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8.街で食事をする

 私が白衣の入った袋をぶら下げてるんるんで歩く様子を見てお母様が笑う。


「アインは服装には興味がないと思っていたけど。…ふふ、欲しい服があってよかったわ」


 アインも女の子ね、と微笑んでいるが女の子がおしゃれな服を欲しがるのとは違う気がする。

 …ま、いっか。


「お母様、次はどこに行きますか?」


「そうね、お昼ご飯にしましょうか」


 浮かれて気づかなかったがそろそろお昼のようだ。

 アインは何か食べたいものはあるかしら…とお母様が私に尋ねる。


「お母様、パンが美味しいお店はありますか?」


 今日のお買い物の目的の一つが、この世界でのパンについて探ることだ。もちろん私は特別パンが好きというわけではない。本当は懐かしの米が食べたい。でもこの世界では米を見たことがないし、市場でも売られている様子もなかった。なのでせめて美味しいパンが食べたい。

 この世界、少なくともこの街ではパンが主食のようで我が家でも毎日パンだ。他の料理は素朴な味だけれど丁寧に作られていて美味しい。お母様やターニャは料理が上手なのだろう。でもパンだけは正直美味しくない。とても堅くてボソボソしている。柔らかい美味しいパンがコンビニなどで手軽に買える日本人の口には合わないだろう。

 だからうちのパンだけが堅くてもそもそしているのか、この世界のパンがそういうものなのか、これを調べることでこれからやることが変わってくるのだ。


「あら?パンならどこの店でも食べれるし、どの店もそれほど変わらないわよ」


「そうですか…柔らかいパンなどはないのですか?」


「うふふ、パンは堅いものよ。子供はあまり好きじゃないかしら」


 あのパンでは子供でなくても好きにはなれないだろう。


「それではどこでもいいです。お母様は何がお好きですか?」


「そうね、今日はこの近くのお店にしましょうか」


 私はお母様の後をついて行く。程なく寝台のような絵が描かれた看板のお店に着いた。入ると女の子がカウンターで受付をしている。私より少し大きいくらいかな。


「お食事いいかしら?」


 お母様が尋ねると女の子が笑顔でカウンターからでてきた。


「はい。空いているお席にどうぞ。今お水をお持ちしますね」


 五つほどあるテーブルは一つが他のお客で埋まっており、私たちは窓際の席に座ることにした。女の子が水を持って戻ってくると、二階からも数人の男女が降りてきて他の席についた。


「お嬢ちゃん!こっちに昼飯四つ持ってきてくれ」


「はーい、只今!」


 私たちのテーブルに水を置くと女の子は元気に注文を取りに向かう。どうやらここは二階が宿、一階が食事処になっているようだ。宿の客も一階で食事をとる。女の子がこちらのテーブルに戻ってきた。


「ようこそ、宿屋ソレイユへ。ご注文は何になさいますか?」


「おすすめは何かあるかしら?」


 お母様がそう尋ねると女の子はちょっと首を捻って、そうですね…今日は鳥肉のお料理がおすすめですよ!と笑顔で答えてくれた。


「ではそれをもらおうかしら。アインもそれでいい?」


「はい、お母様。私も同じもので」


「鳥肉のお料理を二つですね。かしこまりました」


 女の子が笑顔で奥に向かう。そちらが厨房になっているのだろうか。

 元気があって可愛いよね…と私はちょっと羨ましく思う。程なく料理が運ばれてきた。


「お母様、美味しいですね。でもパンは…やっぱりもそもそします…」


「うふふ、パンはみんなこんなものよ」


 パンが堅いのはうちだけではなかったようだ。イーストや天然酵母が無いのだろう。これはやはり本格的にパン作りを始めなければならない。そうしないと一生この堅いパンを食べて暮らすことになる。そんなのは嫌だ。

 今の状況だとイーストは作るのが困難なのでまずは天然酵母を作ることから始めよう。そうすると必要なのは…


「お母様?この後のご予定はどうなっていますか?」


「後は市場で少しお買い物をして家に帰るつもりよ。アインはどこか行きたいところはあるかしら?」


「あとこの街にはどんなところがあるのですか?」


「そうね…少し大門に向かって歩いたところに教会があるわね。それに冒険者ギルドかしら」


 おっふ、冒険者ギルド!ファンタジーの定番!

 王国騎士のお父様は冒険者ギルドに行くこともあるらしいがお母様は行ったことがないという。当然だろう。私も行く用事が全くない。できれば一生係わりたくない組織だ。教会も今のところ全く用がない。


「それでは予定通り、少し買い物をして戻りましょう。あの、お母様?ペンを売っているところはありますか?」


 私は実験や研究をするのに筆記用具に困っていた。インクに付けて使うペンはやはり使いにくい。せめて万年筆はないだろうかと思っていた。


「アインはペンが欲しいの?字はすぐに覚えてしまうし、本当に勉強熱心ね」


「私はお金をもっていませんけど、お母様、買ってもらえますか?」


「もちろんいいわよ。欲しい物があれば何でも言いなさい」


 おおぅ、お母様が優しすぎる。私、結構甘やかされているね。



 食事が終わりお母様がお代を払う。一人分が大銅貨三枚だった。服に比べて随分安い気もする。それとも服が高いのだろうか。


 店を出た後はペンが売っている店に向かう。先ほどのボルボワ商会のすぐ近くだった。店内を一通り見回してみたが万年筆は売っていないようだ。インクに付けて使うペンが、簡単なものからゴテゴテと装飾されたものまで、様々置いてある。

 …こんなに装飾されていたら持ちにくいんじゃないかしら。


 私はシンプルな造りの、なるべく持つところが太いものを買ってもらう。胴の部分、グリップが木でできているので()り抜けばインクを入れられそうだと思ったのだ。先の部分は尖った金属でできているので少し加工すれば万年筆のように使えるかもしれない。もちろん加工は魔法でするのだ。


 最後に市場に向かいお母様が野菜やお肉を見て回る。たくさん買っても持って帰れないので今日の夕飯の分だけで、残りは注文だけしている。後で家まで届けてくれるそうだ。


 私はここでも丁度目に留まった梨のような果物を買ってもらう。これはパン作りのための材料だ。甘いものが好きなわけじゃないよ…いや好きだけど。


「お母様?葡萄を干したようなものは売っていませんか?」


「葡萄?ああ、レーズンかしら、こっちにあるわよ」


 おお!レーズンがあった。これも買っておこう。


 私は今日の収穫に大変満足して帰路に就いた。


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