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71.鉱山崩落事故

 その日もいつものように研究室に籠りまったりと研究をして過ぎてゆく、そんな当たり前の日常になるはずだった。そう思っていた。

 研究室にマリーさんが駆け込んでくるまでは。


「アインスターさん!アインスターさん居ますか!マリーです、教会のマリーです」


「どうしたんですか、マリーさん。今日は研究室に来て頂く日ではないですよね」


 いつも何かと落ち着きのないマリーさんだが、今日は様子がおかしい。


「アインスターさん、大変なんです!直ぐに来て下さい、ええと怪我人がたくさん、とにかく来て下さい」


「マリーさん、ちょっと落ち着きましょうか。はい、深呼吸して、さあ、ゆっくり話して下さい」


 すぅー、はぁーと大きく息をするマリーさん。何か大変なことが起こったということだけはわかる。


「アインスターさん、聞いて下さい。王都のはずれにある鉱山で崩落事故が起きました。崩落に巻き込まれて怪我を負った者が教会に助けを求めてやってきたのです」


 教会を訪れた者は幸い軽い怪我で自力で窮地を伝えにきたのだが、現場では怪我が酷く動けない者、また崩落によって鉱山内に閉じ込められている者が大勢いるようだ。


 どう動くべきか、しばし頭を整理する。私も突然の話に混乱している。まずは冷静に情報を整理しなければいけない。よし、教会に向かおう。


 研究室にいるマルキュレさんに声をかける。


「マルキュレさん緊急事態です。医療チームの出動を要請します。訓練場にいるフローレンスさんを連れて教会まで来て下さい。私は一足先に向かいます」


 包帯に消毒液、鎮痛剤と抗生物質…私は現場で必要なものを伝える。マルキュレさんは一つ頷くと直ぐ様準備に取りかかった。


「それではマリーさん、まずは教会に行きましょう。こちらに来て下さい」


 私はマリーさんを連れて研究所の裏手にまわる。馬に乗れない私は自分の移動手段として二人乗りの小型カートを作っていた。まあ実際に作ったのはダニエルさんとケイト君だが。

 これはカムパネルラと同様の魔力モーターを出力を落として搭載したドラム式の無段変速カートだった。


「さあこれに乗って下さい、急ぎますよ」


 恐る恐る乗り込むマリーさん。私が動いたことで落ち着きを取り戻したようだ。


 私はカートを発進させる。王都の街道は石畳だったり舗装されていないところが大半でカートでは走行出来ない。そのため大きく迂回するような格好になるが、それでも徒歩や馬車を使うよりも早い。

 鉱山が王都のはずれにあることや、マリーさんが教会からここまでやってきた時間を考えると、崩落からは長くて半日ほどが経過していることも考えられる。それでも急ぐに越したことはない。


 道中、着いてからの行動を整理する。マルキュレさん達の医療チームが到着するにはしばらく時間がかかる。まずは怪我人から詳しい話を聞いて現場に向かうことになるだろう。マリーさんは教会で待機だな。

 

「マリーさん、教会を訪れた方の手当ては済んでいるのですね?」


「はい、軽傷でしたが念のため消毒液で対応しました。今は教会で休んでいるはずです」


 うん、よろしい。たとえわずかな傷でもきちんと消毒することで破傷風などの感染症を防ぐことができる。今回のような事故で大切なのはまずは怪我の治療とそして感染症の予防だ。


「教会に着いたらマリーさんは怪我人の受け入れ体制を整えて下さい。現場で動けるようになった者から順次教会へ案内します」



 マリーさんと段取りを確認しながらようやく教会に到着すると、既に数人の負傷者が教会で休んでいた。


「マリーさん、直ぐに手当てを」


 私は最初に教会を訪れた者から話を聞く。


「なるほど、動けない重傷者は数名、鉱山内には数十名が取り残されているといったわけですね。それで警備隊の詰所と騎士団本部にそれぞれ応援を要請しに向かったと。概ねわかりました」


 私は早速現場に向かう。話をしてくれた若者も道案内を兼ねてついてくるということだったのでカートに同乗させる。見慣れぬ乗り物に最初は怯えた様子だったが私が急かすと渋々乗り込んだ。


 教会に常備させてある消毒液や鎮痛剤をカートに積み込み出発。他に万が一私が鉱山に潜る事も考えてガスマスクも積んである。もっとも警備隊のほうにも連絡がいっているということなので救出は彼らに任せた方がよさそうだ。



 鉱山に到着し、重傷者の応急手当てを行っていると、間もなくして警備隊の一団がやってきた。カートで移動していた分、私のほうが早く着いたらしい。あれ?でも思ったよりも人数が少ない。大丈夫かしら。


「我々は先遣隊です。本隊は準備が整い次第こちらにやってきますので、それまでに私達で状況の把握に努めます」


 私が魔法大隊の所属であることを告げると彼らは一瞬驚いたように目を見開いたが、私の名前を聞いて納得したように頷いた。


「お噂はかねがね。我々はこれから鉱山に入りますがどうなさいますか?」


 実は鉱山の中というのは深く潜れば潜るほど魔素が安定しない。濃度が濃いところもあれば全く魔素が無い場所もあるらしい。そのような場所では魔法の制御が難しかったり逆に魔法が使えなかったりということになる。どこで崩落が起こったのかわからないが現場に着いて魔法が使えなければただの足手まといだろう。


「というわけで私は怪我人の応急処置に専念しますが、皆さんこれをお持ちください」


 私は持ってきたガスマスクと青く光輝く一枚のプレートを手渡す。


「このプレートは先程私が魔法陣を刻んだ即席の魔道具です。人が生存不可能な環境で光の色が変わります。鉱山では有毒ガスが発生することもあると聞きますので、このプレートを見ながら危ないと思ったら直ぐに引き返して下さい」


 ちなみに魔素の無いところではプレートの光が消えるはずだ。そうなった場合も一度引き返したほうが賢明だろう。あわせて私はガスマスクの使い方を説明する。二つしか持ってきてはいないが、無いよりはましだ。


「これは助かります。よし、先頭の二人はプレートを持ってガスマスクをつけろ。万が一、プレートの色が変わったら後続に報せるんだ」


 私の話を聞いた彼らが意気揚々と鉱山に入っていく。鉱山の中には未だに30人以上の人達が閉じ込められているようなのでその安否だけでも確認できればと思う。


 そうこうしているうちに救出部隊の本体が到着した。掘削のための工具、怪我人を運び出すための担架、救出の準備を整えながら先遣隊の帰りを待っている。


 そうして怪我人の応急処置を終えた私が救出部隊と救出後の打ち合わせを行っていると先遣隊が戻ってきた。


「アインスターさん、鉱山内に有毒ガスが発生しているところはありませんでした」


 報告によると崩落は坑道の中間地点あたりで起こっており、以降の様子は不明だという。しかしガスの発生も無いことから取り残されている人達の生存の可能性は高い。また、私が渡したプレートが常に機能していたことから崩落箇所で魔法を使うことも可能だという。魔法が使えれば救出の役に立つことも多いだろう。


「わかりました。私も救出部隊に加わります」


 こうして救出作戦が始まった。

次回は8月9日17:00更新です

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