ヤル気に満ちたカルザンは中二病だった
「陛下、瞬間移動を使うのは画的にあまりおいしくありません。」
なんだ、そのディレクターみたいな台詞は。
「画的にって、いや、良いじゃん。楽だし、時間短縮にもなって。」
俺の言葉にカルザンが可愛く首を振る。
『可愛くって、それ、いるか?』
カルザンと可愛いはセットだよ。
『カルザンを襲っちゃう?』
襲わねえよ。
「いいですか?ドキュメンタリーなんですよ?苦労して目的地に辿り着いてから、魔獣を狩り倒す。そんなシーンに視聴者はグッとくるんです。ですから、別の移動手段で行きましょう。」
ドキュメンタリーだろ?なんでわざわざ苦労する方法を選ぶの?ヤラセって言わない?それ。
まあカルザンは可愛いからな。しょうがない。
『しょうがないのか?』
俺はエアロカーを構築する。
「ダメですよ。エアロカーなんて。」
「え?」
「四輪のバギー風の車にしてください。」
「ええ?」
「冒険っぽく行きましょう!」
しょうがねえなあ、カルザンは可愛いからな。
カルザンの要求通りに俺はバギーを構築する。
「良いですね!じゃあ、次は魔狩っぽく、大きな銃を用意して下さい。」
「こんな感じか?」
大き目のガトリング銃を用意してやる。
「もう少し大きい方が良いですね。」
「じゃあ、こんなもんで。」
対戦車ライフル並みのガトリング銃だ。重くて持てねえんじゃねえか?
「OKです!あとは服装ですね。ワイルドにいきましょう!」
「これじゃ駄目なのか?」
俺の服装は山賊風で結構ワイルドだ。
ヘンリーネックのTシャツに滑革のベスト、腰にはホウバタイでデニムパンツに軍用の革ブーツで、腕には手甲だ。
「陛下はお顔が優しいですからね。暗い色のポンチョとアイパッチなんてどうですか?」
アイパッチ?
『眼帯のことだ。』
ああ、もろ山賊になれってことね。
俺は、軍用を意識して、ダークグリーンのポンチョに身を包み、黒い眼帯を左目に巻く。
「良いですねぇ!良いですよ!歴戦の魔狩りって感じです!あと、惜しむらくは傷の一つもあればもっとカッコいいんですけど!」
左頬に傷を走らせてやる。カルザンは可愛いからな。
「おお!こうなってくると、ちょっと待ってください。」
カルザンが、可愛いピンクのポシェットから櫛を取り出す。その櫛を使って俺の前髪を弄って陰のある雰囲気を作り出す。
「これです!これですよ!これこそがベテランの魔狩りです!!」
ということで、カルザン脳で形成されていた魔狩りが誕生した。
なんか、宇宙海賊のオッサンみたいになってますけど。眼帯に髑髏とか描いた方が良いの?
黒と赤を基調としたバギーのボディには、ドラゴンの頭蓋骨が描かれている。その頭蓋骨には刀が突き刺さり、俺が魔狩りだと知らしめるのだそうだ。
「それじゃあ、ここでワンカット撮っておきましょう。」
「え?ここで?」
「ハイ、此処で、です。」
ここは魔獣狩りユニオンの中庭だ。てか、安寧城の隅っこだ。
安寧城の片隅に、魔獣狩りユニオンの事務所があてがわれ、その一角の小さな中庭なのだ。
その小さな中庭で、魔狩りとしてのスタイルを決定しましょうと言われて、こうして連れ出されたのだが、そのままの勢いで撮影しようということになった。
「お待ちください。」
その様子を見ていたスーガが待ったを掛ける。
カルザンと俺は、スーガに視線を向けた。
「どうせなら、全くの別人になって撮影されては如何ですか?」
そうだった。忘れてた。
「そうだよ、忘れてた。テレビで流すんだよな?だったら、俺の顔がわからないようにしてくれなくっちゃ。」
「ええ。ユニオンマスターが陛下であるということはわかっているのですから、せめて、ユニオンメンバーには、別の人も存在するとアピールして頂かなくては。」
何気に傷付くことをサラッと言いやがるな。
「そうですねえ、陛下が前面に押し出されると番組の視聴率が下がるかもしれませんからね。」
カルザン、可愛いからって何言っても許される訳じゃねえぞ?まあ、許すけどよ。
『許すのか。』
可愛いからな。
「陛下に小っちゃくなってもろたらエエんちゃう?」
「ええ?子供の魔狩り?それって無理があるだろ?」
俺はブローニュの意見に、思わず否定的な反応をしたが、カルザンは「良いですねぇ!!」と食い付いた。
「良いですよ!新神記に描かれる陛下とは違って、何か重い過去を背負った少年が紆余曲折を経て魔狩りとなって、困る人々をクールに救う!ドラマがありますねぇ!」
少年漫画のノリだな。しかも遠回しに俺が能天気だって言われてるような気がする。
「左様ですね。魔狩りには、少年でもなることができる。うん、いいアピールになるでしょう、そうして下さい。」
現代日本なら労働基準法違反だけどな。
『児童虐待も付与されるな。』
俺は一〇歳の頃の姿に戻る。
「おお!」
「ほう、これは。」
「いややわああ!可愛い!」
前髪を垂らして、陰のある片目の少年。
うん。
俺の目から見れば、完全に勘違いした中二病のガキだ。チビロックだな。
「アイパッチを押さえて‘失われた左目が疼きやがる’って言ってください!」
絶対に嫌だ。
カルザン、五十一歳のオッサンに何を求める。
「ヤダ。」
「ええええええ!言ってくださいよ!その左目は魔獣に喰われたって設定で行きましょうよ!」
カルザンって中二病だったのな。
「ヤダ。」
うん、ブー垂れた顔も可愛いぞ。
「それよりもカルザン、俺を陛下って呼ぶなよ?姿を変えてるのにバレるだろうが。」
「ええ?でも私には無理ですよ。陛下は陛下ですから。」
「では、こうしましょう。」
スーガだ。
「ユニオンマスターは、その姿でいる時はヘイカという名前になって下さい。」
「は?」
「そうですね。ヘイカ・デストロイという名前は如何です?」
「え?」
「つまり、ヘイカが名字で名前がデストロイですね?良いですね。そうしましょう!」
「はあ?」
「ほな、私はデストロイって呼ぶわ。よろしくね。デストロイ!」
「はあ…」
なんか知らない間に俺の名前はヘイカ・デストロイになってしまった…なんだこれ?
その後もナイフを持てとか、弓矢も持ちましょうとか、色々な武器を持つように言われて撮影が進んだ。
もう皆、ノリノリだ。
学園祭とかで動画を撮って公開しましょうって感じだ。
こんなので良いのかな?
『いいだろう。楽しそうだし。』
『良いんじゃない?楽しそうだし。』
『基本、野宿になるんだから、料理の用意とかも忘れずにって言っといてよ。』
『早く魔獣狩りに行こうぜ!』
『カルザンとやっとこう?』
良いのか。
「じゃあ、その恰好のまま、ちょっと街に出ましょうか。」
「ヤダよ。」
「ええええええええ!行きましょうよ!」
「いや、街でこんな格好してる奴いねえじゃん。頭おかしいの?って思われるだろ。」
コスプレで街を歩くなんて、五十一歳のオッサンには無理だ。勘弁してくれ。
「目立ってよろしいではないですか。魔獣狩りユニオンの加入者募集に最適でしょう。行って来て下さい。」
「じゃあ、スーガもこういう格好しろよ。」
「はっはっはっは。私は事務がありますので。」
おい、顔が笑ってねえぞ。
「じゃあ…」
カルザンとブローニュの方を見ると目をキラキラさせている。ああ、こういう格好したいんだ。そうなんだ。
「…お前らもこういう格好…」
「ハイ!!お願いします!」
「うん!魔狩りっぽい格好にしたってぇな!」
と、いうことで、カルザンは青いフード付きのシャツにノースリーブの革コート、ズボンは、俺と同じデニムに軍用のショートブーツ。
手甲は俺とお揃いだ。
頭にバンダナを撒いて、胸元には、昔トンナに作ってやったハガガリの牙を使ったネックレスだ。
ブローニュには、オルラに作ってやったハガガリの兜にハガガリの毛皮で作ったオレンジのベスト、ベストの襟元には、鳥型魔獣のキョクサイの尾羽をふんだんに使って、女性らしさをアピール。
胸元は滑革のビキニで、パンツはサリエルパンツ、足元はやっぱり軍用のブーツ、手首にはクルワスっていう鳥型の魔獣の羽を巻いている。
うん、コスプレ三人組だ。
でも、一人でこの格好で街に行ってこいって言われるよりも随分マシだ。
「陛下!それでは行きましょう!」
カルザン、嬉しそうだな。
「ああ。」
俺はマシってだけで、嬉しくはない。
「行くでええ!!」
カルザンとブローニュはテンションマックスで、腕を振り回してるが、俺はダダ下がり状態だ。