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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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オッサンがいなくなるとちょっと寂しいってのは俺の本音

 縛られていた奴隷の子を介抱しながら、ブローニュも介抱する。

 トンナは意識を失ったブローニュを抱き上げて、「流石は、あたしの直弟子、中々に腕を上げてたわ。」と、合格点を貰ったようだ。で、変態が俺の奥さんになるわけ?勘弁してくれよぅ。

「後はアヌヤとヒャクヤ、それにコルナから合格点を貰えれば、晴れてトガリの女ね。」

 訂正。まだ、チャンスはある。

 なんにせよ、テルナドを魔獣狩りユニオンに入れない理由はなくなったな。

 ブローニュのことはトンナ達にバレたし。ブローニュが苦労するだけだから良しとしよう。

 上空から霊子ジェットの音がする。

 見上げるとヨルムンガルドとチビ姫様、そして、バハムートが降りて来た。

 あれ?オルラも来たのか?

『コルナだ。バハムートを借りたんだ。』

 なんだ、イズモリ、忙しいコルナまで呼んだのか?

『俺じゃない。多分トンナだろう。』

 え?

『連戦させるつもりじゃない?』

 ブローニュに?

『多分。』

 死なない?

『死ぬかもしれないね。』

 イチイハラ、カナデラ、イズモリ、お前ら止めろよ。

『俺達がいるからダイジョブって言って聞かないんだよ。』

 ダイジョブなの?

『わからん。完全に死んでる人間を蘇生させたことはないからな。』

 じゃ、ダメじゃん。

 嫌な汗が止まらないんだが。

『まあ、最近は奴らも加減ってものを学んできただろうから大丈夫だろ。』

 やっぱ他人事だよなぁ、お前らって最終的にはそうなんだよなぁ。

 道理で、さっき、アヌヤに通信した時、アヌヤがこっちに来るつもりだった。て、言うはずだよ。おかしいなって思ったんだよなぁ。

 アヌヤ達の竜騎士が着陸すると同時に俺の通信機が着信を知らせる。

「はい?」

『陛下、竜騎士が、そちらに四機、到着したそうですな。』

 ヘルザースだよ。また、面倒臭い奴から、なんだよ、もう。

「そうだけど?どうして知ってる?」

『魔獣狩りユニオン支部から連絡が入りました。』

「あ、そう。」

 あの変なヤート語を喋る奴が連絡したのか。

『あ、そう。では、ありません!!』

 もう、大声出すなよ。俺に怨みでもあんのか?

『あるだろ。沢山。』

 そうでした。

「なんだよ。なにを怒鳴ってんだよ?」

『竜騎士は魔獣狩りユニオンに登録されておりません!軍事行動と見なされ、ティオリカンワ王国から苦情が入って来ますぞ!』

 なんだよ。苦情ぐらいでガタガタ言うなよ。報復行動されねえんだからいいじゃねえかよ。

「仕方ねえだろトンナが勝手に来ちゃったんだからよ。大体、お前が、ブローニュを魔獣狩りユニオンに捻じ込んで来たのがいけねぇんじゃねぇか。」

『…そ、それは…』

「ほれ見ろ。元凶はお前なんだから、お前がなんとか執り成せよ。頼んだぞ。」

 ヘルザースの返事を聞くこともなく、俺は通信を切る。

「ヘルザースが怒ってた?」

 トンナが通信内容を気にして聞いてくる。

「ああ、竜騎士の運用は軍事行動になるから外交問題になるって怒ってた。」

「そんなの気にしなくて良いのにね。」

 いや、お前は気にしろ。

 コイツ、機嫌良く笑ってるが、俺よりもコイツらの方が好き勝手し放題だよな。なんで俺が史上最低王なんて呼ばれてるんだ?根本的にそこがよくわからん。

「大体、ウチの国にガタガタ言うなら攻めちゃえばいいのよ。そしたらいっぺんに黙るのに。」

 その発想はやめろ。

「トロヤリが、やばい独裁者にならねえか、不安になるようなこと言うなよ。」

 トンナがキョトンとした顔をする。

「トロヤリは賢いから心配いらないよ?」

 うん、知ってる。俺とお前の子なのに、やたら賢いよな。将来ダメ人間になりそうで怖いけど。

 ヨルムンガルドを始めとする三機の竜騎士が膝をついて搭乗者を地上へと降ろす。

 俺は片手を上げて「よう、サンキュー。ワリイな、手間かけさせて。」と三人を迎える。

「いいんよ。どうせ、‘今日の王室’の収録だけだから。」

「そうなの。トドネちゃんがユニットから抜けたから、ウチもアイドル業はちょっと休憩するってヘルザースに言っといたの。」

「私は書類が溜まってる。戻ったら、旦那様にも手伝ってもらうからな。」

 ヘルザースの機嫌が悪かった原因は此処にもあったか。

 ん?てことは…

 トンナを振り仰ぐ。

 目を逸らして、ありもしない方向を見てやがる。

 コイツも収録をすっぽかしてきた口だな。

 マジでこいつらの方が好き放題だよな?な?

「父ちゃん。」

「ん?」

 アヌヤの呼び掛けに俺はアヌヤを見る。

 ニッコリ笑いながら指の関節を鳴らしてやがる。

「ブローニュって娘は、どこなんよ?」

 牙を剥いて笑うな。

「トンナに伸されて車の中で眠ってるよ。」

「えええ!トンナ姉さん、もうやっちまったんかよ?順番、守るんよ。」

 トンナが腕を組む。

「順番なんて決めてないじゃない。」

 アヌヤが口を尖らせる。

「一番強いトンナ姉さんが最初に相手したら、あたしが舐められるじゃんよ。」

「大丈夫よ。あの娘なら、あたしとあんたの強さの違いなんてわかんないから。」

 それほど、ブローニュとの力量差があるってことか。

「それよりアヌヤ、皆でこの卵を運搬してくれ。」

 俺の言葉にアヌヤ達が大量に積み上げられた卵を見る。

「どこに運ぶんよ。」

 うん、考えてなかった。

 俺は通信機でヘルザースを呼び出す。

『…』

 返事しろよ。

「返事ぐらいしろよ。」

 ヘルザースの溜息が入る。もう、厭味ったらしいな。

『如何なされました?』

「いや、トンナが殺したせいでな。魔獣が、大量の卵を産みやがったんだよ。で、その始末に困って、アヌヤ達を呼んだんだけど、国の方でなんとかできねえ?」

『処分ということですかな?』

「ああ…」

 ヘルザースに返事しようとして、一つのアイディアが閃く。

「いや、処分じゃねえな。どっかで動物園みたいに公開できねえかな?」

『は?ドウブツエン?なんですかな、それは。』

 そっか、コイツら動物園って知らねえよな。

「ああ、つまり、捕獲した魔獣を飼育して、その生態とかを研究しながら、一般に公開するんだよ。」

『なにかメリットがあるのですか?』

 う、まあ、メリットねぇ。生態を研究って言ってもイデアが知ってるしなぁ。

「あ!」

『はい?』

「魔獣が死んだ時、魔石が回収できるんだから、飼育すれば、霊子金属枯渇問題の一助になるじゃねぇか。」

『今、思いつきましたな?』

 う。

『ま、よろしいでしょう。霊子金属への精製は最低でも八十年以上かかりますからな。しかし、魔獣の飼育となるとコスト面の方が問題ですな。陛下のプライベートポイントを半分ほどカットするということでよろしいですな。』

 うっく。

「ヘルザース。」

『はい。』

「トンナ達が収録をすっぽかしたからと言って、俺に当たるのはお門違いだぞ?」

『ハッハッハッハッハッハ。』

 笑って誤魔化しやがった。なんて家臣だ。

『三分の二カットでよろしいですかな?』

 なんで、カット分が増えるんだよ。

「半分だろ。」

『承知いたしました。それでは、半分で。』

 なんか、上手く乗せられたような気がする。クソッ。

「それで、どこで飼育するよ?」

『丁度、良い所がございます。』

「へえ。どこだよ?」

『月でございます。』

「あっなるほど。クルタスが保存されてた月面基地か。」

『はい。ゲートの設置も完了しておりますから、楽に搬入できますでしょうし、危険も少なく済みますでな。』

 うん、たしかに危険度はかなり低くなる。魔獣とは言え、その生態は地球に適応している。魔獣を飼育する施設とゲートを離しておけば、魔獣が逃げても月面上を移動することはできないから、こっちに被害は及ばない。

『スーガに連絡して手配させますので、卵は国に送って頂いても問題ありますまい。』

「おう。じゃあ、頼んだぜ。」

『御意。』

 うん、やっぱり持つべきは、できる家臣だな。

 俺はヘルザースとの通信を切って、トンナに指示を飛ばす。

「じゃあ、お前らは、卵を持って、先に国に帰ってくれ。俺達は魔獣から魔石を回収して、ティオリカンワ王国から報酬を貰って帰るから。」

 全員が全員、ブー垂れる。

「あたしはブローニュと一発、やっときたいんよ。」

 殺す気か?それにその物言い、エッチに聞こえるからやめなさい。

「ウチだってそうなの。女好きすぎるパパのエッチ度合いに見合うかどうか確認したかったの。」

 俺はエッチじゃないぞ。

「なに言ってる。俺はエッチじゃないぞ。」

「エエエエエエエエエエエエッ!!」

 全員が盛大に否定の声を上げる。

「なあああに言ってるんよ!父ちゃんは、あたしの足が大好きなんよ!」

「違うの!パパはウチの二の腕が大好きなの!いっつも、ウチの二の腕をぷにぷに擦るの!」

「何を言ってるんだか…旦那様は私の尻が好きなのだ。」

「違うわよ、トガリはあたしの大きな胸が好きなの。いっつもパフパフしてあげてるんだから。」

 もう。

 まったくもう。

 俺の性癖を大声でバラすのはやめてくれよぅ。

 向こうでカルザンが赤くなってるじゃねぇか。ホントに勘弁してくれよぅ。

「とにかく、お前らは帰れ。もう、頼むよ。」

 コルナが腕を組んで鼻息を荒くする。

「まったく、何しに此処に来たのかわからん。いい加減、私たちをヒョイヒョイ気楽に使うのはやめてもらいたいものだ。」

 コルナ、俺はお前を呼んでない。仕事をほったらかしにしてまで来いとは言ってない。

 まったく、コイツら使徒だよな?

「ほら、トガリがこう言ってるんだ。帰るよ。」

 トンナがダイダロスに乗り込む。

「トンナ姉さんは暴れたからスッキリしてるんよ。」

「そうなの。いっつもトンナ姉さんが良いとこを持ってくの。」

「仕方あるまい。いつも旦那様の所には、トンナが一番乗りするんだからな。」

 他の三人もブーブー言いながら竜騎士に乗り込んだ。

 大量の卵をぶら提げて、飛び去る竜騎士四機を見送り、俺はビッキーに近付いてからドルアジに声を掛ける。

「オッサン。」

「へ、へい…」

 肩を竦めて俯いたままだ。

「オッサンに何かしようと思うなら、魔狩りになんて誘わねえよ。だから、もうちょっと気楽に構えろよ。」

「へい…」

 やっぱダメだ。

「しょうがねえな。オッサンは、もう、俺とは魔狩りはできねえか。じゃあ、別の仕事をしてもらうか。」

 ドルアジが顔を上げる。

「オッサンには魔獣園の園長をやってもらう。」

「へ?」

 途端に訝し気な表情を作り、素っ頓狂な声を上げる。

 いや、ホントに、なんか、素っ頓狂って感じだったんだよ。

「今後、魔獣狩りユニオンは魔獣を狩らない。」

「ええ?」

 聞き耳を立てていたカルザンが大声で俺の方を振り返る。

「狩らないって、魔狩りなのに?魔狩りなのに狩らないんですか?」

 カルザンの言葉に俺は頷く。

「これからは、魔獣は捕獲する。」

「ほ、捕獲ですか?」

 俺はビッキーのボンネットに跳び上がって腰掛ける。

「そもそも、魔獣を狩って、魔石を採り出すだけってことには抵抗があったんだよ。」

 魔獣を殺して、使える部位を採り出し、肉は捨ててきた。強力な腱、骨、皮、魔石、それらを回収したら、肉や内臓は捨てる。

 資源なんだと割り切ってしまえば、それでいいが、俺はどうにも納得がいかない。狩った獲物は、やっぱり食うのが基本だ。命を奪って、その命で自分達の命を紡ぐ。そうしないと、どうにもこうにも気持ちが悪い。

 魔獣はBナンバーズと呼ばれる兵器だ。

 兵器としての役割を全うさせるために死んだ後は早く腐敗させ、病原菌を戦場で培養するように設計されている。死ねば、腐敗速度が食肉加工速度を上回り、狩場でしか食料にすることができない。その狩場で食っても魔獣は激不味だ。

 臭みが強くて食えたもんじゃない。それ程、腐敗速度が速いのだ。

「命は続かなくっちゃ意味がない。意味のない命なんて存在しちゃいけないんだ。」

 カルザンが俯き、ドルアジが遠い目つきを見せる。

「死んで、その死んだ命が何かを残す。人の場合だったら、子供だったり、信念だったり、想いだったり…そういった何かしらのモノを人の心の中に残す。獣はその命で、子孫を残して、他者の命を紡がせる。でも、魔獣は俺達に殺されるだけだ。」

「魔獣は人を殺します。」

 カルザンが真直ぐに俺を見詰める。

「ああ、そうだな。魔獣は人を殺す。そして、食うんだ。でも、狼も熊も鰐も人を食う。そして、人を殺すだけってのは人だけだ。」

 カルザンの目が見開かれる。

「動物の食性は限定されない。ほとんどの動物は雑食だ。魔獣は人間だけを食う、皆、そう思ってるが、そうじゃない。そう思っているから、皆は、魔獣を天敵のように感じるだけだ。魔獣は人間を好んで食う、それだけだ。」

「熊が蜂蜜を好んで食べるようにですか?」

 カルザンの言葉に俺は頷く。

「だから、他の獣と同じように、食わない魔獣は捕獲して、魔獣園で飼育する。」

 カルザンが一つ頷いて「わかりました。」と応える。

「あ、あの、陛下…」

 ドルアジがおずおずと手を挙げながら口を開く。

「お?いきなり呼び捨てか?」

 ドルアジが手と首を全力で振りながら「い、いえ、いえ、いえ、いえ、め、滅相もありません!そんな、陛下を呼び捨てにするなんて!」と必死で弁明する。

 俺は目を眇めて眉根を寄せる。

「ああ?今の俺の名前はヘイカだぞ?呼び捨てにしてるじゃねぇか。」

 ドルアジが汗を大量に流している。

「い、いや、それは、へ、国王様が偽名をお使いになってるだけで、本当のお名前は、その…」

 俺は顎を上げる。

「ああ?俺が自分で、俺の名前はヘイカだって言ってんのにヘイカじゃねえって言うのか?」

「い、いや、その…」

 ドルアジは脂汗を大量に滴らせながら俯く。

 俺は口角を上げる。

「ドルアジよぅ。」

 ドルアジが顔を上げる。

「昨日の夜、三人で話してた時、楽しかったよな?」

 ドルアジの険しかった眉が下がる。

「楽しかったのは俺だけか?」

 俺の言葉にドルアジが首を振る。

「いえ。俺も楽しかったです。」

 再び、俺は微笑む。

「今日は大変だったけど、楽しかったか?」

 ドルアジが僅かに微笑む。

「へい、楽しかったです。」

 俺は、その言葉を聞いて頷く。

「なら良かったよ。」

 俺はそう言って、ビッキーから跳び下りる。そのまま、無造作に川に入り、腐り始めている魔獣の頭部に向かって飛んだ。

 魔石を回収するためだ。

 少し寂しいが仕方ない。俺が王様だってバレたら、皆、ドン引きする。

 しょうがない。

 特にドルアジは足の骨を折られたり、結構、酷い目に合ってるか…ん?いや、ドルアジの腕とか足を折ったのはトンナだぞ?俺はなんにもしてないぞ?

 いっつもトンナが暴走して、俺が制止する間もなく、ドルアジの手足を折ったり、建物をぶち壊したりしてるんだぞ。

『思い出すな。暗くなるぞ。』

『そうそう。トンナちゃんだからねぇ。』

『そうだよね。』

『いいじゃねぇか!強いことってのは良いことだぞ!』

『そ、美人で可愛いしね。』

 そうだよな。

 自分の思ったとおりに事が運ぶってのが稀なんだ。仕方がねえな。

 俺は巨大な魔石を両手に抱えてビッキーの傍に着地する。

「おお!」

「す、すごいですね!」

 二人が魔石を見て驚く。

 龍よりも大きな魔石だった。

 俺が見た魔石で一番大きいと思われる。

「十五キロはあるな。」

 ドルアジの喉が鳴る。

 これだけの魔石があれば、普通の国なら一生遊んで暮らせる。

「オッサン、これを持ってトンズラすれば、一生遊んで暮らせるぞ?」

 ドルアジが途端に真顔になって、首を左右に振る。

「め、滅相もございません。俺は、いや、あたしはトガナキノで呑気に暮らす方が性に合ってまさぁ。」

 俺はニヤリと笑う。

「こいつを持って逃げれば、一生遊んで暮らせるが、一生荒事が付いて回って退屈しないぞ?」

 ドルアジが目を剥く。

「いやあ。荒事って言うよりも、陛下に一生、追い回されるんですから、そっちの方が怖いですよ。」

 カルザンが笑いながら頭を振る。

「へい、遊んで暮らすどころか逃げ回るのに必死で、野垂れ死にでさぁ。」

「だな。」

 そう言って、俺は大きく笑った。

 それにつられて、カルザンが笑い、ドルアジも「へへ。」と小さく笑う。

 もうすぐ夜になる。今夜もここで野宿になりそうだ。

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