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19.魔法学校に行く

 ジリリリリ…ジリリリリリリ…

 部屋に目覚ましの鐘の音が響き渡る。


「ふわぁっ!もう朝か」


 私はお手製の魔法の目覚ましを止める。思えば決まった時間に一人で起きるというのは本当に久しぶりで、起きれる自信が全くなかった。なので一定の時間が経てば金属どうしがぶつかり合って音を出すよう魔法で調整したのだ。


 昨日はお兄様達と一緒に馬車で王都まで移動した。お兄様達騎士学校の生徒は学校の近くに寮があるようでリヒャルトお兄様もエーリッヒお兄様もそこで生活をしている。

 魔法学校にももちろん寮はあるのだが、何故か私は寮ではなく魔法学校に併設する魔法研究所の一室で生活するように言われていた。寮は基本的に数人で一室を使うのだが、私は皆よりも年齢が低い。なのでそのことに配慮して、というのが理由のようだが…


「年下ならなおさら寮で共同生活しなければいけないんじゃないのかな?要は下っ端ってことでしょ?」


 まあ、共同生活などはやはり苦手なので私にとって有難いのは確かだが、おかげで急遽目覚ましを用意することにしたのだ。それにしても他の生徒はどうやって時間通りに起きているんだろう?この世界にもちゃんと目覚ましのようなものがあるのかしら、今度聞いてみよう。


 私は着替えて学校に行く準備をする。まだ魔法学校の制服は与えられていないので初日は動きやすい服装で来るように、と案内にあった。私は迷わず白衣を着る。この白衣、実はボルボワさんに頼んで数着同じものを用意してもらっていた。

 初日なので時間には余裕を持たせてある。なのでゆっくり朝食を取る時間もあった。


「それにしてもこの部屋、広いねぇ。学生が住むにはもったいないよ…」


 それに魔法の道具もたくさん揃っている。私の部屋にあったようなシャンデリアや小型の明かりを灯すランプ、ボタンで火が起こせるコンロ、それに温度を一定に保てる冷蔵庫のようなものまである。


「昨日から気になってはいるけど…帰ったらじっくり見てみよう」


 魔法の道具、いわゆる魔道具にはどこかしらに魔法陣が刻まれている。刻まれた魔法陣に魔力を込めることで魔法を発動しているのだ。だから魔法陣を見れば作り方や原理がわかるかもしれない。

 早く魔法陣を見てみたいという想いに後ろ髪をひかれながら私は魔法学校へと向かった。



 私の住むこの研究所は魔法学校に併設されている。しかも学校の裏側に直接つながっているので魔法学校寮からよりもおそらく近いだろう。直ぐに魔法学校についた私は指定の教室に向かう。試験の結果によって予めクラスが決められているのだ。


「えーっと、Aクラスは…」


「お嬢さん、どちらをお探しですか?」


 うわっ!?私がキョロキョロと各教室のプレートを見上げながら歩いていると後ろから声をかけられた。


「どなたかを訪ねていらっしゃったのですか?私はこの学校の生徒です。案内いたしましょう」


 見ると学生らしい男の子が私に向かって手を差し出していた。首のまわりにヒラヒラが付いた服を着ている。制服ではないので多分新入生だと思うんだけど…動きにくそうだよ、その服。


「あ、あの、私もこの学校の生徒です。アインスターと申します。Aクラスを探しているのですけど、ご存知でしょうか?」


 私がそう言うと、驚いたように出した手を引っ込めた。


「そうでしたか、それは失礼。ちょうど良かった、私もAクラスですから一緒に行きましょう。Aクラスはすぐそこです」


 今年度主席のリチャード・ウォーレンです、と彼は名乗った。さすがに主席ともなるとこの年で随分大人びている。それともそう見えるよう背伸びしているのだろうか。いずれにしても優秀なのだろう。


 教室は本当にすぐそこで私達は連れだって教室に入った。教室には30程の席が設けられ、既に席についている子もいる。席にはそれぞれ名前の書かれたプレートが置いてあるので私も自分の名前を探す。


「私の席は…うぇ!?」


 前列の一番端っこ、他の机四つ分のスペースに一つポツンと置かれた机、その上に特別待遇生徒アインスター・アルティノーレ、と書かれたプレートが置いてある。特別待遇がどのようなものかは知らないが…これでは只のいじめじゃないか!


「ううっ、恥ずかしい…」


 そそくさと席に座り、せめてプレートだけでも机の中に仕舞い込む。私が特待生の席に座ったことでやはり周りがざわつき始めた。


「あれが特待生?」

「あら、やだ、可愛い」

「小さっ!」


 …はいはい、もう慣れっこですよ。実際に他の子たちよりも一つ年齢が低いので仕方ない。そんなことを考えていると、先程のリチャード君がスタスタとこちらに向かってきた。


「あなたが、アインスター・アルティノーレ、特別待遇という生徒でしたか!いや名前は先程お聞きしましたね、うっかりしていましたよ。アルティノーレ家とは聞いたことがありませんが、失礼ですがお父様は何をしておいでですか?」


 先程は面倒見の良いリーダーのように振舞っていたが、今は若干言葉に棘がある。


「お父様ですか?…王国騎士ですが…」


 お父様が何か関係あるのかしらと思いながら答える。


「これは…驚きました。私は代々魔法師を束ねるウォーレン家の跡取りなのですが、その私よりも特別な待遇とはどこの家の者なのか、と皆気にしておりました。それが魔法師の家系ではないと…なるほど道理で聞いたことがない家名だったわけだ」


 そんなあなたがどうして特別待遇なのでしょう?と問われ私は首を傾げる。理由は私にもわからない。


「私にもわかりません。先生方にお尋ねください」


 もうすぐ授業が始まりますよ、と私が言うとリチャード君は納得できないという顔のまま自分の席に戻っていった。間もなく先生達が教室に入ってくる。

 あれ?ヴェルギリウス所長もいる…そうか、なんだか副校長とか言ってたっけ。


 所長が教壇に立つ。


「あれ、シュレディンガ公爵閣下じゃないかしら…」

「いきなりお会いできるなんて…」

「もしかしてこのクラスを受け持って頂けるのかな…」


 ヴェルギリウス所長ってもしかして有名人?急に皆がひそひそと話し始める。少し間を置いて所長が口を開いた。


「皆、まずは魔法学校入学おめでとう。私は副校長のヴェルギリウス・シュレディンガだ」


 前に会った時は子供の私相手にも不愛想を貫いていたが、今日はさすがに副校長という立場もあるのかむっとした顔つきではない。…笑顔でもないが。

 そうしてみると低いが良く通るバリトンと端正な顔立ちである。小声ながら特に女子生徒達からキャーキャーという黄色い悲鳴が聞こえてくるのも頷ける。


 所長はぐるり教室を見渡し、私のところで一瞬視線を止め眉間に皺を寄せた。何だろう?何も悪いことはしていない。むしろ言われた通りに試験を頑張ったはずだ。

 私が唇をむっ、と突き出すと所長は顔を背けて話を続けた。

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