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70.新兵器キュービックエンジェル

「ちょっと聞いて下さいよー、アインスターさん。皆さん酷いんですよ。私の顔を見るなり残念そうに今日はもう一人の美人さんはいないのかいって聞くんです」


 研究室でお菓子をぱくぱくと食べながら顔を真っ赤にして愚痴を溢しているのはマリーさんだ。


「それでね、今日はいませんっていうと、肩を落としてとぼとぼと帰っていくんですよ。全く教会に何をしに来たんだか。そりゃあフローレンスさんは綺麗な方ですからわかりますけど、シスターは私なんですよ」


「はいはいマリーさんにはマリーさんの良いところがありますよ」


 先日の話し合いから私は何度か教会のマリーさんを訪ねて話を聞いたりしていた。最初こそ無関係を決め込んでいたミケラン神父だったが、いてもたってもいられなくなってきたのか、次第に私達の話に入ってくるようになった。

 そして次々と話が進み、遂には研究所で知識の深い者が見習いシスターとしてマリーさんと交代で教会に詰める、その間マリーさんは研究所で薬の知識を学ぶ、ということになったのだ。そこで選ばれたのが魔法師のフローレンスさんだった。

 いったい前回の話し合いは何だったのか、私には疑問だったが、それでもまだミケラン神父は教会、それと自分には無関係ですよと言い張っていた。


「ミケラン神父もどうせ鼻の下伸ばしてデレデレしちゃってるんですよ、まったく。どうせ私はちんちくりんで女の魅力がないんですよぅ」


 ミケラン神父はそんな人ではないと思う。それにマリーさん、よくも私の前でちんちくりんなどと…まあ私の場合は歳が幼いだけだが。


 そんなマリーさんは研究室の皆に任せて私はこれから訓練場だ。私の新しいオモチャ、いや違った、新しい武器を試しに行くのだ。性能試験は小隊に限る。



 訓練場に着いた私は皆を集める。いやぁ、いつも私の都合で訓練を中断してもらって悪いねぇ。


「皆さん、今日はこれから実戦演習を行います。チームを二つに分けて交代で私に攻撃をしかけて下さい。但し近接格闘は禁止、魔法で攻撃して下さいね」


 今日はフローレンスさんが教会に出向いているので私を除くと八名、四人ずつのチームだ。さすがに八人を一度に相手するのは厳しいと思ったので交代でやってもらうことにした。格闘を禁止したのはシズクさん対策だ。


「それではいつでも始めて下さいね」


 てくてくと間合いを取りながら四つのキューブに魔力を込める。私の新しい武器、これに私は立方天使(キュービックエンジェル)という名前をつけた。そしてそれぞれが番号の代わりにもつのはミカエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエル、そう四大天使の名だった。


 私の周りに四つの立方体が浮かぶ。フェーズワン、私が何もしなくても状況に応じて勝手に対応するはずだ。


「おい皆、気をつけろ。また隊長が変なものを出してきたぞ」


 そう言って最初に仕掛けてきたのはベンジャミンさんとジョバンニさん、そして少し離れた所からロンダークさんとドロイゼンさんが二人を援護か。


 ベンジャミンさんの魔法に反応して天使達のモードが切り替わる。フェーズスリー、防衛モード。個々に障壁魔法を展開しベンジャミンさんとジョバンニさんの魔法を防いでいく。


「ジョバンニ、お前突っ込んでアレをなんとかしろ!ロンダークと爺さんはジョバンニを援護だ」


「えぇ、僕がですか?ベンさん人使いが荒いですよ」


 そう言いながらもふらふらと間合いを詰めるジョバンニさん、結構余裕があるように見える。


 後方からの波状攻撃に天使達のモードが上がる。フェーズフォー、相互連携モード。これは四つの個体がお互いに情報を共有することで攻撃に対しより迅速に対応できるようになり、また個々ではどうしても生じてしまう僅かな隙を、お互いがフォローし合うことで限りなく零に近付けるという最大級の特殊防衛モードだ。


 ジョバンニさんの攻撃が尽く天使達に弾かれるのを黙って見守っていたベンジャミンさんがゆっくりと私に射線を向ける。次の瞬間、上空に閃光が走った。攻撃魔法を雷撃に切り替えたのだ。


「状況に応じて魔法を使い分けてきますね。良い判断です。うちの小隊、なかなかやりますね」


 第八小隊の標準装備である魔法銃は様々な魔法を切り替えて使うことができる。とはいっても一番使いやすいのはやはり基本魔法のファイアーで、強力な魔法は射線が安定しなかったり距離が掴み難かったりして扱いが難しい。

 サンダーの魔法も頭上からの攻撃によって射線上の障害物を無効化でき、また魔法障壁などを通過するという強力なものだが、相手との距離が掴みにくく扱い辛い魔法でもあった。

 それをベンジャミンさんは上手く使いこなしている。


 しかしそれも立方天使は対応済みだ。魔法の兆候を感知して、ミカエルが私の頭上に対電防御を施す。電気を誘導する網を広げ、それによって電気を地面まで逃がすのだ。私の頭上で眩い光が二、三度キラキラと輝いて消えた。


「ちっ、これも駄目か。よし、一旦撤退!」


 あっさりと引き返していくベンジャミンさんチーム。まあ様子見といったところだろう。ナイトハルトさん達に代わる。


「おい、ハルト、見てたと思うがあの四角い物体がこっちの攻撃を通さねえ。今のところアイン小隊長は何もしてこねえが、気をつけろよ、いつ攻撃してくるとも限らねえ」


「ベンさん、何か対策は?」


「無い。これから考える」


 まず遠くから魔法を放ってきたのはナイトハルトさんとジャンヌさんだ。感触を掴んでいるのだろう。


「ほんとだね、あれは厄介そうだよ。どうする?」


「………私が、落とす」


 こちらに向けて一直線に走ってくるのはロックウェルさんとシズクさん。こちらの攻撃に備えてロックウェルさんが盾役として突進してきたのだろう。間合いを詰めたところでシズクさんが飛び出した。


 ロックウェルさんを踏み台に飛翔一閃、前に出ていたウリエル目掛けて自慢のデスサイズを振り抜いた。


 ガコッ!


 凄い音を立てて地面に激突するウリエル。まじか!シズクさん、いやこれは私に対する近接戦闘じゃないからありなのか!?

 でもまあ金属製にしといて良かった。ブロックが飛び散らなければ大丈夫だろう。しかしこの調子で落とされては堪らない。


「仕方ありませんね。解放(リリース)!」


 フェーズファイブ、天使達に反撃を許可した。地面に突き刺さったままのウリエルの分まで頑張って欲しい…あ!ウリエル動き出した。


「………二つ目、む!?」


 ラファエル目掛けて飛び掛かったシズクさんに他の天使達から攻撃が集まる。先の相互連携モードは実は反撃においてその真価を発揮するのだ。


「………アイン、全然動いていない」


 とりあえず打つ術がないのか、ナイトハルトさん達も一度遠距離からの総攻撃を仕掛けた後、退いていった。


 こうなれば本当に対抗策が無い。私でも思い付かない。いや、これが正真正銘の実戦で例えば本気のシズクさんなら立方天使を無視してその攻撃を掻い潜り、私のところまでやってきて必殺のデスサイズ『下弦の月(カゲンノツキ)』を一振り、という手もあるが。

 まあそれでもうちの小隊を相手にこれだけ出来ればその性能は十分だろう。


「ベンジャミンさーん、全員でかかってきてもいいですよー!」


「………アイン、倒す」


 大声で呼び掛ける私に、小隊の皆が円陣を組む。作戦会議をしているのだろうか。


「まあまあシズクさん、そうだ、こういうのはどうですか?」


「おう、なかなかいいがジョバンニお前、それ誰がやるんだ?」


「………ジョバンニがやる」


 どうやら話し合いは終わったようだ。皆が間合いをとる中、ロックウェルさんが防御魔法を展開しながら向かってくる。そしてその後ろから飛び出したのはジョバンニさんだった。


「ジョバンニさん、どうする気だろう」


 様子を窺う私のほうに向かうのではなく前衛で浮遊するラファエルにジョバンニさんが飛び付く。しかし先ほどのシズクさんのように叩き落とすわけでもないようだ。


 ラファエルから放たれる多少の魔法は気にする様子もなく、ダメージを負いながらも抱え込むようにがっちりホールドするジョバンニさん、でもそれじゃあ格好の的だよ。


 私の予想通り、他の三機がジョバンニさんを取り囲み射程におさめた。そして一斉に魔法を発射…しない!?


「あれ?どういうこと?…あ、しまった」


 相互連携モードにより他の機体を護りながら戦う立方天使、今ジョバンニさんを撃てば抱え込まれたラファエルに攻撃が当たってしまうのだ。そして行動思考の優先順位の問題でジョバンニさんを包囲しながら他の行動が取れない。

 これがプログラムを忠実に実行する機械の弱いところで、臨機応変な対応が出来ないのだ。


「そうなると、まずいよね…」


 ジョバンニさんを除く隊員から放たれる魔法の一斉射撃。うん、これはまずい、私の負けだな。


 攻撃体制のまま動かない立方天使の横を通り抜けて私に魔法の雨が降り注ぐ。私はいつものようにインビジブロックでシェルターを築く。


 ズドドドドンッ!!!


 着弾した魔法でもうもうと立ち込める砂煙。


「そういう手もあったのですねぇ、私の完敗です。訓練終了…え!?」


 砂煙の中、訓練終了の発光弾を打ち上げようとした私の目の前にシズクさんが走り込んできた。体を捩らせて一回転、遠心力が加わった大鎌の強烈な一撃に、私の回りに築かれたブロックがパリンッと音を立てて割れる。

 インビジブロックは簡単に言うなら魔法で透明なブロックを作り絶対位置を固定して耐久性を極限まで高めた代物だ。当然その耐久力を超える力が加われば破壊されてしまう。

 もっとも第八小隊の魔法による一斉攻撃でも壊れないのだから、流石はシズクさんという他ない。


「………やっと、アインを捉えた」


 仮面の奥の目がキラリと光る。シズクさんの手には魔法銃、その銃口は私を完全に捉えている。


「シズクさん、降参。ギブ、ギブアップです。」


 なんとも言えない苦笑いで、私は両手を高く上げた。



「はい皆さん訓練終了です。ご苦労様でした」


 ぐるりと小隊のメンバーを見渡す。


「見事にやられましたね、完敗です。皆さん素晴らしい動きでした」


「完敗といってもアイン隊長は何もしてないしなぁ。あのへんてこな機械に勝っただけですぜ」


 そういうベンジャミンさんもどこか誇らしげな様子だ。


「あれは私の新しい武器です。しかしハードに頼りすぎるのは良くないですね。今回それがよくわかりました。やはり最後は人の力です」


「………アインは最近訓練をさぼってる。良くない」


 うぅ、シズクさんの仰る通りです。


「では今日はここまでにしましょう。ジョバンニさん」


 講評を終え、私はジョバンニさんに声をかける。


「総帥としてのジョバンニさんに私の新しい武器、この立方天使(キュービックエンジェル)をプレゼントします。一つは私が持ちますが、残りの三つはジョバンニさんが使って下さい」


「あ、アイン小隊長、そこまで僕の身を案じてくれていたんですか!いやぁ、総帥やっててよかった、嬉しいです。ありがとうございます」


 ジョバンニさんが嬉しそうに目を輝かせた。


「いえ、ジョバンニさんの身を案じているわけではなく、それはカムパネルラに使って下さい。運転席とリンクさせれば勝手に列車を守ってくれますし、カメラ機能はモニターに、まあいいや、後は技術スタッフと相談して使って下さい」


「ああ、そういうことでしたか、それでも有難いです、アリガトウゴザイマス」


 急に棒読みになるジョバンニさん。まあ喜んでもらえて何よりだ。

 こうして私はミカエルを手元に残し、残りをジョバンニさんに託して本日の訓練を終えたのだった。

次回は8月2日17:00更新です

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