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5.魔法を使ってみる

 翌朝私はメイドのターニャに起こされた。どうやら大変疲れていたようでぐっすり眠っていたのだ。


「お嬢様、申し訳ございません。パウル様が早く起こしてくるようにと」


 せっかく気持ちよく眠っていたのに。くそぅ、お父様め。


「わかりました。準備をしてから参ります」


 そういうとターニャはにっこり微笑んで戻っていった。


 私がいそいそと着替えをしてリビングに到着するとお父様とお兄様達がお母様に叱られていた。あれ?何かあったのかな。


「お母様、おはようございます」


「おはよう、アイン。アインがリヒャルトたちに何かしたようね。昨日の夜から大騒ぎで大変だったのよ」


 お母様が呆れた顔で私に尋ねる。どうやらお兄様達は朝まで身体強化して騒いでいたらしい。


「まあまあ、母さん、それくらいでいいじゃないか。リヒャルト達も反省している。な?」


「まあまあ、じゃありません、あなたもですよ!寝室に戻ってこないと思ったら子供たちと一緒に屋敷中を走り回っているんですから!」


 お父様も一緒になって騒いでいたらしい。それで私までとばっちりである。トホホ…


「お母様、私はお兄様達にちょっと身体を強化する方法を教えただけなのです。ごめんなさい」


「アインは謝らなくていいのよ。さ、さ、朝ごはんを食べていらっしゃい」


 私は食卓に向かいながらお兄様達に注意をしておく。


「リヒャルトお兄様、エーリッヒお兄様、昨日私が教えた身体強化は普段あまり使わない方がよろしいですよ。体に気を流すだけなら構いませんが筋肉を気でコーティングしてしまうとおそらく体が成長しません」


 これ以上背が伸びなくなりますよ、と私が言うと、お兄様達はびっくりした顔で私を見つめてくる。

何故かお父様までびっくりした顔をしている。


「お父様はもう背が伸びないでしょうから大丈夫ですよ」


 私がそう言うとお父様はちょっと残念そうな顔をしていた。筋肉は動かすことによって断裂し、休んでいる間に再生し強くなっていく。気でコーティングしてしまうと断裂が起きないから強くはならない。体も成長しないのではないか、と私は考えている。



 朝食を食べている私にお父様が話しかけてきた。


「アインは昨日教えてくれた体の構造をいったいどこで覚えたのだ?」


「わ、私はお父様の書斎にあった本で読んだのです。」


 慌てて言い訳を考えたけど大丈夫だろうか?まあ、お父様が書斎の本を全部読んでいるとは思えないけど…。


「他にも魔法の基礎なんかもありましたよ。魔法と身体強化は似ているなと思いやってみたのです。お父様は読んでいらっしゃらないのですか?」


「うーむ、読んでいないな。あれはほとんどが昔から屋敷にあったものだ。爺様あたりが集めたのだろう」


 やはりお父様は読書をしないようだ。本はあるのに勿体ない。


「父さんたちは稽古にいってくる。アインは今日はどうするのだ?」


「私は少し素振りをするだけにします。昨日の身体強化で少し疲れてしまったようなのです」


 ぐっすり眠ったので疲れは取れているようだったが、私はお兄様達のように強くなりたいわけではない。最低限の体力が無いとこの世界では生きていくのが厳しそうなので基礎練だけして部屋に戻ろうと思う。


「そうか、まあ無理をしないようにしなさい。本来は騎士学校を卒業するくらいから徐々に身につくものだからな」


「はい。私は朝ごはんを食べてから行きますので、先に行っていて下さい」


 私がそういうとお父様達三人は庭へ出て行った。



 私が朝食を食べ終えて庭にでると、お父様とリヒャルトお兄様が昨日私がやってみせた動きで互いに剣を合わせている。お父様はもちろんリヒャルトお兄様も元々多少は身体強化ができていたようでさすがに覚えるのが早い。


 ふむふむ、自分ではわからなかったが他人の動きを見ると、なるほどちょっとカッコイイと思う。あの動きをアインスター式縮地法と名付けよう。


 エーリッヒお兄様は身体強化に慣れるためか私のように一人素振りをしていた。


 てい、てい、と私が木刀を振っているとお父様が近づいてくる。


「アイン、ちょっといいか?」


「何でしょう、お父様」


 話しかけてくるお父様に私が応える。


「昨日アインがやった動きはだいたいできるようになった。他にも何かあれば教えてほしいんだが」


 私は、うーむ、と首を傾げる。私は武術の専門家じゃないんだよね。


「それでは、居合などはどうでしょうか?」


「居合?聞いたこともないな」


 居合といっても解釈からして様々なのだけど、座った姿勢で鞘から剣を抜く抜刀術のようなものを話すことにする。


「お父様、剣を振る時の構えをしてみてください」


「うん?こうか?」


 お父様が剣を構える。


「立っていますよね?剣を鞘から抜いていますよね?」


 何を当たり前な、という顔でお父様が頷く。


「居合というのは座った姿勢で構えます。完全に座ってしまうと咄嗟に立てませんから片膝立ちのような恰好にしましょうか。そして剣は鞘に納めた状態で持ちます。お父様の剣をちょっとお借りしますね」


 お父様の剣を鞘ごと取り上げて実際に構えて見せる。


「アイン?いちいち鞘から剣を抜いてから振るのか?それでは初太刀が遅れてしまうぞ」


「普通に剣を抜いて振れば遅れてしまいますね。ですから、こう、体を最初から捻っておきます。そして体を戻しながら剣を抜き、そのまま切るのです」


 私が身体強化を使ってその動作をやってみると、ビュッッッ!と風を切る音とともに

剣先が見えないほどの速さで弧を描く。


「は、速いな。これもその、何かのトリックで速く見えているのか?」


「お父様、これは実際に速いのです。座っている、剣が鞘に納まっている、ということから速くないだろうと思わせて実は今見た通り物凄く速いのです」


 剣を鞘から抜く前に体の捻りによって十分な加速が得られている。剣が鞘から抜ける瞬間には剣自体の重さと遠心力によって最高速度で切っ先が走るのが抜刀術だ。日本刀ではないからスパッと真っ二つにはいかないだろうけれど、岩を砕くくらいはできるかもしれない。


「立ったままでもできるのですけど、座った方が恰好良いでしょう?」


 うふふ、と私が言うとお父様も頷く。


「そうだな、これは何というか、物凄く恰好良いな」


「それでは、私は部屋に戻りますね」


 お父様は二、三度抜刀して満足そうにお兄様達のところへ戻っていった。


 私も今日の稽古を終え部屋に戻ることにした。



 部屋に戻った私はお父様の書斎から持ち出した魔法関係と思われる本を広げる。

 昨日から気というものを感じられるようになった。皆は気と言っていたけど、これは魔力の元、魔素に違いない。身体強化が使えたので、きっと魔法も使えるはずだと思ったのだ。


「なになに、まずはイメージすることが大事です、と。これは前にも読んだよね」


 詳細にイメージすることで身体強化ができたのだ。


「火は危ないから、水を出そう」


 私は食卓からもってきたコップに水を注ぐイメージを思い浮かべる。指先から水がちょろちょろと出る感じだ。


「水よ、出ろ!」


 ……ちっとも水は出ない。


 そうだよね、これで出たらうちの皆ももっと魔法使ってるよね。水道なんてものは無いから、水は毎日ターニャとハンスが井戸から汲み上げているのだ。


 イメージイメージ…酸素と水素でエネルギーを加えて…


 瞬間、魔素の動きが変わる。指先あたりに何かが集まってくるのがわかる。そしてホワンと魔法陣のような模様がうっすら現れてすぐさま消えた。


 ……ちょろちょろちょろ


「わぁ!水が出た!水が出たよぉ」


 コップいっぱいに注がれた水に私は歓喜の声を上げる。研究で新発見をした時のような嬉しい気持ちが蘇る。頭の中では小人が軽快にサンバを踊っていた。


「これだよ!これ。新しい事がわかった喜び!早く研究室に籠りたい…」


 騎士になんてなりたくないよぉ、と考えてちょっと肩を落とす。騎士学校に研究室はあるのかなぁ、あったらいいなぁ。

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