表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/109

18.入学試験を受ける

 王都の魔法学校は貴族街の西側にある。南に王都の入口があり、北に王宮が位置するそのちょうど中心あたり、そして東には騎士学校が置かれている。


 魔法学校は広大な敷地内にいくつかの建物があり、傍には食事ができる店などもちらほらある学園都市のような佇まいだった。今は学生が休みの期間ということもあり閑散としているが、学校が始まるとさぞ賑やかになることだろう。


 おのぼりさんのようにキョロキョロと辺りを見渡しながら私は試験会場へと向かう。会場付近では既にたくさんの試験を受ける子供達が集まっている。今日はお父様はお仕事なので私は一人だが、子供たちは皆お父さんかお母さんに連れられていた。


「おい、あの子…小さっ」

「まあ、可愛い…どなたかの付き添いかしら…」

「迷子じゃないか?」


 集まった子供たちの中でも私はひと際小さく、可愛らしい顔つきもあってか入場前から目立ってしまう。

 

 …大丈夫、平常心、平常心。


 以前の世界でも学会などでは私は若い女性ということもあり、よくヒソヒソと陰口をたたかれたものだ。だから周りの雑音には慣れている。これぞ、ぼっちの心構えだ。


 私はさっそく受付で名前を名乗り、席の番号を受け取る。どうやら試験を受ける部屋と席が決められているようだった。私は書かれた部屋の書かれた席に座る。

 しばらくして部屋の席があらかた埋まった頃、試験官らしき人が入ってきた。ちなみに私の席は偶然にも試験官の目の前、最前列のど真ん中である。


「皆さん、これから今日の試験について説明します。説明が終わればすぐに計算能力の試験に入ります…」


 試験官によると試験はそれぞれ計算問題、言葉の読み書き、魔法の基礎知識の三つで間に都度休憩が入るようだ。また時間内に回答を終えた場合は答案を机に残し退出しても良い。そしてこの試験の内容で魔法学校に入学できるかどうかはもちろん、入学後のクラス分けも試験を参考に行われるらしい。


「それでは皆さん、計算問題の用紙を配り終わったら試験を始めてください」


 私の席にも用紙が配られる。問題用紙を前に緊張がはしる。懐かしいなぁ、以前の世界でも試験の時はこんな気持ちだったっけ。さあ、さっそく始めるとしますか。


 …えっ!?


 試験問題を見た私は思わず声が出そうなほど驚いた。…これ、七歳の子供が解くような問題!?


 何しろ以前の世界で考えれば小学校入学前の子供が受けるような試験だ。計算問題といっても簡単な四則演算くらいだろうと高をくくっていた。…この世界の貴族の知識水準って私が思っていたよりもはるかに高いのかも。


 問題用紙に書かれていたのはどこぞの企業の決算報告書みたいな内容だった。それがところどころ空白で穴埋め問題のようになっている。


「え、何?何桁の掛け算よ、これ。ええと、これは物品の品名でしょ、ああなるほどこっちが消費分ね…」


 まあ、驚きはしたもののいくら難しいとはいえ、それはあくまで小学校レベルでの話だ。当然、以前の世界で大学院を卒業して科学者の道を歩んでいた私にとっては出来て当然のレベル。

 どうだろう…ちょっと応用力があれば解ける高校入試くらいの問題かな…でもこんな問題が解けるだなんてこの世界の貴族の子弟、凄いね。正直侮っていたわ。


 カツカツカツカツ…


 私は余白に計算をしながら問題を解く。時間が半分くらい過ぎたころだろうか、周りでちらほらと席を立つ音が聞こえてきた。


「ちょっと、早いよ…皆もうできたのかしら…」


 私も全て解けてはいるが、席を立ってもすることがないので何度か見直しをして過ごす。


「はい、皆さんそこまでです!用紙を回収します」


 最初の試験が終わった。まあ、良くできたと思う。ヴェルギリウス所長にプレッシャーをかけられていたこともあるが、元々この試験では全力で挑むつもりだった。ちょっと手を抜いて目立つのを避けるという考えもあったが、私は以前の世界でもこういう場面で加減をするということはしなかった。目の前の問題には全力で取り組む、これが科学者の心構えだと思っている。


「でも想定していたより問題のレベルがはるかに高い。これは後の二つ、特に魔法関連では気を付けないといけないね」


 私は周りに魔法師やその関係者がこれまでいなかったのもあって、この世界の魔法水準がどの程度のものか全く知らなかった。本で勉強したり、また騎士であるお父様の話を聞く限りでは、この国の魔法師の水準は決して高くないと考えていたのだが、先ほどの計算をスラスラ解くほどの力を求められているとすれば、魔法の能力もそれに伴った水準であると見ておいた方が良いだろう。


 そして続く試験でもやはり私が考えていたよりも難しい問題が出題された。


「これは完全に見誤っていたね、危ない危ない」


 簡単な読み書きと聞いていた言語の問題では、先ほどの計算問題で出されたような何かの報告書のような資料から問題点を書き出すという、もはや読み書きを超えたレベルでの試験だったし、魔法の基礎ではいくつかの魔法陣の画からどんな魔法かを答えるという、魔法陣が読めることを前提とした問題であった。


「…これから学校に入ってこういうことを学んでいくのではないのかしら?」


 いろいろと解せない点も多かったが、魔法の問題では私のこれまでの研究と重なっていたことも幸いして何とか解答する事が出来た。


「それでは皆さん、今日はご苦労様でした。この結果は明日の午後にこの会場の外に張り出します。合格者はそのまま入学の手続きがあります」


 発表にはお父様も一緒に来てくれると言っていた。ちゃんと合格していれば手続きが必要だからだ。試験官の話が終わったので私も帰ることにした。



 翌日はお父様と一緒に試験の結果を見に行く。この日はお父様も予めお休みを頂いているようだった。ギルベルト団長が上手く差配してくれたに違いない。


「ここが魔法学校か!騎士学校よりも敷地が広いんじゃないのか」


 お父様も魔法学校は初めてだったようで騎士学校との違いをいくつも話してくれた。建物の数は同じくらいのものらしいが、その一つ一つが騎士学校に比べて随分大きいようだ。おそらく魔法を実際に使う授業などもあるから広いスペースが必要なのだろうと思う。

 それとここ魔法学校の入口には杖を掲げた魔法使いのような銅像が立っていたが騎士学校では盾と剣を持つ騎士の銅像があるのだという。当然ながら薪を背負って本を読むなんて像はどこにも無いようだ。


「ああ、アイン、あれじゃないのか」


 お父様が試験会場前に立てられた掲示板を指さした。昨日はなかったので今日になって立てられたのだろう。


「緊張しますね…あの、お父様…見てきてください…」


「大丈夫だよ、アイン。ほら一緒に見に行こう」


 緊張する私をお父様が引っ張る。掲示板には丁寧に合格者の名前が成績順に書かれているようだった。昨日はざっと300人ほどの子供が試験を受けていたようで、この掲示板にも同じくらいの名前が書いてあるからほとんど合格するんじゃないの?


 ちょっと安心した私は掲示板の下の方から自分の名前を探す。お父様は迷わず反対側の主席の名前が書かれているようなところへ行ってしまった。


「うん、多分それなりに上の方だとは思うけど…」


 順番に自分の名前を探す私。上位10位くらいに入ったあたりから少し焦りだす。


「あれ、無い。無い。…主席は…」


 主席:リチャード・ウォーレン


「お父様…私…」


 最初から主席の名前が書かれた辺りをじっと見ているお父様に顔を向ける。


「ああ、アイン…これ」


 そう言ってお父様は掲示板の端っこを指さした。そこにはアインスター・アルティノーレと私の名前が書いてあった。


「ああ、私の名前、ありました!…ええと、次のものを特別待遇生徒とする…」


 …ええ!?何これ!

 見るとお父様も首を傾げている。


 書かれた内容によると今回からできた制度で、試験の成績は主席のそれを上回る、とある。何それ、それなら主席でいいんじゃないの?

 また、詳しくは書かれていないがいくつかの特別待遇が与えられるらしい。


「お父様?いったいどういう事なのでしょうね?」


「ああ、詳しくはわからないが…まあ試験の成績が一番だったんだろう!凄いじゃないか!」


 良かった良かったとお父様が言うので、私もそれ以上考えるのをやめた。



 半日という王都から家までの距離ももう何度かの往復ですっかり慣れてしまった。私達が家に着くと、家の皆は盛大にお祝いの準備をして待っていてくれた。皆、私が試験に失敗するとは考えなかったのだろうか…


「駄目でも残念会になるだけだから問題ないわよ」


 私の心を読み取ったようにお母様がにっこり笑う。私は無事試験に合格したことを皆に報告した。


「よかったじゃないか、アイン。おめでとう。…でも話を聞くと魔法学校の試験は随分難しいようだね。騎士学校では入学してすぐ計算ができる子供なんてそうはいないというのに」


 座学ではエーリッヒも苦労しているようだしね、とリヒャルトお兄様が笑う。リヒャルトお兄様は真面目な性格もあって座学の成績も良いようだ。


「座学も出来ないわけではありません!ただ、ちょっと話を聞いていると眠くなるだけなのです。アインはもしかして座学でも魔法を使ってズルをしているのではないか?」


 私はむっと頬を膨らませる。


「座学に魔法は使っておりません!それに使ったとしてもズルではありませんよ。使えないお兄様が悪いのです!」


 私が、べーっと舌を出すと皆がカラカラと笑った。私もつられて、あははと笑う。お兄様達の騎士学校での話などで楽しい夕食の時間はしばらく続いた。


 休みが終わればいよいよ魔法学校での生活が始まる。本来より一年前倒しになったので何かと慌ただしくなってしまったが、そのせいか家族と離れるのもそれほど寂しくはなかった。元々一人暮らしが長かった私である。それに王都ではお兄様達もいる。休みになれば家にも戻ってくるのだ。


 よし、魔法の研究に打ち込むぞ!私の心はやる気に満ち溢れていたのだった。

 この度は私の投稿する作品に目を通して頂き、ありがとうございます。「小説家になろう」初めての投稿ですが、読んでくれる方がいるというのは嬉しいものですね。


 さて無事魔法学校入学が決まったアイン。これで第一章が終了となります。この後は数話のサイドストーリー(主人公以外の視点でメインストーリーを補完しようと思います)を挟み第二章に入ります。

 これまで毎日17:00に1話ずつ投稿してきました。第二章もこのペースで投稿できそうです。その後は原稿の進み具合でどうなるかわかりませんが、何卒末永くお付き合いくださいませ。


 あと評価や感想なども頂けると幸いです。                  loooko

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] すごく面白くて読みやすいです! アインの魔法の研究がどこまで進んでいるのかが気になります。この国のトップをも軽く超えてるんじゃないでしょうか? 入試試験も、もしかしてアインのものだけ卒業試…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ