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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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俺にとっての生きること

 イズモリが言った。

「恐らく、こっちの世界に飛んだプロトタイプゼロが誘導している。」

 その言葉に俺は口を開くこともできなかった。

「奴の存在証明は戦争だ。戦争に勝つこと、そして、戦争に勝つということが人類の世界拡散へと目的がすり替わっている。奴はどの世界においても同じことを繰り返すだろう。」

 イズモリ。

 イズモリが顔を下げ、俺と視線が交錯するが、すぐに俺から視線を逸らせる。

 イズモリ、隠し事もできない。話すべきことがあるなら話せ。

 イズモリが溜息を吐く。

「…そうだな。俺達は嘘も付けないし、隠し事もできない…」

 全員の注目が俺からイズモリへとシフトする。

「最初は夢かと思っていた。」

 カナデラ達がイズモリの言葉に顔を顰める。

「俺達が夢を?」

「そんなことあるもんか。」

「そうそう、眠りもしないのに、夢なんか見る訳ないじゃない。」

 三人の言葉にイズモリが頷く。

「勘違いするな。そう、錯覚するほど、あやふやなモノだったということだ。」

 俺は頷き、先を促す。

「俺がソレを見たのは、世界線を越える瞬間だ。何森源也か…うん、俺の本体である、何森源也としての記憶の断片だと思ってた。」

 何森源也の?

「そうだ。何森源也は萱口(かやぐち)という研究者と霊子回路の前身である霊子器官の発明について話をしていた。」

 霊子器官…

「その話の中で霊子器官を作り出すために実験体として使われていた子供…胎児がいた。」

 …胎児?

「そうだ。まだ分娩されていない状態で保存液の中で生かされていたんだ。」

 …

「その胎児はアルファと呼ばれ、終末戦争時代にAIプログラムの基礎となった胎児だった。」

 なっ…

「俺は、その記憶の中でアルファを連れて逃げた。」

 …

「ただ、その逃げた先のことは欠落している…」

 …

「俺が、実際に連れて逃げたのかどうかもあやふやだ。軍に引き渡したような気もしている。」

 …

「アルファは実験の中で仮想現実と繋がれていた。俺がアルファを連れて逃げたのは仮想現実の中でのことかもしれない。ただ、ハッキリしていることは…」

 …

「あのアルファが、プロトタイプゼロの母体であり、奴の精神体は俺と一緒にこの世界に来ているということだ。」

 待てよ。随分と確信を持ってるな。

「…」

 おかしいだろ?最初にあやふやだったって言ってたのに、今の話し振りだと、結構、確信を持ってる感じだぞ?

「そうだ。俺が見たのは、最初は何森源也の記憶の断片だと思っていた…」

 …

「だが、整理して考えるとそうじゃない。」

 何森源也の記憶じゃない?

 イズモリが頷く。

「俺が同期していて見たのは、アルファ、胎児の記憶だ。」

 …

「アルファと同期することで俺は追体験として何森源也の記憶と重ねていた。アルファを連れて逃げたのは、俺の考えであり、アルファの希望だ。その結果、俺はアルファをコッチの世界に連れて来た、と、俺は考えている。」

 戦争が起こる。

 未来予測でもなんでもない。確定的な未来だ。

 奴の転生先は?俺みたいにこの肉体があるわけじゃないだろ?

『奴の最も親和性の高い物質、この世界で最も演算能力の高い集積回路、コンピューターだな。』

 世界中にごまんとあるコンピューター…

『もしかしたら、クラウドシステムそのものに奴の意識が転生している可能性もある。』

 世界中のコンピューターをぶっ壊すことになるぞ?

『そうなれば、こっちの文明社会は停滞するな。』

 経済も何もかもが無茶苦茶になる。

『しかし、世界中のコンピューターに奴は潜んでいると見るべきだ。』

 何故?

『この世界情勢を奴が誘導している可能性が高いからだ。』

 俺はキツク瞼を閉じる。

『同じ世界にジャンプしているだろうが、時間軸までもが同一だとは限らん。』

 それは、つまり…俺達よりも先に、過去に辿り着いているかもしれないということか?

『そうだ、この世界情勢を創り上げるだけの時間があったのかもしれん。』

 良い材料がないな…

『楽観視できる材料はない。』

 だからのマイクロマシンか…

『そうだ。』

 霊子回路が必要だな…

『そうだ。』

 血腫のある位置に霊子回路を作る。


 病室。

 誰もいない。

 ベッドの上で俺は意識を覚醒したまま瞼を閉じる。

 霊子回路のワイヤーフレーム画像が浮かぶ。

 トガリの体に転生した時と同じだ。でも、違う。

『そうだ違う。』

『そうだね。』

『そうだよ。』

 咲耶の顔と聡里の顔が映像として浮かぶ。屈託なく笑っている二人の顔だ。

 俺の胸元から熱を感じる。

 そうか…お前もこっちの世界に飛ばされていたんだな。

 戦え。

 そうだ。生きることは戦いだ。何と戦うのか?生きること、そのこと自体が戦いだ。

 横隔膜を下げて、肺を一杯に広げる。空気を最大限に取り込む。

 何かを得るために人は戦う。

 酸素が有毒であっても、生きるために毒を取り込む。

 食べ物を得るために人は戦う。

 土と、獣と、木々と、水と、災害とも戦う。

 金を得るために人は戦う。

 学校でも人々は戦っている。

 何と戦っているのか。

 最後は自分とだ。

 自分と戦っている。

 生きる意志。

 悩むことなどない。最後は生きるのだ。生き残るのだ。

 どんなことになっても。

 どのような形になっても。

 最後に生きていればいい。

 だから戦う。

 戦え。

 応。

 戦えっ。

 応っ。

 戦えっ!!

 応っ!!


 聡里は涙を流していた。

 俺が右手で聡里の手に触れたからだ。

 ベッドに横たわったまま、左膝を立てる。

 右足の指先を動かし、問題なく動くことを確認する。

 痩せた腕になった。

 布団からのぞく腕は枯れ木のようだ。

 その腕を伸ばし、聡里の頬に触れる。

 確かな感触。

 その手を聡里が握る。

 聡里が確かめるように、頬に、強く押し付ける。

 濡れた感触が手の甲を流れる。

 聡里の涙が前腕を伝い、右肘にまで流れる。

 喜びの強さだけ聡里は苦しんでいた。苦しみの深さだけ聡里は戦っていた。

 今度は俺の番だ。

 この世界で俺は戦う。

 この女を絶対に護り通す。

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