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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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犯罪者は九頭寺というオッサンなので、俺は全く関係ありません

 その後、俺達は(きん)の買取店に出向き、現金として十万円を取得、そのまま銀行に赴き、口座を開設した。

 金の元素はトガリの世界から持って来た物だから、犯罪じゃない。うん。

 銀行に口座を開いたのも、こっちの世界で入手した本物のお札だから犯罪じゃない。うん、犯罪じゃないったら犯罪じゃない。

 けっこう歩いたな。

『そうだな。』

 俺達は、再び、コンセントの使えるファーストフード店の片隅に座っていた。

 イズモリに言われるままに、俺はコンセントにUSBのプラグを差し込み、俺の掌に作ったUSBポートにUSBを挿し込んで、俺達の意識をネットに繋げる。

『よし、(かね)を作る。』

 え?

 銀行口座の金額が一気に六桁に跳ね上がっていた。

 はい。これは犯罪です。

『心配するな。百万円単位なら税務署に目を付けられることはない。銀行口座の金額については調整したから、銀行に気付かれることもない。』

 いや、そういうことは心配して…いや、そんなこと言われたら、心配になってきたじゃねえかよ?大丈夫か?

『大丈夫だ。金を下ろせ。』

 わ、わかったよ。

 即座に金を下ろす。

 俺は不動産屋に飛び込み、マンションの一室を購入する契約を交わす。契約自体は司法書士の都合で明日になったので、先に手付金を支払う。

 建物の出来不出来はどうでもイイ。地理的な面にだけ注意を払う。

 俺の家から程よい距離があり、勤務先への通勤途上にあるマンションを選んだ。

 金額は二千四百万円。

 思わず、絶句しそうになったが、なんとか、顔色を変えることなく乗り切った。

 不動産屋を出て、複数の(きん)の買取店を回って(かね)を作り、その金を使って複数の口座を開設するために複数の銀行を渡り歩く。

 再び、ファーストフード店に入って、ネットに繋がり、それぞれの銀行で金額を膨らませ、総資産は六千万円を超えた。

 地道な作業だなぁ。

『お前がイイなら不動産屋の頭にマイクロマシンを侵入させて、タダで契約することもできるぞ?』

 それはダメだ。不動産屋が泣くことになる。

 銀行口座の金額の調整についてはどうやったんだ?

『よく、漫画や映画で使われてるだろう。端数の金を集約した。』

 は?

『給料や税金の計算や借金の返済時に発生する小数点以下の金銭のことだ。銭や厘といった円以下の金額が発生するだろうが。その使えない金を集めて、俺達の口座に入れたんだよ。』

 ああ。成程、それは犯罪じゃないな、エコだ。

『侵入した時点で犯罪だ。』

 そ、そうか。そうだな。

『日本銀行に口座を開設できればもっと資産を増やせるんだがな。』

 じゃあ、開設しようぜ。

『…日銀に口座を開設できるのは銀行や証券会社で、個人の開設はできん。お前、そんなことも知らんのか?』

 …

『まあ、手間は掛かるが普通の銀行から日銀にアクセスして引っ張るか。』

 あ、ああ、もう、ソッチは任せるよ。

『税務署に侵入した時に良い物を見付けた。』

 何を?

『休眠会社だ。』

 何それ?

『登記されているが、経営実態のない会社のことだ。』

 で、それをどうするの?

『俺達の会社にする。』

 はあ?

『法務局の登記簿は書き換えた、あと、滞納物件だったからな、そっちは税務署のデータを変更、銀行のブラックリストに載っていたから、ソッチも抹消しといた。』

 ああ、もう、俺達の会社になったのね?

『そうだ。犯罪組織がよくやる、実体のない会社のつくり方だな。』

 ああ、犯罪組織とおんなじことやってるんだ…

『購入予定のマンションにも近いから便利だろ?』

 ま、まあ、そうね。うん。

 で、俺は会社の社長になった訳?

『そうだ。株式会社金丸興業だ。』

 なんの仕事をしてたんだ?この会社。

『不明だな。よくわからん仕事をする会社は、大抵、なになに興業という名前を付ける。』

 おい、全国の興業という名前を付けてる会社の皆さんに謝れ。

『すまん。』

 あっさりしてやがんな。

『こうなってくると健康保険証と印鑑登録証明も必要になるか。社印もいるな。』

 そ、そうなのか?

『全国健康保険協会に加入していない会社をお前は信用できるか?』

 う…

『兎に角、これで、動き出す準備はできた。』

 そうだな。身元は出来上がったし、肩書も手に入れた。

 俺は掌に作ったUSBポートからUSBプラグを抜き取り、トレイの上に散乱していた食事後のゴミを始末して店を出た。

 出た店を振り仰ぐ。

 周りを見回す。

 コンビニ、飲食店、薬局、スーパー。

 トガナキノとは違う店が建ち並び、トガナキノとは違う風景を見る。

 そんな風景の中を俺は歩きながら、俺は病院に戻った。

 病室のベッドには俺が横たわっている。

「おかえり。」

 ベッドに横たわっている俺の中にはクシナハラがいる。

「ただいま。じゃあ、チェンジするか。」

「了解。」

 俺は九頭寺正臣から意識を俺へと移す。

『じゃあ、俺達はこのまま九頭寺正臣として行動する。お前は、しっかりマサトしてろ。』

「了解だ。それよりも、口を使って話せよ。」

 九頭寺から意識をシフトしたのは俺だけだ。他の、イズモリ達は九頭寺の中に残っている。

「そうだな。慣れていないから、遂な。」

 九頭寺が顎を擦りながらイズモリの台詞を話し出す。

「で、トガリの体はどうする?」

 俺の言葉を受けて九頭寺が頷く。

「明日、退院だな。明日にはマンションの購入手続きも終わるが、そうだな。このまま俺が持って行くよ。今日はどこかのホテルに泊まる。」

 俺は痩せた身体を起こしてベッドに座る。

「じゃあ、同じスーツケースと、分解保存していた中身を再構築してくれ。」

「了解だ。」

 九頭寺がその脇にスーツケースを再構築する。

 再構築したスーツケースとトガリを入れたスーツケースを入れ替え、九頭寺の格好をしたイズモリ達が「じゃあ、一旦、別れる。」と言いながら、トガリ入りのスーツケースを持って病室を出て行った。

 俺は久しぶりに一人になった。

 頭の中でアイツ等と話はできるが、とにかく、今は俺の頭の中にアイツ等はいない。

 再び、ベッドに横になり、俺は頭の後ろで手を組んだ。

 ボンヤリと、とりとめのないことを考えるが、ブラックホールの中にいるトガリと向こうの世界に居るトガリの意識は途切らせていない。ブラックホールの制御は常にしなければならないからだ。

 ブラックホール内のトガリは、その原型をとどめていない。

 高密度圧縮のブラックホールの核と同一の存在になっている筈だ。ブラックホール内のトガリは動くことも見ることも聞くこともできない。ただの器と成り果てている。

 俺の意識だけがその器に宿っている。

 ブラックホールを制御するために演算している脳は本体の脳だ。つまり、意識の割合を最も多く振っている身体が演算している。

 だから、今もブラックホールを制御しているのだ。

 俺が眠っている時はイズモリ達がしてくれる。

 起きている時もイズモリ達の誰かが一人、サポートにまわってくれている。

 その内、自律神経系を弄って心拍や呼吸と同じようにブラックホールを制御できるようにするとイズモリが言っていたので、それまでの我慢だ。

「更科さァァん。夕食です。」

 ノックの音と共に看護師が配膳をしらせてくれる。

 最後の病院食だ。

「ありがとう。」

 ゆっくりと味合わせて頂こう。


 食事を終えてすぐに、イズモリが話し掛けて来る。

『ホテルを確保した。九頭寺の体はベッドに寝かしておくから、ソッチに戻る。』

 了解した。

 イズモリ達が俺の体に戻って来る。

 こうなってくると意識の振り分けが大変だ。

『そうだな、向こうの世界とブラックホール内のトガリ、こっちのトガリに九頭寺の体、そしてお前自身の体と五人の体に意識を振り分けての行動だ。』

 副幹人格もやることが増えたからな。

『うむ、向こうの世界のトガリには、タナハラを常駐させて、こっちのトガリの体にはクシナハラを常駐だからな。』

『そのことなんだけど。』

 クシナハラ?

『このトガリの体を使って遊びに行って来ても良い?』

 しばらく待てよ。その内、誰かと交代してもらって九頭寺の体で遊ばせてやるから。

『固いねぇ。』

 当たり前だろ?こっちの世界は俺の世界なんだぞ。ややこしいことになっちまったらどうするんだ。しかも、そのトガリはゲートの役割を持ってるんだぞ。下手したらブラックホールが崩壊して、世界が丸ごと吹き飛んじまう。

『わかったよ。でも、なるべく早く動けるようにしてよ?』

 了解だよ。

 俺は溜息を吐く。

 まったく、忙しいのにややこしいことになっちまった。

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