を申し伝える。

 領空内をトガナキノの船が侵犯するので、執政官は、一瞬、渋い顔をするが、侵犯行為にならないように、こうして話しているのだから、俺としては、結構、ちゃんと手順を踏んでる方だと思う。

 面倒くさいことぬかしやがったら、領空侵犯もクソもなく、いきなり、雷精魔道具を引っさらって行ってやる。

「承知いたしました。なるべくなら、できるだけ短時間でお願いいたします。」

 ああ、雷精魔道具を引き揚げるところを臣民の目に触れさせたくないってことね。了解。

 俺は通信機でイデアに呼び掛け、地図座標をイデアに送る。すぐにでも輸送艦が到着し、夜が明けきる前に輸送艦はトガナキノに帰還するだろう。

 そこに、先程の執政官が戻って来て、契約履行証書を俺に渡してくれる。

 はい。公印確認よし。討伐、いや調伏完了と。

「テルナド、終わったよ。帰るか。」

「うん。」

 テルナドが良い顔で笑う。

 俺達はガラン号に乗り込み、薄明りの中、朝陽に向かって飛んだ。

 お読み頂きありがとうございました。この話で、一旦、投稿を休止するのは、キリが良いからです。活動報告でも書いたような気がしますが(書いたかな?)、八割方は出来上がっています。完結してからの投稿はまだ少し先になりますが、また、お読み頂けると幸いです。

 ちなみに、この先の展開を少しばかり、私は第一話にメインの伏線を盛り込む手法が好きです。飛行機を有するジェルメノム帝国、その国との関りがメインとなってきます。その話の中でサクヤとトドネがコンビを組んで暴れます。それでは、また、投稿させていただきますので、よろしくお願いいたします。

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