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34.列車の模型作り

「アイン、ちょっといいかい?サンダーの魔法についてなのだが、連続して唱えると徐々に音が小さくなっていくような気がするのだが、これはいったいどういう事だろう?」


 午前の授業が終わり、私の魔法の講義が無い日なので研究所へ向かおうとしたところ、リチャード君達に捕まったのだ。


「それはですね…」


 魔法の講義も実際に魔法を使ってみる実習が多くなり、それに伴って皆のやる気もうなぎ登りに上昇していった。小隊のメンバーはもちろん、リチャード君達クラスメイトの実戦魔法研究会も放課後に魔法の練習をしたりと、熱心に活動しているようだった。

 

「…というわけで、魔法は自然環境にも大きく左右されます。例えば雲のある場所では落雷が起きやすいというように、現象に働きかける魔素の量やエネルギーにも違いが出てきます」


 試行を重ねてデータを取ってみてはどうですか?と提案してみる。データを集めて解析するのは研究の基本だ。


「わかった。研究会の皆でやってみよう」


 指針を得たことでリチャード君の目が一層輝いた。うん、素直で実に可愛らしい。午後の授業を受けるクラスメイト達を残して、私は研究所へ向かった。



「アイン副所長!お待ちしてましたよ、さあこちらへ、ダニエルさんがお見えですよ」


 私が第一研究室に入るとケイト君が奥から飛び出してきた。ダニエルさんも来ているらしく、私の事を今や遅しと待っていたようだ。


「ダニエルさん、遅くなってすみません」


 私の作業机の前に陣取るダニエルさんに声をかける。


「いや、かまわないよ、アインちゃん。アインちゃんがいない間もケイトがよくやってくれているし」


 私が授業を受けている午前中や魔法の講義がある日にもダニエルさんは度々研究所を訪れ、研究所の皆とすっかり仲よくなっていた。ボルボワさんのような丁寧な物腰の紳士ではないが、誰とでもすぐに打ち解ける明るい性格なのだ。


「それでまずはこれを見てくれ」


 そう言ってダニエルさんは私のデスクに置かれた金属部品を示した。四角い箱から丸いシャフトが飛び出している。根元に見えるのはベアリング、するとこれは…


「動力部が完成したのですか!」


「ああ、箱の中にラプラス氏から提供された魔力供給スキームとアインちゃんから指示された魔法陣、それと回転をスムーズにするベアリングなどの部品が収まっている。稼働を確認してもらうためにアインちゃんを待っていたんだ」


 そう言ったダニエルさんの目は達成感で溢れていた。ベアリングの部分の精密さに苦労したという話を聞きながら、空いているスペースに動力部を固定してもらう。


「このレバーがスイッチで、奥に見えるのが魔力供給の魔法陣ですね、わかりました、さっそく魔力供給スキームに最初の魔力を流しましょう」


 私は魔法陣に手をかざし魔法を発動させる。一度発動した魔力供給の魔法陣は自動的に魔力を吸い続け、他の魔法陣に作用して魔法の発動を促し続ける。レバーで末端の魔法陣のオンオフを切り替えるのだが、大元の魔力供給スキームは動き続けているため、新たに魔法師が魔力を注いで魔法を発動させる必要がない。これはラプラスさんをはじめとする第一研究室の集大成だ。


「それではスイッチを入れます。そぅい!」


 私が勢いレバーを倒すとウィンウィンとシャフトが回転し始め、次第にその速度を速めていく。高速回転するにつれ、シャーーーという軽い響きに変わり、間もなく最速点に達した。


「成功ですね、ダニエルさん。よくやってくれました!」


 ダニエルさんも嬉しそうに頷く。この完成は精密な金属加工の技術があってこそだ。ダニエルさんと知り合えたことは私にとってもこの研究所にとっても僥倖だった。


 何度かレバーを操作して停止と再始動に問題がないか確認する。


「この後はラプラスさん達に任せましょう。ダニエルさんは引き続き車輪や連結部分をラプラスさんの指示で作成してください。私達は模型の完成を急ぎたいのですが…」


 私はそう言ってケイト君に視線を送る。ケイト君が待ってましたとばかりに一枚の紙を広げた。


「前回の反省を踏まえてダニエルさんと構想を練りました。こちらでいかがでしょう?」


 ケイト君にはダニエルさんと協力して外観を考えるように指示していたのだが…


「おぅ…」


 流線型のフォルムに足元がスカートのように広がっている。正面もノッペリつるりんとしていて、例えるならカブトガニのような姿だ。

 しかしそれでも前回見せられた絵コンテよりは随分と様になっている。数日前に見せられたそれは前面に馬の頭を模したオブジェが付けられ、乗車部分には数本の鉄骨に幌という、珍妙なものだった。さすがに幌では移動速度を考えると無理があるし、馬の頭に関しては最早意味が解らない。


 いや、もちろんケイト君とダニエルさんを責めるわけにはいかないことはわかっている。原因は私の説明不足だ。この世界には乗り物が馬車か人が担ぐ籠しかなく、馬車のように人を乗せる乗り物です、と言われれば、そりゃ馬の頭もくっつけたくなるというものだ。今回の図案はそれに比べれば…


「ええ、外観はこれで良いと思います。よく見ればスタイリッシュな感じもしますし。うん、これでいきましょう。あとは全く外が見えないというのも不便ですから窓を付けたいのですが…」


 私はダニエルさんに厚めのガラスを嵌め殺しにできるか尋ねる。


「ああ、窓はあった方がいいな。少し小さくはなるが、考えてみよう」


 これでようやく模型の作製に進むことができる。


「ダニエルさん、ありがとうございます。ケイトもご苦労様、よくやってくれました。次は設計図を起こして模型を作ります。模型では中が確認できるように車体の底面と壁、天井を取り外せるようにしてください。中に魔法陣も刻まなければなりませんから」


 実際の車両では四機の動力部を設置する予定だが模型では一機で十分だろう。他の三機はシャフトのみのダミーを置く。魔力供給スキームも模型サイズまで縮小することはできないので都度魔力を注がなくてはならないが別の魔法陣を使う。前輪の動力部には無段変速機を用いる予定だが、そちらは模型でも再現してもらう。その他も出来る限り忠実に、だ。そのような事をダニエルさん、ケイト君と確認し合った。


「模型が完成すればいよいよ計画のお披露目となりますから頑張っていきましょう。ダニエルさん、引き続きよろしくお願いしますね」


「もちろんだとも。これだけの大仕事はなかなかあるもんじゃない。ケイトと一緒にあれこれ話したり、外観の図案を考えたりする中で、俺もだんだんアインちゃんがやろうとしていることがわかってきた。これは王国の一大事業だ。成功すれば王国の歴史が変わる。頑張ろうぜ、アインちゃん」


 そう言ってダニエルさんはケイト君の背中を平手でバチン!と叩いて、ハハッと笑った。私もつられて笑う。ケイト君だけは、痛いですよぅ、と口を尖らせているのであった。


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