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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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コルナは仕事が忙しいそうです

 朝を迎えて俺は草原に立つ。隣にはトンナ、アヌヤ、ヒャクヤがいる。

 国体母艦を造る時、俺は常にこの草原に立つ。

 元はハルディレン王国と呼ばれていた国、その国の草原だ。

 上半身の服を分解保存。強くなってきた日差しを受けて、俺は薄っすらと汗をかいていた。

『半裸になる必要があるのか?』

 気分と気合いだよ。雰囲気的に気合が入るだろ?

 草原が波のようにさざめく。

 草原を渡る風が俺の肌を滑っていく。

 顔を上げ、深い所から息を吐き出す。

 背筋が伸びて天と地を繋げる感覚を身の内に走らせる。

 コノエとリンクを結んでいる。

 通常の国体母艦ならば、イデアとリンクを結んで建造するが、今回、建造するのは魔狩り専用の国体母艦だ。

 国体母艦の移動頻度が上がる。

 魔狩り専用の国体母艦はコノエのマイクロマシンを借りる設計だ。

 コノエのマイクロマシンは気象調節に使用されているため、世界中、余すところなく散布されている。

 俺が気象調節用のマイクロマシンを直接操作するようなことはしないが、情報は欲しい。

 常に惑星全体の情報が掴めるし、その情報さえあれば、俺は、どこにでも粒子化光速移動が可能になる。

 コノエのマイクロマシンで国体母艦を建造すれば、周囲のマイクロマシンの周波数が同じなのでステルス機能を付与しやすくなる。

 意識を集中し、量子情報体を活性化させる。

 俺の周囲が金色に輝き、俺達を中心に渦を巻く。その渦が広がり、俺達の目前に霊子結晶が虹色に輝きながら再構築される。

 薄いシート状に広がり、蒼白い輝きへと変化し、その上に黒いシートを再構築。材質の違う二枚のシートを重ね合わせ、ロール状に巻いていく。

 俺は通常の国体母艦と同じ性能を持った霊子バッテリーを作り出す。周囲の幽子を吸い上げ、出来上がったばかりの霊子バッテリーを稼働させる。霊子バッテリー回転し、周囲の空間から幽子を取り込む。

 霊子バッテリーからチューブを伸長、同時に国体母艦のフレームを構築しながら組み上げる。チューブはメインフレームへと接続し、メインフレームの質量方向を変換。自重で壊れることがないように質量方向変換のパワーを調節。

 小さくていい。

 新神母艦のように巨大な物にはしない。

 機動力と運動性能に富み、万単位の人間が最低、三日間、生活できる艦内。

 夜明け前から始めて、太陽が中天にかかる頃、俺は魔狩り専用国体母艦と通常の国体母艦二隻を造り上げ、俺は草原に倒れ込んだ。


 トンナの膝枕は高さがあり過ぎて首が痛くなる。

 薄っすらとした意識の中、俺はアヌヤを下から見上げていた。

 今日はアヌヤの膝枕だった。

 アヌヤの鼻先の向こう側、巨大な影を落とす国体母艦が見える。遥か上空にあるはずの国体母艦。それでも巨大だ。

 巨大すぎて、三隻造った筈なのに、一隻しか視界に入ってこない。

 国体母艦の中でも最も小さな船だ。

 全長は九百四十五メートル、全幅は七十三メートル、通常の国体母艦に使用している霊子バッテリーと同じ規格の物を六基積み、霊子ジェットも六発だ。

 六門の荷電粒子砲と巨大レールガン。これが副砲だ。主砲は霊子そのものを収束して撃ち出す霊子砲だ。最高出力で撃ち出せば、空間さえも捻じ曲げる質量を生み出す。

 竜騎士を二十機と八咫烏を五十機、そして酒呑童子を百着積載している。

 奴隷の救出と保護を目的とした艦だ。小回りが利くように六十メートルほどの救命艦を四隻、船舷に係留してある。

 本艦自体は二万人の住民を収容でき、元素プールには、その二万人を、三日間、食べさせることのできる元素が保存されている。

 黒を基調とした、マッコウクジラを彷彿とさせる魔狩り専用の国体母艦。

「名前はウロボロスだな…」

 俺の呟きにアヌヤが見下ろしてくる。

「目が覚めたんよ。」

「パパ、大丈夫?」

 ヒャクヤが覗き込んでくるが、言葉と違って心配してる様子はない。

「あんまり心配してねぇだろ?」

 ヒャクヤがニッコリ笑い、トンナが上から覗き込んでくる。

「しょうがないよ。トガリが無茶して気絶するのって慣れちゃったもん。」

「そうなんよ。父ちゃんが死んじゃったら、あたしらも死んじゃうから、あたしらがピンピンしてるってことは、父ちゃんは死んでないんよ。」

「そんなことより、パパが目を覚ましたんだからお昼にするの。」

 昔は結構、必死に心配してくれたんだけどなぁ。慣れって怖いな。て、これが長年連れ添うってことなのかな?

 ヒャクヤが鞄の中から簡易錬成器を取り出す。

 この簡易錬成器は、獣人用に開発した物だ。

 獣人はマイクロマシンを使うことができない。体内のマイクロマシンが体外へ放出するだけの霊子を消費してしまうためだ。マイクロマシンは微弱な電流でも稼働するが、電気だけでは稼働時間がしれている。トンナは自分の武器である斧槍を再構築したり、分解することができるが、その時に使用しているエネルギーは体内に蓄積している生体電気だ。

 また、斧槍には決まった単一のプログラミングしか走らせていない。だから、斧槍を構築するマイクロマシンに命令を走らせる必要がない。だから、霊子を放出してマイクロマシンに命令を走らせる必要がない。

 獣人用の簡易錬成器は、幽子を閉じ込めたパックが内蔵されている。充電バッテリーと同じだ。事前に決めた物質だけを再構築するようにプログラムを走らせているので、霊子で命令を刻む必要もない。したがって、獣人でも使用できる、と、いうことになる。

 その、簡易錬成器を使ってヒャクヤが茣蓙を再構築する。

「え~。ヒャクヤ、ビニールシートにしなよ。茣蓙ってチクチクするじゃない。」

「ダメなの。ビニールシートは空気を通さないから下の植物に良くないの。だから、筵か茣蓙が良いの。」

「トンナ姉さん、素足を出さずにパンツにすれば良いんよ。」

「もう、トガリのためにスカート穿いて来たのに。」

 トンナが腰のスイッチを操作して、ピンクのミニスカートからスリムパンツに変化させる。

「ご主人様、トンナ椅子、いる?」

「いらない。」

 俺の一言にトンナが口をへの字に曲げて眉を顰める。

「いい加減にするんよ。父ちゃんだってもう十六歳なんよ?いつまでも小っさい頃の父ちゃんじゃないんよ。」

「でも、この間、魔獣狩りに行った時、トガリったら一〇歳の頃の姿に戻ってたんだよ。」

「あ、それは、ちょっと傷付くの。」

 へ?なんで?

「ああ、それは、わかるんよ。あの頃の思い出って、結構、特別なんよ。」

「でしょ?でしょ?しかも、ブローニュと一緒だったのよ。ちょっと酷いと思わない?」

 なにが?なにが酷いの?

 女どもは話しながらも茣蓙の上にお弁当を次々と再構築していく。

「あ~。それはないのぅ、それは駄目なのぅ。」

 そう言いながら弁当の蓋を開け、俺の口に肉を捻じ込んでくる。

「でしょ?なんか、あの頃の思い出をブローニュに切り取られたみたいな感じでさ、結構、頭にきちゃってたんだよね。」

 あ、そうなの?

 トンナがレタスを口に捻じ込んでくる。

「うん、うん。今、あたしもそんな感じなんよ。ちょっと、鶏冠にくるんよ。」

 そう言いながら、卵焼きが捻じ込まれる。

「でもさ、そんなの八つ当たりじゃない?だから、頭を冷やすのに、時間、掛かっちゃってさ。」

 蒸した人参が更に押し込まれてくる。

「あ、それで、到着時間がウチらとあんまり変わらなかったの?」

 大根の煮物が押し込まれてくる。いや、せめて、小さく切ってくれ。

「そうなのよ。できればトガリ達が魔獣を狩りだす前に到着したかったんだけど、そのまま行ったらブローニュが死んじゃうじゃない?だから、時間が掛かっちゃって。」

 トンナが熱いお絞りで、俺の口周りを拭いてくる。もう、グイグイだ。お陰で口の中身の料理が潰れて、飲み込み易くなった。

「でも、あの娘、トンナ姉さんとやり合って、よく、死ななかったの。その点は感心するの。」

 水筒から熱いお茶を注いで、俺に飲ませてくる。熱いままだと、どっかのリアクション芸人のようになるから、マイクロマシンで一気に冷やしておく。

 口の中の物を飲み込んで、俺は「ちょっと、いい?」と皆に声を掛ける。

 三人が口をモゴモゴとさせながらこっちを向く。

「その、喋るたんびに俺に食べさせなくても大丈夫だから。」

「ダメよ。使徒としてのお仕事なんだから。」

 あ、そうなんだ。

「そうなんよ。なに言ってるんよ。使徒にしといて仕事させないんかよ。」

 てか、言うこと聞いてくれよ。

「ホント、頓珍漢パパには困るの。」

 うん。使徒なら、たまには言うこと聞けよ。

「仕事ならお休みもあるでしょ?今日はお休みってことで。」

「ダメよ。仕事って言っても愛情なんだから。」

 もっと、普通の愛情の方が良いんですが。

「そうなんよ。妻からの愛情がいらないんかよ。」

 いや、それは欲しいが、普通の愛情が…

「ホント、危機感ゼロパパには困るの。熟年離婚はそういうことの積み重ねなの。」

 ハ~イ、最終兵器出ました。もう、何も言えません。

 俺は黙って、捻じ込まれてくる料理を次々と飲み込んでいく。もう、コイツらと一緒になってから、噛むってことを忘れそうだよ。

『まあ、胃袋内のマイクロマシンが分解するから心配するな。』

 そういう問題じゃねぇだろ?

『他に何か問題があるか?』

 そう言われると返答に困るけどよ。

『なら、問題ない。』

 もう。

『それより、例の件、トンナちゃん達に話しといた方が良いよ。』

 う、うん。

『そうそう、早く話とかないと、この前みたいに、突然、現れて、全ての段取りが壊されちゃうよね。』

 わ、わかってるよ。

『とっとと話しちまえ!男らしくな!』

 お、おう。

『はあ。可愛い女の子のいるお店に行きたい。』

 今日は俺もそっちに行きたいよ。

『いいから、とっとと済ませろ。』

 わかってるよ。

「皆に話しておきたいことがあるんだ。」

 俺が口調を変えて改まったので、三人が箸を止めて、俺の方を見る。

「この間、ディブアンって奴隷の子を保護した。」

「うん。トンナ姉さんから聞いてるんよ。」

「そうなの。だから、今度は、お節介大好きパパのことだから世界中の奴隷を集めて回るねって話してたの。」

「トガリのことだから、きっと、悪巧み一杯でさ、世界中をだまくらかすよ、て、言ってたんだよね?」

「そうなんよ。でも、今度はあたしらに出る幕はないんよ。」

「そうなの。寂しいけど、これだけテレビに出ちゃったら、きっと、バレちゃうの。」

「子供のこともあるしね。」

「ちゃんと、トガナキノの王子様に相応しい子になってもらわないと困るんよ。」

「ウチはどっちかと言うとアイドルにしたいの。」

「あたしは、自分でちゃんと生きていけるようになってくれたら文句ないけどな。」

「そんなの前提条件なの。ウチは、親子揃ってステージに立つのが夢なの。」

「あたしは一緒に魔獣狩りなんよ。トルタスと拳で語り合うってのも楽しみなんよ。」

『なんだ。結構、母親してるじゃないか。』

 ホントだよ。

 なんだよ。なんだか泣きそうだよ。

 姦しい女達。

 この女達に話すことなんて必要なかった。

 なんだか、それが、無性に嬉しくって、自然と頬が緩んだ。

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