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57.学校対抗戦 後編

 無事大役を果たした私はリチャード君達やクラスメイトと互いの成功を讃えあった後、観覧席にお父様の姿を探した。私の実演の最中に声が聞こえたのだから会場にいるに違いない。


「お父様、お母様も。来て頂いたのですね」


 観覧席の前の方でお父様とお母様、それとリヒャルトお兄様が競技場を眺めていた。もうすぐエーリッヒお兄様が剣舞を行うのだ。


「おお、アイン。アインも自由時間か?さっきは可愛いかったぞ。さあ、こっちで一緒にエーリッヒの剣舞を観よう」


 私も席に座る。優しく微笑むお母様の隣りでお父様は上機嫌だ。


「アイン、新しい魔法なんだって周りの観客が驚いていたぞ。まあアインの魔法はいつも新しいものばかりだから父さんは驚きはしないが、とても可愛いかったぞ。なあ、母さん」


 ええ、そうね、とお母様が頷く。


「リヒャルトも開会式の挨拶は堂々としたものだったし、俺は誇らしいぞ」


「そうです、リヒャルトお兄様。騎士学校の代表なんて素晴らしいです」


 かっこよかったですよ、と私が促すと、お兄様は照れたように頭を掻いた。


「父さんも母さんもアインの魔法を観て平然としているけど、それが不思議でならないよ。きっと今頃騎士学校の先生達は大騒ぎだよ、いや、騎士団でも大変な騒ぎになると思うんだけど…私の宣誓なんかと比べ物にならないくらいアインの魔法は凄いと思うんだけど…」


「そんなことはないぞ、リヒャルトもアインも、それにほら、これから剣舞を行うエーリッヒも同じくらい立派だ。なあ、母さん」


「ええ、そうよ。リヒャルトもかっこよかったわ。でもリヒャルトもアインもあまり危ないことはしないでね」


 それでも何か言いたそうなリヒャルトお兄様だったが、結局肩を竦めただけだった。エーリッヒお兄様の剣舞が始まったのだ。


「エーリッヒは随分剣の腕を上げたが、周りがついていけてないなあ」


 お父様の言う通り、エーリッヒお兄様の切れのよさがかえって浮いて見える。お父様譲りの豪快な剣技でリヒャルトお兄様のような繊細さもないため余計にそう見えるのだろう。

 先程のリチャード君との会話を思い出す。どうやら私の周りの人達がおかしいというのは間違いでは無いようだ。


 そこから学年が上がるにつれ、剣舞も魔法の実演も高度なものになっていったが、一年生の魔法実演の時のように会場全体が熱気に包まれることはなかった。

 そしてエーリッヒお兄様が観覧席にやってくるのと入れ替えに、リヒャルトお兄様が席をたつ。


「エーリッヒ、お疲れ様、良い動きだったよ。では行ってきます」


 リヒャルトお兄様の剣舞はさすが最終学年だけあって、皆が動きを揃えた美しいものだった。その中にあってソロの場面では空中で二度、三度と切り返し、着地しては他の者の剣を華麗に捌く、この動きには会場から大きな拍手が起きた。


「リヒャルト兄様のあれはアインに教わった魔法じゃないですか!ずるいです」


 エーリッヒが自分も出来るのに、と言わんばかりにむくれてみせる。


「でもリヒャルトお兄様は随分とアレンジを加えているようですよ。それに他の者と息もぴったりです。エーリッヒお兄様はもう少し他と動きを揃えた方がいいですよ」


「まあ、まあ、いいじゃないか、アイン。エーリッヒの豪快な剣も良かったぞ。リヒャルトが三年生の時よりも強いのだからこのまま頑張ればエーリッヒも素晴らしい騎士になる」


 お父様にそう誉められてエーリッヒお兄様も機嫌を直したようだ。演技を終えて戻ってきたリヒャルトお兄様を再び加え、皆でお昼ご飯を食べた。


「それでは競技の準備があるので行ってきます」


 昼食を食べ終えて、私は魔法学校の待機場に向かう。


「アインと対戦する一年生が可哀想だ」


 後ろで騎士学校の一年生を心配するお兄様の声が聞こえたような気がした。



 午後からは魔法学校と騎士学校の競技大会となり、やはり一年生の出番が一番最初となる。私達もすぐに競技場に入る。


「皆、アインがいれば恐いものは何もないが、油断のないよう気を引き締めていこう!」


 リチャード君が皆に発破をかける。


「リチャード君、相手はおそらく先程リチャード君が言った通り身体強化も習得していないと思います。私も正々堂々、身体強化は使わずに勝負したいと思います」


 一年生の競技はフライアタックというドッヂボールのような球技なのだが、対抗戦では魔法の使用は禁止されている。しかし身体強化は魔法とはされていないため使用することができる。そしてこちらが身体強化を使えば勝負にならないだろう。


「そうだな、相手と同じ条件で勝負しよう」


 リチャード君も私の提案に同意してくれる。


「騎士学校の生徒も来ましたね」


 競技場に設けられたコートの向かいに騎士学校の一年生がぞろぞろと集まってきた。


「あ、あれが『死線』か…見た目は小さいが騙されるなよ。恐ろしい怪物だって騎士団の親父が」

「朝の魔法、見ただろう…大丈夫か、俺たち…」

「ぶるぶるぶるぶる…」


 始まる前から怯えたような視線でこちらを窺っている。大袈裟な物言いだが、普段から接点のない騎士学校の生徒にはそう見えても仕方ない。


「相手はアインに怯えているようだな。よしアイン、一発凄いのを見せてやれ」


 ピィーー!


 試合開始の合図とともにリチャード君からボールを託される。最初の攻撃で敵の戦意を挫くのは戦術的にも正しい。

 午前の実演で一年生の試合に注目している観客も多いのだろう、会場に歓声が響く。


 よし、やってやろう。


「手加減はしません。喰らえ!私を怪物扱いした報いを受けるがいい!」


 てぃ!


 ………ぽわん


 全力を乗せて私の手を離れたボールはすぐ目の前で地面に突き刺さり、バウンドしてふわふわと大きなアーチを描く。そして、


 ………ぽすん


 と、相手の手の中に納まった。


 ………ワハハハハハ!!


 一瞬の静寂の後、会場が爆笑の渦に包まれる。うぅ酷い、そんなに笑うことないのに…


「アイン!来るぞ!」


「え!?」


 へぶしっ!


 身体がごろごろと後ろに転がる。私の投げたワンバウンドボールをキャッチした相手が、直ぐ様私めがけてボールを蹴ってきたのだ。


「やったな!凄いじゃないか」

「え?俺やったのか?」

「ああ、お前は死線を越えたんだ。オーバーザデッドラインだ」


 相手チームの歓喜の声を聞きながら、私の意識はそこで途切れた。



 ううぅ、うぅ…はっ!


 目を開けるとお父様の顔が飛び込んできた。ああ、一般の観覧席か、お母様もいる。それと、え!?ヴェルギリウス所長!?


「目が覚めたようだな、アインスターよ」


「しょ、所長?どうして?」


 えーと、確か競技の途中でボールに当たり倒れたのだった。それがどうしてこうなった?


「其方が倒れたのを見てパウルが心配して魔法学校の待機場までとんできたのだ。幸い気を失っていただけだったのでここまで運んだというわけだ」


「公爵閣下はこちらまで同行して下さったんだ。お礼を言っておきなさい」


 お父様に言われて私は所長に礼を述べる。ついでに聞きたいことも聞いておこう。


「対抗戦はどうなりましたか?リチャード君達は勝てたでしょうか?」


「残念ながら惜しくも敗れた。リチャードから聞いたぞ、身体強化を使っていれば勝てたものを君が提案したそうだな、正々堂々と勝負したいと」


 その通りだ。リチャード君は怒っているだろうか。


「リチャードも君の事を心配していた。それに負けはしたが良い勝負が出来たと胸を張っていた。近頃は身体強化に頼りすぎていたと反省点を述べていたな、それも計算の内か?」


 さすがにそこまでは見越していなかった。身体強化を使わなくても普通に勝てると思っていたのだから。


「まあ、其方が一番油断していたようだが」


 所長が笑ったような気がした。表情からはなかなか読み取れないが、最近は少しわかるようになった気がする。


「ここしばらくは動き詰めで疲れていたこともあるだろう。今日はもう家族と一緒に帰るがよかろう。この後の親睦会は欠席ということにしておこう」


 そう言うと所長はお父様に私を託して戻っていった。


「学校でも公爵閣下によくしてもらっているようでよかった。最初は魔法学校なんてとんでもないと思ったが、安心だな」


「はい、お父様」



 対抗戦が終わると学校も休みに入る。私は所長の計らいで、一足先に家族とともにフェルメールへ帰った。


 思えば魔法学校での一年間はあっという間だった。鉄道の開発、魔法の研究、それに他にもやりたいことは山ほどある。来年からの学校生活を思い浮かべると自然頬が緩むのであった。

 これで第三章の本編が終了です。また少しのサイドストーリーを挟んで第四章へ移ります。二年生になるアインはどんな活躍をみせるのでしょうか、私も楽しみです。

 ゆったりとした更新速度ですが引き続き楽しんで頂ければ幸いです。

              loooko


次回は4月19日17:00更新です。

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