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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
15/405

裏機関を創ろうかと思うんだけど(挿絵あり)

お読み頂きありがとうございます。本日の投稿はここまでとさせて頂きます。ありがとうございました。

 安寧城の最上階。

 初めて使う部屋だ。

 壁全面はガラス張りで、全天を見渡せるようになっている。安寧城の最上階ということもあって、その窓から見える風景は、宇宙に近い紺色の空だ。

 高さ二十メートルはある天井にも、所々、天窓が設けてあり、金の装飾が日の光を反射して、神々しさを醸し出す。

 中央に据えられた長大なテーブルには、上座に一脚と左右に十脚ずつ、計二十一脚の椅子が並び、その背後に、八十脚ずつの椅子が整然と並べられている。

 椅子その物にゲートと同じ、粒子化光速移動の機能が備えられており、その椅子に、次々と人が現れる。

 青、白、緑の制服に身を包んだ、高席次の執政官たちだ。

 百六十席が完全に埋まり、続いて、中央のテーブル席が埋まっていく。

 ルブブシュ、クノイダ、カノン、カナデ、サエドロ、元八穢の物の怪と俺の義兄弟セディナラ、そして、スーガ、ギュスターの元自警団だった男達。

 スパルチェン、コロノア、カルガリの武人連中。

 ハノダ、ナシッド、ムスタン、セルダクの元ズヌークの家臣団。

 アンダル、ルドフィッシュの元カルザン帝国の執政官。

 この中央のテーブル席に座るのが大臣クラスの人間達だ。

 トガナキノは、立法院、司法院、行政院の三院で構成されている。

 立法院には三宮(さんぐう)と呼ばれる三つの下部機関があり、司法院には五社(ごしゃ)、行政院には十二殿(じゅうにでん)の下部機関がある。

 それぞれの長、宮は、宮の長、社は権司、殿は殿長と呼ばれている。

 で、このトガナキノでは、大臣クラスが各下部機関の局長を兼務したりしている。例えば司法院の長であるローデルが、立法院、外法宮の宮の長であり、政法宮はヘルザースが宮の長だ。

 人が少ないという訳ではないが、横のつながりを重視し、適材適所を考慮した結果がこうなってしまったと、ヘルザース達は言っていた。俺はヘルザース達の言葉を信用しているので、そのまま諾と頷いただけだ。決して、面倒臭いからそれでイイよ、と、言ったわけじゃない。言ったわけじゃないんだからね?

 そんな大臣クラスの中で、最も上座に座るのがヘルザース、ローデル、ズヌークの最高執政官三人だ。

 一席だけが空いているが、その席はコルナの席だ。

 静まり返る空間に、ヘルザースの言葉が響き渡る。

「神州トガナキノ国、初の御前会議である。」

 ヘルザースが感慨深げに声を震わせる。

「苦節六年、遂に、遂に御前会議が開かれる…今の今まで、勝手に、好き放題に行動していた陛下が…」

 ズヌークが、ヘルザースの肩にソッと手を添える。

「閣下…ついにこの時がまいりましたな…」

 ズヌークの言葉にヘルザースが何度も頷く。

「まったく、他国では当たり前のように行われておる御前会議が、六年もかかったとは…」

 ローデルも目頭を押さえている。

 ヘルザースが、何度も頷き、口を開く。

「初の御前会議、陛下をお迎えするに当たり、粗相があっては、今後の御前会議に支障をきたす、故に、皆には早めに集まってもらった。」

 全員がヘルザースへと注視している。その中にあってヘルザースが重々しく話し出す。

「皆には、事前に掲げられるであろうと思われる議題について話しておきたい。」

 一拍置いて、ヘルザースが再び口を開く。

「世界に蔓延しておる奴隷制度の禁止について。恐らく、陛下は、この議題を上げられるであろう。」

 ザワリと議場が揺れる。

「ふん。まあ、その議題が今まで上がって来なかった方が不思議さね。」

 相変わらず蓮っ葉な言いようで、カナデが胸を反らす。

「まったくだ。陛下のご気性を考えれば、この国ができて、すぐにでもとっかかるかと思っていたがな。」

 神州トガナキノ国行政院守護殿、守護殿長のコロノアが追随する。

「兄弟だって考えてるさ。霊子金属の絶対量が少ないんだ。そう、気軽にポンポンと国体母艦を造れねえだろ。」

 セディナラが気軽な調子で否定的材料を取り上げる。

「確かに。世界中の奴隷を解放すれば、奴隷を根幹としている医療関係、奴隷売買、奴隷産出産業と、軒並み潰れますからね。しかも、解放された奴隷達の食糧問題も浮上しますし。」

 八穢の物の怪で、マネーロンダリングを担当していたサエドロだ。現在は神州トガナキノ国行政院大金(だいきん)殿でんで、元素ポイント交換予算編成を担当している。

「奴隷制度を禁止すれば、立ち行かなくなる国も多いでしょう。」

 クノイダだ。

 クノイダは、神州トガナキノ国作栄殿の殿長兼環境整備管理局の局長だ。

「しかし、奴隷の中にも精霊回路を持って生まれてきている子もいるでしょう。その子達をそのまま奴隷として放置するのは、世界的な損失でございます。」

 ナシッドだ。

 元は、ズヌーク子飼いの魔法使いであったナシッドは、現在、司法院裁定社(さいていのやしろ)の権司であり、魔導管理立法委員会の委員長だ。

「しかり、奴隷には従順な者が多い。つまり、精霊回路を生来から持っている者が多い可能性があります。」

 司法院弾劾社(だんがいのやしろ)権司兼魔導管理運用委員会委員長のアンダルだ。

「では、奴隷を解放した後は如何なさるのですか?奴隷がいなくなれば、世界中の難病を抱えた患者が死んでしまいます。」

 神州トガナキノ国施療殿の殿長カノンだ。

「うむ。大体の議案はそんなところか。」

 ズヌークがこの場を治めつつ、ヘルザースに向かって頷く。

 ヘルザースが振り返る。

 テーブルの上座、その後方には、三段高くなった玉座が据えられている。

 二段目には、王妃専用の玉座が四席設けられている。

 その最上段にある玉座は、未だに空席だ。

 中空に向かってヘルザースが口を開く。

「陛下!お時間でございますぞ!どこぞで今の話をお聞きでしょう!とっととこの場に現れてくだされ!御前会議と銘打っておきながら!この議場に陛下がおられないのでは!ただの会議になってしまいまする!!」

 怒鳴るなよ。

 俺がいない方が自由に発言できるだろうが。

 俺は、コルナと一緒に再構築する。

 椅子の粒子化光速移動ではない。俺の粒子化光速移動だ。

 ヘルザース、ズヌーク、ローデルの三人を除く全員が、椅子から立ち上がり、俺に向かって跪く。

 俺は三段高くなった玉座に現れずに、長テーブルと大勢が座る椅子との間に現れた。

「また、そのような場所に…何故(なにゆえ)の玉座だとお思いか。」

 ヘルザースが呆れたように嘆く。

「陛下、今は魔狩りではなく、国王としての威厳ある格好をしていただかなくては。」

 ヘイカ・デシターの姿のまま現れた俺に向かって、ズヌークが困り顔で諫言を口にする。

「ははは。誠に神州トガナキノ国の国王らしい。」

 鷹揚に言ってくれるのはローデルだけだ。

「もう、怒鳴るし、小言は言うし。おい、全員、普通に座れ。俺がこういうの好きじゃないってのは知ってんだろ?とっとと椅子に座れ。」

 俺の言葉に、全員が苦笑いを浮かべながら立ち上がって、椅子に座り直す。

 玉座に向かって歩き出す。

 その一歩ごとに姿を変容させる。

 身長が伸び、体格が大きくなっていく。

 服も山賊のようなものから煌びやかな王としての衣装へと変化させ、国王になった時に装着する仮面を再構築する。

挿絵(By みてみん)

 コルナも同時にその衣装を変える。

 俺が最上段の玉座に座り、コルナが一段下がった王妃の玉座に座る。

「まあ、大体の議案というか、問題点はわかった。」

 ヘルザースの後頭部が頷いてる。

「でも、なんとかしろ。」

 ヘルザースの頷きが止まり、震えだす。

 震えながら俯きだす。

 あ、止まった。

 ヘルザースがガバリと起き上がる。

 うん。どんな表情をしてるか、よくわかる。

 ズヌーク達の表情が苦々しいからな。よっぽど酷い顔してんだろうな。

「聞いたか!!なんとかしろと仰せだ!!なんとかできるように皆で考えろ!!」

 でっけえ声。

 怒ったのかな?ま、いいや、怒っとけ。

 喧々囂々(けんけんごうごう)の会議が始まる。

 テーブルについてる大臣クラスの話は、まだまともだが、実務を担当してる後ろの局長クラスの話し合いは、ズレてきてる。

 大臣クラスの連中が話し合い、問題点が出て来ると、その担当局の局長を呼び付け、これこれこういう問題が出たから、後ろの局長同士で問題解決の方策と、擦り合わせをしろと大臣が言う。で、局長クラスで話し合ったことを大臣クラスの連中に言いに行き、これこれこういう風に解決されては如何ですか、と、上申し、大臣クラスはその上申内容に従って再び話し合う。

 この局長クラスの擦り合わせが中々進まない。

 一つの問題を解決しようとすれば、また新たな問題が噴出し、その問題については、どこそこの担当だから、その担当でなんとかしろ、いや、その問題には、そちらの担当のことも関わってくるから、こちらが全て担当するのはおかしいと、だんだん論点のズレた話し合いに発展しだす。

 ん?発展?発展じゃないな、論点がズレてんだから、停滞だな。

 うん。

 何時間あっても時間が足らんわ。

 三十分経って決まったことは奴隷解放保護局を起ち上げるってことだけだもんな。

「静かにしろ。」

 俺の静かな声が、全員に届くようにマイクロマシンを振動させる。

 一瞬で場が静まり返る。

 ヘルザースが椅子を回転させて、こちらを向き、全員が俺に注目する。

「議題、議案が抽象的すぎたか。」

 俺は少し考える。

「では、こうしよう。今、決まっている奴隷解放保護局の局長には、元連邦捜査局局長のハルタを任命、上は、そうだな…セディナラとハノダ、その二名を当てる。奴隷解放保護局の局員は元連邦捜査局の捜査員を再任用、文書には明記せず、極秘組織として運用する。で、隠れ蓑は魔獣狩りユニオン。うん。そうすれば、俺も参加できるしな。」

「成程、魔獣狩りを装って、奴隷達を保護する訳ですな。」

 ヘルザースが頷きながら、俺の意図を全員に伝える。ま、保護って言うより誘拐だけど。

 ヘルザースが言葉を続ける。

「それでしたら、民政殿のスーガにも担当させるのは如何ですかな?」

 民政殿とは、行政院の下部組織で、民族融和、人権保護、労働権管理と、国民に直接かかわる仕事をしている機関だ。

 その言葉に最もだと、俺は頷くが、発したのは訂正の言葉だ。

「いや、スーガには、奴隷解放には関係しない形で、難民保護関係の機関を起ち上げてもらうよ。」

 俺の言葉にヘルザースが頷く。

「うむ、奴隷保護の隠れ蓑ですな。」

「そうだ、だから、そっちの方は、スーガだけじゃなく、厚生関係のアレだ、アレ、あの、なんだっけ?」

 ヘルザースが顔を顰め「施療殿ですか?」と、俺に確認する。

「そうそう、施療殿、そっちと、あと、教育関係は育英殿だっけか?」

 俺の質問に、渋い顔をしたヘルザースが頷く。

「うん、その三殿で奴隷保護のための難民保護局を起ち上げとけよ。」

 全員が苦笑いだ。

 だって、なじみのねぇ名称をヘルザースが勝手に付けるんだもん。憶えらんねえヨ。

 俺は咳払いをしてから一拍置く。

「それと、魔狩りの専門学校を創ろう。奴隷だった者は、一旦、その魔狩り学校に入れて、魔獣狩りユニオンが認定する魔狩り資格者試験を受けさせる。で、合格したら資格を有したまま、好きな職業に就けるってことにしよう。だから、寮だな。魔狩り学校には寮を設けようか。うん。」

 国民の教育、文化保全を担当する育英殿の長であるルブブシュが納得顔で頷く。

 俺は中空を見上げる。

「そうだな、あと、奴隷産出国の現状調査だな。奴隷を産出しないと食っていけないってことだからな。他の産業を推奨させるためにも実情を把握する必要があるな。それは、コルナの外事警察にやらせよう。」

 コルナが横目で俺を睨む。

「いいだろ?連邦を解体したから結構時間あるだろ?」

 コルナが目を閉じて溜息を吐きながら「承知した。」と、短く答えてくれる。

「それから、明日にでも国体母艦を…そうだな、三隻建造する。」

 ザワリと議場の空気が揺らめく。

「そ、そのように大量の魔石が手に入ったのですか?」

 ヘルザースが驚く。

「う~ん。ギリッギリかな?昨日、手に入れた魔石は十五キロぐらいだったからな。俺の手持ちと合わせて四隻は造れると思うんだよな。」

「成程、三隻ですか…」

 ヘルザースが顎に手を当て、俯きやがった。

 このオッサン、絶対、新しい国体母艦にどんな名前を付けるか考えてやがんな。

「一隻は通常よりも小さめの国体母艦にして、魔狩り専用艦にする。そうすれば、奴隷産出国に直ぐに出向けるしな。」

 ズヌークが慌てて口を開く。

「そ、そのようなことをされては、極秘機関が極秘ではなくなってしまいます。」

 俺は手を振って「ダイジョブ、ダイジョブ。」と応える。

 全員がキョトンとする。

「俺が国王を辞めて、トンズラしたってことにしてくれればいいから。」

 全員が唖然とする。

「シナリオはこうだな。俺が魔獣狩りユニオンの会長のまま、魔狩り連中を引き連れて、神州トガナキノ国から脱出、脱出した俺が魔狩りになる者を好き勝手に集めて各国を自由気ままに行き来して、陰ではお前達、トガナキノ国と繋がってると。」

 ローデルが呆然としたまま「そ、そのような茶番が…」と、呟く。

「茶番結構、大いに結構。お前らは俺のやることに知らぬ存ぜぬを押し通し、奴隷が手に入らなくなった国にはトガナキノ国の出張機関を設けて、霊子薬を配給、奴隷産出国には別の産業援助を施す。ピンとくる奴は、必ず、トガナキノにケツ拭きを持ってくるはずだからな。その時に産業援助を約束してやれ。」

「うん。」

 セディナラが頷き、口を開く。

「陛下、では、順番を逆にされては如何です?」

「順番?なんの?」

 セディナラが周りを見渡し言葉を続ける。

「はい。まずは、奴隷を使用して治療している国々に、我々の医療機関を出張させるのです。その上で奴隷制度の廃止を呼び掛けてはいかがでしょう。」

「成程、まずは需要を減らすってことか。そうだな、その方が、人が死ななくって済むな。」

 セディナラがニッコリと笑いながら頷く。

「しかし、そうなってくると奴隷産出国の方が立ち行かなくなるのではないか?そっちの方が逼迫する問題だと思うが?」

 ズヌークが難しい顔をしながら問題を掲げる。

「確かにな。微妙な調整が必要だな。外交関係はギュスターだったな?」

 俺に名指しで呼ばれて、ギュスターが緊張する。

「はい。私です。」

「悪いが、各国の奴隷売買状況、奴隷貿易関係を洗ってくれ。それにまつわる食料の輸入量とかと一緒にな。それで、複数の奴隷産出国と小規模貿易を行っている国を焦点にして、その国から攻めよう。」

 ローデルが頷きながら口を開く

「成程、一国だけから奴隷を購入している国をターゲットにして奴隷購入数を減らすと、奴隷が売れなくなった途端に奴隷産出国は立ち行かなくなりますが、複数の奴隷産出国から少しずつ奴隷を購入している国が奴隷の購入を止めても、奴隷産出国の打撃は小さくて済みますからな。」

 ヘルザースが頷く。

「うむ。それを繰り返せば、徐々に奴隷の売り上げが落ちる。そうなれば、奴隷産出国も徐々に別の産業にシフトしていくだろう。」

「よし。それで行くか。」

「問題が一つある。」

 コルナが俺を見上げる。

「何が?」

 コルナが俯きながら横目で俺を見上げる。

「私を含めての王妃たちの扱いだ。」

 俺は思わず目を眇める。

「問題になるか?俺はしょっちゅう、こっちに帰って来るし、お前らは、このまま平常運転でいいだろ?」

 コルナが溜息を吐く。

「全員が私のように腰を落ち着けるタイプならそれでも構わん。私は旦那様の帰りを待つからな。だが、あの三人は、迎えに行くタイプだ。」

 コルナの言葉に、不安がムクムクと起き上がる。

「この話を聞けば、イヤ、聞かなくとも、間違いなく、一緒に行くと言い出すぞ?」

 ヘルザースが立ち上がる。

「そ、それは困りまする!‘今日の王室’が放送終了ということになれば、国民が暴動を起こしかねませぬ!」

 大袈裟な。

「そんなことになるか。」

「なりますぞ!!先日の放送休止騒ぎでは、私の元に百八十件以上の苦情と問い合わせがあったのですぞ!」

 俺は鼻で笑う。

「百件ぐらいがなんだよ。その程度で暴動だなんて、やっぱ大袈裟だよ。」

 ヘルザースの顔が紅潮する。

「何を仰っる!放送局には、いまだに毎日苦情が入ってきておるのですぞ!現時点での掛かってきた苦情と問い合わせ件数は三千六百件以上!二十四時間体制で、その処理に追われており!現在も苦情件数は伸び続けておるのです!私に掛かってきた苦情は!」

 ヘルザースが振り返り、居並ぶ執政官たちを見回し、左手を横に薙ぐ。

「此処におる者達から掛かってきたのですぞ!!」

 思わず玉座からズリ落ちそうになった。

「へ?」

「ですから!私の通信機に繋げられる者が、直接、私に苦情と問い合わせを申し立ててきており!一般の国民は!苦情を言うために放送局に長蛇の列を作っておる状態なのです!!」

 俺は左手で両の蟀谷を押さえ込み、右手を前に差し出す。

「ちょ、ちょっと待て、えっと、じゃあ、取敢えず、この場で聞くぞ?‘今日の王室’が放送休止した折に、ヘルザースに苦情もしくは問い合わせをした者、挙手。」

 ほとんどの者が手を挙げる。

 しかも、恐るおそるといった体ではない。堂々と手を挙げる。

 やっぱ、この国の国民、おかしいよな?

 なんで、苦情を申し立てるのが当たり前です。みたいなノリなの?

 しかも大臣クラスの奴らが、総理大臣に相当するヘルザースに直接って…

「オッケイ、オッケイ。うん。わかった。お前たちが如何に‘今日の王室’を愛しているのかが、今、わかった。じゃあ、一旦、手を下ろして。」

 全員が手を元の位置に下ろす。

「じゃあ、もう一ッコ聞くぞ?‘今日の王室’が放送終了した場合、反乱を起こす、もしくは、反乱を起こしてしまうかもしれないと思う者、挙手。」

 全員が手を挙げる。

 うん。

 今度は、ほとんどじゃなくって、全員だ。

 ヘルザース、ズヌーク、ローデルまで、当たり前ですって顔で手を挙げてやがる。

 ん?

 全員が反乱?誰に?え?これって反乱になるの?

 俺は中空を見詰めて、しばし、考える。

「トンナ陛下たちを取り返せ!!」

「そうだ!‘今日の王室’を再開させろ!!」

 国民全員を引き連れてヘルザースが高々と手を掲げてる絵面しか浮かばんわ。

「え?これって反乱?」

 俺は首を傾げる。

「反乱というよりも、現在話し合っているシナリオは国民総意で反対されるということだろうな。」

 コルナが呟くように俺を諭してくる。

 そ、そうか。そういうことだよな。

「うん。わかった。じゃあ、手を下ろして。」

 全員が手を下ろす。

「うん。なんか、今一、納得できないが…じゃあ、ちょっとシナリオを替えよう。」

 全員が固唾を呑んで俺の言葉を待つ。

「うん、分体を作ろう。そうだな、魔狩りはヘイカ・デシターで活動して、サラシナ・トガリ・ヤートはこのまま王様と魔獣狩りユニオンを続ける。で、ヘイカ・デシターは魔狩り専用国体母艦を盗んで逃走。ってことならどうだ?」

 ローデルが口を開く。

「ならば、そのヘイカ・デシターに賞金を懸けまするか?」

 う、そうなるよな。

「そ、そうなるな。小さいながらも国体母艦を盗むんだ。賞金首になってもしょうがねえな。」

「動機はどうするのですか?」

 魔獣狩りユニオンのマネージャー、スーガだ。

「動機?」

 スーガが頷きながら言葉を続ける。

「ヘイカ・デシターが魔獣狩り専用国体母艦を盗み出し、逃げる動機です。」

 俺は、天窓から降り注ぐ光を見ながら想いを馳せる。

 俺のやりたいこと、なぜ、そう思うのかを話し出す。

「ヘイカ・デシターは自由が好きなんだ。」

 全員が目を眇める。

「今までは自由気ままに魔獣を狩っていた。でも、魔獣狩りユニオンに資格を認めてもらえないと魔狩りと認定されない。そんな規則に縛られるのは嫌だ。でも、魔獣を狩るのにトガナキノの装備は欲しい、喉から手が出るほどに欲しい。だから、トガナキノから魔獣狩り専用国体母艦を盗んで逃走、そんなところか。」

 スーガが頷き、コルナが「旦那様の本音だな。」と、ボソリと呟いた。

「それと…」

 ズヌークが視線を俺に向けて話し出す。

「…ヘイカ・デシターが救出、保護した奴隷はそのままヘイカ・デシターが保護し続けるのですか?」

 うっそこは考えてなかったな。

「それなら、ちょくちょく俺達に捕まってくれりゃ問題ない。」

 セディナラが割り込んでくる。

「あと、兄弟が捕まる寸前で逃げるってのも有りだな。とにかく、俺達が追い掛け回して、時機を見計らって、俺達が兄弟を捕まえそうになる。その時に保護した奴隷を引き渡してくれりゃ、問題ないだろうよ。」

「じゃあ、テレビに流す第一報は‘第二のクルタス現る!’ぐらいですな。」

 クノイダが珍しくワクワク感一杯の顔で話し出す。

「そうだね。クルタスってのがいたから、陛下を出し抜く大犯罪者が、他にいたっておかしくないからね。印象操作にはクルタスの名前を使うのが良いだろうよ。」

 カナデが乗っかる。

 コイツら、犯罪絡みって言うか、悪巧みだと、途端に生き生きとしてきやがるな。

「左様ですね、クルタスを超える大犯罪者ヘイカ・デシターが、トガリ陛下を出し抜き、各国の魔獣を狩りながら、奴隷を攫いまくるってことですね。」

 カノンがシナリオを整理する。

「でも、ヘイカ・デシターが、どうして奴隷を攫うんです?その辺の動機付けもいるんじゃないですか?」

 シナリオを整理しながら話していたせいか、カノンが鋭いことを言いやがる。

「そこは、ヘイカ・デシターを本当の悪役に見立てればよろしい。」

 お?ローデルが悪巧みに参加か。

「例えば、どういった具合でしょうか?」

 カノンの問い掛けにローデルが頷く。

「先日の魔獣狩りを参考に考えれば…」

「あ!」

 ルブブシュが声を上げる。

「奴隷を魔獣狩りの囮に使うのですね!」

「ご名答。」

 コイツら、ホントに楽しんでないか?

「それならば、こういう動機付けでも良いぞ。」

 ヘルザース、テメエもか。

「陛下は、今後、魔獣は狩るのではなく、魔獣を捕獲すると仰せだ。つまり…」

「捕まえた魔獣の餌でございますね。」

 もう、やいのやいのと全員が入り乱れての会議だ。なんで、こんなにテンション高いの?

「では、魔獣を買い取る別組織も必要になりますぞ?」

「うむ、しかり。魔獣狩りユニオンに属していない魔狩りからも魔石を買い取る必要がありますからな。それを理由に外部組織として創設しましょう。」

「そいつは、俺がやろう。兄弟と密に連絡を取って、大捕物の段取りをしなきゃならねえからな。」

「ならば、その件には私も参加いたしましょう。」

 ハ、ハノダ?お、お前まで?

「その魔石を買い取る外部組織を起ち上げてしまえば、魔石を購入する時に奴隷も引き渡していただけるでしょうから、そうすれば、陛下を寸でのところで取り逃がすというような小芝居も必要なくなります。」

 オオ、流石はハノダだ。そうすりゃぁ問題ないわ。

「そう仰るのならば、私も参加せぬわけにはいきませんな。」

 アンダルまで?え?

「え?アンダルも捕物とか捜査に参加するの?」

 アンダルがこちらを見てニッコリと笑う。

「私は魔導管理運用委員会委員長でございます。魔法使いの違法な魔法を取り締まり、管理をしなくてはなりませんからな。ヘイカ・デシターは魔法を使うのでございましょう?」

 む、もっともだ。

「い、イヤ、ヘイカ・デシターは、そ、そうだな、魔法は使えないことにする。」

 アンダルが驚いた表情を見せる。

「どうしてでございますか?」

 俺は眉を顰める。

「魔法の手加減がわからんし、あと、呪言詠唱しないで使っちまうからな。」

 ハッキリ言う。五十一歳のオッサンが呪言を詠唱するのはキツイ。恥ずかしすぎる。だけど、呪言を詠唱しないで魔法を使ったら、俺だと簡単にバレる。だから、魔法を禁止する方向で。

「わかりました。」

 アンダルが頷きながら言葉を続ける。

「それでは、私はハノダとセディナラを手伝って、魔石買取の外部組織立ち上げに尽力いたします。たしか、深海の耳と呼ばれる魔石などを買い取る組織がございましたな。」

 キドラが長をしている組織だ。

「いっそのこと、その組織を丸ッと頂いてしまいましょう。」

 アンダルが恐ろしいことをサラッと言いやがった。

「おお。それは良い。」

 ハノダが乗っかる。

「そうだな、怪しい組織みたいだからな、この際だ、掃除しとくのも良いかもしれんな。」

 キドラ、ご愁傷様、チーンである。セディナラにまで目を付けられたらお終いだ。

「うむ、それではヘイカ・デシターは国体母艦を盗んだのだ。国を挙げて追跡する必要があるな。」

 おい。コロノア、テメエは軍の統合幕僚長なんだから、そんなこと、お前が言ったらシャレにならんだろうが。

「被害を被った国にはトガナキノに申し出るようにと通達を回しておけば、奴隷購入国に医療施設を造りやすくなるし、その時に、陛下に立ち会って頂ければ、各国から疑われることもなくなりますね。」

 オメエの声を直接聞くのは初めてだな。え?サエドロ君よ。

「では、私たちは、ヘイカ・デシターを追い掛け回し、もうちょっとで捕まえられそうなのに、毎回、上手く逃げられると、そういうことでありますな。」

 最後はルブブシュだ。

 ホント、コイツら悪い奴らだな。

「と、いうことでよろしいですかな?」

 ヘルザースが、悪い笑顔を作りやがる。やっぱ、コイツ、悪役向きだよな。

 俺は立ちあがる。

「皆に命ず!この場で話し合った議題、議案に関しては緘口令を敷く!」

 全員が立ち上がり、俺に向かって跪く。

「奴隷制度を打ち壊す!!」

 全員が頬を紅潮させて顔を上げる。

「世界中を敵に回した戦いだ!俺達が敵だと悟られるな!しかし!必ず勝つぞ!!」

「御意!!」

 全員が吠えるように応える。

 俺は頷き、静かに全員を見回す。そして、静かに言った。

「頼むぞ。」

 その言葉を聞いて、全員が微笑んだ。

 ん?てことは、俺、トガナキノの全勢力から追われることになるの?え?

 え?

 ええ?

 そ、それって、結構、大変なんじゃない?え?

『退屈しないで良いじゃないか。』

 お、お前はアアア、最後まで超他人事かよ!

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