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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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魔狩り組合爆誕?!

 お久しぶりです。初めての方は、初めまして。三作目のトガリになります。前作の月トガリからの続編となります。前作のURLは以下の通りです。

https://ncode.syosetu.com/n6737eq/

 今までは、完結させてから投稿させて頂いておりましたが、今回はネット小説大賞に応募するために執筆途中での投稿となります。作品自体は八割方の完成状態ですので、途中で連載を放棄するようなことはありません。ただ、滞ることはあるかもしれませんので、その点はご理解願います。また、三作目となりますと、前二作品と辻褄の合わない設定部分が出てくる可能性もありますので、随時、前二作品の訂正を入れていきます、その点もご容赦頂きたいと思います。

 それでは、ご一読いただければ幸いです。

 特殊な技能を持った職能集団。

 命知らずな蛮勇集団。

 獣人唯一の天職。

 人々の口に上がる言い方は、様々だが、先の三つの評し方は、一つの生業を評している。

 その集団としての単位は決まっておらず、基本、五十人を割ることはない。

 五十人以上からが、一つの単位となって活動する。

 古より続く専門職であり、非常に特殊な職業だ。

 生きている内にその技を披露することは一度か二度。

 技とは呼べないかもしれない。

 それでも、獣人の村には、必ず、その職業のための武器がある。

 アヌヤとヒャクヤは、その武器を盗み出し、トガリと出会った。

 霊子ホイールを回転させて、その回転力で弾丸を発射する霊子銃。

 高速で振動し、切れ味を増幅させる高周波ブレードを仕込んだ両手剣。

 この世界では、産出することのできない武器だ。

 過去の遺物であり、遺跡と呼ばれる地下のセクションから掘り起こされる物だ。

 しかし地下のセクションが発見されることは稀てあり、奇跡と言っていい。

 この二百年、トガリ以外の人間が、新たにセクションを発見したことはない。

 絶対的に少ない希少な武器。

 その武器が収められたセクションは、巧妙に、秀逸に、注意深く、地下深くに隠されている。

 この世界の人間が発見したセクションは、その全ての、僅か0コンマ数パーセント以下だ。

 過去に発見された遺物のほとんどが王家に引き渡され、王家伝来の宝物として崇められている。

 獣人の村に残る遺物は、セクションから発見された物ではない。

 殺戮戦争。

 地上から、動く存在を消し去ろうとした戦争であった。

 その戦争以前に生み出された獣人たち。

 殺戮戦争に嫌気がさし、その戦争から持ち帰った物が、今に伝わっているのだ。

 その武器を使うことは、一生に一度、あるかないか。

 一生、その手に触れぬ者の方が圧倒的に多い。


 人の戦に使用するべからず。

 むやみに持ち出すべからず。

 年端の行かぬ者触れるべからず。

 女性(にょしょう)触れるべからず。


 その武器に対する掟である。

 アヌヤとヒャクヤは、その全ての掟を破って、村から持ち出した。

 そして、特殊な技能を持った職能集団の一人となって、村に戻って来た。

 異常な集団である。

 いや、集団とは呼べない。

 五十人以上を一単位とする集団の筈であった。

 しかしアヌヤとヒャクヤは、たった五人であった。

 たった五人を集団とは呼べない。

 アヌヤ、ヒャクヤ、トンナ、オルラ、そしてトガリ。

 たった五人で、特殊な技能を持った職能集団、魔狩りを名乗ったのだ。

 トガリを中心とした五人の魔狩りは、幼体を含むとは言え、アギラ十頭を討伐したと宣った。

 その討伐成果に、アヌヤとヒャクヤの村人は驚いた。

 毛皮、脂肪、腱、骨、牙、爪、角、魔石、その全てが、討伐に足る証となった。

 古来より続く、特殊技能を有した職能集団、獣人が戦以外で活躍する生業、それが、魔狩りである。

 その魔狩りの事情が、六年前に一変する。

 北ウーサ大陸の東端に位置する、ハルディレン王国で発生した、魔獣災害が、原因である。

 今までに見られなかった、大量の魔獣が、一挙に出現し、魔獣が大陸全土に広がった。

 魔獣によっては、海を渡り、世界各地に広がったのだ。

 討伐は急務であったが、神州トガナキノ国建国直後であり、魔獣の拡散を止めることは叶わなかった。

 今でこそ神州トガナキノ国が、魔獣討伐隊を派遣するが、その対象となる国は、派遣要請の出せる国に限られる。

 つまり、神州トガナキノ国と国交を樹立していることが前提条件となる。

 神州トガナキノ国と国交を持たない国、また、派遣要請を出せるが、政治的事情が妨げとなる国では、市井の魔狩りが、命を懸けて魔獣を討伐していた。

 市井の魔狩りが、魔獣を討伐できることは稀である。

 神州トガナキノ国のようなロストテクノロジーを駆使した装備ではない。

 獣人の村に残されている武器は、貴重なれど、神州トガナキノ国の武器や装備程優秀な物ではない。

 良くて撃退、普通は、全滅の憂気目に遭うことが常であった。

 魔獣の被害に遭った人々は切望する。

 魔獣を狩ることのできる魔狩りを。

 安心して暮らせる日々を。

 そんな世界で、チラリ、チラリと噂になる、男と女達がいた。僅か数人、その中には小さな子供も混じっているという。

 長い黒髪に黒い瞳、自分が被差別民族、ヤートであることを隠さない。

 その男が率いる魔狩りのパーティー。

 穢れた血を持つ、魔獣を必ず討伐する男。

 必伐の魔狩り。

 穢れた魔狩り。

 世界最強の魔狩り。

 その男に問う「なぜ魔狩りになったのか?なぜ、危険な魔狩りを続けるのか?」男は振り返って、気もなく答える。

 軽く、眠そうな目で、面倒臭そうに。

「ああ?趣味だよ、趣味!なんだか訳わかんねぇうちに魔狩りになって、魔狩りを続けてたらこうなっちまったんだよ!もう、面倒くせぇから向こう行けヨ!」

 男はクズデラ・ヤートと名乗った。

 本名をサラシナ・トガリ・ヤート。

 神州トガナキノ国建国の祖であり、現神州トガナキノ国二代目国王である。


 あからさまな非難の眼差し。

 ヤートに向けられる眼差しだ。

 満席だった店内から、一人、二人と人が消えていく。

 その中の一人が、唾を吐きながら、俺の傍を通り過ぎた。俺は、その男の足を引っかけ、転ばせる。

「貴様!!」

 男が立ち上がる。立ち上がりざまにナイフを抜き放ち、俺を下から斬り上げることを忘れていない。

 俺は座ったまま、右足を跳ね上げて、斬り上がって来るナイフを弾き飛ばす。

 高々と上げた足を、低い位置から男が見上げる。

「潰れてろ。」

 俺は、その足を振り下ろし、男の腕に絡ませながら顔を踏みつける。

 男は俺の足元で、不格好な形で意識を失った。

 店員、店主かな?男が俺に近付いてくる。

 手にライフルを持っている。

 当然、銃口は俺に向いている。

「オイ、出て行け。」

 その銃身を、無造作に握る奴がいる。

 俺の対面に座っている奴だ。

 ソイツが、下から小さな手で、無造作に銃身を握り、捻る。

 男が転び、銃がその手から離れる。

 暴発。

 天井に弾痕を残し、木屑がパラパラと落ちてくる。

「おじさん、水を下さい。」

 男を転ばした奴が、その男に向かって笑いながら水を注文する。

「き、貴様…」

 男が、銃を奪った子供に悪態を吐こうとした時だ。その銃が分解される。

 男が言葉を呑み込む。

「水を下さい。」

 男の子が、丁寧に注文を繰り返す。

 男が立ち上がり、スゴスゴと店の奥へと引っ込む。

 牛の糞で造られた建物。

 壁には穴を開けただけの窓。ガラスのはまった建具はない。ただの穴だ。

 その穴から入って来るのは強い日差しと、その日差しに熱せられた空気、そして虫だ。

 極端に乾燥しているため、臭い物質は見当たらない。

 ありとあらゆる物が、強い日差しに当てられ、一瞬で乾燥してしまう。

 ここはグランカジア大陸だ。

 元はユーラシア大陸であったのだが、ユーラシアと呼ばれる大陸は、今は無い。

 終末戦争の影響で四つに分断され、コノンルジア大陸、アグネシア大陸、トルネシアン大陸そして、ここ、グランカジア大陸に分断されたのだ。

 グランカジア大陸のほぼ中央南側、砂漠の国、トリヒャージ王国に俺達はいる。

 俺とトロヤリの二人だけだ。

 俺はクズデラの名前を使っており、トロヤリはトーヤの名前を使っている。

 魔狩りだとわかるように、これ見よがしに巨大な武器を携えて入国したのだが、やはり、ヤートに対する忌避感は強いようで、さっきから差別待遇を絶賛受けまくりだ。

『服装を変えればいいものを。』

 イズモリ君、そんなことをしているから、いつまで経っても、ヤートに対する差別がなくならないのだよ。

『さっきのようなことをしていれば、なくなるモノもなくならんだろうが。』

 俺に唾を吐きかけた男は俺の足元だ。

 暑いからな。イライラしてたんだよ、俺も。

『嘘を吐け。』

 うん、ホント、マイクロマシンを使って周囲の温度を下げていないと暑くて死にそうになるよ。

 男が、水を二杯、持って来る。

 テーブルの上に置く。

 ブスっとした顔には愛想がない。うん、愛想がないからブスっとしてるんだけど、ホントに店の人?って言いたくなるくらいに不機嫌そうな顔だ。

 トロヤリに転ばされたぐらいで、そんなに怒んなくってもイイのにね?

 コップの水にはゴミが浮いている。茶色く濁って、お腹を壊しそうな水だ。

 俺が、トロヤリの水をマイクロマシンで濾過してやる。

「ありがと。」

 トロヤリが両手でコップを持って、小さな喉を鳴らして水を飲む。

 俺が笑いながら、その姿を見ていると、後ろの木製の扉が開かれ、空気の流れが一気に乱れる。

 熱波が押し寄せ、砂埃が床を這う。

「人の店に入り込んだヤートとは貴様か?」

 俺達ヤートは、人として扱って貰えない。

 ヤートは物だ。

 俺の後ろで、三人の男が立つ。

 頭と口元をすっぽりと覆った頭巾に長いマントのような布で全身を包んでいる。

 インディゴ色の服の下から白い長袖のシャツが見えている。

 右手に握られた五十センチほどの直剣には、凝った装飾が施され、ダラリと下げられていた。

 その剣が持ち上がり、俺の肩に当てられる。

 俺は顔を向けることもなく溜息を吐く。

「立て。」

 男が俺の肩に剣を当てたままハッキリとした口調で命令する。

 俺は、男の言葉を無視して、目の前の水を濾過して、喉に流し込む。

「外に出ろ。この店をヤートの血で汚す訳にはいかん。」

 コップをテーブルに置く。

「じゃあ、お前達の血で汚れる分には問題ないわけだ。」

 俺の言葉に後ろの三人が殺気立つ。

「父さん、弱い者苛めになっちゃうよ。」

 トロヤリは優しい。俺はトロヤリに向かってニッコリと笑う。

「よし、お前に免じてコイツらのことは許してやろう。」

 俺は、男達の脳内にマイクロマシンを侵入させて、男たちの意識を阻害する。

 剣を摘まんで俺の肩から避ける。

「じゃあ、行こうか?」

 俺の言葉に、トロヤリが「うん。」と、返事して、二人して立ち上がる。

「受け取る気があるなら、受け取れ。」

 奥の男に声を掛ける。

 店内には彫像のように固まった三人の男、テーブル上には新品の金貨。

 俺は、トロヤリと連れ立って、砂漠へと向かった。


 茹だるような暑さなのだろうが、俺とトロヤリには関係ない。

 分子運動が速くなれば、物質は熱くなる。空気の分子運動をコントロールして、俺達の周りの空気は冷める。

 俺達は分厚い革のベスト、クルギを着ている訳ではない。クルギの内側には毛皮が貼られているため、この国では異様な格好となる。

 俺達が着ているのは真黒なマントのような布だ。その布を体に巻き付けているだけだ。

 装飾のない真黒な布。

 この国で、一般的に着られているコンラートと呼ばれる衣装だ。

 ただし、ヤートに許されているコンラートは、装飾のない真っ黒の物だけだ。

 俺たちは、体中にそのコントーラを巻き付け、頭巾のようにして口元まで覆っている。

 コントーラの下は麻のシャツに麻のズボン。

 足元は革のサンダルだ。

 腰にはヤートの誇り、ホウバタイ。

 このホウバタイだけは、どこの国でもヤートが身に着けている。

 俺は刀身一.三メートル、身幅が二十センチメートルの両刃剣を、トロヤリは銃身一メートルの対戦車ライフルを背負っている。

 町を出て、三百メートルほどを歩く。

 町を振り返る。

 砂の波間に緑が見える。

 強い青。

 空には雲一つ見えない。

「この辺?」

 トロヤリが俺に聞いてくる。

「ああ、じゃ、父さんの霊子に引き寄せられるから、トロヤリは、この砂山から狙撃だな。父さんは、もう少し離れた所に行くよ。」

「わかった。」

 トロヤリが、茶色の布を砂の上に再構築する。

 その布の上で、トロヤリがライフルを据え付けるのを確認して、俺は歩き出す。

 幽子は、全ての空間を満たす、この惑星の空気のような存在だ。

 だが、空気とはまったく違う存在である。

 幽子は、水中でも宇宙空間でも存在し、それぞれの空間、全てを満たしているのだ。

 ただ、空気に高気圧と低気圧があるように、海に海流があるように、幽子にも流れがある。

 人の多く集まるところは、幽子が消費されるため、幽子量が少なくなる。低幽子状態だ。

 人の少ない所では、自然と幽子量が多くなり、高幽子状態となる。その高幽子から低幽子へと、幽子が流れ込むため、魔獣は幽子の流れに乗って、人の多くいる場所へと導かれる。

 俺の体には、六十四万人分の圧縮された霊子が存在している。

 六十四万人分の精神体と肉体を、データとして保有している量子情報体が、俺の周りを取り巻いているからだ。

 俺は常に、六十四万人分の霊子を消費して、周囲から消費分の幽子を摂りこんでいる。

 俺のいる場所には、常に、幽子が高速で流れ込んで来るのだ。

 魔獣がその流れに乗ってやって来る。

 トロヤリとの距離は五百メートルほどか。

 俺のマイクロマシンでは判別できないアンノウンがいる。

 速い。

 砂の中を進んでいる。

 肉眼で捉えられる距離にいる筈なのに、その姿が見えない。

 足元の振動、一気に襲い掛かって来る。

 俺は霊子ジェットを脇に構築、足元に開いた巨大な口を寸前で躱す。

 背負った剣を抜く。

 大きな口には牙がズラリと並ぶ。

 長い首が俺を追って伸び上がる。

 俺を追っていた下顎が破裂する。

 遅れて銃声。

 トロヤリの狙撃だ。

 魔獣の上顎を斬り裂く。

 見る間に下顎が修復される。

 体を捻って、追って来る魔獣の頭を避ける。

 執拗に追って来る。

『蛇のようだ。ピット器官でどこまでも追って来るぞ。』

 目はない。

 蛇のように伸びた首は、六メートルはある。

 砂の下から首に似つかわしくない足が出て来る。

 トカゲじゃねぇか。

『足のある蛇もいる。』

 え?そうなの?

 霊子ジェットの噴射力を上げて、魔獣から距離を取って着地する。

 魔獣がその全貌を出現させる。

 頭から体付きは確かに蛇だが、四ツ足だ。

 トカゲのような足をしている。

 尻尾の先が持ち上がり、サソリを彷彿とさせる針が見て取れる。

 鼻先には二本の角が生えており、その角にも毒がありそうだ。

『イデアと繋がったぞ。』

 了解。

 イデア、このBナンバーズのことを教えてくれ。

『はい、このBナンバーズはドクロカと呼称されるトリプルナンバーでございます。鼻先の角と牙、尾の先端にデンドロトキシンとファシキュリンを主成分とした神経毒を保有しております。』

『アフリカのブラックマンバと同じ毒だな。』

 ヤバいのか?

『致死率は、ほぼ百パーセント、短時間で回るが、この大きさの牙で注入されたら即死だな。』

 ドクロカの鱗が、小さく震えて立ち上がる。

『それと、このBナンバーズは、鱗にも同じ毒を保有しており、その鱗を飛ばします。』

 飛んで来た。

 もっと早く言えよ!

 俺は、脳底の霊子回路をフル回転させて、脳のクロック数を引き上げる。

 高速ゾーンに突入。

 俺の周囲で時間の流れが緩やかになる。

 体内のマイクロマシンを制御して、筋肉その物の動きを強化、表皮と骨をカルビン化し、音速を超えたスピードを生み出す。

 跳ね上げた巨大な剣が、音速を超えて衝撃波を発生させる。

 爆発音を伴って、俺の周囲で砂が激しく舞い上がり、飛来していた鱗を全て弾き返す。

 そのまま、走り出す。

 ドクロカの後方から三発の銃弾が迫っていることを確認する。

 俺の剣がドクロカの喉元に突き刺さる。

 この剣は、この世界で言うところのオリハルコン製だ。最小のマイクロマシン、F型マイクロマシンで造られた剣だ。どんな物質の分子間にも入り込み、その結合を切り離す。

 弾丸がドクロカの頭を撃ち抜く。

 ドクロカの角と牙が吹き飛ぶ。

 霊子ジェットを噴射。

 伸び上がったドクロカの喉を斬り裂きながら上昇。頭までを真っ二つに斬り裂き、ドクロカから噴出する霊子を俺が吸い上げる。

 魔獣は、体内にマイクロマシンを製造する器官を持っている。

 この世界では、宿りの精霊と呼ばれるマイクロマシンだ。

 魔獣は、この宿りの精霊で体内の組織細胞を無理矢理結合させているのだ。

 その為に、魔獣は、常時、大量の霊子を消費する。その大量の霊子を補充するため、周囲の幽子を摂り込み、その周囲を幽子の枯渇状態にする。だから俺のマイクロマシンは、魔獣の周囲では活動できなくなる。

 魔獣から霊子を抜き取れば、宿りの精霊による自己再生システムも機能しなくなる。

 ドクロカは、体内の霊子を失い、その傷を修復することができなくなって、砂を巻き上げ、その場に倒れ込んだ。


 ドクロカの牙と爪、尾の先端は、毒袋から先の部分、そして、大量の鱗。それらを縛り上げ、トロヤリと二人で背負う。

 俺達の身の丈を優に超える荷物となるが、俺達はマイクロマシンで身体を強化しているので、それほどの重さは感じない。

 ただ、足元が砂にとられて歩きにくい。

 その荷物を背負って、元来た町に戻れば、羨望と慄きの目で見られるが、その視線も直ぐに非難の目に変わる。

 ヤートは、どこまで行ってもヤートだ。

 ヤートを人間として扱うのはトガナキノと元神州トガナキノ国連邦国家だけだ。

 先に水を注文した店に、再び入る。

 店の中央、三人の男達が、意識を阻害されたまま彫像のように立っている。

 その周囲を、同じ格好をした男五人が取り巻き、真っ青なコンラートを着た男が、固まった男達の様子を調べていた。

 入店した俺達に向かって、店内の人間が、一斉に注目する。

 音を立てて、床に荷物を下ろす。

 その荷物を見た全ての人間が、驚きの表情を見せる。

「オッサン、水を持って来い。綺麗な水をだ。」

 ぶっきら棒に注文する。

 店主が慌てて、店の奥に引っ込む。

 真っ青なコンラートを着た男が、俺に近付いてくる。

「ヤートの魔狩りか。」

 自問自答だ。問い掛けではないと判断する。

「トーヤ、疲れたか?」

 男の言葉を無視して、俺はトロヤリに話し掛ける。

「魔獣狩り自体はそんなに疲れないよ。でも荷物が重かったぁ。」

 俺は、トロヤリの言葉に口角を上げる。

「ヤートの魔狩りよ、あの三人に何をした?」

 俺は男の方へと顔を向ける。

 背凭れに右腕を預けて、その態度を尊大なものにする。

「テメエ、名前は?」

 人にモノを訊ねるんだから、名前ぐらい言えヨ。

「ヤートよ、貴様の主はどこだ?」

 ヤートは、その集落から出ることが叶わない。

 出ることができるのは、領主の許可をもらってからだ。しかも、ヤートが、集落以外を、単独で移動することも認められていない。ヤート帯同許可証を持った人間と同伴であって、始めて、移動することができるのだ。

「主か…テメエの主はどこだ?」

 男の眉が顰められ、下の瞼が神経質そうに痙攣する。かなり怒ってるね。

「俺にモノを訊ねたいなら、テメエの主を連れて来い。そしたら気分によっては答えてやる。」

「死ぬか?」

 この男、魔法使いだ。

「あの三人を救うこともできない奴が、俺を殺せると?」

 男が呪言を唱えようと口を開く。

「口を閉じろ。」

 俺の一言で、男が口を閉じる。

「テメエの口臭がキツイんだヨ、喋るな。」

 男が無言となって、顔を赤くさせる。

「あんたら、その旦那を知らないのかい?」

 店内の隅から、知った男の声が響く。

 全員が、その声の方へと顔を向ける。

「ちっ。また、テメエか。」

 俺は呆れた声を上げる。

 黒い服、頭まですっぽりと被った頭巾も黒。 

 しかし、俺達ヤートが着ているコントーラではない。服の裾、頭巾の縁などに赤い線が入って装飾が施されている。

 男が、店内の隅から立ち上がって、俺の方へと足を運んで来る。

 短躯な男だ。手足がひょろりと細い。

 その顔と相まって、カエルのような印象を周りに与える男だった。

 その男が、体を左右に揺らしながら、店内を見回す。

「へへ、穢れた血を持つヤートだが、この旦那が、ただのヤートじゃねえってことは、皆さん良くお判りでしょうよ。」

 男が、店内の人間に話しながら、俺に近付いて来る。

「へへ、ちょいとごめんなさいよ。」

 男が、青いコンラートの魔法使いを押し退け、空いていた俺の対面に座る。

「誰が座って良いと言った。」

 男が両手を持ち上げ、「まあ、まあ、」と俺を宥めようとする。

 男が、再び、店内を見渡す。

「あたしゃね、こう見えても世界中を股にかけて商売してる、キドラ・センタルってもんです。」

 男、キドラの言葉に店内が騒めく。

 キドラが俺に顔を向け直し「どうです?あたしも結構、名前が売れてるでしょう?」と、自慢気に言ってくる。

「ハッ悪徳業者キドラってことで売れてんだろうが。」

「へへ、まあ、その二つ名についちゃ、否定はしませんがね。」

 この男は、魔法具の原料を買い集める男だ。

 場合によっては、インチキ臭い物も売っているが、この男に頼めば、大抵の物は揃えてくれると評判を呼んでいる。

 裏では‘深海の耳’という組織を運営しており、普段は偉そうな椅子に踏ん反り返って自分の事務所からは出て来ないのだが、俺が魔獣を狩る時は、高確率でコイツが付いて回って来る。

 恐らく、コイツの情報収集力、その力を知っている者の方が多いだろう。

「ででで、それでさ、こちらの旦那、このお方を皆さんはご存知ない、と?」

 道化師のように大きな仕草を交えながら、キドラが店内での声を大きくする。

「こちらのお方は、穢れた魔狩り、世界最強の魔狩り、必伐の魔狩りと呼ばれるお方、クズデラ・ヤート様です。」

 大きなどよめきが起こる。

「今日は、トーヤの坊ちゃんと二人で、ドクロカをお狩になられたんですね?」

「ああ。」

 俺の返事を聞いた魔法使いが、服に負けず劣らず、顔を真っ青にさせて後退る。

「旦那、その様子だと、見事にお仕留めになったんでしょう?」

 浅黒い肌に皺くちゃの顔。白いまばらな髭が、その人相を汚いモノに仕上げている。その顔が皺の中に埋もれるように笑う。

「仕留めたよ。でも、魔石は売れねえぞ。」

「へへ、参ったなぁ。そう、話しを急かさなくってもイイじゃねえですか。」

 キドラが、床上の荷物にチラリと視線を向けてから、話し出す。

「鱗と牙と、おっと、尻尾まであるじゃねえですか、しかも毒袋付きだ。」

 コイツ、最初っからソイツを見てただろうが、小芝居しやがって。

「ああ?魔石が目的じゃねえのか?」

 小芝居に付き合ってやる。

 キドラが頭に手をやって「へへ、」と、笑う。

「魔石の方はなんとかなっておりやすので。」

 なに?

 おかしいじゃねぇか。

「どういうことだ?魔石の方がなんとかなってるだと?俺達以外にも魔獣を狩れる奴らがいるのか?」

「へえ、ありがたいことに。」

 顔色を変えずにキドラが平然と答える。

 俺は右腕をテーブルに乗せて、前のめりになる。キドラの表情に微妙な影が浮かぶ。

「感心しねえな。」

 俺の低い声にキドラの愛想笑いが固まる。

「嘘はダメですよ、キドラのおじさん。父さんの一番嫌いなモノの一つだよ。」

「いや、嘘なんて言ってないですよ、トーヤの坊ちゃん嫌だな。」

 キドラが(おもね)るように、トロヤリに話し掛けるが、トロヤリは視線だけをキドラに向ける。

「僕でもわかる嘘が、父さんに通用する訳ないじゃないですか。」

 キドラの喉仏が上下に動く。

 俺が、テーブルに肘を置いたまま右手を持ち上げる。

 キドラが上体を僅かに引く。

「だ、旦那、ちょ、ちょっと落ち着いてくださいよ。」

「俺は、落ち着いてるよ。落ち着きがなくなってるのはテメエの方だろ?」

 キドラの蟀谷を汗が流れる。

「わ、わかりやした。わかりやしたから、その手を下ろしてくださいよ。」

 俺は観念したキドラの言葉を聞いて、右手を下ろす。

「まったく、参りますよ。本来なら代金を積まれても喋ることのねぇネタなんですぜ。このことが知られちまったら、世界中の国がソイツを血眼になって探し出して、争奪戦になっちまう。そうなったら、コッチの商売が上がったりだ。」

 額の汗を拭きながら、キドラがくさったように呟く。

「心配するな。ここでの話は俺達の胸に仕舞っとく。とっとと喋っちまえ。」

 キドラが俺達の周りを囲む魔法使いたちにチラリと視線を向ける。

「心配するな。コイツらの意識はない。」

 俺の言葉にキドラがギョッとした表情を見せる。

 俺が魔法使いの腕を取って魔法使いを転ばすが、魔法使いは、呻き声一つ上げることなく床に転倒したままとなる。周りの人間も微動だにしていない。

無理(・・)()すれば(・・・)お前からも聞き出すことぐらいできるぞ?」

 キドラが溜息を吐いて話し出す。

「クドラ草ってご存知ですかい?」

 聞いたことのない単語に引っ掛かる。

「クドラ草?なんだそりゃ?」

 キドラが首を竦める。

「旦那、小さな声でお願いしますぜ?」

 周りの人間は意識がない、キドラの心配は杞憂だ。俺はその言葉に対して、右手の人差し指でテーブルを小刻みに叩くことで応える。

 キドラは眉を顰めながら、それでも口を開く。

「クドラ草ってのは魔石と同じ成分を含んだ高山植物なんですよ。」

「ほう?そいつは初耳だな。」

 思わず前のめりになる。

「旦那はご存知ないようだから聞きますがね?魔草ってのは知りやせんか?」

 魔獣じゃなく、魔草?

「知らねえな。なんだそりゃ?」

 額の汗を袖で拭いながら、キドラが話し出す。

 魔草とは、人を襲う植物だと、キドラは話す。

 クドラ草とは、その一種ではないかと推測されているそうだ。で、そのクドラ草も人を襲うのかというと、そうではないらしい。

 魔獣は討伐されることが滅多にない。それこそ、百人単位での討伐隊が必要となってくる。

 魔道具を製造販売する者達は、魔獣討伐の結果、得られる魔石を、全て、手に入れられる訳ではない。

 ほとんどの場合が、国に、強制的に買い上げられてしまうからだ。

 その魔石の代替品となるのが、クドラ草という植物なのだそうだ。

 クドラ草から抽出した魔石成分を使用して、魔道具を製造するのだが、そのクドラ草は、龍の住処である高山にしか自生しておらず、そのクドラ草を採りに行くだけでも命懸けとのことだった。

「どうも、龍どもは、そのクドラ草を食っているようで、中々、龍の隙をついてのクドラ草採取は、骨の折れる作業なんですよ。」

「成程な、魔道具店で売られてる品物、どうやって魔石を手に入れてるのか疑問だったが、そういうことか。」

 キドラが頭を掻きながら「へへっ」と笑う。

「でさ、この間、大量にクドラ草を仕入れることができたんで、魔石の方は結構なんでさ。」

 俺は口角を上げる。

「じゃあ、今回は何が目的なんだ?」

 キドラが床上の収穫物に目を向ける。

「今回は、その毒袋の方で、」

 キドラが厭らしい笑みを浮かべる。

「なんだ、人殺しか?」

 震えるように首を振る。

「イエ、イエ、イエ、まさかですよ。そんな、魔道具原料屋のあたしが、そんなモンに加担する訳ねぇじゃねえですか。」

「フンッ裏も取らねえくせに、何をぬかしやがる。」

 キドラが口角を上げる。

「そりゃあね。客の注文に応じて、一々、この材料は何にお使いになるのですか?なんてことを聞いてちゃ、数が捌けねえですからね。」

 俺はジッとキドラの目を見詰める。

 笑ってはいるが、その蟀谷に汗を流している。内心は恐怖心を抑えることで手一杯なんだろう。

「面白いネタがあれば買ってやる。」

 俺の言葉にキドラの肩から力が抜ける。

「さっきのクドラ草の話で…」

 俺の一睨みで、キドラが口を噤み、肩を竦ませて、口を歪める。

 思い直したように俺へと視線を向けて「わかりました。」と、観念する。

「じゃあ、今から話すネタの代金が、そのドクロカの毒袋ってことでイイんですかい?」

 キドラの言葉に俺は頷く。

「あの、時折、空を飛んでる大きな船のことなんですがね。」

 即座にキドラが話し始める。

「神州トガナキノの船のことか?」

 キドラが顔を顰める。

「ご存知なんですかい?」

 当然だ。俺が造ったんだからな。

「じゃあ、その神州トガナキノ国のことは、どの程度、ご存知なんですか?」

「俺からネタを仕入れるつもりか?」

 キドラが項垂れる。

「殺生ですぜ旦那。」

「他にネタはねえのか?ないなら、商談はなしだな。」

 キドラが慌てて顔を上げる。

「イヤ、イヤ、ちょっと待ってくださいよ。とっておき!とっときのがありますから!」

 じゃあ、言ってみろよ。

「どんなネタだ?」

「へへ、コイツは多分、旦那もご存知ありませんぜ。」

 キドラが前のめりになる。

「その神州トガナキノの船以外にも空を飛ぶ機械を見たって奴がいるんでさぁ。」

「なに?」

「へへ、西の国の機械で、その機械を使って戦争しまくってるって話です。」

「国名は?」

 キドラがチラリと視線を毒袋へと向ける。

「ちっ」

 俺はドクロカの毒袋を、音を立ててテーブルに置く。

「へへ、ありがとうごぜえやす。」

 そう言いながら、両腕で毒袋を抱え込む。

「いいから、国名は?」

 キドラが、大事そうに毒袋を抱えたまま、その国名を口にする。

「ジェルメノム帝国って名前です。」

 俺はその国名を頭に刻み込んだ。


 ギルドというのは独占性の高い組織だ。

 新規参入が困難になるように仕組まれ、談合などが当たり前になる。

 自由経済を推進したい俺としては、魔狩りの組織が、ギルドになるのは避けたい。

 組織形態としては同じだが、組合という組織ならば、そこで働く労働者の保護が目的となる。

 だから、魔狩りで組織する団体は、ユニオンの名称を選択した。

 魔獣狩りユニオンを組織するにあたっての、本来の目的は、国外での魔獣狩りだ。

 霊子結晶は、元素が揃っていれば再構築することはできるが、不明の元素を数多く含んでいる。つまり、霊子結晶その物を手に入れる必要がある。

 俺も含めて、トガリの中には九人の人格が存在する。その中でも物質の再構築を担当するのがイズモリとトーヤという二人の副幹人格だ。イズモリが物質の基本構造を理解しており、トーヤが、元素、物質の元素配列を記憶している。つまり、イズモリが設計、構築を担当し、トーヤが、その元となるデータベースとなっている訳だ。

 そのイズモリの話によると、不明の元素が混じっていても元の構成がわかっていれば再構築はできるとのことだった。

 完成したプラモデルを一度バラして、再度、完成させるのと同じだと言っていた。

 俺にはできねえけどな!

 で、霊子結晶その物を手に入れるには、魔獣を沢山狩る必要がある。だから、ヘルザースが魔獣狩り組合を起ち上げなさい。と、俺に言ったので、俺はヘルザースに「じゃあ、お前、起ち上げといて」って言ったわけだ。

 うん。

 ヘルザースは怒ってた。

「ご自分で起業なさればよろしいでしょう!」

 って怒ってたけど、面倒臭いから、「じゃあ、勅命ってことで、起ち上げといて。」って言ったら、ヘルザースが起ち上げてくれた。うん。ありがとう。って心の中でお礼は言っといたよ。

 それで、まあ、ヘルザースが起ち上げたんだけど、その起ち上げに際して、ヘルザースがスーガに命じたんだよね。

 その命令の内容ってのが、元連邦各国に「魔獣狩りユニオン創れやゴラア!」と言って来なさいというものだった。

 神州トガナキノ国の庇護を失った連邦各国は、魔獣災害に頭を悩ませていたので、一にも二もなくこの話に飛びつき、即座に魔獣狩りユニオンが各国で設立されたのだが、その後がエグかった。

 一 魔獣狩りユニオンに所属する魔狩りが、所有する武器の携行及び街中での使用許可

 二 魔獣狩りユニオン所属の魔狩りは、入国審査拒否権を有し、入国審査を受けずに入国することができること

 三 魔獣狩りユニオン所属の魔狩りに対しては、王族同等以上の対応を配慮すること

 以上、三つの暴悪な規定が、元連邦各国に突き付けられたんだよねぇ。

 おかしいよね?

 特に三つ目。

 王族と同等以上の対応を配慮せよって、どうよ?おかしくない?

「何を仰っておられるのですか。魔獣狩りユニオンとは言え、組合員は陛下お一人ですぞ?神州トガナキノ国の国王が、自ら勝手に、好き放題に各国に赴くのです。王族対応程度では足りないぐらいです。」

 うん。たしかに俺以外にメンバーはいない。これから徐々に増えていくんだから今はいない。いないよ。

 だって、この国、広告禁止なんだもん。

「ヘルザース!大々的に加入者募集の告知をしようぜ!」

「ダメです。神州トガナキノ国では、広告の類はすべて禁止しておりますので。」

 …

 もう、開いた口が塞がらなかったね。俺が考えてたのは、新商品の広告禁止ってことで、従業員募集とかは考えてなかったもん。

「いや、街中には、結構、従業員募集の広告が貼ってあるよ?なんで、魔狩りは駄目なの?」

「まず、性質が違います。」

 俺は眉を顰める。

「性質?」

「はい。物を売る商店の場合は、取引の対象となる商品その物を広告対象としてはなりません。」

 うん。商品の告知ダメってことだよね。それはわかる。

「したがって、その商品を売るための労働力を募集することは、その規制の対象とはなりません。」

 うん。そりゃそうだ。

「しかし、ユニオンの場合は組合員の保護及び権利の確保を目的としており、その組合員から組合費を徴収し、魔獣狩りを斡旋することで成立致します。」

 うん。

「つまり、組合員は労働力であると同時に商品と同じとなる訳です。」

 ああ。そういうことね。納得した。

「ですから、商品を募集し、その商品を労働力として提供することになりますので、ユニオンの加入者募集の広告を認めることはできません。」

「じゃあ、大目に見てくれよ。」

「はっはっはっは!」

 笑っただけでスルーしやがった。

「じゃあ…」

「トンナ陛下たちは‘今日の王室’の収録がありますので、魔獣狩りユニオンに所属することはできませんぞ。」

「オル…」

「オルラ様はご隠居様。魔獣狩りなど、とんでもございません。」

「ど…」

「ご自分の足で、加入者をお探しになられるのが宜しかろうと存じ上げます。それに、この手のお話は、マネージメントをさせておりますスーガにご相談するのが筋でございましょう。」

「いや、スーガがお前に相談しろって…」

「さて、お話は終わりですな。(それがし)は仕事が忙しいのです。暇な陛下にお付き合いできるのはここまででございます。さあ、無縫庵にお戻り下さいませ。」

 こいつ、最後まで俺の話を聞かなったな。

 俺の座っているソファーの両サイドに獣人女性の秘書二人が並び立ち、「失礼いたします。」と声を掛けてから、俺の両脇に手を差し入れて、俺を軽く持ち上げる。

 そのまま、俺は行政院第一席の執務室から放り出された。

 ひどい扱いだ。

 俺は立ち上がって、執務室のドアをぶっ叩く。

「ヘルザース!!」

「どうぞ。」

 執務室のドアを乱暴に開けて、足音を立てながらヘルザースに近付き、執務机を叩いて怒鳴る。

「なんとかしろよ!!加入者集めぐらい手伝え!!」

 書類から目を離し、ヘルザースが俺の方を見る。

 溜息吐きやがった。こいつ、ホントに俺の家臣?

「わかりました。それでは、加入者集めをお手伝いいたしましょう。」

 お?

 なんだ、えらくすんなりだな?

 すんなりだぞ?おかしいぞ?

 あれ?

 なんで?


 で、今なんだけど。そう、今までのことは昨日の話。

 で、今なのよね。

 今、俺の目の前にヘルザースが集めてきた加入者が二人いる。

 魔獣狩りユニオンの会長室。

 ユニオンマスターの部屋に、スーガが「新しい従業員二人が入りました。」と、連れて来たのだ。

 うん。

 二人とも知ってる。

 顔見知りどころかよく知ってる。

 一人は美少女かと思えるような美少年。

 俺の中ではまともな女はコイツだけ。

 美少女認定しているカルザンだ。

 なんで?

「私は、あのドキュメンタリー番組の‘なんだか魔獣を狩りたい気分’が大好きなんですよ!」

 志望動機はそうらしい。うん。知ってたけどね。あの番組が好きだってことは。

 …

 カルザンも馬鹿?

「すると、その話しをお聞きになったヘルザースさんが、魔狩りになれますよ?って仰って下さったので、なります!って答えてました。」

 エヘへ。と笑うお前は可愛いよ。可愛いけど馬鹿?

「あたしは陛下のお傍にいられるだけで嬉しいねん。」

 はい、関西弁。

 ヘルザースが、自分の娘をぶっこんできました。

 なんで戦力外の二人をぶっこんで来る?ヘルザースって馬鹿?

 俺はスーガの方に視線を移す。

「この二人って魔獣を狩れると思う?」

 単純な疑問をスーガにぶつけてみる。

「狩れるとお思いなのですか?」

 スーガが驚いた表情で俺に質問を返す。

「質問に質問で返すなよ。」

「いえ、まさかユニオンマスターが、この二人に可能性を見出しておられるのかと思い、驚きました。」

 どこにあるの?可能性。片鱗があるの?どんな片鱗?

「え?でも、ヘルザースさんが陛下に任せておけば大丈夫ですよって仰ってましたよ?」

 カルザン。鵜呑みにしてきたのね。うん。わかった。

 元王族の扱いに苦慮してたヘルザースが、俺に押し付けてきたんだ。最初っからそのつもりだったんだ。

「スーガ…」

「私は知りません。」

 うん。最初(はな)っからグルね。わかった。

 道理で、すんなりとヘルザースが返事した訳だよ。

「ブローニュだっけ?ブローニュは何ができるの?」

「私は笑顔が得意やねん!接客業しとったさかいな!」

 うん。魔獣は狩れないっと。心のメモに書いとかなくっちゃ。間違って、魔獣を狩って来いって言っちゃわないようにね。メモメモ。

「スーガ…」

「魔獣を狩るのはユニオンマスターお一人で十分でしょう。カルザン君にはユニオンマスターに随行して頂き、カメラを回して頂きましょう。」

「メン…」

「いや~これで、メンバー、従業員が揃ってまいりましたな。撮影スタッフに受付嬢と。依頼が立て込んでおったので、受付嬢がいてくれると非常に助かります。」

「いや、魔狩…」

「なんせ、史上最低王の名を欲しいままにしておられる方がトップですからな。誰に声を掛けても断られる始末で困っておったのです。」

「…」

 道理でスーガが加入者じゃなく従業員って言う訳だよ。

 三人が、執務机でショボーンの俺に視線を向けている。

「…じゃあ、よろしくお願いします。」

 俺は思わず三人に頭を下げていた。

兎に角、第一話。お読み頂き、ありがとうございました。

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