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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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流石にこのウソは心が痛むなぁ、うん、ホントに

 神州トガナキノ国の国体母艦が階陣形で並んでいた。

 一番下の国体母艦は新神母艦だ。

 俺が新たに造った国体母艦も階陣形に加わっている。

 一番上に位置する上天母艦。その上天母艦は成層圏にまで達している。

 新神浄土、安寧城の前庭、顕彰碑の後ろに演説台が設けられ、そこにヘルザースが立つ。

 トガナキノ行政院の青い制服に白い手袋。首元には黒い布を巻いている。

 その後ろには、司法院のローデルが白い制服で、同じように首元に黒い布を巻いて立っている。その隣には立法院のズヌークが同じように立っている。

 勅使門の前には王族がヤートの服に身を包み、口に黒い布を巻いて座っていた。

 王族の両サイドを挟んで、三宮、五社、十二殿の各長が各々の制服に身を包み、トンナ達と同じように口に黒い布を巻いていた。

 安寧城の前庭広場には、多くの国民が集まっていた。

 広場を越えて、その広場に繋がる道路にまで人が溢れている。

 新神浄土の道路は歩道と自転車道に明確に分けてある。その自転車道にまで人が溢れ、少しでも安寧城前庭広場に近付こうとしている。

 ヤート式の葬式ならば、遺体を土に埋める形で火葬にする。

 縁者たちが白い皿に入れた油を遺体に注ぎ、火を着けるのが習わしだ。でも、ここには送り出すべき遺体はない。

 俺は行方不明のまま国葬で送り出される。

 トンナ達、契約を結んだ獣人たちが生きているのだ。俺が生きていることは明白だ。国民たちも獣人との契約についてはよく理解している。

 下僕の契約と使徒の契約は、守護者の契約と違って、契約者が死ねば、被契約者も死ぬ。その被契約者であるトンナ達は生きているのだ。

 それでも俺は国葬にて送り出される。

 ズヌークの立法院、その一機関の政法宮が、王室典範という法律を制定した。

 その王室典範の中に王位を七日間以上、空位にしてはならないという条文を盛り込まさせたからだ。

 王室典範の下位法令、王室典範令には、七日間、国王の所在が不明であった場合は、空位であるとし、行方不明となった日を起算日として、十日目に国葬を執り行い、十一日目には第一継承権を持つ者に即位させること、と、明文化させた。

 急遽、制定させた法律だ。

 この国葬を執り行い、トロヤリを即位させるためだ。

「史上最低王…未だかつて、国民にそのように揶揄される国王が存在したか?」

 新神浄土の国民に向けて語り掛け、他の国体母艦の国民には魔虫のカメラとマイクを通して語り掛ける。

「存在しない。」

 自問自答の言葉。

「この国に、国王を戴くこの国に不敬罪という言葉が存在しない。疫病に恐れることなく。飢饉に恐れることなく、災害に恐れることもない。最低限の法律の下、些細な揉め事は、ほとんどが、それぞれの当事者の話し合いで解決される。」

 ヘルザースが顔を上に向ける。

「国民全員に禊を施すよう仰せになられた陛下は、今、いない…禊によって、人々は他者を慮るようになり、法を犯すことに恐れを抱くようになった。」

ヘルザースが真正面を向く。

「害意は外から来る。」

 ヘルザースの眉根が引き絞られる。

「クルタス、ジェルメノム帝国。いずれも害意ある外の人間であった。」

 ヘルザースが俯き、再び、顔を上げ、ぐるりと周りを見渡す。

「その害意に、陛下は、そのお姿をおくらましになられた。」

 再び、ヘルザースが空を仰ぐ。

「何処におられるかも知れぬ陛下は、それでも、それでも、なお、その害意に対しても、その優しさで、敵国の国民をお救いになられた。」

 ヘルザースが正面を向く。

「神州トガナキノ国の国民よ!!」

 吃驚したぁ。急に大声になるんだもんなぁ。

「トガナキノとは咎の無い国という意味である!我らはサラシナ・トガリ・ヤートに救われ!我らはサラシナ・トガリ・ヤートの庇護の下!この国を建国した!其方らは!我々は!サラシナ・トガリ・ヤートの子供である!!我らは史上最低王の下!皆がサラシナ・トガリ・ヤートの子供なのだ!!」

 おう、トンナの目標が一気に達成されたな。三桁どころの騒ぎじゃねえぞ?

「サラシナ・トガリ・ヤート国王はジェルメノム帝国の国民をお救いになられた!ならば!その志を継ぐのは我らしかおらぬ!!」

 ヘルザース、熱がこもってるなぁ。

 俺は安寧城の片隅に設けられた魔狩りユニオンの事務所、この事務所に設置されたテレビでこの国葬を見ていた。

 うん、俺の国葬だけど、俺はテレビで見てた。

 だって、今はヘイカ・デシターの姿だからね。俺の葬式じゃない。

「悪いですよねぇ。」

 うん、カルザン、やっぱ、お前は可愛いわ。

「流石にこれは…」

 ドルアジ、お前は俺の国葬に参列して来いよ。

「イイんだよ。これで明日にはトロヤリの即位の礼が執り行われるんだから。その為には俺が行方不明で退位ってことにしなきゃならなかったの。」

 カルザンが横目で俺を見ながら溜息を吐く。

「でも、トロヤリ殿下を即位させる必要があったんですか?」

「あるよ?あるからこんなことやってんだよ?」

「ただ単に国王を辞めたかっただけじゃねぇんでやすかい?」

 うっ、そ、それは否定できん。

「そんな訳あるか。」

 即座に否定するけど。

 俺がトガナキノに戻って来たのは、マイクロマシンが必要だからだ。

 マサトの身体に霊子回路を作り、現代日本とトガナキノを行き来できるようになったが、それが可能なのは精神体と霊子体だけだ。

 無意識領域に世界線の境界は存在しないが、物理世界においては(れっき)とした世界線の境界が存在する。だから、物質は世界線を渡ることができない。マイクロマシンを現代日本に送り込もうとすれば、無理矢理にでも繋げる必要がある。

 現代日本と物理的に繋げる。

 そのためには大量の霊子が必要で、その大量の霊子を手に入れるためにはトガナキノ国民の協力が必要だ。

 国民の協力を取り付けるには、国民が納得する理由が必要になる。いきなり、理由も告げずに増税したら、皆、怒るもんね。その理由が納得できなくても怒るしね。

 大量の霊子が必要なのは異世界にマイクロマシンを送り込むため。何故、異世界にマイクロマシンを送り込むのかは、ジェルメノム帝国を救うためだ。ついでに、現代日本で俺が使うためでもあるけど。

「それにしても、六歳のトロヤリ殿下が国王ですかい?それはそれで、ちょっと酷なような気がしますがねぇ。」

 うん、それはそうだ。

「心配すんな。トロヤリには、適当にやってればヘルザース達がなんでも上手くやってくれるからお前は今まで通り学校に通って普通に子供してろって言っといたから。」

「そ、そんな無茶な…」

「だ、旦那ぁ…国王陛下が学校に通うんですかい?」

 まあ、実際には揉めに揉めた。

 二日前に無縫庵で俺の帰還祝いに来てた執政官連中を集めたんだけど、ヘルザースを初めとした連中は、もう、カンカンになって怒ってた。

 もう、全員が全員、俺に対して怒鳴ってた。全員、ヘルザース化してた。

「陛下っ!!一体何を考えておるのですか!国民の九割が陛下に国王になって頂きたいと投票結果が出ておったではないですか!そのように!国民に望まれて王となる者など世界広しといえども陛下!唯お一人でございますぞ!!それを退位どころか!行方不明のまま崩御したことにせよとは言語道断!いますぐ!先程の勅命を撤回して下さいませ!!」

 ソファーにだらしなく座っている俺に対し、立ち上がって、大上段にヘルザースが言い出すと。

「左様!撤回が適切ですな!」

 と、ズヌークが腕を組んで言い出し。

「誠にもってその通り。陛下、撤回なさいませ。」

 と、ローデルも頷きながら言い出す。

 ほら、もう、勅命に逆らい出すんだもん。コイツら、ホントに家臣の風上どころか風下にも置けんわ。

 総勢二十名からの人間が無縫庵のリビングに詰め掛け、俺を囲んで、もう、脅迫している勢いだ。

 ホームルームの吊し上げより酷いんじゃない?

「お前らが言ったんだぞ?」

 まあ、俺はそんなこと、気にはならねぇんだけど。

「は?」

 ヘルザースを初めとする全員がキョトンとする。

「ジェルメノム帝国に対するトガナキノ国民の感情が最悪だ。国民からはジェルメノム帝国に対する救援は必要ないとの声が上がってる。それどころか責任を取らせて賠償を支払わせなければ、トガナキノ国民が納得しない。と、そう言ったじゃねぇか?」

「確かに申し上げました!しかし!そのことと陛下が退位なさる事とになんの関係があるのですか?!」

 俺はヘルザースの言葉に頷く。

「関係あるよ?俺が退位するだろ?そしたら、トロヤリが即位するじゃねぇか。」

 一拍置く。すると、ヘルザースが「あっ!」と声を上げた。俺は口角を上げて笑った。

「わかったか?」

 開けていた口を閉じ、ヘルザースが肩を落とす。諦めにも似た眼差しでヘルザースが俺を見下ろす。

「恩赦ですな。」

 溜息交じりにヘルザースが言葉にする。

 ヘルザースの言葉に俺は頷く。さっきまで怒鳴っていた連中が「ああ…」と、納得の声を上げながら、項垂れる。

「そ、この国には恩赦を施すほどの犯罪者はいない、トロヤリの恩赦は俺の遺志を継ぐという形で実現される。結果はジェルメノム帝国の国民を救うという形でな。」

 俺はワザと悪い顔で笑ってやる。

 それを見咎めたヘルザースが眉間に皺を寄せる。

「で、陛下は自由気ままな魔狩りとなって、好き放題の勝手し放題と、陛下にとっては正に一石二鳥でございますな。」

 ヘルザースが諦め顔で俺を睨む。

 俺は、そんなヘルザースに大きな笑顔を返してやった。

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