表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/109

48.フェルメール国境付近の戦い

「皆さん、準備はいいですか?それでは始めましょう」


 私は横一列に並んだ小隊の面々を見渡した。皆各々に頷いている。前方には進行を続ける敵の大群がはっきりと見てとれる。向こうからもこちらが見えているはずだったが、たった10人ということもあり、無視して進むことにしたのだろう。


 先の作戦説明では奇襲という言葉を使ったが、闇夜に紛れて敵を討ったりということではない。要は先制攻撃が出来れば良いのだ。それだけで敵は混乱すると私は踏んでいる。


「斉射三連、しかるのちに全速前進」


 空高く掲げた右腕をサッと降ろす。


「ファイエル!」


 …一度言ってみたかったんだよね、この台詞!


 魔法銃から一斉に放たれたファイアーの魔法が敵軍の前衛に突き刺さり爆発した。当たっても致命傷にはならないが、砂煙の中あたふたと混乱する敵の様子が目に入る。

 その頃には第八小隊の面々は二人一組でそれぞれ敵部隊に切り込んでいた。さらに敵軍を混乱させるのだ。


「私達は中央に切り込みましょう」


「……任せて」


 私のお供はシズクさんだ。私が(アスラ)を構え魔法を連発する隙に、お気に入りのデスサイズ、下弦の月を手にしたシズクさんが、スッと前に出た。

 そしてシズクさんの体がふわりと地面を離れたかと思うと、飛翔一閃、ビュンという快音とともに敵の兵士達が吹き飛ぶ。


「……露払い」


 ビュン、ビュン、と一振り毎に吹き飛ぶ兵士達。次第にシズクさんの前に立つ者がいなくなり慌てふためく敵陣にぽっかりと道ができた。


 敵陣を駆けながら余裕ができた私はそっと周囲に目をやる。左翼後方、四方八方に魔法を乱れ打ちしているのはロックウェルさんとドロイゼンさんのチームだ。

 ロックウェルさんが敵兵を寄せ付けないよう上手くいなすその隙間から、ドロイゼンさんがこれでもかという量の魔法を叩きつけている。ドロイゼンのお爺ちゃんはこう見えてシズクさんの次に魔力が豊富なのだ。


 そしてそのさらに外側、最左翼を行くのはベンジャミンさんとジョバンニさんのチームだが…


「…このチームが一番酷い」


 私は思わず溜め息をついた。敵軍の右翼を抉り取るようにぐいぐいと進むベンジャミンさんとジョバンニさん。あれほど安全にと念を押したのに。

 しかしベンジャミンさんはともかくジョバンニさんも良く付いていっている。二人だけで敵軍を殲滅してしまいそうな勢いだ。


 それに対して右翼に位置するチームはよくバランスがとれていた。まずジャンヌさんとフローレンスさんの女性チーム。ジャンヌさんを前衛にしてフローレンスさんが後ろからサポートにまわる。的確に敵軍の進行を抑えている。


 さらに最右翼から攻撃を加えるナイトハルトさんとロンダークさんチーム。この二人、はっきり言って全く隙がない。特にいつも無口なロンダークさんだがその連携はバッチリだ。位置取り、攻撃、守備とどれをとっても文句がない。シズクさんといい、無口キャラは戦闘力が高いのだろうか。


「さて…」


 私ものんびりはしていられない。逃げていく敵兵士に目をやるが、まだばらばらとしている。その少し前方に馬を操る指揮官らしき兵士が見えた。他の兵士と違い立派な兜を被り、兵士達の波から頭一つ飛び出している。


「シズクさん、少しの間堪えて下さい」


 私は(アスラ)のスロットをカチカチと回してサンダーの魔法に切り替えた。だいたいの距離でトリガーを引く。


 ズバンッ!


 その瞬間僅かに縦の閃光が走り、前方の指揮官らしき兵士が馬上でぐらりと揺れ、見えなくなった。思った通り鉄製の兜が避雷針の役目を果たしたのだ。


 向きを少し変えてもう一発、さらにもう一発…


 ズバンッ!ズバンッ!と轟音とともに閃光が走った。


「上手くいったみたい」


 音に驚き、さらに指揮官がやられた兵士達は、本格的に逃げ惑いやがて一本の川のように私の向かう先を示した。そう、敵兵士が列をなして逃げる先に敵の総大将がいるはずなのだ。

 インビジブロックで足場を作り、少し高いところから俯瞰する。


「見つけました!シズクさん、そのまま真っ直ぐです。何人かの兵士が支える籠のようなものに乗った偉そうなのがいます。籠を崩して動きを止めて下さい!」


 再びシズクさんを伴って走り出す。


「どいて下さぁい!邪魔ですよー!」


 もはやシズクさんの前に立とうなどという猛者は存在しなかったが、背を向けて逃げる兵士が私達の行く手を遮る。私は大声を張り上げながら魔法で牽制していたが、シズクさんは容赦なく大鎌を振るい、敵兵士を吹き飛ばしていた。


「後ろに気を付けながら逃げて下さぁい!」


 やがて逃げる敵兵士とともに敵の総大将らしき男の前に私とシズクさんがズズッと躍り出た。


 逃げるな!戦えっ!と顔を真っ赤にして喚いていた男が私達の姿を認め、目を丸くする。そこに眩い太陽の光を受けてシズクさんのデスサイズ、下弦の月が煌めいた。


「……アイン、終わった」


 御輿のような籠を担いでいた兵士達が崩れ落ち、台座から男が転がり落ちる。


「ありがとうございます、シズクさん。後は他の兵士が近付かないようにしておいて下さい」


 そう言いながら私は籠から落ちて呻き声をあげる男に駆け寄り、銃口を向けた。


「あなたがレブラント軍の総大将で間違いありませんか?」


「………」


 私は空に向けて数発の魔法を放った。はっ、と男の目の色が変わる。


「無駄な抵抗はしないほうが良いと思いますよ。どうなのです?あなたが総大将なのですか?」


「いかにも。儂がレブラント王国ガルガン領主、パンチョス侯爵である」


「私はルーベンス王国第四魔法大隊第八小隊のアインスターです。直ぐに全ての兵を纏め、レブラント王国に撤退しなさい。そうすればこちらは追いません。無駄な犠牲は出さずに済むでしょう」


 一瞬はっと驚きを表したパンチョス侯爵だったが、すぐに口許に笑みを浮かべ、私を睨んだ。


「ここまで来てそういう訳にもいかん。儂が死んでも数の上ではまだこちらが勝っている。儂も騎士の端くれ、覚悟はできておる!」


 いかにも小役人といった風貌のパンチョス侯爵だったが、その覚悟は本物のようだ。


「それに本陣には魔法部隊が控えておる。ルーベンスの正規兵が引いた今、魔法部隊を投入すれば形勢は一気にこちらに傾くはず…」


 パンチョス侯爵が強気なのは後ろに魔法部隊が控えているからか。確かに一方の勢力だけに魔法部隊がいればそれは大きく有利だが、侯爵は先程私が魔法大隊を名乗ったのを聞いていなかったのだろうか?


「この上は、儂と其方の一騎討ちにて決着を…」

「しません!」


 この状況で一騎討ちなんてこちらには何のメリットもない。それにこんな見た目小娘に一騎討ちだなんて騎士の端くれが聞いて呆れるというものだ。


「生憎ですが、我々も魔法部隊です。そちらに魔法部隊がどれほど居ようと関係ありません」


「え!?魔法師?我が隊は魔法師に切り込まれたのか!?」


 驚いた表情で私を見つめるパンチョス侯爵だったが今更何を言っているのだろう。先程から散々魔法を放っているではないか。


「それでは本物の魔法というものをお見せしましょう」


 仕方ないので私はもう少しパフォーマンスを見せることにした。敵軍が進行してきた方向に小さく陣幕が見える。あそこが本陣だろう。

 私は(アスラ)をパンチョス侯爵に突きつけたまま、左手を大きく空に掲げた。


「我の呼び掛けに応じ地獄の門よ今開かれん。ソロモン72柱が一柱、序列37位にして地獄の大侯爵、炎を纏いしその姿を現し世に現さん」


 ちょっと恥ずかしいけど声を張る。パフォーマンス、パフォーマンス、と。


「出でよ、フェネクス!」


 掲げた手の先に大きな魔法陣が現れ、その中から炎の鳥が姿を現し空高く舞い上がる。


「炎の鳥が!?」

「地獄の悪魔だと!?」

「なんと恐ろしい…」


 兵士達が驚愕したような表情でポカンと空を見上げている。パンチョス侯爵も例外ではない。

 もちろんこれは地獄から召喚した悪魔でもなんでもない。簡素化した鳥の形の相対座標に敵本陣までの道筋を与え炎を纏わせたものだ。恥ずかしい詠唱は迫力を出すためと演算のための時間稼ぎ。


 上空で二、三度旋回した炎の鳥は真っ直ぐ敵の本陣に向かう。間もなく敵本陣にいくつもの魔法陣が表れた。敵の魔法部隊が防御魔法を展開したのだろう。


「私の魔法は防げませんよ」


 これも想定内、むしろ防御してこなければどうしようと思っていたから内心ホッとする。


 敵本陣の真上で敵の防御魔法にぶつかった炎の鳥は徐々にその形を崩す。魔法による位置の固定が無効化されたのだ。

 しかし形は崩れても炎は消えない。固定化を失った炎が敵の本陣に降り注いだ。陣から幾筋もの煙が昇る。


 どうですか、と言わんばかりに私が視線を強めると、パンチョス侯爵は気が抜けたようにガックリと肩を落とした。


「…敗けだ。降参する。先程其方は撤退するよう言っておったが兵士達の安全は保証してもらえるのだろうか?」


「安全は保証しますよ、貴方を含めて。今なら傷ついた兵士も多くが助かるでしょう。貴方が撤退し、二度と国境を越えて進軍してこないと約束していただけるのであればこれ以上の犠牲は出ないでしょう」


 私の言葉を聞いてパンチョス侯爵がホッとしたような表情を浮かべた。


「約束しよう。それだけの力がありながら撤退を許していただけることに感謝する」


 私はパンチョス侯爵に向けていた銃口を空に向けて、二度トリガーを引いた。ドン、ドンと花火が空に咲く。


「仲間に向けた戦闘終了の合図です。万が一貴方が約束を破るようなことがあれば、私は再び貴方の前に現れます。その時は容赦しません」


「そのような愚かな真似はしない」


 周りの兵士達に撤退の指示を出し、パンチョス侯爵は大慌てで去っていった。これで暫くはフェルメールの街も安全だろう。少なくとも直ぐにレブラント王国の辺境軍が攻めてくることはないはずだ。


「さて、戻りましょうか」


 シズクさんにそう声をかけて、私達も合流地点となっている前線基地へと向かうのだった。

次回は2月15日17:00更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 対応ゆるっゆるですね!?!?!?!? 軍としてこれでいいのか…………????
2023/08/03 13:04 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ