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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
11/405

狩るぞ!!(挿絵あり)

 全員が急激な加速でシートに抑え込まれる。

「ど、どないしたん?!」

「どうしたんです?」

「おい!どうしたってんだよ!」

 三人が俺に対する疑問を口にする。

「こいつら、奴隷を囮に使って漁をしてやがる。」

 俺の冷静な声が、逆に、獰猛に聞こえた。そう聞こえたのは俺だけではなかったようだ。全員が口を閉じる。プロムーシュだけが「どうしたのよぅ?ちょっと怖いよぅ。もっとゆっくり飛んでよぅ。」と騒がしい。

「黙れ!!」

 俺の怒声にプロムーシュが口を閉じる。

 プロムーシュの隣に座るドルアジが横目でプロムーシュを睨む。

 カルザンもプロムーシュを冷めた目で見詰める。

 ブローニュは明らかに非難の目だ。

「よう。元奴隷商としちゃ、奴隷をそういう風に使われたくはねぇもんだな。」

 プロムーシュにはドルアジの言葉はわからない。それでも、ドルアジは言葉を続ける。

「たしかに、奴隷は治療用に殺されたりしてるがよう。魚のために殺されちゃ、死んでも死にきれねぇだろうが。」

 人の命を金で遣り取りすることに、どんな大義名分を掲げてもそれは理由にはならない。

 それでも、人として生きていくために己の中に信念と矜持を持つ。

 誤魔化しかもしれない。

 屁理屈かもしれない。

 わかっていても、自分自身は生きていかなくてはならない。家族を養わなければならない。

 誤魔化してでも、屁理屈をこねてでも、自分自身を納得させる理由をつくって、自分自身と家族のために、少ない選択肢の中から選び出す。

 その結果が、ドルアジにとっては奴隷商人だったのだ。

 ドルアジと初めて会った時、ドルアジは多めに提示した金額を拒否した。奴隷商人としての矜持を持っているのだと俺は思った。

 人のために奴隷を売る。

 魔獣に喰わせるためにではない。その結果が、人のためになるとはわかっていても、魔獣に喰われる奴隷にとってはそうではない。

 俺には理解できないドルアジの理屈だが、それでもドルアジは、この世界の奴隷商人としては、まともな方だと思える。

 ティオリカンワ国はプレーニングを街と言うが、俺達の感覚からすれば町だ。人口は二千人ほどと聞いている。その町の中央、中央広場に着陸させる。

 この中央広場でも、王城と同じく、数人の兵士と町のお偉方と思える人物たちから出迎えを受ける。

 着陸させて、すぐにビッキーを下し、俺は窓から顔だけを覗かせて、「魔狩りのヘイカ・デシターだ。早速、狩場を見たいから、このままアーゾン川に向かう。」と言い残し、アクセルを思いっきり踏み込んだ。

 後輪が横滑りしながら白煙を巻き上げ、霊子ホイールの甲高い音を立てて、高速で走り出す。

 バックミラーに写るプレーニングの人々は口を開いてポカンだ。

 元々は連邦国家だけあって、町中は整備されているが、それでも凹凸は多い。激しく揺れる車中にあって、俺は、最初の分岐路でプロムーシュに「どっちだ?!」と問いただす。

「こ、こっち、ねッダ!!」

 激しく揺れる車中でプロムーシュが舌を噛む。

「指で指示するだけでいい!速度は落さん!」

 ハンドルを素早く切りながら、クラッチも同時に操作する。

 幾つかの分岐路を曲がり、舗装されていない砂地の道に出る。

「川だ。」

 俺の呟きを聞いたブローニュが顔を覗き込ませ、俺を避けるように窓の向こうを見る。

「デカっ!!」

 川幅は四キロメートルから五キロメートルだ。

 湖と言われても納得する川幅だ。

「さ、っさっきのとこっよぅ!」

 プロムーシュが叫ぶ。

 俺はブレーキを掛け、ハンドルを切り、そのままのスピードでスピンさせる。

 方向が百八十度転回したところでクラッチとアクセルを操作してタイヤのグリップを取り戻し、車体を安定させ、元来た道を加速する。

 プロムーシュが言った場所で九十度にカーブして、段差をそのままジャンプ。着地と同時に車体をスピンさせて川と平行に車を止めた。

「船はどっちだ!?」

 俺の怒鳴り声にプロムーシュが肩を跳ねさせる。

「か、川下の方…」

 俺はプロムーシュの言葉を遮る。

「ドルアジ。プロムーシュを降ろせ。」

「ほいきた!」

 ドルアジがプロムーシュを窓から押し出すようにして叩き出す。

 即座にアクセルを踏んで下流へと向かって走り出す。

 プロムーシュはターンの時に起こった大量の砂煙にその姿が見えなくなった。

 少し走って、ビッキーを川に近付ける。

「船だ。」

 俺の言葉に全員が俺の視線を追う。

「船団だな。あの中に囮にされる奴隷がいるんだろう。」

 全員の目が眇められる。

「行くぞ。」

「はい!!」

「行ったるで!!」

「応!!」

 俺の声に全員が応える。同時にビッキーが川に滑り込む。

 破裂音が響いて車体底面に設置してある硬化ゴムが瞬間的に展張され、車体が川面に浮かぶ。

 硬化ゴムの素材はアギラの脂肪とドラゴニウム繊維だ。ちょっとやそっとのことでは破れない。平らなバナナボートのような形状をしており、ビッキーがボートに跨っているような状態だ。稼働は霊子ジェットと四つの車輪だ。四つの車輪が水上での安定性を確保しながら回転し、車両後部から霊子ジェットを吐き出して推進するのだ。

 他国の船では相手にならないズピードが出る。特に、ここ、ティオリカン王国の船は帆船だ。相手どころか話にもならない。

「ひっひイイイイイ!」

 俺の隣でブローニュが叫ぶ。

 水面を走っていると言うより、水面を飛んでいると言った方が近い状態だ。

 時折、波頭に触れて、跳ねる度にブローニュが「ひイイイイイ!!」と叫ぶ。

 船団の最後尾に追い付き、「ブローニュ!代われ!」と、ハンドルをブローニュに渡す。

 俺は窓から体を捻り出し、その漁船に飛び移る。

 船員たちが体を硬直させて俺に注目する。

「船長は誰だ!」

 俺の言葉に全員が一人の男に注目する。その男に向かって俺は足早に近づく。

「俺は魔狩りだ!囮にする奴隷はどこだ?!」

 痩せてはいるがガッシリとした体付き。顎髭が白い。短髪の爺さんだ。その爺さんが、俺に訝し気な視線を向ける。

「魔狩だあ?テメエみてぇなチビ助がか?」

 俺は一〇歳の姿だ。信じられる筈がない、信じる奴がいたら連れて来て欲しい。

 無造作に帆柱に手を当てる。

 一本しかない帆柱が、俺の手を起点にして木っ端みじんに砕け散る。

 帆柱から解放された帆布が風をはらんで風上へと飛んで行く。

「ジジイ。答えるなら急いだ方が良いぞ。今の俺はすこぶる機嫌が悪イんだ。」

 帆柱の木屑が舞う中、全員が慄きの表情で俺を見詰める。

 俺は船長の傍に歩み寄り、襟元を掴んで、俺へと引き寄せる。ジジイは抵抗を試みるが、そんなこと、俺が許す筈がねぇだろ?

 ジジイが膝を折って、顔が俺と同じ高さになる。

「もう一度言うぞ?囮にする奴隷はどこだ?」

 船長が川上を指差す。

「…右岸の近くに、最近できた中州がある…その中州に括りつけてきた…」

 俺は船長を放り出し、直ぐに踵を返す。

 船からビッキーに飛び移り、足からスルリと車内に戻る。

 ブローニュと交代して、ハンドルを回し、舵を切る。即座に加速。川波を切り裂きながらビッキーが川面を飛ぶ。

「いいか!即、戦闘になるかもしれん!当面の第一目標は囮にされてる奴隷の救出だ!それが完了すれば、魔獣討伐に移行、もしくは撤退の判断を下す!助けるぞ!!」

「はい!!」

「任しときイ!!」

「応!!」

 頼りないが、今はパーティーメンバーだ。しっかり頼むぜ。

 三人からの返事を受けて、直ぐにその中州が見えてくる。

 中州?

 奇妙だな?

『確かにな。アーゾン川には似つかわしくない中州だ。』

 アーゾン川にも中州はある。しかし、アーゾン川の中州は砂地で覆われ、植物が茂っているのが普通だ。

 間近に見えている中州はゴツゴツとした岩だけでできている。

 大きさ自体はそんなでもない。長径が十三メートルぐらいの楕円形の中州だ。

 その中州に男の子が一人、転がされている。

 ビッキーを中州に接岸させて、俺達は、全員でビッキーから降りるが、俺はカルザンを押し留める。

「お前はハンドルを握れ。何かあったら直ぐに離岸する。」

「わかりました。」

 カルザンが運転席の窓から、再び、ビッキーに乗り込む。

「ブローニュ。そのままで構わん。子供をビッキーに放り込め。」

「うん。わかった。」

 茨木童子を装着するブローニュが子供を軽々と抱え上げて、ビッキーに子供を乗せる。

 俺とドルアジは周囲を見回しながら僅かな変化も見逃すまいと視線を走らせていた。

 俺の目が捉えたのではなかった。俺の耳が捉えた。正確には俺の足だ。

「ブローニュ!そのままビッキーに乗り込め!!」

「え?」

「お!おい!!」

 俺はドルアジを肩にのせて、中州を走る。

「カルザン!離岸しろ!!」

 俺の言葉を受けて、カルザンがビッキーを離岸させる。

「ちょっ!」

 ブローニュは上半身だけをビッキーに潜り込ませたままだ。

 俺はドルアジを肩に担いだまま中州からアーゾン川に向かってジャンプ、空中で霊子ジェットを備えたサーフボードを構築、そのサーフボードの上に足を乗せると同時に着水、直ぐに霊子を送り込み、サーフボードを発進させる。

「お、おい!一体…」

 ドルアジの言葉が途中で止まる。

 信じられないものを見たからだ。

 アーゾン川が割れる。

 中州が動き出し、少し離れた川下から二つ目の中州が現れる。

「オッサン!お前!サーフィンできるか?!」

「で、できる訳ねぇだろうが!」

 そりゃそうだ。一応、確認したんだよ。

 俺はビッキーの作った波頭に乗って、ビッキーの車上を回転しながら飛び越える。その瞬間にドルアジをビッキーの上に乗せる。

 着水と同時にビッキーのフロントピラーを掴み、助手席側の窓を叩く。

 カルザンが助手席側の窓を開け、こちらに顔を向ける。

「とにかく子供を陸地に上げろ!その間、俺が奴を引きつける!」

「わ、わかりました!」

 俺はターンしてビッキーから離れ、魔獣に向かう。

 魔獣はアーゾン川に隠していた顔を水上に晒し、こちらを窺うように見ている。

 俺の霊子量に驚いているのだろうが、その驚きはすぐに食欲に変わる。

 亀だ。

 巨大な亀。アーゾン川の中州だと思えるような巨大な亀。

 その亀が長い首をもたげて、俺の方を見ている。

 背中の甲羅だけではない。顔、首、その全てが細かな鱗、装甲で覆われている。

 俺が左に移動すると、魔獣も顔を動かし、俺の進行方向へと向ける。

 大きく左右に移動して、魔獣の反応速度を確認する。

 速い。

 真黒な目は視線をこちらに認識させない。顔の動きだけで見れば反応速度は速い。

 牙はない。牙はないがカミツキガメかワニガメのような嘴状の口吻だ。顎の関節が大きい。咬筋力は相当だろう。

 嘴状の口吻だが、下顎と上顎、その両方が瘤のように膨らんでいる。あの瘤で叩きつけられたら痛そうだ。原形を留めるのも難しいだろう。

『こちらを認識するのに顔を向けている。視覚か嗅覚、恐ら視覚だな、が、主な索敵器官だ。』

 了解。

 亀が口を開ける。

 中から同じように硬い鎧を纏った舌が伸びる。

 目撃証言にあった魔獣だ。

『感覚器官を有している筈だ。気を付けろ。』

 そりゃそうか。遠く離れた所まで伸ばせる舌だ。感覚器官があるわな。

 舌の先が水中に没する。

 隠したつもりか。舐めんじゃねえぞ?

 奴の舌先が俺の右から飛び出してくる。

 体を屈めてその舌を躱す。

 俺のマイクロマシンが、その正体を判別できないのは目の前の魔獣だけだ。俺のマイクロマシンでも魔獣か獣人かを判別することはできない。

 そう、判別できないだけだ。

 タイムラグはできるが判別できない物の動きは捉えることができる。目の前の魔獣がどんなに速く動くことができても、俺は高速ゾーンで、どんな魔獣よりも速く反応し、動くことができる。

 俺は右手に小太刀を再構築する。

 斬りに行くぜ。

『気を付けろ。どんな隠し玉を持っているかわからん。』

 イデアにリンクして画像を送ったか?

『送ったが、奴は月に一度のメンテナンス中だ。回答はない。』

 なにイイイイイイイイ!!

 甲高い音が響く。

 クソッ!斬れねえな!

『F型かP型のマイクロマシンで装甲が構成されてるな。厄介だぞ。』

 コノエ!

『は~い~、なにかご用ですかぁ?』

 この魔獣、いや、このBナンバーズのこと、何か知ってるか?

 俺はコノエに画像を送って確認する。

『ううう。専門外なのでよく知りませんがぁ。たしかぁ、死ぬときにぃ万単位の卵を放出する子だった思いますぅ。』

 なんじゃそれ?ムリゲーじゃねえか。まさかとは思うが、コイツ、BナンバーズじゃなくってGナンバーズなのか?

『…さあ…?』

 クッソおおおお!イデアの野郎!この肝心な時にメンテナンスってなんだよ!

『奴にはサブアンドロイドがいない。仕方ないな。』

 今はそんなことを言ってるんじゃねぇよ!

 魔獣が首を振り上げる。

 拙い!

 大きく反らした首が、想像以上の加速をもって振り下ろされる。

 火山の噴火を思わせる大音響と共にアーゾン川に巨大な穴が出現する。

 アーゾン川の川底が、一瞬、太陽に晒され、すぐさま大量の水で閉じられる。

 穴に集中する川水は巨大な水柱となって空高くにまで立ち上がる。

 俺はその波に引き寄せられて、すぐ目の前に大口が出現する。

 クソ!頭いいじゃねえか!

 サーフボードからジャンプ。

 水柱が崩れて、雨となって降り注ぐ中、俺は、脇に霊子ジェット噴出孔を作り出し、空を舞う。

 寸でのところで亀がサーフボードを丸呑みにしやがった。

 装甲の隙間に捻じ込めねえかな?

『無理だな。あれだけビッシリと重なってるんだ。捻じ込むどころの話じゃない。』

 畜生。じゃあ、コイツは使いもんにならねえな。

 俺は小太刀を分解保存する。

 亀が動く。

 な!こ、コイツ!二本脚で立ち上がりやがった!ウッソだろう?!ガ〇ラか!お前は!

 立ち上がった鎌首を俺に向かって高速射出、同時に舌を高速射出って、二段ロケットか?!

 体を捩りながら躱して、亀の首に纏わりつくように錐揉み下降。

 甲羅と首の隙間を確認するが、そこも細かな装甲でビッシリと覆われている。

 攻撃を受けることはねえが、これじゃあ、討伐できねえぞ?

『いや、手はある。』

 よし!それで行こう!!

『まだ、何も言っていないが?』

 とにかく任せた!

『よし、じゃあ、俺達はこのまま囮役に徹する。』

 よし。

『カルザン達が戻って来るのを待とう。』

 よし!

 で、奴らはいつになったら戻って来るんだ?

 俺は亀の舌先を避けながら、視線をビッキーの方へと向ける。

「あかん!あんなん無理や!絶対死ぬ!」

「そ、そうですね。こ、ここは、陛下に任せて、私たちは陰ながら応援しましょう。」

「そ、そうだな。バケモン同士の戦いだ。下手に俺達が手を出しちゃ、邪魔になるかもしれん。」

 おい。

 あいつらぁ。

 魔狩りになる気、ホントにあんのか?

『全員無理矢理だったからな。』

『そうだねぇ。仕方がないよね?』

『しょうがないよ。』

『俺達だけで十分だ!!』

『そうだね。ブローニュちゃんが傷付くと困るからねぇ。』

 タナハラ。ちょっと代わってくれ。

『お?おう!』

 俺はカルザン達の潜む木陰に分体を作りだす。

「あ。」

「へ?」

「おお?」

 三人が三様に驚く。

「テメエら怒るよ?俺も。」

 三人が肩を竦めて俯く。

「カルザン。」

「は、はい!!」

 カルザンが背筋を伸ばして気を付けの姿勢となる。

「お前は此処に残って、子供を守りながらオッサンの手伝いとカメラ撮影。」

「はい!」

 俺はドルアジの方を見る。

「オッサンは、これで、あの魔獣を撃て。」

 俺はバズーカとロケット弾を構築する。

「こ、これは?」

 俺はドルアジに渡しながら説明する。

「ただの鉄の筒だ。このロケット弾を発射させるための発射装置だ。後方に引っ張られるから注意しろ。」

 再びカルザンに視線を戻す。

「カルザン、このロケット弾を砲身の先から込めろ。」

 ドルアジにバズーカを構えさせる。

「違う。脇に抱えるんじゃなくって、肩に担ぐんだよ。」

「こ、こうか?」

「そう、体重は前に傾けろ。」

「お、おう。」

 俺はロケット弾をバズーカに装填してやる。

 バズーカの砲身に顔を近づけ、ドルアジの代わりに照準を合わせてやる。

「よし。撃て。」

 俺の言葉を受けてドルアジが引き金を絞る。

 物凄い轟音と共に俺の鼓膜が破れた。

 くそ!砲身から顔を離すの忘れてた!

 ロケット弾は炎を噴き出しながら加速し、亀の喉元に直撃する。

「よし。」

 鼓膜を再構築しながら、俺は直撃した亀の喉元を見る。

「なんだ?ありゃ?」

 ドルアジが呟く。

 亀の喉元、ロケット弾が直撃した所には傷一つ付いていない。傷は付いていないが液体が付いている。透明の液体がベッタリと付着しているのだ。

 俺は同じロケット弾を、十本、構築して、地面に転がす。

「カルザン、さっきの要領でコイツに弾込めしろ。」

「わかりました。」

 そう言ってロケット弾を重そうに持ち上げる。うん、その仕草は頑張ってる風で可愛いぞ。

 俺はドルアジに向き直る。

「オッサンはさっきの要領で撃ち続けろ。狙いはもう少し下、甲羅と首元の隙間あたりだ。あのあたりがベターだ。」

「わかった。甲羅と首元の隙間だな。」

 俺はドルアジに向かって頷き、ブローニュに向き直る。

「お前は俺と一緒に来い。」

「へ?」

 ブローニュが跳び上がるようにして背筋を伸ばす。

 俺はブローニュの腰に手を回し、そのまま、霊子ジェットを噴射して空へと飛び立つ。

「へえええええええええええええええええ?!!」

 ブローニュは固まったまま、俺と空の人だ。

 タナハラ、待たせた。

『構わねえよ。このまま戦ってたっていいんだぜ?』

 いや、カルザンが撮影してる。二人揃って、てのは拙い。俺だってバレちまう。

『ちえっ。つまんねえな。』

 今度また代わってやるから。それまで我慢しろ。

『わかったよ。』

 俺は本体であった俺を分解保存し、俺が本体となる。

 目の前の餌が消えて、魔獣が周囲を見回す。

 俺を見付けて、波飛沫を立てて走り出す。

 おう。ドルアジに近付くのは好都合だ。

「ひっ!来る!来よる!来よるでエエエエ!はよ!はよ逃げんと!!」

 暴れるブローニュを無視して、俺はギリギリのところで亀の大口を躱す。

「ひええええええ!!」

 うるせぇな。

 俺は亀の甲羅上に回り込み、ブローニュを亀の甲羅に落とす。

 ポイっとな。

 亀の甲羅上でブローニュが無様な格好で固まる。

 ブローニュが泣きそうな顔で口をパクパクさせて、俺に何かを訴え掛けているが、口をパクパクさせているだけなので、当然、俺には伝わらない。

「ブローニュ!どこでも構わん!(つらぬ)け!!」

 ブローニュがハタと気付いた表情になり、自分がへたり込んでいる甲羅に目を向ける。

 魔獣が体を回して俺に襲い掛かって来るが、俺は避けながらブローニュに指示を飛ばす。

「魔獣は俺を食うことしか考えてない!だからお前は襲われない!一か所を集中して貫くもよし!分散して貫くもよし!とにかく(ぬき)まくれ!!」

 ブローニュが顔を上げて俺の方を見る。

 俺はブローニュに向けて笑ってやる。

 ブローニュが力強く頷く。

 ドルアジが二発目を発射した。

 轟音を響かせて亀に命中するが、亀はお構いなしに俺を追って来る。

 俺はドルアジが照準しやすいように亀を誘導しながら亀の口と舌を避ける。

「フンッ!!」

 ブローニュが亀の甲羅に向かって新神武道、奥伝の(ぬき)を放つ。

 貫の衝撃が甲羅を(つらぬ)き、亀の柔らかい部分にまで届けば貫の効果は表れる。しかし、甲羅を貫くことができなければ、茨が発生することはない。硬く組成された物質の中で硬い茨は発生しないからだ。柔らかく組成された物質の中で硬い元素を寄せ集めて茨を発生させて、初めてその効果が出る。しかし、もともと硬い元素で組成された硬い物質内部では変化は現れない。

「ブローニュ!達人の域なんだろうが!連発しろ!」

「くっまた、なんちゅう無茶なことをっ。」

 ブローニュが不敵に笑う。

 無茶は承知だ。脱力させた体で連発なんて、そうそうできる訳がない。

 ブローニュが甲羅に膝をつき、深い所から息を吐き出し、深い所へと空気を送り込む。

「ハッ!!!」

 ブローニュが二発、三発と左右の連打で貫を放つ。

 脱力状態から瞬間的に硬直させ全身を捻っての連発だ。

 長くは保たない。しかし、それでも効果が現れた。

 亀が長い首をもたげて咆哮を上げる。

 伸びた首に目掛けてドルアジが三発目のロケット弾を撃ち込む。

 俺を追いかける首の動きが鈍くなる。

 体ごと動かして俺を追うようになってくる。

 よし。効果が出てきたぞ。

「ブローニュ!お前はもういい!落されないようにして!そこで休んでろ!」

 ブローニュが甲羅の上に倒れ込む。手を挙げて合図して来たので大丈夫だろう。

 俺は小刻みに左右に移動しながら亀の首をドルアジに晒させる。

 ドルアジが六発のロケット弾を撃ち込んだ時から亀の首が動かなくなる。

「ふうう。」

 俺は空中で止まって溜息を吐いた。

 亀が悲し気な咆哮を上げる。

 何度も、何度も繰り返し、咆哮を上げる。

 哀切を含んだ悲し気な咆哮。

 この魔獣は、もう、叫ぶことしかできなくなった。

 ドルアジが撃ち込んでいたロケット弾の弾頭、その弾頭には速乾性の超硬化ポリマーが仕込んであったのだ。

 ポリマーで覆うだけなら効果は薄い。

 これだけの装甲を纏って動くことのできる魔獣なのだ。力も相当なものだと考えられる。

 現に表面に付着したポリマーは罅割れて剥がれている。

 硬く細かな装甲。その装甲が重なり合っているのは可動域を確保するためだ。

 装甲の重なり合った隙間。その隙間を糊で固めてやれば可動域が失われる。固めてやるのは部分的で十分だ。部分的にでも固めてやれば何千枚と重なり合っている装甲の一枚一枚がこの魔獣を縛る拘束具と化してしまう。どれだけ力があろうと破れるものではない。

 背甲羅と腹甲羅の隙間に集中して撃ち込まれた速乾性超硬化ポリマーは亀の首と前足の動きを完全に拘束した。前足を根元から動かすことができなければ、バランスを取って二本足で立つこともできない。

 魔獣は俺を追いかける形、長い首を空に向かって伸ばした状態で動けなくなっていた。

「装甲の硬さと細かさが災いしたな。」

 俺は空中で魔獣を見下ろしながら、そう呟いた。

 そう呟いた時だった。上空から高速で接近してくるアンノウンを俺のマイクロマシンが捉えた。

 俺は超高速ゾーンに移行、即座に亀の甲羅上で横たわるブローニュの傍に着地し、音速を超えないように調節しながら、ブローニュを抱えて離脱。

 その瞬間を待っていたかのように、高空から飛来した物体が魔獣の甲羅をぶち抜き、血飛沫を撒き散らせながら魔獣を絶命させる。

 赤い血混じりの雨を降らせ、同時に魔獣の産卵口から数えきれないほどの卵が次々と流れ出す。

 おい。

 おい、おい。

 今までの苦労は?

 おい。

 殺しちゃいけないから、ここまで苦労したんだよ?

 俺は体中から力が抜ける感覚を味わった。

 水飛沫を立ててブローニュがアーゾン川に落ちる。

 落としちゃった。ゴメン。

 でも、ブローニュは文句も言わずに顔を水面に出してきた。破裂音と共に茨木童子のフロートシステムが起動し、ブローニュを浮かび上がらせたのだ。

 俺だけじゃない。ブローニュも、カルザンも、ドルアジも、その信じられない光景に目を奪われていた。

 血に塗れて、魔獣の甲羅に足の半分以上を埋め込んで立つ、女性型の巨大魔導式鎧。

 傾いた太陽に照らされ、ピンクの機体が真っ赤に燃えたように輝いている。

 名前はダイダロス。

 後頭部から伸びる四本の刃は、長い髪の毛を後ろで縛ったようなデザイン。

 細く長い四肢はスラリと伸びている。その両手をくびれた腰に当て、威風堂々たる立ち姿。

挿絵(By みてみん)

「…トンナ…?」

 俺はダイダロスを見上げて力なく呟いた。

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