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23.第四魔法大隊第八小隊

 私は悲痛な現実から目を背けるように、先程イジワル所長から出された研究所の課題についてラプラスさんに尋ねた。


「所長はああ言っていましたけど、今も第一研究室と第二研究室では研究が続けられているのでしょう?どのような研究なのでしょうか?」


 今の研究の内容がわからなければ新たにテーマを設定するのも難しい。


「第二研究室では魔法陣の解読が行われています。これは他で新しい研究がスタートしても継続して行われるでしょう。一方、私の第一研究室では魔道具に魔法を連続して使用させるための一連の仕組みを開発していまして、今は装置の小型化の目途がつきましたので一旦終了ということになるでしょうね」


 アインスターさんは魔法陣を読むことができるようですが、現在使われている魔法についてはどのくらいご存知なのですか?と唐突にラプラスさんが私に尋ねる。


「どのような魔法が使われているか…ほとんど存じません」


 魔法の基礎本で少し見た程度だ。それをこれから学ぶ予定なのですけど、と言うとラプラスさんは、あはっと笑った。


「なるほど、そういう事ですか。所長もアインスターさんは既存の魔法はあまり知らないのではないか、と言っていましたが…

 …でもそうすると、本当に魔法陣が読めるのですねぇ」


 ほぅほぅとラプラスさんは一人頷いている。


「アインスターさん、私が少し魔法の授業を致しましょう。現在我々が使用している魔法というのはこの世界で二千年程前に消滅したと言われる古代文明の遺産なのです…」


 ラプラスさんが言うにはこうだ。元々この世界には非常に高度な魔法文明が存在したらしい。しかしその文明は二千年程前に滅びてしまった。原因は不明だ…


 そして文明は滅びたがたくさんの魔法陣が残された。その残された魔法陣を覚え、対になる呪文を唱えることで人々は魔法を使うことができるようになった。多くの魔法は国ごとに管理されており中には呪文が消失してしまって使えない魔法陣や、危険が多く一般には公開できないものもあるそうだ。


 なるほど、魔法を無詠唱で使えるということに何故それほど皆が驚くのだろうと思っていたが、これでわかった。この世界の魔法は過去から受け継がれたもので新しく作られる魔法というのはこれまでほとんどなかったのだ。ならば私が基礎本で覚えたように、呪文を詠唱しなければ魔法陣が呼び出せないので、呪文の詠唱は必須というわけだ。


「魔法陣を解読することは新しい魔法の作成につながるはずだと我々も所長も考えています。ですので第二研究室はその研究を継続します」


 私はそこでふとあることを思い出した。第二研究室の事はわかったが第一研究室の事だ。


「第二研究室の事はよくわかりました。それで第一研究室の研究ですが、実は私の家にお父様の上司を通じて戴いたという明かりを灯す魔道具があります。それは魔法を唱えることなく明かりを付けたり消したりできるのですが、第一研究室の研究に何か関係がありませんか?」


 普通は魔道具といっても魔法陣を起動させるために何らかの呪文を唱えなければならないはずだが、私の家のそれは、魔法を全く知らなかった私でも操作ができた。当時は当たり前のように思っていたが、よく考えると不思議なのだ。


 私がそう言うとラプラスさんは、おおっ!と声を上げた。


「何と言う偶然でしょう…あれは5年程前でしょうか。魔力供給の自動スキーム、その試作品が初めて完成し、いくつかの魔道具を作成しました。おそらくそのうちの一つでしょう!」


 ラプラスさんは懐かしそうに目を細める。


「やっぱりそうなのですね。あの道具は素晴らしいものだと思います。…何故5年経った今でも街に広まっていないのでしょうか?

 …ああ、でも研究資金が下りなかったとか何とか、ギルベルト団長がおっしゃっていたような」


 でも、研究は継続しているのですよね?と私は問う。


「ええ、研究は継続しています。ですが研究を利用した魔道具の作成は中断されています。おっしゃる通り資金面で問題がありましてね」


 やはり魔道具の開発には上からの許可が下りなかったらしい。


「ですので第一研究室の研究も一通りの目途がついた今の段階で一度凍結ですね」


 あれほど便利なものなのに実に惜しいと私は思う。何とか研究を継続できないか、研究所のテーマを考える際に検討してみよう。


 やがて 私達は目的の訓練場に到着した。



 訓練場というから私は闘技場のような建物を想像していたが、ここですよ、と案内されたのはだだっ広い只の平地だった。魔法を撃ちあっているような様子はなく、固まって談笑している者やランニングをしている集団がいたりする。


「第八小隊、集合!」


 ラプラスさんが号令をかけると、数名がワサワサと集まってきた。どうやら先ほどまで談笑していた者達だ。何だろう、もっとキビキビしているものだと思っていたが…


「アインスターさん、ここにいる9名が第八小隊の面々で…あれ?ベンジャミンはどうしたのです?」


 そう、集まったのはどう数えても8人しかいない。


「あ、あの、ベンさんは…行きたくないと…」


「ちゃんと集まるように言っておいたのに…ジョバンニ!すぐにベンジャミンを連れてきて下さい。…これは、命令です!」


 ラプラスさんは命令ですという言葉に力を込めた。普段飄々としているので急に凄むと迫力がある。はひぃ、とジョバンニと呼ばれた少年は慌てて駆けていった。


「さて、先にいる者だけ紹介してしまいましょう。端からフローレンス」


 呼ばれて前に出たのはおっとりとした顔つきの、何よりもまず大きな胸が特徴的な女性魔法師だった。


「フローレンスですぅ。あなたが今度の隊長さんなのですねぇ、聞いていたよりも可愛らしいわ。よろしくね、アインちゃん」


「フローレンス、アインスターさんは皆さんの隊長なのですよ。初めからちゃん付けは無いでしょう!」


 甘ったるい声でにっこりと微笑むフローレンスさんにラプラスさんが顔を顰める。ここの隊員さんたちはみんな気軽に愛称で呼び合っているのかしら。私もこんな見た目なので偉そうな呼ばれ方でなくとも構わない。


「フローレンスさん、よろしくお願いします。皆さん、私の事はアインで構いませんよ」


 もちろんラプラスさんもですよ、と言うと、仕方なさそうに肩を竦めた。


「アインさんも程ほどにしてくださいね。一応軍隊ですから…次にいきましょう」


 そう言ってラプラスさんが皆を順番に紹介していく。スラっと背の高い金髪美人のジャンヌさん、小柄で顔半分におかしな仮面を付けているシズクさん、短髪で重量挙げの選手のようなロックウェルさん、こちらも短髪で爽やかイケメンのナイトハルトさん、魔法使いらしい立派な髭を蓄えたドロイゼンさん、能面のような無表情でほとんど目を閉じているロンダークさん、以上に加えて先ほど慌てて走っていったキノコカットの少年ジョバンニさんに、問題のありそうなベンジャミンさんの総勢9名がこの第八小隊のメンバーだった。


「本来、小隊は隊長以下20名で構成されるのですが、この第八小隊だけは10名編成の少数精鋭部隊なのです」


 隊員の紹介が終わり、ラプラスさんが第八小隊について説明を始める。


「第四魔法大隊において第一小隊から第七小隊までは交代で都市の防衛に当るのが常ですが、この第八小隊だけは少数による遊撃任務が想定されており小隊単独で行動することが多くなります」


「…とは言ってもこれまで出動回数はほとんど無いけどね」

「…アインちゃんはお菓子は好きかい?」

「…本営のお茶汲みや雑用ばかりですけれど」


 合間に隊員達の補足…というかちゃちゃが入る。全く関係のない話も聞こえたような気がするが…


「まあまあ皆さん、準備だけはしっかりしておいてくださいね。それではこちらからは以上です、アインさん、簡単に紹介をお願いします」


 ラプラスさんが言うので私は本当に簡単に名前だけを告げる。


「アインスター・アルティノーレです。皆さんよろしくお願いします」


「…アルティノーレって何処の家だい?」

「…知りません…けど聞いたこともあるような…」

「…アインちゃんはどの魔法が好きだい?」


 皆口々に勝手なことを話すので私は困った顔でラプラスさんを見上げると、ラプラスさんも肩を竦めていた。


「いいですか皆さん、アインさんの父君は王国騎士で…」

「あっ!!!」


 ザワザワとした喧騒の中、唐突に声が上がる。あれは確かジャンヌさんといったか…皆がジャンヌさんに注目する。


「まさか!アルティノーレって、ベルセルク!」


「あの王国騎士か!アインちゃんはそのお嬢さん?」


 ベルセルク…王国にベルセルクと言われる輩が何人もいないのであればそれは多分お父様のことだろう。どうやらジャンヌさんだけでなく、他の面々もお父様のことは聞いたことがあるようだ。


「はい、お父様が何と呼ばれているかは存じませんが、王国騎士のパウル・アルティノーレが私のお父様です」


「ああ、パウル様の娘さんだったなんて…アインさん、今度お家に遊びに行ってもいいかしら」


 何故かジャンヌさんが目をキラキラと輝かせている。どこか魔法師というよりは騎士然とした佇まい、ジャンヌさんは騎士に憧れでもあるのかもしれない。私がジャンヌさんの申し出をスルーしたところで、ジョバンニさんが息を切らせて戻ってきた。

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